VV(VILLE VALO)『NEON NOIR』(2023)
2023年1月13日にリリースされたVVの1stアルバム。日本盤未発売。
VVとはフィンランドのゴシックメタルバンドHIMのフロントマン、ヴィレ・ヴァロのソロプロジェクト。ヴィレは2017年末にバンドを解散させると、2019年には母国語で歌われたプロジェクトアルバム『VILLE VALO &AGENTS』を発表。しかし、この作品での音楽性はHIMとはかけ離れたトラディショナルなものであったことから、リスナーを困惑させます。
しかし、ヴィレはこのアルバムを経て、本格的なソロプロジェクト“VV”へと移行し、2020年3月20日に1st EP『GOTHICA FENNICA VOL.1』を発表。ところが、新型コロナウイルスの猛威が世界中を襲い、前年からスタートさせたVVとしてのレコーディングも一時中断せざるを得ませんでした。その後も、HIM時代からのパートナーであるティム・パーマー(TEARS FOR FEARS、U2、オジー・オズボーンなど)と断続的に制作を進め、2022年後半に本作を完成させます。
クレジットによると、すべての楽曲の作詞・作曲、アレンジ、プロデュースやエンジニアリング、そして歌や演奏をヴィレ自身で行ったとのことで、そういった意味でもHIMとの差別化ができることでしょう。実際、本作はHIM後期の作風を踏襲する楽曲群はメタリックな質感を多少含むものの、よりパーソナルな空気感を漂わせたゴシックサウンドを中心に展開されているのですから。また、曲によってはシューゲイザーやドリームポップ的な側面も見つけられ、HIMの延長線上にありながらもさらに進化していることも伝わります。
ヴィレのセクシーなバリトンボイスは本作でも健在ですが、若干肩の力が抜けた感が伝わってきます。もちろんそれは楽曲からの影響が強いと思いますが、冒頭で聴ける「Echolocate Your Love」はもちろん、「Loveletting」や「Salute The Sanguine」などHIM時代を彷彿とさせるハードロック調サウンドでも以前以上にリラックしした歌声を楽しむことができ、新プロジェクトだから、HIM解散後最初の本格的なアルバムだからといった力みはまったく感じられません。むしろこれくらいがヴィレらしくて丁度いいんじゃないか、とさえ思えるほどです。
全12曲/約56分と比較的長尺な作品集ながらも、基本的には3〜4分台の楽曲が中心。しかし、終盤に向かって「Saturnine Saturnalia」(6分半超)、「Vertigo Eyes」(7分40分超)といった楽曲も増えていくのですが、この長尺ナンバーが非常に良くて。コンパクトな歌モノももちろん最高なのですが、特にダークな中にもキラキラ感が伝わるドリームポップ的ラストナンバー「Vertigo Eyes」がインストパート含めて完璧な仕上がり。個人的には後半の「Heartful Of Ghost」からラストまでの流れがツボすぎます。
HIMってバンドは僕個人としてはそこまでどっぷりハマる存在ではなかったのですが、よりシンプルなゴシックロックへと接近し、かつシューゲイズやドリームポップ的な色合いを加えた本作はど真ん中と言えるほど“身近な存在”でした。この先もずっと愛していけそうな1枚です。
▼VV『NEON NOIR』
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