THE SZUTERS『THE DEVIL'S IN THE DETAILS』(2021)
2021年10月31日に配信リリースされたTHE SZUTERSの6thアルバム。日本のみフィジカル(CD)にて同年11月28日発売予定。
マイク・ズーター(Vo, G)のソロプロジェクト体制で再結成を果たしたTHE SZUTERSは、昨年6月に約17年ぶりのアルバム『SUGAR』を配信リリース(日本のみ翌2021年にCD化)。ハードロック色を排除したシンプルなパワーポップサウンドで、古くからのリスナーを驚愕&歓喜させました。
早くも届けられたこの新作は、その『SUGAR』の延長線上にある内容というよりは、もっと広い意味での“パワーポップ”を具現化した意欲作。オープニングを飾る「How To Make A Good Thing Bad」ではどこかエルヴィス・コステロを彷彿とさせる王道感をにじませますが、続くイントロダクション「The Devil's Intro」から「(Everyone's A) Harry Prefontaine」へと続く流れ、および「Funny」や「Any Time You Want」で見せる/聞かせるサウンド/楽曲は前作でのストレートで甘美なロックンロールとは異なる、より深みと広がりを感じさせるものばかり。
さらに「Lull」のようなスローナンバーがあったり、若干ヘヴィさが増した「Right By You」など、要所要所でダークさも感じられる仕上がりに。思えば、前作はタイトルしかりアートワークしかり、甘口なアルバムであることはビジュアルからも伝わってきましたが、今回のジャケットはシンフォニックメタルかダークなデスメタルかと言われても信じてしまうようなファンタジー系のイラスト。さらにタイトルには「Devil」というネガティブなワードも用いられており、ここ1、2年の世の中の流れを反映させたかのような世界観が伝わってきます。
前作に収められた楽曲のほとんどはコロナ禍前に制作されたもので、今作はコロナ禍を通過したからこそ生まれたもの。そう捉えると、作品の質感が変化するのも頷けるものがあります。しかし、どちらも間違いなく王道のパワーポップ。それだけは間違いない事実で、視点を変えるだけでこんなにも違った魅力を伝えられるのだと気付かせてくれるわけです。
にしても、今回は全体的に重めの印象を受けます。ギターサウンドやドラムのチューニング、そしてミックスにおいても若干重さを意識しているようですし、スローナンバーやアコースティック曲、インタールードを加えることで多彩さに加え耽美さも増している。もちろんソングライター、そしてアレンジャー、シンガーとしてのマイクの才能も非凡さが伝わりますし、この短期間で個性の異なる2枚の良作を届けられるほどに創作意欲が爆発している今の彼は90年代後半の彼とは一味違うものが感じられます。
個人的ツボは、先にあげた「Lull」からラストナンバー「The Devil's Arrangement」までのひとつの流れ。1曲1曲の個性がまるで異なるうえに、エンディングまでの構成がまるで映画のサウンドトラックのように感じられる。こういう実験的要素も大好きです。
『SUGAR』での世界観をそのまま求めると違和感を覚えるかもしれませんが、これも間違いなく新生THE SZUTERSの個性そのもの。まるで陰と陽、表裏一体なこの2枚はあわせて楽しむべき作品集なのかもしれません。
▼THE SZUTERS『THE DEVIL'S IN THE DETAILS』
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