V.A.『THE METALLICA BLACKLIST』(2021)
2021年9月10日にデジタルリリースされたコンピレーションアルバム。フィジカル(CD、アナログ)は10月1日発売予定。
本作はMETALLICAの5thアルバムにして“ブラックアルバム”の愛称で知られる最大のヒット作『METALLICA』(1991年)の発売30周年を記念して、同作の最新リマスター盤&ボックスセットと合わせて制作・発表された、同作の録り下ろしカバー曲53曲を集めたCD4枚組/アナログ7枚組のコンピレーションアルバム。オリジナルの全12曲を53組が1曲単位でカバーしていくわけですから、そこは当然同じ曲のダブりも発生します。そのへんは、下の内訳を見ていただければご理解いただけるかと。
M-1. Enter Sandman [6組]
M-2. Sad But True [7組]
M-3. Holier Than Thou [6組]
M-4. The Unforgiven [6組]
M-5. Wherever I May Roam [4組]
M-6. Don't Tread On Me [3組/うち1組はM-8との組曲]
M-7. Throught The Never [2組]
M-8. Nothing Elese Matters [13組/うち1組はM-6との組曲]
M-9. Of Wolf And Man [1組]
M-10. The God That Failed [2組]
M-11. My Friend Of Misery [3組]
M-12. The Struggle Within [1組]
M-1、2、4、5、8といったシングルカット曲に人気が集中するのは理解できます。しかし、そんな中でMETALLICA初のスローバラードM-8を13組もがカバーするというのは、非常に興味深いものがあります。まあ、こういったシンプルでわかりやすいバラードのほうが使い勝手も良いのかもしれませんね。
参加アーティストはHR/HMの範疇に含まれるバンドからオルタナ系、パンク/ハードコア、ヒップホップ、R&B、クラブミュージック、ジャズ、ラテン、カントリーなどジャンルさまざま。そういった方々が少なからずMETALLICA(というか『ブラックアルバム』)から影響を受けているというのもあるのでしょうか。「え、その人がその曲をカバーするの?」という驚きから「想定の範囲内!」という安心安定のカバーまで、色とりどりの名曲群カバーを楽しむことができます。
「Enter Sandman」のように個性が確立され切った楽曲はアレンジが難しいのか、基本的にはメインリフを軸に歌やリズムで味付けをしている感が強いかな。そんな中で、フアネスの「Enter Sandman」はメインリフに味付けを加えることで、独特のカラーを作り上げていて好印象。リナ・サワヤマも4つ打ちダンスビートにメタルギターを被せ、歌でぐいぐい引っ張る方法で良き味付けを示しています。WEEZERは途中まで普通かな……と安心していると、途中に“らしい”フレーズを散りばめており、思わずニヤリ。彼らにしては淡白ですが、これはこれでアリかな。
「Sad But True」はリズムがシンプルなので、意外といじりがいがあるのかな。サム・フェンダーのピアノバラード風アレンジも良いし、JASON ISBELL AND THE 400 UNITのブルースロック風も良き。MEXICAN INSTITUTE OF SOUNDもラテンアレンジも、ST. VINCENTの70年代中盤ボウイ風もよかった。
……と細々解説していったらキリがないので、以下はお気に入りのカバーのみ挙げていきます。サイケデリックメタル調に再構築したBIFFY CLYROの「Holier Than Thou」、ゴシック風オルタナロックのCAGE THE ELEPHANT「The Unforgiven」、サイケなヒップホップに進化したJ.バルヴィン「Wherever I May Roam」、ドラムンベース調リミックスのTHE NEPTUNES「Wherever I May Roam」、不穏なピアノの音色にゾクゾクするPORTUGAL. THE MAN「Don't Tread On Me」、メロディを独自に解釈し浮遊感の強いクラブミュージックとミックスさせたトミ・オウォ「Through The Never」、エルトン・ジョンやヨーヨー・マ、ロバート・トゥルヒーヨ、チャド・スミスをバックに従えたマイリー・サイラスの正統派パワーバラード「Nothing Else Matters」、悲しみに満ちた鎮魂歌風のデイヴ・ガーン(DEPECHE MODE)「Nothing Else Matters」、逆にメジャーキーに転調したことでパワーポップ風に生まれ変わったMY MORNING JACKET「Nothing Else Matters」、このバージョンで本家にもカバーしてほしいGOODNIGHT, TEXASのオルタナカントリー風「Of Wolf And Man」、スリリングな演奏が心地よいカマシ・ワシントン「My Friend Of Misery」、アコギ2本のみで構築されるインストアレンジがさすがのRODRIGO Y GABRIELA「Struggle Within」……といったところでしょうか。
さすがに4時間以上ある音源集なので、すべてを細々と紐解いていくにはいくら文字があっても足りないくらい。なので、これは配信から半日以上かけて2、3度通して聴いた初日の感想ということで。同じ曲が6曲とか10数曲とか続く構成なので、通して聴く頻度はそう多くはないと思いますが、気になるトラックを複数ピックアップしてプレイリストで聴くというのもアリかな。もちろん、『ブラックアルバム』からの印象的/特徴的なカバーは本作に収録された以外にもたくさん存在するので、それらを混ぜ込んだプレイリスト作りもありかもしれませんね。
▼V.A.『THE METALLICA BLACKLIST』
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