MARILLION『HOLIDAYS IN EDEN』(1991)
1991年6月24日にリリースされたMARILLIONの6thアルバム。日本盤は『楽園への憧憬』の邦題で、同年7月26日発売。
前作『SEASONS END』(1989年)からバンドに加入したスティーヴ・ホガース(Vo)参加作第2弾。本国イギリスでは常にTOP10にアルバムを送り込んできたMARILLIONですが、ことアメリカに関しては3作目『MISPLACED CHILDHOOD』(1985年)が最高47位を記録した以外、これといった成功を収めていません。これに痺れを切らしたアメリカのレーベル側から「MTVやラジオでヒットするコンパクトな曲を」のオーダーがあったとか、なかったとか(1991年という時代にそうしたオファーを出す自体が、時代遅れという気が)。結果、今作は3〜4分台の楽曲を中心に構成された、非常にコンパクトで聴きやすい1枚に仕上がっています。
確かに、シングルカットされた「Cover My Eyes (Pain & Heaven)」(全英34位)、「No One Can」(同33位)、「Dry Land」(同34位)などのポップさは前任ボーカルのフィッシュ時代と比べたら別モノに映るかもしれません。しかし、このきめ細かいポップネスは他の誰に真似できるものではない。もともとGENESISのフォロワーなんて言われてきた彼らですが、ここにきてMARILLIONは80年代以降のGENESISにも匹敵する大衆性を手に入れた……と解釈することはできないでしょうか。プロデューサーにポップス畑のクリストファー・ニール(A-HA、MIKE + THE MECHANICS、セリーヌ・ディオンなど)を迎えたことも、本作のシルキーなポップサウンド化に拍車をかけたことは間違いないでしょう。
しかし、すべてがすべてポップになったわけではありません。オープニングを飾る「Splintering Heart」やタイトルトラック「Holidays In Eden」で聴くことがでいるスリリングな演奏は、従来の彼らならではの魅力・個性を感じ取ることができる。こういったバランス感で成り立っている事実も忘れてはなりません。
だけど、先のシングル曲で見せた劇的な変化のほうが聴き手に強い印象を与えたのも、また間違いのない事実。本作で彼らに見切りをつけたなんてリスナーも少なくありません。僕自身はこのバンドに対して強い印象やこだわりを持っていなかったため、むしろ80年代の諸作品以上にリピートした記憶があります。だって、素直にいいアルバムじゃないですか。この半年後にリリースされたGENESISの『WE CAN'T DANCE』(1991年)と同じ感覚で触れていたのかもしれませんね。
ホガースのクセの強くない歌声と、それに相反して変幻自在な音色で聴き手を魅了するスティーヴ・ロザリー(G)のプレイ&フレージングの相性も抜群。ハードロックとかプログレッシヴロックとかそういうジャンルを超越し、普遍性の強いロック/ポップスとして成立させた本作は、以降の活動においてひとつの基盤になっていきます。本国では全英7位と、前作同様のヒットを記録したものの、アメリカでは曲順まで変えたにもかかわらず完全に惨敗。結果、バンドは次作『BRAVE』(1994年)で今作でのポップ化を踏まえた上で再びコンセプチュアルなアルバム作りにトライすることになります。
残念ながら本作、1991年の初版以降再発されていません。名盤として謳われている『BRAVE』の影に隠れがちですが、その完成度の高さ含め再評価されるべき1枚ではないでしょうか。
▼MARILLION『HOLIDAYS IN EDEN』
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