MÅNESKIN『RUSH!』(2023)
2023年1月20日にリリースされたMÅNESKINの3rdフルアルバム。
オリジナルアルバムとしては前作『TEATRO D'IRA: VOL.1』(2021年)から1年10ヶ月ぶりの新作。同作リリース時は『Eurovision Song Contest 2021』で優勝(5月22日)前とあって、今作こそがその影響がダイレクトに反映された1枚となります。
同作発表後(というか『Eurovision Song Contest』優勝後)、バンドはイギー・ポップをフィーチャーした「I Wanna Be Your Slave」新バージョンを筆頭に、「Mannmamia」「Supermodel」といった新曲や、映画『エルヴィス』に提供したエルヴィス・プレスリーのカバー「If I Can Dream」などを発表していますが、この3rdアルバムに向けた本格的な動きは昨年10月発売の「The Loneliest」から始まったと言っても過言ではありません。
曲ごと職業ソングライターとコライトを重ね、かつ1曲1曲異なるプロデューサーを迎えて制作された本作は、メンバー4人の個性をひとつにまとめる(あるいや4人の共通項をみつけてそこにスポットを当てる)のではなく、バラバラの4人の魅力をダイレクトに反映させることで、良い意味での荒ぶり具合を楽しむことができる“第二の初期衝動作”。成功がもたらしたプレッシャーを無視するのではなく、1人ひとりがそれぞれのスタンスで向かうことで、以前とは異なる化学反応が発生し、バンドとしての色をよりビビッドに表すことができたのではないでしょうか。
オープニングを飾る「Own My Mind」や「Bla Bla Bla」「Don't Wanna Sleep」など前作の延長線上のある楽曲も含まれているものの、どの楽曲もささくれだった生々しさがより前面に打ち出されたものばかり。各曲とも3分前後とコンパクトにまとめられていますが、それは計算の上でのコンパクト化ではなく、無駄を省いてソリッドに磨き上げた上での結果。だからなのか、ロックンロールが本来持っているべき攻撃性や躍動感、高揚感がどの曲からのストレートに伝わってきます。
トム・モレロ(G/RAGE AGAINST THE MACHINE)をゲストに迎えたリード曲「Gossip」は、先行配信されていた「Supermodel」などと同様、世界的成功を手中に収めたからこそのゴージャスさが伝わる。だけど、それらはセレブ的な成功とは一線を画するもので、間違いなくロックバンドがどんどん巨大化していく姿が投影されたもので、そういった姿勢はゴリゴリ感の強い「Gasoline」やライヴ映えするパンキッシュな「Kool Kids」からも感じ取ることができます。
音楽的なまとまりよりもバンドとしての“今”をダイレクトに具現化したという点では、スタイルはまったく異なるもののGUNS N' ROSESの問題作『USE YOUR ILLUSION I』および『同 II』(ともに1991年)との共通点を見つけることもできる。ロックバンドが思いがけない大成功を収めたときの強気な姿勢と戸惑いが、こういったいびつな形で記録として残されたのはある意味奇跡かもしれません。そういった意味でも、2022〜23年というこのタイミングにしか作り得なかった1枚かもしれません。だからこそ、世界中でバカ売れして、ロック低迷を覆すターニングポイントを作ってもらいたいところです。
なお、日本盤は昨年8月の来日公演から、豊洲PITでの単独公演にて収録された10曲を収めたボーナスディスク付き仕様も用意。コロナ禍だろうが自然と声が漏れてしまうオーディエンスの様子含め、こちらも貴重な記録の一部。アルバム本編同様にマストで聴いていただきたい、CD限定の素敵なボーナスです。
▼MÅNESKIN『RUSH!』
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