downset.『MAINTAIN』(2022)
2022年6月10日にリリースされたdownset.の6thアルバム。日本盤未発売。
downset.は主に90年代に活躍した、LA出身のミクスチャーロックバンド。メタリックなギターリフと跳ねたファンク的リズムを掛け合わせたサウンドにラップボーカルを乗せた、いわばラップメタル/ラップコアの祖先的存在で、セルフタイトルのデビューアルバム『downset.』(1994年)でメジャーデビューして以降、一部のファンの間で人気を博しました。
2013年の再結成以降2作目、前作『ONE BLOOD』(2014年)から約8年ぶりの新作。オリジナルメンバーはすでにレイ・オレペザ(Vo)とロイ・ロザーノ(G)のみで、リズム隊は2019年に一新しています。そんな中で、Nuclear Blast Recordsを通じて発表された本作は、プロデューサーに同郷のハードコアバンドTERRORのニック・ジェット(Dr)とメンバーのロイの共同プロデュースで、クリス・ポーランド(ex. MEGADETH)所有スタジオにて制作。原点回帰ともいえるストレートはハードコア/ミクスチャーロックを堪能することができます。
2020年3月から本作のデモ制作を開始したこともあり、多くの楽曲でコロナ禍に対峙した困難や鬱屈した日常に対するフラストレーションが必然的に表現されている。また、マネージャーのスコット・ケーニッヒという身近な人間がパンデミックの影響で亡くなったことも、楽曲作りに大きく作用。ここで鳴らされているオールドスクールなハードコアサウンドや前時代的なラップコアサウンドは、こうした出来事を経てバンドの根源を見つめ直した結果だったのではないかと想像します。
とはいえ、そもそもdownset.はそこまで革新的なスタイルを確立させてきたバンドではありませんし、良くも悪くも「RAGE AGAINST THE MACHINEとKORNやLIMP BIZKITの狭間世代」。いや、世代的にはRAGE AGAINST THE MACHINEよりも前なので、BIOHAZARDあたりと共鳴する存在と言えなくもないかな。そういった意味でも、ここで聴くことができる音は2022年のリアルとはちょっとかけ離れたものもあるかもしれません。だけど、90年代から現在まで頑固一徹に守り通したスタイルだからこそストレートに響くものもあるわけで、本作はそういった「ある世代」にとっては非常にリアルな1枚ではないでしょうか(もちろん、僕自身もそこの含まれるわけですが)。
先日発売された『ヘドバン』最新号でのミクスチャーロック特集を機に、かつて活躍したバンドの諸作品を多数耳にしたここ最近。その流れで手にしたdownset.の新作は、現在進行形の音ではないものの、決して絶やしてはいけない大切な何かを現代に伝える意欲作だと断言しておきます。聴く人は選ぶかもしれませんが、“あの頃”をリアルタイムで通過した世代には確実に刺さる1枚です。
▼downset.『MAINTAIN』
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