ビートルズの初期作品を振り返る②(1964年編)
昨年11月に掲載された「ビートルズの初期作品を振り返る①(1963年編)」に続く第2弾は、1964年に発表された2枚のオリジナルアルバムについてです。その内容もカバー曲中心だった1963年から全曲オリジナル曲(3rdアルバム)へと進化し、かつレコーディングに対する技術(およびアイデア)も格段に進化し始めた時期。と同時に、初の主演映画公開などポップスターとしての人気ぶりも頂点に達し始めます。
THE BEATLES『A HARD DAY'S NIGHT』(1964)
本国イギリスで1964年7月10日、アメリカではひと足先に6月26日に発売されたTHE BEATLESの3rdアルバム。
1964年夏に公開されたビートルズ初主演映画『A HARD DAY'S NIGHT』(日本での邦題は『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』)のサウンドトラック的立ち位置の内容で、アナログA面の7曲(M-1「A Hard Day's Night」からM-7「Can't Buy Me Love」まで)が映画で実際に使用された楽曲、アナログB面の6曲は本作用に新たに制作されたもので構成され、全曲ジョン・レノン&ポール・マッカートニーの作詞・作曲によるものとなります。なお、ビートルズのアルバムでレノン/マッカートニーのオリジナル曲のみで構成されたオリジナルアルバムは本作のみとのこと。言われて初めて気付きました。
映画を観たことがある人にとってはお馴染みの曲が詰まった前半は、特に親しみやすいものがあるのではないでしょうか。大ヒットシングル「A Hard Day's Night」「Can't Buy Me Love」やジョン歌唱の「I Should Have Known Better」、ポールが歌う「And I Love Her」など人気曲も多いですものね。
かと思えば、後半はジョンのシャウトがいかにもな「Any Time At All」を筆頭に、ポールの歌う勇ましさ漂う「Things We Said Today」、ソウルフィーリングの備わったジョン歌唱の「You Can't Do That」、ジョン&ポールによるハーモニーが心地よい「I'll Be Back」など、隠れた名曲が多い。前半の派手さに隠れてしまいがちですが、この地味めな後半も捨てがたい。
方向性的には過去2作の延長線上にあるR&B経由のポップなロックンロールが中心。ある意味では初期のロックンロール路線を自身の曲だけで完璧に描いた集大成と言えるかも。ここで一区切りつけたことが、続く『BEATLES FOR SALE』での変化の序章へとつながります。
▼THE BEATLES『A HARD DAY'S NIGHT』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)
THE BEATLES『BEATLES FOR SALE』(1964)
1964年12月4日にイギリスでリリースされたTHE BEATLESの4thアルバム。当時は日本やアメリカではそのままの形ではリリースされず。
クリスマスシーズンにちなんだタイトルはいかにも彼ららしい洒落が効いていますが、その内容は非常に凝ったもの。前作では全曲レノン/マッカートニーのオリジナル曲で占められましたが、今作では再びカバー曲を取り入れています。その割合も全14曲中6曲と、初期2作と同様。それ以外のオリジナル曲はすべてレノン/マッカートニーによるものとなります。
溌剌とした前3作と比べると、若干の落ち着きが見られる序盤の流れ(特に「No Reply」「I'm A Loser」「Baby's In Black」の冒頭3曲)にちょっとだけドキっとするのでは。特に「No Reply」や「I'll Follow the Sun」といったジョン歌唱曲の切ない雰囲気はたまらないものがあります。その一方で、ジョンのシャウトが印象的なチャック・ベリー「Rock And Roll Music」やロイ・リー・ジョンソン「Mr. Moonlight」、ポールによる「Kansas City / Hey, Hey, Hey, Hey」といったロックンロールメドレーは問答無用のカッコ良さが伝わります。
また、前作では全曲レノン/マッカートニー歌唱だったのに対し、今回はリンゴ・スターが「Honey Don't」、ジョージ・ハリスンが「Everybody's Trying To Be My Baby」と、ともにカール・パーキンスのカバーを取り上げています。ここではジョージの歌う「Everybody's Trying To Be My Baby」の仕上がりが良好。リンゴもあのヘタウマぶりで良い雰囲気を醸し出しています。
序盤の楽曲に加えシングルヒットも飛ばした「Eight Days A Week」や、「Every Little Thing」「I Don't Want To Spoil the Party」といったアルバム曲含め、やはり全体的にフォーキーさが目立ち、そのその空気感も少し燻った蒼さが際立ち始めていることに気付かされます。ツアーの合間に制作されたものの、その勢いだけで突き進まなかったあたりに、バンドとして、そしてソングライターとしての変化(成長)が伝わる内容ではないでしょうか。
▼THE BEATLES『BEATLES FOR SALE』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)