HALSEY『IF I CAN'T HAVE LOVE, I WANT POWER』(2021)
2021年8月27日にリリースされたホールジーの4thアルバム。
前作『MANIC』(2020年)から1年7ヶ月という非常に短いスパンで届けられた新作。前作からは初の全米No.1を記録した「Without Me」など複数のヒットシングルを生み出しています。また、ヤングブラッド&トラヴィス・バーカーとの「11 Minutes」やマシュメロとの「Be Kind」など、複数のコラボソングも発表するなど、特にここ数年は非常に精力的な活動を続けてきました。
そんな中、今年に入り第1子妊娠を発表(7月中旬に無事出産)。初めて母になることに対して覚えた不安や女性の苦悩などをテーマに、なんと秘密裏にアルバム制作に突入。プロデューサーにトレント・レズナー&アッティカス・ロスというNINE INCH NAILSチームを迎えた、ゴシックロック/オルタナティヴロック色の強いダークポップが思う存分に展開されています。
サウンドやアレンジは、いかにもトレント・レズナー(およびNIN)と言いたくなるような味付け、装飾が施されており、NINファンならば耳覚えのある音色やフレーズも見つけられるはず。一方で、楽曲制作はホールジーとレズナー&ロス、そしてジョナサン・カンニンガム、グレッグ・カースティンといった前作までの布陣も関わっていることから、従来のポップさ、わかりやすさも存分に備わっている。むしろ、メロディに関してはトレントのカラーは希薄で、アレンジ面でそっち側に寄せている感が強い気がします。
ヒップホップやモダンポップ感が若干後退したこともあり、従来の彼女のファンにどう受け取られるかは正直わかりません。しかし、これまで彼女の作品を普通に楽しんできたNINファンには、このコラボレーションは相当受け入れやすいものがあるはず。これをNIN本家でやったとしたら「ネタ切れ」とか叩かれそうですが、他アーティストと交わり合うことで「全然アリ」なものへとしっかり昇華されているんですから、面白いものです。
レズナー&ロスのコンビということもあって、全体的に映画のサウンドトラック的にも感じられる今作は、「愛が得られないなら、力(成功)が欲しい」と願った彼が生まれてくる(きた)赤ちゃんと自身のパートナーへの愛情を綴った「Ya'aburnee」で締め括られるのも、非常に興味深いところ。だって、「愛が得られないなら、力が欲しい」と歌ったその人が最後に手に入れたものが、愛以外の何ものでもないわけですから。そんなストーリー性重視の本作、サブスク全盛の今だからこそアルバムを通してじっくり浸ってもらいたいところです。
▼HALSEY『IF I CAN'T HAVE LOVE, I WANT POWER』
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