TYKETTO『DON'T COME EASY』(1991)
1991年3月25日にリリースされたTYKETTOの1stアルバム。日本盤は同年4月21日発売。
TYKETTOは1987年に結成された、当時4人組のメロディアスハードロックバンド。フロントマンのダニー・ヴォーン(Vo, G)は後期WAYSTEDのシンガーとしても活躍した経歴を持ち、その後マイケル・クレイトン(Dr)とともにこのTYKETTOを結成します。1989年にはGeffen Recordsと契約を果たし、リッチー・ジトー(CHEAP TRICK、HEART、MR. BIG、POISONなど)をプロデューサーに迎え本作を完成させます。
日本盤リリース直前から、伊藤政則氏のラジオ番組『Power Rock Today』(Bayfm)でオープニングトラック「Forever Young」がヘヴィローテーションされ、その完成度の高さから早い段階で注目を集める存在でした。アメリカのバンドながらもヨーロッパ的な憂いを感じさせるメロディラインは、完全に日本人好みのそれであり、僕自身もこの1曲にノックアウトされアルバムを購入した記憶があります。
しかし、「Forever Young」的な楽曲はアルバムの中でもこれ1曲だけで、アルバム全体を通して感じるのは王道のアメリカンハードロック/AORテイストの耳馴染みが良いハードロックということ。「Forever Young」のテイストだけを求めるリスナーには肩透かしかもしれませんが、それ以外の楽曲の完成度も非常に高く、デビュー作の時点でバンドとしてのカラーが確立されていることに気づきます。
1991年初頭というと、まだグランジの波が押し寄せる直前。また、彼らがメジャー契約した1989年はHR/HMが世界的に大ヒットを飛ばしていた後期だったこともあり、Geffenは同レーベル所属のGUNS N' ROSESやAEROSMITH、WHITESNAKE(アメリカのみ)、あるいは別レーベルのBON JOVIといった、世界中でメガヒットを記録する大物(ガンズのみ新人ですけどね)に続く正統派バンドに続く存在として育成したかったのではないでしょうか。事実、「Standing Alone」のようなパワーバラードからはAEROSMITHやWHITESNAKEにも通ずるブルースフィーリングが感じられますし、個人的には『WHITESNAKE』(1987年)以降のWHITESNAKEを継承する存在にまでは育てたかったのかな、という空気も感じ取りました。
ダニーのボーカルは適度なスモーキーさとウェット感があるのですが、一般的なアメリカンハードロックバンドのシンガーよりも品性が感じられる(笑)。実はこれが非常に大事で、「Lay Your Body Down」みたいに派手な演奏&アレンジの楽曲でも下品になりすぎない。この絶妙なバランス感ってかなり重要で、下品さがあると全部VAN HALEN的な方向に行ってしまうんですよね。今作にもVAN HALENからの影響を感じる楽曲がいくつか存在するものの、ボーカルの丁寧さや生真面目さのおかげで正統派感が強まっている。日本でウケた理由って、本当のところこのへんの要素が大きかったのではないかなと、改めて感じています。
しかし、本国アメリカでこういった方向性で戦うには非常に困難を強いられた。かつ、シーンが新たな方向へと向かいつつある過渡期にデビューしたのも運が悪く、TYKETTOはこの1枚でGeffenとの契約を終了することになります。本当、不運のバンドですね。
海外での評価はわかりませんが、ここ日本では今でも「Forever Young」を筆頭にこのアルバムは高く評価されており、この30年間で何度も再発されています。2022年1月にはユニバーサルミュージックが企画する「入手困難盤復活!! HR/HM VOL.4:北米編」の一環で、1枚1100円にて限定再発されるので、まだ聴いたことがないというリスナーはぜひチェックしてみてください。あるいは、今春からストリーミング配信も始まったので、そちらでチェックしてみてもいいかもしれません。
▼TYKETTO『DON'T COME EASY』
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