GLASS TIGER『THE THIN RED LINE』(1986)
1986年6月11日にリリースされたGLASS TIGERの1stアルバム。日本では『傷だらけの勲章』の邦題で、同年11月21日発売。
GLASS TIGERは1983年にカナダ・オンタリオ州ニューマーケットで結成された5人組ロックバンド。Captol Recordsと契約後、ブライアン・アダムスのソングライティングパートナーとして知られるジム・ヴァランスをプロデューサーに迎え、このデビューアルバムを完成させます。アルバムにはブライアン・アダムス(と彼のバンドメンバーでもあるキース・スコット)もゲスト参加していることもあって、シングル「Don't Forget Me (When I'm Gone)」は本国チャート1位、USチャートでも最高2位というデビューヒットを果たします。以降も「Thin Red Line」(カナダ19位)、「Someday」(カナダ14位、米7位)、「You're What I Look For」(カナダ14位)、「I Will Be There」(カナダ11位、米34位)スマッシュヒットを連発。アルバム自体もカナダ3位、米27位と好記録を残し、アメリカでは50万枚を超えるヒットさくとなりました。
サウンド的にはニューウェイヴを通過したポップロック/産業ロックといった印象ですが、「Thin Red Line」や「Don't Forget Me (When I'm Gone)」といった楽曲からはハードロック的なテイストも伝わります。特に後者や「Someday」といったヒット曲にはジム・ヴァランスもソングライターとして参加していることもあり、楽曲としての完成度の高さも印象的です。
ブライアン・アダムスがフックアップしたことがヒットにつながったことは大きな要因のひとつですが、ブライアンのような開放感の強いストレートなロックンロールをイメージすると、ちょっと肩透かしを喰らうかも。そのブライアンが印象的なコーラスで参加した「Don't Forget Me (When I'm Gone)」や「I Will Be There」あたりはブライアンの楽曲との共通点も見つけることができますし、「Ancient Evenings」のようにハードロック的アプローチを備えた楽曲も存在するにはしますが、このバンドはギターを前面に打ち出すよりも「Close To You」や「Vinishing Tribe」のようにシンセを軸にしたニューウェイヴタッチのナンバーが大半を占めるので、そのへんは覚悟してから触れたほうがよいかと思います。
そういったシンセメインのアレンジやドラムの音色などに時代を感じずにはいられませんが、個人的にはこの「ハードロックの色を含むニューウェイヴ」感は意外と心地よいものがあり、単なる一発屋ポップロックバンドと切り捨てるには勿体ない存在/アルバムだと思っています。ちょっと視点を変えたら、DURAN DURAN以降の英国ニューロマンティック勢に対するカナダからの答え、と受け取ることもできるのかなと。そこにソングライティング面でブライアン・アダムス一門がフォローアップすることで、何かに似ているようで実はオリジナリティに満ち溢れた不思議な1枚が完成した。それがこの奇跡のバランスで成立する隠れた名盤なのかもしれません。
ちなみに僕、本作は日本盤リリース直後にCDを購入しています。確か、BOØWYの『BEAT EMOTION』(1986年)の次に買ったのがこのアルバムだったんじゃないかな。つまり、人生で2番目に購入したCDがこれだった、と。そりゃ思い入れもありますよ。中学3年生の自分、意外と見る目あったのかな(苦笑)。
なお、本作はユニバーサルミュージックが企画する『初CD化&入手困難盤復活!! HR/HM VOL.5:世界15カ国編』の一環で、3月23日に廉価盤として再発予定。本作をHR/HMの範疇に含んでしまって本当に大丈夫? 「カナダから登場した正統派ハード・ロック・バンドのデビュー・アルバム」と言い切っても本当に平気?とこちらが勝手に不安を覚えていますが、これを機に当時スルーしていたHR/HMリスナーの琴線にも触れることがあったら、いちファンとしてはこの上なく幸せでございます。
▼GLASS TIGER『THE THIN RED LINE』
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