POP EVIL『VERSATILE』(2021)
2021年5月21日にリリースされたPOP EVILの6thアルバム。日本盤未発売。
POP EVILは2001年にアメリカ・ミシガン州ノースマスキーゴンで結成された5人組バンド。ポストグランジやモダンなハードロックをベースにしたオルタナティヴメタルバンドで、2008年にUniversalからアルバム『LIPSTICK ON THE MIRROR』でメジャーデビュー。次作『WAR OF ANGELS』(2011年)からインディーズのeOne Musicへと移籍し、同作の最高43位を筆頭に過去5作中4作が全米TOP100入りを記録しています。
セルフタイトル作となった前作『POP EVIL』(2018年)から3年3ヶ月ぶりの新作にあたる今作は、映画のようなドラマチックなメロディとヘヴィ&グルーヴィーなリズムという2つの軸を重視した内容。アレンジ面でもモダンな味付けとともに、架空の映画のワンシーンを脳内で勝手に想像させるようシアトリカルな手法も施されており、良い意味でハードロックの枠を飛び越えた意欲作に仕上がっています。
前作と聴き比べてみると、いかにこの新作のビートが意識的に太くて重く強調されているかがご理解いただけるでしょう。前作も程よくグルーヴィーでしたが、今作のそれは以前の比ではなく、言ってしまえば“えげつない”。けど、この(アートワークからも想像しやすい)“ポップなんだけど、どこか邪悪さを秘めた”メロディには最適で、2つを軸にしながらも制作過程で相乗効果が起きたんだろうことは想像に難しくありません。
オープニングを飾る「Let The Chaos Reign」は間違いなく本作を象徴する1曲でしょう。しかし、同時に本作には「Inferno」みたいなスロー&ムーディーな楽曲も用意されており、こちらのテイストもこのアルバムには欠かせないものと断言できる。これこそが、先の2つの軸そのものであり、アルバム全体の間口を広いものにしているわけです。
普段ヘヴィでラウドな音楽を聴かないようなリスナーにも、「これくらい重めの音を持つポップス、今じゃ普通だよね?」とするする入っていける。けど、その世界に飛び込んでみたら奥のほうにドロドロした濃厚なやつが沈殿していて、気づいたら底無し沼に足を引っ張られていた……そんな魅力がこのアルバム、そして今のPOP EVILには備わっているような気がしました。
全12曲どれもが3分前後のコンパクトさを保ちつつ、1曲1曲が複雑な味でブレンドされている。初めて聴いたときと5回目、10回目に聴いたときでそれぞれ印象が変わってくるという不思議な魅力を秘めた本作。偏見抜きでいろんな方に触れていただきたい1枚です。
▼POP EVIL『VERSATILE』
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