WHITECHAPEL『KIN』(2021)
2021年10月29日にリリースされたWHITECHAPELの8thアルバム。日本盤は同年11月3日発売。
前作『THE VALLEY』(2019年)から2年7ヶ月ぶりの新作。前作発表後のツアーからサポートメンバーとしてバンドに参加したアレックス・ルディンガー(Dr/LIGHT THE TORCHサポートなど)が、初めてレコーディングに加わり、のちに正式メンバーとしてアナウンスされました。が、本作発表からしばらく経った12月初頭に、アレックス自身がバンド脱退を発表。実はレコーディング時も正式メンバーではなく雇われだったことが明かされます。なんやかんや、ここ5年くらいはドラマーの座が安定しないバンドですね。
さて、そんなすったもんだのWHITECHAPELの新作。デスコアからの脱却が感じられる意欲的な1枚に仕上がっています。
アルバム冒頭を飾る「I Will Find You」のドラマチックさは、デスコアというよりもドラマチックなエクストリームメタルという印象。もちろん随所からデスコア的なテイストも感じとることはできますが、フィル・ボーズマン(Vo)の暴力的なグロウル/デス声とメロウなクリーンボイスを巧みに使い分けた歌唱、そしてクリーンパートでのフュージョンやプログメタル的なテイストなどバンドとしての新境地も伝わり、デスコアを飛び越えネクストレベルに向かおうとする意欲も見つけられます。
シンプルかつストレートに攻めるというよりは、緩急に富んだアレンジで聴き手の興味を惹きつける。「Lost Boy」のような王道デスコア的スタイルにフュージョンっぽさを織り込んだアレンジは、まさにその真骨頂でしょう。また、ドラマチックさでいうと「A Bloodsoaked Symphony」や「The One That Made Us」など、ダークさやヘヴィさを強調しつつも、どこかメランコリックなテイストも感じられるような曲が増えており、バンドが確実に変革期に突入したことがご理解いただけるでしょう。
かと思えば、後半にはメタルバラード「Orphan」まで登場する。ここで聴くことができるメロウで繊細なタッチは、もはやデスコアとは括れないものがあります。前半に収められた「Anticure」もバラードとまではいわないものの、浮遊感も強いムーディでメロウなミディアムスローナンバーはバンドにおける新たな武器だと断言できるもの。さらに、「Without Us」の序章にあたる1分程度の「Without You」はアコースティックギターによるインストで、こちらもバンドの新たな挑戦と言えるものです。
さらにバラード枠に含まれるラストナンバー「Kin」でもアコースティックギターやピアノが効果的に用いられており、この曲あたりはLAMB OF GODなどとの共通点も見つけられるのではないでしょうか。本作はデスコアからの進化を意味するポジティブな変化なのか、それとも単なるセルアウトなのか。残念ながらチャートなど数字での成功は収めることができていませんが、個人的には「全然アリ」な1枚。この片鱗を見せていた前作を気に入った方が、ここまで“化けた”本作をどう評価するのかも気になります。
▼WHITECHAPEL『KIN』
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