EMMA RUTH RUNDLE & THOU『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』(2020)/『THE HELM OF SORROW』(2021)
2020年10月30日に配信リリースされたエマ・ルース・ランドルとTHOUのコラボレーションアルバム。海外では同年12月4日にフィジカル(CD、アナログ)発売となり、日本でも12月9日から輸入盤国内仕様が流通しております。
エマ・ルース・ランドルはポストロックやフォークミュージックの要素を織り交ぜたスタイルのアメリカ人女性シンガーソングライター。一方、THOUは2005年に結成されたスラッジ/ドゥームメタルバンドと、一見ベクトルの異なる2組が2019年4月にオランダで行われたRoadburn Festivalにて初共演。これを機に、同年8月には2組によるセッション/レコーディングが実現し、2020年のロックダウンを経て1年越しに音源として届けられることになったわけです。
基本的にはTHOUによるスラッジメタルサウンド(ボーカル入り)にエマがメロディアスでソフトなボーカルを載せるという形で、形的にはMETALLICAがルー・リードとコラボした珍作『LULU』(2011年)に似たものを感じます。ただ、あっちはルー・リード主導で作られた楽曲をMETALLICAが演奏していた形でしたが、こちらは全体的にTHOU主体のようにも聴こえるし、でもメロディを聴くとエマ主導のようにも受け取れる。そういった意味では、真のコラボレーションが実現しているということでしょう。
全7曲でトータル36分、3〜5分台の曲が大半ですが、オープニングを飾る「Killing Floor」は約7分、ラストの「The Valley」は約9分といかにもスラッジ/ドゥームメタルバンドらしい尺。どの曲も重く遅くという王道のスタイルですが、逆にこのスローテンポがエマの歌/メロディを映させることにも成功しており、実は非常に計算して作られているのではないかという気がしてきます。
しかも、ただエマがメロウに歌っているだけではなくTHOUのフロントマン、ブライアン・ファンクもしっかりスクリームしまくっています。2人が交互に歌いスクリームすることもあれば、メロウなボーカルと金属的なスクリームが重なり合うこともあるのですが、そこでも決して両者の個性を打ち消すことはない。要は、それだけ2人の個が確立され、際立ったものだということがこの異色のハーモニーからも伝わるわけです。
アルバムラストを飾る「The Valley」なんてスラッジやドゥームの域を超えて、どこかオルタナフォークやトラッドミュージックのようにも響く仕上がりで、曲中にフィーチャーされたフィドルの音色も良い味を出しています。
▼EMMA RUTH RUNDLE & THOU『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』
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本作から数ヶ月遅れて、同セッションで生まれながらもアルバムから漏れた4曲をまとめたEP『THE HELM OF SORROW』も2021年1月15日にリリースされています。こちらは日本未発売。
こちらは『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』と比べると、若干エマのカラーが強い印象を受けるかな。冒頭を飾る「Orphan Limbs」の序盤でみせるポストロック感はまさにそういう雰囲気ですが、曲が進むにつれて不穏さがより強まり、終盤にエクストリームさが一気に増す構成は「ポストロック経由のエクストリームメタル」そのもの。続く「Crone Dance」や「Recurrence」は『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』の延長線上にあるカラーで、ラストの「Hollywood」はTHE CRANBERRIESのカバー。原曲の片鱗を残しつつもしっかりTHOUらしい味付けが施されており、かつエマのシンガーとしての個性もしっかり見つけられる良カバーではないでしょうか。
アルバムとしてのトータル性や完成度という点において、このEP収録曲を本編から分けたの納得いくところ。逆に、このEPは『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』を心の底から楽しめたリスナーに向けた、2組からの“デザート”的なプレゼントなのかなと。アルバム単体としても成立するプロジェクトだけど、このEPを補足的に聴くことでよりディープに楽しめる。そんな連作のような気がします。
なにはともあれ、ラウド&エクストリームなサウンドが好きで、かつポストロック/オルタナティヴな女性SSWも好きというリスナーは絶対に聴いておくべき2作品です。
▼EMMA RUTH RUNDLE & THOU『THE HELM OF SORROW』
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