CYNIC『ASCENSION CODES』(2021)
2021年11月26日にリリースされたCYNICの4thアルバム。日本盤は同年12月1日発売。
1993年にアルバム『FOCUS』1枚を残し解散するも、現在に至るまで何度かの再結成/解散/メンバーチェンジを繰り返してきたプログメタルバンド。初期はデスメタルからの影響も感じられるスクリームやデスボイスもフィーチャーされていましたが、前作『KINDY BENT TO FREE US』(2014年)からはその要素が払拭され、代わりにフュージョン色が強まるなど独自の進化を続けています。
2015年に何度目かの解散を経験するも、2017年にはポール・マスヴィダル(G, Vo)、ショーン・マローン(B)のほか、ショーン・レイナート(Dr/ex. DEATH)の代わりにマット・リンチ(Dr)を加えた編成で再結成。しかし、2020年1月にショーン・レイナートが、同年12月にはショーン・マローンが相次いでこの世を去るという不幸に見舞われます。そんな中、バンドは新メンバーにデイヴ・マッケイ(B, Key)を迎えて新作制作に突入。亡き盟友たちへの餞となる力作を完成させます。
アルバムは9曲の楽曲と9つのインタールード=全18トラックにて構成。尺自体は約49分と聴きやすい長さで、あくまでインタールードは続く楽曲を効果的に引き立て、かつドラマチックに盛り上げる役割に徹したものとなっているので、言われなければインタールード自体も曲の一部=2トラックで1曲と感じることでしょう。それくらい自然な流れを作っており、かつ曲と曲をシームレスにつなげるという点においても効果を発揮しています。
楽曲自体はプログメタル的な色合いを残しつつ、前作以上にフュージョン/ジャズからの影響を強く感じさせるスタイルは、捉え方によってはメタルとは思えないものばかり。ギターの歪みもかなり抑えられているし、ベースもフレットレスを使用しているのかそういうエフェクトなのか、独特の音色を奏でている。ところが、ドラムのツーバスプレイが加わることで「そうだ、メタルバンドだった」と現実に引き戻される。このバランス感が非常に良い塩梅で、メタルらしいエッジの効いた音もフュージョンらしいムーディさも程よいバランスで楽しめるのが本作の魅力かなと思いました。
メンバーの死を乗り越えて制作されたというと、どこか悲壮感のようなものを意識してしまいがちですが、本作に関してはそういった要素は皆無で、むしろ神秘性の強い浮遊感に無の境地で死後の世界を体験している、そんな感覚すら覚えます。「Ascension=昇天」というタイトルにも、もしかしたらそういった意思が込められているのかもしれませんね。変な色を付けて接するよりも、このアルバムは煩悩を捨て去って無で接するのが一番かもしれません。それくらい気持ち良い音、要素が満載ですから。
正直、CYNICは1作目の『FOCUS』で完全に止まっていたので、そこからいきなり本作に手を出してその変化に驚きを隠せませんでした。しかし、そこから前作、前々作とさかのぼって聴くことで、この進化の理由、意味を自分なりに理解できた気がします。2021年にこういう音を鳴らしている稀有な存在、ぜひこのままのスタンスで気長に活動を続けてもらいたいなと思います。
▼CYNIC『ASCENSION CODES』
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