HYPOCRISY『WARSHIP』(2021)
2021年11月26日にリリースされたHYPOCRISYの13thアルバム。
スウェーデン出身のベテラン・デスメタルバンドによる、前作『END OF DISCLOSURE』(2013年)以来8年8ヶ月ぶりの新作。2022年で1stアルバム『PENETRALIA』(1992年)から30年という大きな節目のタイミングに、待望の1枚が届けられました。
レコーディングメンバーはバンドの首謀者でもあるピーター・テクレン(Vo, G)と、彼の右腕ミカエル・ヘドルンド(B)、そしてIMMORTALでも活躍するホルグ(Dr)という前々作『A TASTE OF EXTREME DIVINITY』(2009年)から不動の3人(ライブでは2010年以降、トーマス・エロフソンがギタリストとしてサポート参加)。近年はプロデューサー/エンジニアとしても活躍するピーターは、本作でも自身がプロデュースおよびエンジニアリングを手掛けています。
過去の彼ららしいスタイルを踏襲した、ブルータルだけど適度にメロディアスや正統派ヘヴィメタルらしさも包括した、王道のデスメタルが終始展開された内容で、冒頭を飾る「Worship」で聴かせるドラマチックな展開/アレンジはさすがの一言。オープニングからエンディングまでの起承転結がはっきりした、まさにこのアルバムを象徴するような1曲に仕上がっています。
以降はミドルテンポやアップチューンなど緩急に富んだ、聴き手を飽きさせることのない構成で進行。また、この手のアルバムにしては非常にクリアな音像で、1つひとつの音の粒がしっかり聴き取れるミックスはデスメタルのそれというよりも普遍的なヘヴィメタルに近い印象を受けました。ボーカルこそデス声ですが、鳴らされている音は(ブルータルさを孕むものの)メロディアスで壮大な王道メタル的ですし。かつ、そこにドゥーミーな要素やゴシックの要素までもが感じられる。総合的に考えても、実はこれまで彼らに偏見を持っていたリスナーにこそ最適な、HYPOCRISYの入門編的1枚と言えるのではないでしょうか。
また、歌詞からはコロナ禍以降の日常に迫ったものがあったり、アルバムカバーで描かれたような古代史×SF的な都市伝説的物語が綴られていたりと、このへんのフィクション/ノンフィクション入り混じった世界観も非常に彼ららしい。そういった点では、映画を観るように俯瞰で楽しめる1枚とも言えるでしょう。単にエクストリームな音を追求しているバンドではなく、意図的な仰々しさが伝わるスタイルということも作用し、歌詞においても変に日常とリンクしすぎて恐怖を与えるよりも、これくらいの距離感がちょうどよい気がします。ホント、SF大作映画を楽しむくらいの感覚で触れるのが一番じゃないかな。
特に彼らの場合、MVを通じて楽しむことでその要素がより強まるので、「Dead World」や「Chemical Whore」など映像を通して触れてみるのもいいのではないでしょうか。
にしても、これらの楽曲群をライブではどう表現するのか。それが非常に気になるし、楽しみなところでもあります。残念ながら、昨今の情勢もあり日本で彼らのステージを目にするまでには、まだ相当な時間を要することになりそうですが、可能なら約9年ぶりのこの新作を生音で、かつ日本の地で体感したいものです。
▼HYPOCRISY『WARSHIP』
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