PAUL GILBERT『'TWAS』(2021)
2021年11月26日にリリースされたポール・ギルバートのホリデーシーズン・アルバム。日本盤は同年11月24日に先行発売。
今年6月に最新オリジナルアルバム『WEREWOLVES OF PORTLAND』(2021年)を発表したばかりのポールですが、これに続く今作は10曲のクリスマスソングおよびそれに付随するウィンターシーズンならではの名曲群に、新たに書き下ろされたオリジナルクリスマスソング2曲(日本盤はさらに1曲追加の3曲)を加えた全12曲(日本盤は13曲)入りのインストゥルメンタルアルバム。アートワークの作風含め、『WEREWOLVES OF PORTLAND』の延長線上に位置する1枚です。
カバーされた楽曲はフランク・シナトラ「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」やナット・キング・コール「Frosty The Snowman」「The Christmas Song」など著名アーティストが歌いヒットさせたオリジナルソングや、「Rudolph The Red-Nosed Reindeer(赤那覇のトナカイ)」「We Wish You A Merry Christmas(おめでとうクリスマス)」「Winter Wonderland(すてきな雪景色)」などのスタンダードなど、誰もが一度は耳にしたことがある名曲ばかり。前作ではすべての楽器をポールひとりで担当したものの、今回はポール(G)、ダン・バルマー(G)、ティマー・ブレイクリー(B)、クレイ・ギバーソン(Key)、ジム・ボット(Dr)というバンド編成で、時にハードロックテイストで、時にソウルやジャズの色合いで表現し、聴き手を楽しませてくれます。
ポールの超絶テクニックも随所にフィーチャーされているものの、やはり軸になるのはメロディラインの忠実なる再現。もちろんただ真っ直ぐメロディをなぞるだけではなく、そこには彼らしいウィットに富んだアレンジも味付けとして加えられており、原曲のイメージを大幅に変えることなくポールらしさが見事に表現されているように感じます。なので、多くの楽曲は既存ナンバーとはいえ、ポールのギタリストとしての非凡さもしっかり楽しめるはずです。
本作のために書き下ろされた新曲についても触れておきます。今作も事前に歌モノと想定してポールが作詞した歌詞が用意されており(ボーナストラックの「Down The Chimney Blues」以外の2曲はブックレットに歌詞を用意)、改めてその意図を踏まえてから触れると印象も変わるのではないでしょうか。「Every Christmas Has Love」のスタンダードなポップス色といい、エネルギッシュなギタープレイが炸裂するアップテンポの「Three Strings For Christmas」といい、それぞれクリスマスならではの陽気さ、朗らかさに満ち溢れており、これらがポールならではのポップセンスと相まってよりキャッチーさを増している。既存のクリスマスソングと並んでもなんら違和感がないほどに、このアルバムに馴染んだ仕上がりです。
そして、ボーナストラックの「Down The Chimney Blues」はこれら2曲とは若干一線を画する、スタジオジャム色の強い仕上がり。トラック冒頭に残されているポールの声(バンドメンバーへの楽曲説明やちょっとした歌声)含め、即興性の強いブルースナンバーはおまけとしては十分すぎるほどの1曲で、クリスマスソングという枠からは少々ズレているのかもしれませんが、これはこれで全然アリ。ポールの派手さとディープさが混在したギタープレイも聴きどころではないでしょうか。
こういった類のアルバムは年に一度、このシーズンにしか引っ張り出す機会はないものの、本作に関しては純粋にギターインストゥルメンタルアルバムとして季節を超えて楽しめる気がしてなりません。HR/HM界隈アーティストによるクリスマスアルバム、ホリデーシーズン・アルバムは多々あるものの、この『'TWAS』はジャンルの枠を超えた、聴き手を選ばない良質の1枚だと断言できます。年間ベストなどに選ぶタイプではありませんが、ぜひこの時期だからこそ手に触れてほしい良作です。
▼PAUL GILBERT『'TWAS』
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