KIRK HAMMETT『PORTALS』(2022)
2022年4月23日にリリースされたカーク・ハメットの1st EP。日本盤未発売。
METALLICAのギタリスト、カーク・ハメットが同バンドでのデビューから40年近くを経て初めて制作したソロ名義の作品集。バンドの自主レーベル・Blackened Recordingsからアナログ盤、CDやデジタル、ストリーミングにて流通されています。
プロデュースはカーク自身が務め、レコーディングにはQUEENS OF THE STONE AGEのジョン・セオドア(Dr/ex. THE MARS VOLTAなど)、ポール・マッカートニーのツアードラマとして知られるアブラハム・ラボリエル・Jr.(Dr/名ベーシスト、アブラハム・ラボリエルの息子)、そしてMETALLICAのプロデューサーとしてお馴染みのグレッグ・フィデルマン(B)やボブ・ロック、エミー賞受賞のアレンジャーとして名高いブレイク・ニーリーなど旧知の仲間たちが多数参加。さらに「High Plains Drifter」「The Incantation」では一昨年のアルバム『S&M2』(2020年)でコラボしたエドウィン・アウトウォーターと共作を果たし、エドウィンはキーボードを担当したほかLAフィルハーモニー管弦楽団の指揮者も務めています。
全曲インストゥルメンタルナンバーで構成されているので、過去のMETALLICA作品における「The Call Of Ktulu」や「Orion」あたりをイメージする方も多いかもしれません。でも、それは半分正解であり、半分不正解なのかな。そこまでメタリックなインストをイメージすると、ちょっと面を食らうかもしれません。
前半2曲(「Maiden And The Monster」「The Jinn」)は確かにMETALLICAらしい要素も感じ取ることができますが、ストリングスなどを効果的に用いた抒情的な楽曲群はMETALLICAのメロディアスなナンバー……例えば「Nothing Elese Matters」をはじめとするバラード曲を下地に、ドラマチックで流麗なメロディを活かすようなアレンジが施されています。もっといえば、ライブの合間に披露されるカークのショートソロ、あれを拡大解釈してひとつの作品にまとめ上げていくとこうなるのかな?という想像もできなくないかな。
そして、LAフィルハーモニー管弦楽団を大々的にフィーチャーした後半2曲(「High Plains Drifter」「The Incantation」)は先の『S&M2』の延長線上にある作風。ホルンの音色や弦楽器を全面に打ち出すことで、カークのソロというよりは“カーク&LAフィルハーモニー管弦楽団の作品”という印象を与えてくれます。もしこの2曲が『S&M2』に収録されていたとしてもまったく違和感はなく、あの世界の延長線上にある“物語の続き”がここで展開されていると言っても過言ではありません。前半、後半とで若干の空気感の違いこそあれど、軸自体はブレていないので、ひとつの作品としては文句なしに楽しめるはずです。
全編通して想像していた以上に琴線に触れるメロディが多数用意されており、カークって意外にもメロディメイカーとしてもそれなりに優れていたんだなと再認識させられると同時に、ジェイムズ・ヘットフィールド&カーク・ハメットという“METALLICAのブレイン”抜きでカークが本気で制作に臨むとこうなるんだという驚きと発見の多い1枚。METALLICAのメロディアスな側面が大好物というリスナーには、文句なしでオススメできる1枚です。全編インストながらも全4曲/約27分という尺も程よく、ギターインスト作品に苦手意識を持つリスナーにも最適な作品ではないでしょうか。
▼KIRK HAMMETT『PORTALS』
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