TALAS『1985』(2022)
2022年9月23日にリリースされたTALASの3rdスタジオアルバム。
デヴィッド・リー・ロスにフックアップされたことで、メタル界隈から外に向けても知名度が高まっていったビリー・シーン。その後、MR. BIGでの成功によってさらにその名前を広めることになりますが、そのビリーの原点がTALASというバンド。本作は名曲「Shy Boy」が収録された2ndアルバム『SINK YOUR TEETH INTO THAT』(1982年)から実に40年ぶりのスタジオアルバムとなります。
バンドは1986年、ビリーのDAVID LEE ROTH BAND入りを機に解散していますが、その後もビリー(B, Vo)、デイヴ・コンスタンティーノ(Vo, G)、ポール・ヴァルガ(Dr, Vo)の初期編成で何度か再結成ライブを行ってきました。しかし、本作の制作メンバーはそのトリオ編成ではなく、初のライブアルバム『LIVE SPEED ON ICE』(1984年)録音時のカルテット編成……ビリー、フィル・ナロ(Vo)、マーク・ミラー(Dr)、ミッチ・ペリー(G)が元になっています。
2017年夏にビリー、フィル、マーク、そしてミッチの代わりにキア・ナジョフスキ(G)を加えた布陣でTALASは再結成ライブを行いましたが、この4人で1985年頃に着手していた楽曲を正式にレコーディングして、第2期編成初のスタジオアルバムを完成させるのです。
当時制作してた楽曲をほぼそのまま、新たに味付けすることなくレコーディングした結果、そこで表現されているスタイルは“あの頃”のTALASそのもの。疾走感の強いハードロックチューンからソウルミュージックからの影響が強いポップロックなど、初期2作のスタジオ作にも通ずる作風はタイトルの『1985』に偽りなしの、40年という長い空白をまったく感じさせない良質なハードロック作品に仕上がっています。
実はボーカルのフィル、2020年に舌癌が発症し、残念ながら制作途中の2021年5月2日にこの世を去っています。しかし、幸いなことに亡くなる前にボーカルトラックはすべて録り終えており、あとはビリーを中心に作品としてまとめるだけにとどまりました。
アルバムには1985年当時の楽曲に加え、すでに『LIVE SPEED ON ICE』にライブバージョンで収録されていた「Inner Mounting」や「Crystal Clear」「Do You Feel Any Beter」もスタジオ再録。加えて、本作のために新たにパワーポップテイストのミディアムチューン「Black & Blue」、フィル逝去後にビリーが録音したインスト「7lHd h」、日本盤のみのボーナストラックとしてニーナ・シモンのバージョンで知られる「Don't Let Me Be Misunderstood」(邦題「悲しき願い」)のカバーも加わり、TALASとしての集大成感が強い内容。レコーディングには先の4人のほか、第2期ギタリストのミッチ・ペリーもゲスト参加していることからも、その色合いがより強く感じられます。
ビリーらしいインタープレイも随所に散りばめられていますが、なんといってもこのバンドらしい“モサい”B級感健在の楽曲群が非常に優れており(どんな表現だよ)、TALASに一度でも触れたことがあるリスナーなら納得の1枚ではないでしょうか。これを機に、ぜひ往年の作品もサブスクで解禁してもらいたいものです。
▼TALAS『1985』
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