MATT BELLAMY『CRYOSLEEP』(2021)
2021年7月16日にリリースされたマシュー・ベラミーのコンピレーションアルバム。日本盤未発売。
MUSEのフロントマン、マシュー・ベラミー(Vo, G)が2019〜21年にデジタルリリースしたソロ(マット・ベラミー)名義による楽曲、およびグレアム・コクソン(BLUR)やマイルズ・ケイン(THE LAST SHADOW PUPPETS)らと結成したTHE JADED HEARTS CLUBの楽曲など、マシューがMUSE以外で歌唱した楽曲/インスト曲を集めた作品集。2021年夏の「Record Store Day」目玉企画として、アナログ盤限定でリリースされ、これにあわせてデジタル/ストリーミングでも発表されました。
純粋なソロアルバムとして制作された内容ではないので、あえてコンピレーションアルバムと呼ぶことにしますが、その内容は非常に“パーソナル”な仕上がりで、もしかしたらいずれこういう作風のソロ作品を作っていたとしても不思議じゃないのかもしれません。その“パーソナル”というのは、音数の少ない内省的な作風といいましょうか、マシューの“静”の側面に特化したテイストで統一されています。
MUSEの「Unintended」(1stアルバム『SHOWBIZ』(1999年)収録曲)や「Take A Bow」(4thアルバム『BLACK HOLES AND REVELATIONS』(2006年)収録曲)のピアノ弾き語りを中心としたアコースティックバージョンは、このアルバムならではの作風。特に後者の“Four Hands Piano”バージョンは2つのピアノ演奏を重ねた、本作の中でも非常に華やかさを放つ仕上がりです。
また、「Guiding Light (On Jeff's Guitar)」は5thアルバム『THE RESISTANCE』(2009年)収録曲「Guiding Light」に、マシューが購入した「かつてジェフ・バックリーが名作『GRACE』(1994年)を録音する際に使用したテレキャスター」を使ってリレコーディングした未発表バージョン。あえてなのか、ここでのギタープレイやアレンジがどことなく『GRACE』収録曲の「Hallelujah」を彷彿とさせるものがあります。これはナイス再録ではないでしょうか。
このほか、サイモン&ガーファンクル「Bridge Over Troubled Water」のカバーでは、彼にしては至極シンプルな仕上がりですし(本作的なアレンジとも言えますが)、エレクトロニクスのテイストが強い「Behold, The Glove」「Simulation Theory Theme」は70年代のSF映画を思わせる作風でいかにも彼らしい(この2曲は同タイトルのMUSE 8thアルバム『SIMULATION THEORY』(2018年)のフィルム作品で使用されたもの。作風としては同作の延長線上と言えるのかな)。THE JADED HEARTS CLUBとしてエルヴィス・プレスリーの「Fever」をカバーしたこのテイクも、自然と本作のテイストに馴染んでいるし、最後に再び「Unintended」の“Piano Lullaby”と題したインストバージョンで締めくくるのも、このアルバムのカラーにぴったり。既存曲/未発表バージョンで構成されたコンピ盤とはいえ、最初から最後まで統一感が強いのはマシュー・ベラミーならではといったところでしょうか。
2022年8月26日には約4年ぶりとなるMUSEのニューアルバム『WILL OF THE PEOPLE』のリリースも決定し、すでに「Won't Stand Down」や「Compliance」といった新曲も先行配信されています。まだ5ヶ月も先のことなので、きっとその間にもあと数曲はアルバムから新曲が公開されるかと思いますが、その前にMUSEの過去作に加えこのソロ作品もきっちりフォローして、来たる新作に備えてみてはどうでしょう。
▼MATT BELLAMY『CRYOSLEEP』
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