AHAB『THE CORAL TOMBS』(2023)
2023年1月13日にリリースされたAHABの5thアルバム。日本盤未発売。
AHABはドイツ出身の4人組ドゥームメタル/プログメタルバンド。結成は2004年とその歴史はすでに長いものの、メンバーチェンジは2008年にベーシストが交代したのみで、15年にもわたり不動の4人で活動を続けています。今作は2015年発売の4thアルバム『THE BOATS OF THE "GLEN CARRING"』以来、約7年半ぶりの新作。間にライブアルバム『LIVE PREY』(2020年)を挟んでいるものの、だいぶ間が空きましたね。にもかかわらず、アメリカではBillboardチャートでTop New Artist Albumsで9位、Current Hard Music Albumsで14位、Current Digital Albumsで34位となかなかの好成績を残しています。
彼らのサウンドはドゥームメタルの中でも“フューネラル・ドゥームメタル”に分類されるそうで、「非常に遅いテンポで演奏され、空虚感と絶望感を呼び起こすことに重点を置いており、時折キーボードなどを用いて暗いアンビエント要素を演出する」んだとか。実際、本作に収録された7曲すべてがこういったテイストで、スローなうえにプログロック的テイストが添えられているものだから1曲が異常に長い。もっとも短いM-2「Colossus Of The Liquid Graves」でさえ6分半で、それ以外は基本8分以上。アルバム後半の4曲はすべて10分超の大作ばかりです。そりゃあ7曲で67分という長尺作品になるわな。
本作は“SFの父”と呼ばれたフランスの作家、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』がモチーフではないかと言われています。それは、“珊瑚の墓”を意味するアルバムタイトルや、海底で展開されるSFチックなアートワークからも想像に難しくありません。そのダークなサウンドや世界観は、まるで浮力を失い、深い海底へとただひたすら落ちていく絶望感そのもの。通常なら“地を這うような”と表現するべきドゥーミーなサウンドや楽曲アレンジも、ここでは誰も助けに来ない(来られない)海底でひとり助けを求める悲痛な叫びとリンクし、聴き手としても悲しみや絶望を通り越して笑いすら込み上げてきます。
時折訪れるフォーキーさやクリーントーンボーカルに、ほんのちょっとだけ希望を見出すものの、それもほんの束の間の出来事で、すぐに再びものすごいスピードで海底に引き摺り込まれる。そんな感覚が非常に心地よく、長尺さをまったく意識することなく最後まで楽しめました。こういう作品は無心でヘヴィな音像に身を委ねるに限ります。
海底で絶命した結果、珊瑚で作られた墓へと埋葬される。そんな悲壮感が豪快なヘヴィサウンドと異常にスローテンポなバンド演奏、アグレッシヴなグロウルと牧歌的なクリーンボーカルによって、過剰すぎないドラマチックな演出を見せる本作は、なかなかの力作ではないでしょうか。どうせなら、歌詞で表現されている世界観もしっかり理解して、さらに聴き込んでみたいと思います。
▼AHAB『THE CORAL TOMBS』
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