MEAT LOAF『BAT OUT OF HELL』(1977)
1977年10月21日にリリースされたミートローフ(MEAT LOAF)の1stアルバム。
言わずと知れたロック界のレジェンド的アルバムにして、現在までに世界中で4000万枚以上のセールスを記録し、「人類史上5番目のセールスを記録する不朽の名盤」(日本盤CD帯より)。日本では『地獄のロック・ライダー』の邦題でお馴染みの本作はリリースから45年経った今も愛され続け、アメリカだけでも1400万枚以上を売り上げているそうですが、実はチャート的には最高14位止まり(イギリスでも最高9位)。ちょっと意外な数字ですが、続編アルバム『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』(1993年)が初の全米&全英1位を獲得するのは本作がロングヒットを続けていた結果でもあるわけです。
アルバムジャケットの一番下に「SONGS BY JIM STEINMAN」(一部CDやデジタル版はアーティスト名のすぐ下)と記されているように、本作はミートローフのアルバムであると同時に、ジム・スタインマンのアルバムでもあることがおわかりいただけるはず。プロデュースこそかのトッド・ラングレンが手がけていますが(レコーディングにはトッドや彼のバンドUTOPIAの面々、エドガー・ウィンターなども参加)、本作のメガヒットの功績は間違いなくジムのソングライティング力とミートローフの圧倒的な歌唱力/表現力によるものが大きいのではないでしょうか。
僕はリアルタムで『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』からミートローフに触れた世代で、第1弾となる本作は完全に後追いでした。なもんで、1977年という時代の音が凝縮された本作は90年代前半の耳には「スカスカで薄っぺらい」というのが第1印象で、いわゆるハードロック度も低めかなという評価(その頃の自分は『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』をハードロックアルバムのひとつとして受け取っていたので)。しかし、楽曲の完成度やアレンジ力、ミートローフの若々しい歌声(リリース当時は30歳!)の素晴らしさに気づくには、そう時間はかかりませんでした。
ハードロックというよりは当時のプログレッシヴロック的な側面の強い演奏/アレンジと、アルバム全体を通してひとつの戯曲を表現したかのような構成と、その1つひとつの楽章が軽やかなロックンロールや変幻自在なオペラチューンで構築された濃度の高い楽曲。例えばQUEENの「Bohemian Rhapsody」と接するような感覚で触れたら、このアルバムの凄みがより理解できるのではないでしょうか。オープニングを飾る「Bat Out Of Hell」の10分近くにわたるドラマチックな演奏と構成は、これぞ名演と呼べるもの。このハードロックとプログレを掛け合わせたようなスタイルは、同時期にデビューしたBOSTONとの共通点も見出せるはずです。
かと思えば、映画のようなナレーションを冒頭に挿入したきらびやかなバブルガムポップ風ロックチューン「You Took The Words Right Out Of My Mouth (Hot Summer Night)」(全米39位)や、ひたすら美しいピアノバラード「Heaven Can Wait」、サックスの音色が軽快さを強調する「All Revved Up With No Place to Go」(終盤の転調も最高です)、ミートローフの透明感の強い歌声に惹きつけられる名バラード「Two Out Of Three Ain't Bad」(全米11位)、ブギウギからファンク、ストレートなロックンロールと次々に変化を続けるバンドアンサンブルが特徴的な大作「Paradise By The Dashboard Light」(全米39位)、そして本作のクライマックスと呼ぶにふさわしい約9分にわたるオペラバラード「For Crying Out Loud」……全7曲/47分という程よい尺の長さも手伝い、濃厚な内容ながらもさらりと聴くことができるのも本作の良い点でしょう。
あえてアナログ2枚組の大作にせず、当時のアナログ盤のフォーマットに沿った45分前後のトータルランニングでコンパクトにまとまったのも功を奏し、一切中弛みすることなく楽しめ。かつ、捨て曲がまったく存在しないクオリティの高さと、歌や演奏における表現力の高さも相まって、完璧な1枚に仕上がった本作。発売から45年後の2022年に聴いてもまったく色褪せることなく、むしろこれを超える良作がほかにどれだけ存在するのか?と気になるほど。1993年の自分、聞いてるか?(苦笑)
2021年4月にジム・スタインマンがこの世を去り、これに続くかのように2022年1月21日(現地時間20日)にミートローフも亡くなったことが発表されました。近年は体調不良に悩まされ、ライブ中に何度か倒れることもあったそうですが、できることなら一度は『BAT OUT OF HELL』完全再現ライブを生で体験したかったものです。
改めて、故人のご冥福をお祈りいたします。
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