ALEXISONFIRE『OTHERNESS』(2022)
2022年6月24日にリリースされたALEXISONFIREの5thアルバム。日本盤未発売。
2015年に再結成を果たしたカナダ出身のポストハードコア/スクリーモバンドによる、前作『OLD CROWS / YOUNG CARDINALS』(2009年)以来となる13年ぶりの新作。バンドとジョウナ・ファルコ(FUCKED UP、CHUBBY & THE GANGなど)の共同プロデュース作となります。
ALEXISONFIREというと、初期の無軌道なまでにアグレッシヴなスクリーモサウンド/楽曲が印象に残っていますが、13年ぶりに届けられた今作は過去4作とは一線を画する意欲作ではないでしょうか。まず、オープニングを飾る「Committed To The Con」の穏やかでムーディな作風に「おっ?」と驚かされ、そのミディアム/スローなスタイルが「Sweet Dreams Of Otherness」「Sans Soldeil」と頭3曲続くのです。最初に聴いたとき、正直なところ「あれ、ニューウェイヴ経由のUKロックバンド新作と間違えた?」と動揺したほどです。
このテイストが過去の作品にまったくなかったかと言われれば、まったくそんなことはないのですが、それにしてもここまでムーディなスタイルに特化した方向にシフトするとは思いもしませんでした。これは問題作って言われるんだろうな……。
でも、4曲目「Conditional Love」で従来のポストハードコアスタイルへと回帰。若干落ち着き払った印象もなきにしもあらずですが、頭3曲のあとに聴いたらこれでもかなり激しめに聞こえます。この曲を軸に、アルバムはここからガンガン攻めていくのかな……一瞬、そんな淡い期待を寄せたものの、それは5曲目「Blue Spade」で早くも打ち砕かれます(笑)。
「Blue Spade」はヘヴィなイントロを擁するものの、全体的にはダーク&ダウナーなスタイルで、方向性的には頭3曲の流れにあるもの。つまり、この新作はミディアム/スローナンバーを軸にしながら、ダークでムーディな楽曲で独特の世界観を構築するという、バンドとしてネクストレベルへと到達した1枚なのです。再結成から6、7年待たされたアルバムだけに、きっと多くのファンはエネルギッシュな作品を期待したことでしょう。しかし、バンドは前と同じことをするために復活したわけではなかった。このバンドの求めるものとファンが求めるものとの乖離が、この先どんな評価が下されるのか気になるところです。
個人的な感想を述べておくと、確かに求めていた作とはまったく異なっていたんだけど、このスタイルは嫌いではないし、むしろ好み、いや、ど真ん中なんですよ。ライブどうこうではなく、1枚の作品として非常に聴き応えがあって飽きのこない内容かな。2000年代初頭に台頭したポストハードコア/スクリーモバンドが20年の歳月を経て、どう“大人”になっていくか……つまり、ここから先の人生をどう描いていくのか、そのために必要なのが本作だったんでしょうね。
異色作ではあるんだけど、ロックアルバムとしてはよく作り込まれていて、まったく隙を感じさせない仕上がり。正当な評価を下すのは確かに難しい内容ではありますが、願わくば数年後に「あれは意外な名盤だったね」と言われているような1枚になっていてほしいなと思います。
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