V.A.『ELVIS (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)』(2022)
2022年6月24日にデジタルリリースされた、映画『エルヴィス』のサウンドトラックアルバム。フィジカル(CD)は同年7月29日発売予定。
本作はアルバムリリースと同日に全米で、7月1日に日本で劇場公開された、エルヴィス・プレスリー生涯を描いた伝記映画内で使用されたプレスリーの楽曲、およびカバー曲をまとめたもの。CD版は全22曲がディスク1枚にまとめられていますが、デジタル版は全37曲(36曲バージョンもあるのでご注意を)/トータル約120分におよぶ大ボリュームの内容となっています。
僕も数日前に劇場で同映画を観てきたばかりですが、それまでヒット曲しか知らないし、アルバムを聴くとしてもベスト盤程度でそこまで熱心に知ろうとしなかったプレスリーのことを、その時代背景含めて非常にわかりやすく学ぶことができる良質な内容で、2時間40分という長尺さをまったく感じさせないほど夢中になれました。あと、50〜60年代の音質で無理して学ぼうとせず、主演のオースティン・バトラーが歌う(あるいは、今の音で伴奏/録音された)テイクを通してプレスリーの楽曲に触れることで、軸にあるブルースやカントリー、ゴスペルの要素の魅力に気づくことができたのは非常に大きかったと思います。また、プレスリーとB.B.キングとの関係性や、若き日のリトル・リチャードの美しさ(そりゃあモデル出身のアルトン・メイソンが演じているんだから美しいわけだ)、かのゲイリー・クラークJr.が「That's All Right」の原曲者であるアーサー・“ビッグ・ボーイ”・クルーダップを熱演している点なども見どころで、こちらもいろいろ勉強になりました。
そういった意味でも、このサントラに収録されたリメイク/カバー曲の数々は2022年の耳で楽しむには十分な内容で、映画に触れたあとに聴くことでより深く楽しめるはず。僕自身、サブスクでリピートするだけでは飽き足らず、Amazonでデジタル版(もちろん37曲バージョン)をダウンロード購入してしまうほどでしたから。
アルバムにはドージャ・キャット、エミネム&シーロー・グリーン、スウェイ・リー&ディプロ、ケイシー・マスグレイヴス、MÅNESKIN、スティーヴィ・ニックス&クリス・アイザック、ションカ・デュクレ(劇中でビッグ・ママ・ソーントン役担当)、レス・グリーニー、ヨラ(劇中ではシスター・ロセッタ・サープ役担当)、デンゼル・カリー、レネーシャ・ランドルフ、ジャズミン・サリヴァン、パラヴィなどがプレスリーの楽曲をカバーしたほか、プレスリーのボーカルテイクを用いた形でのコラボナンバー/リミックス/リメイクにはスチュアート・プライス、プナウ、ナルド・ウィック、マーク・ロンソン、TAME IMPALA、ジャック・ホワイトといった錚々たる面々も名を連ねており、モダンなR&B/ソウル方面だけでなく現代的なロック/ダンスミュージックへの拡散含めて、プレスリーが与えた影響の強さを再認識できる内容と言えるのではないでしょうか。
もちろんプレスリー本家の諸作品に手を出すのは当たり前の話なのかもしれませんが、1971年生まれの僕が聴いても初期の音源は戦前ブルースやチャック・ベリーなど初期のロックンロールに触れるのと同じくらい、気軽に聴けるという感覚が薄くて。曲によってはストーンズの初期作品もつらいですからね。そういった意味では、本作に収録されたプレスリー歌唱曲は一部リミックスやバックトラックをリテイクするなどしているため、現代的な感覚で原曲の良さを味わえる。かつ、カバーやコラボテイクからは曲の良さやその根底にあるルーツなども再認識することができる。そういった意味では、「プレスリー入門」ではなく「プレスリー入門への副読本」と言ったほうが正しいのかもしれません。
ここで地盤を作ってから改めてプレスリーのオリジナル音源に触れると、また以前とは違った印象を受けるんじゃないかな……僕自身はまだそこまで踏み込んではいませんが、いずれはプレスリーの諸作品もしっかりおさらいしてみたいと思いました。そう感じさせてくれただけでも、映画『エルヴィス』とこのサントラが果たした役割は非常に大きかったんじゃないでしょうか。
まあとにかく。劇中でオースティン・バトラーが演じる若き日のプレスリーが本当に美しいので、晩年との差含めぜひ劇場で(できれば一番デカいスクリーン&音響施設がしっかりした劇場で)観てもらいたいです。
▼V.A.『ELVIS (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3)