SAIGON KICK『SAIGON KICK』(1991)
1991年2月12日にリリースされたSAIGON KICKの1stアルバム。日本盤は同年3月25日に発売。
マット・クレイマー(Vo)、ジェイソン・ビーラー(G)、トム・ディファイル(B)、フィル・ヴァロン(Dr)の4人からなるSAIGON KICKは1988年にフロリダ州にて結成。1990年にAtlantic Recordsと契約すると、DOKKENやSKID ROWなどで名を上げたマイケル・ワグナーをプロデューサーに迎え、このデビューアルバムを完成させます。
ポップ色の強いハードロックをベースにしつつ、随所にサイケデリック風味やパンクロックからの影響を散りばめたスタイルは、同時期にブレイクを果たしたFAITH NO MOREやJANE'S ADDICTIONあたりとも通ずるものがあり、アルバム自体1990年前後のバンドらしい音が詰まった良作と言えるでしょう。ストレートなHR/HMとは異なる、ひとひねり加わったアレンジや楽曲構成からも時代の移り目が伝わってきますし、本作リリースの数ヶ月後にMR. BIGが「Green-Tinted Sixties Mind」を含む2ndアルバム『LEAN INTO IT』(1991年)を発表するというあたりにも、いろいろなつながりを感じずにはいられません。本作でいうと「What You Say」あたりはMR. BIGのそのテイストと重なりますしね。
かと思えば、「Suzy」には当時本格的ブレイクを果たしたEXTREMEの姿が見つけられるし、オープニングトラック「New World」にはSOUNDGARDEN、あるいはのちにデビューするPEARL JAMとの共通点も散見される。「Coming Home」なんて、ペリー・ファレルが歌ったらJANE'S ADDICTIONっぽくなっちゃいますから……そういった意味では、このデビューアルバムの時点ではSAIGON KICKらしい個性はまだ確立できておらず、当時好きだったアーティストからの影響やシーンの潮流を読み取った音が表現されていただけに過ぎなかったのかな。結局、続く2ndアルバム『THE LIZARD』(1992年)でチャート的にもセールス的にも成功を収めるわけですから、本作はそこへ向けた習作だったということなのでしょう。
プロデューサーの人選、その流れからなのかゲストボーカルとしてジェフ・スコット・ソートが参加している点など、当時はHR/HMの観点で語られることが多く、初来日もオジー・オズボーンの引退前興行のオープニングアクト(1991年秋)。僕も日本武道館で彼らのパフォーマンスを観ており、それにあわせてアルバムも購入したのですが、正直チグハグ感は否めませんでした。結局、日本では彼らもカテゴライズの難しい存在でしたから……。
グランジの本流とは異なるものの、ポストグランジバンドとしては意外と重要な存在じゃないかと言える彼ら。ヒット作『THE LIZARD』はもちろんですが、本作もぜひチェックしておきたい1枚です。
▼SAIGON KICK『SAIGON KICK』
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