WET LEG『WET LEG』(2022)
2022年4月8日にリリースされたWET LEGの1stアルバム。
WET LEGは2019年に結成されたイギリス・ワイト島出身の女性2人組バンド。正式メンバーはリアン・ティーズデイル(Vo, G)とへスター・チャンバース(G, Vo)のみですが、現在は5人編成の固定バンド編成で活動しているようです。結成からたったの2年で名門Domino Recordsと契約し、2021年にシングル「Chaise Lounge」で正式デビュー。いきなりイギー・ポップなどの著名アーティストから絶賛され、その知名度を高めていきます。
満を持して発表されたこのデビューアルバムは、いきなり全英1位を獲得。オーストラリアでも1位を獲得したほか、アイルランドやニュージーランドで4位、ドイツで8位、オランダで10位、スイスで11位と新人ながらも好成績を残しています。アルバムのプロデュースはFONTAINES D.C.やBLACK MIDIなどで知られるダン・キャリー、ミックスは名手アラン・モウルダーが担当。新人ながらも破格の扱いですが、その中身を聴けばこういった起用理由もご理解いただけるはずです。
もうね、1980〜2000年代にインディポップ/インディロックやガレージロックにやられてきた同年代のリスナーなら絶対に引っかかる1枚だと思うんです。グランジ前後のオルタナロックにシンセポップの香りをまぶしたキャッチーな仕上がりのオープニングトラック「Being In Love」を筆頭に、THE STROKESを彷彿とさせるポストパンク/オルタナ感の名曲「Chaise Lounge」という冒頭2曲で完全にハートを鷲掴みにされるはず。以降も80年代末のサイケ経由のインディロックを現代的に解釈した「Angelica」、デヴィッド・ボウイ「The Man Who Sold The World」のギターリフを引用したグランジ+グラムロックな「I Don't Wanna Go Out」、どことなくNEW ORDERを彷彿とさせるフレージングも散りばめられたディスコパンク的な「Wet Dream」、本作中唯一へスターがリードボーカルを担当する、グラムロック+90'sブリットポップな「Convincing」と、アルバム前半だけでも1980〜2000年代のUK/USインディロックの歴史をなぞりつつも現代的に解釈した“2022年の地に足が着いたロック”を堪能することができます。
アルバム後半もバラエティに富んだ内容で、ローファイなビートに音圧の薄い上モノ&ファルセットという癒しの1曲「Loving You」をはじめ、80'sシンセポップにガレージポップをミックスさせたようなクセになる仕上がり(その一方で、終盤のシャウトにゾクゾクする)の「Ur Mum」、ファズギターの音色に2000年代初頭のロックンロールリバイバルを思い浮かべるも、グラムロック的ビートとの融合が新鮮な「Oh No」、オルタナ経由のフォークロックに8-bit的ブリープサウンドをミックスした「Piece Of Shit」、往年のBLURにも通ずる気怠さ&ポップ感が絶妙なバランスで混在する「Supermarket」、往年のニューウェイヴやポストパンクを現代的なポストロック手法で表現し、テンポチェンジを繰り返す曲展開含め刺激的な「Too Late Now」と最後までまったく飽きさせない内容/構成となっています。
個人的には昨年のDRY CLEANINGの1stアルバム『NEW LONG LEG』(2021年)にも匹敵する、生まれるべくして誕生した“その年のイギリスを代表するニューカマー/1stアルバム”だと断言できる1枚。単なる懐古主義で終わることなく、今の音として昇華し落とし込もうとする姿勢にも好感が持てるし、前評判だけでなくしっかり中身の伴った本年度ベストアルバム候補の本作は、できることなら我々オッサン世代のみならず彼女たちの同世代リスナーにもしっかり響いてほしいロックアルバムです。
▼WET LEG『WET LEG』
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