EMMA RUTH RUNDLE『ENGINE OF HELL』(2021)
2021年11月5日にリリースされたエマ・ルース・ランドルの5thアルバム。日本盤未発売。
2ndアルバム『SOME HEAVY OCEAN』(2014年)以降、チェルシー・ウルフやDEAFHEAVEN、THE ARMED、RUSSIAN CIRCLESなどが在籍するSargent Houseを通じて作品を発表してきたエマですが、THOUとのコラボ作となる前作『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』(2020年)はTHOUの所属するSacred Bonesからのリリースでした。ソロ名義では約3年ぶりとなる今作では、そういったコラボレーションで得たものが発揮されるのかと思いきや、届けられたアルバムは非常に穏やかでミニマルな作品に仕上げられています。
ピアノやアコースティックギターのみを伴奏に、極力オーバーダビングを抑えた作風は『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』からの反動のようにも受け取ることができます。にも関わらず、インパクトという点においては同コラボ作や、前作『ON DARK HORSES』(2018年)にも引けを取らない。むしろ、『ON DARK HORSES』を構築していたバンドアンサンブルやさまざまなサウンドエフェクトという鎧を剥ぎ取ったことで、軸となっているメロディの美しさをより際立たせることに成功している。
要するに、手段こそ異なるものの、彼女が作りたいものは何も変わっていないのではないでしょうか。ピアノやアコギをバックに歌うことで、その歌声も柔らかく、今にも消えてしまいそうなほどの繊細さが放たれていますが、これをオルタナティヴロック調にアレンジしたりポストロック風バンドアンサンブルで表現したら、前作のようなアルバムができるはずですから。
『ON DARK HORSES』を経て、さらにマッチョな『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』を通過したことは、間違いなく今作の制作方針に大きな影響を与えたはず。と同時に、ここまで“裸”になることに対する恐怖心も解消することができた。だからこそのチャレンジなのかなと、個人的には考えています。
この手法を完全にモノにしてしまった今、このアーティストは無敵に近い状態なんじゃないかな。やろうと思えばどんな種類の鎧も用意できて、それらを上手に着飾ることもできる。かと思えば、一糸纏わぬ状態で人前に出ていくことにもなんの躊躇もない。それだけ自分の歌や、自分から生み出される言葉やメロディに対して一切の迷いがないということなのでしょう。
そんなターニングポイントとなるアコースティック色の強い作品に、『ENGINE OF HELL』というタイトルを付けるセンスもさすが。僕はTHOUとの『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』で彼女の存在を知ったという、比較的最近のリスナーですが(『ON DARK HORSES』も後追いですし)、この先どんな作品を生み出していくのかが非常に楽しみな存在になりました。きっとこのアルバム、海外のさまざまな音楽誌でベストアルバムのひとつに選ばれるんじゃないかな。
▼EMMA RUTH RUNDLE『ENGINE OF HELL』
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