nothing, nowhere.『TRAUMA FACTORY』(2021)
2021年2月18日にリリースされたnothing, nowhere.の4thアルバム。日本盤未発売。
nothing, nowhere.は米・ヴァーモント出身のラッパー/シンガーソングライター/プロデューサーのジョー・ムルヘリンのステージネーム。2015年のアルバム『THE NOTHING, NOWHERE LP』で本格的な音楽活動を開始して以降、トラップをベースにしたエモラップやオルタナティヴロック、モダンポップなど、ジャンルの枠を超えた作品を提供し続けています。また、トラヴィス・バーカーからDASHBOARD CONFESSIONALまで、ジャンルレスなアーティストとの共演も多く、直近ではポストハードコア/スクリーモ系のSILVERSTEIN新作『MISERY MADE ME』(2022年)にも参加し話題となりました。
エモやラウド、エレクトロなどを中心としたレーベル・Fueled by Ramenから2作目のアルバムとなる本作は、予定されていた2020年夏のツアーがコロナの影響で中止になったことから制作開始。こうした時代の混乱は歌詞や作風にも大きな影響を与え、痛みや苦しみを乗り越えた先にある人生の目的を追求することが歌われています。
昨今のダウナー系ヒップホップやダークポップよりの現代的ポップス、さらにはエモパンクなどオルタナティヴロックなどの色合いもミックスされた本作。エモーショナルさが際立つオルタナロック調の「Fake Friend」や「Pretend」「Nightmare」、The New York Timesが「初期のBEASTIE BOYSのドラムスにRAGE AGAINST THE MACHINEの吠えるようなラップを展開した正義感に燃えるラップロックリヴァイヴァル」と評した「Death」など、ロック/ラウド系ファンにもアピールする楽曲も複数含まれていますが、どの曲も非常にキャッチーなメロディが印象的で、ヒップホップリスナーのみならずロック層、あるいはラウド系リスナーにもしっかりリーチする内容ではないでしょうか。
もちろん、「Lights (4444)」や「Exile」のようなダウナー系歌モノ・ヒップホップも随所に散りばめられており、ベースにあるのがヒップホップであることは忘れていない。ヒップホップやトラップを起点に、エレクトロやラップコアやラウドロック、エモパンクやポップパンク、オルタナティヴロック、さらにはニューウェイヴやポストパンクからの影響も散りばめている。2022年という時代において、もはやジャンルは細かなセグメント分けは重要ではないことを強く実感させる、“今ならでは”の1枚ではないでしょうか。
僕自身、SILVERSTEINの新作で彼の名前を初めて目にし、初めてnothing, nowhere.のアルバムに触れた口なので、ここから旧譜をどんどん掘っていこうと思っているタイミング。今年リリースされたデジタルシングル「Sledgehammer」や「MEMORY_FRACTURE」もそれぞれタイプの異なる良曲ですし、いろいろ楽しみがいがありそうです。
▼nothing, nowhere.『TRAUMA FACTORY』
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