THE WINERY DOGS『III』(2023)
2023年2月3日にリリースされたTHE WINERY DOGSの3rdアルバム。
新作音源としては前作『HOT STREAK』(2015年)から7年半ぶり。その間、リッチー・コッツェン(Vo, G)はエイドリアン・スミス(G, Vo/IRON MAIDEN)とのSMITH/KOTZEN自身のソロ活動を、ビリー・シーン(B)はMR. BIGやSONS OF APOLLO、そしてTALASとしてのリリースやライブ、マイク・ポートノイ(Dr)もビリーとのSONS OF APOLLOやTHE NEAL MORSE BAND、FLYING COLORSへの参加、そして復活したLIQUID TENSION EXPERIMENTのレコーディングなど、それぞれ充実した時間を過ごしていました。
もちろん、その間もTHE WINERY DOGSは活動を止めていたわけではありませんでした。2017年にはライブアルバム『DOG YEARS: LIVE IN SANTIAGO & BEYOND 2013-2016』を発表しましたし、2019年には22日間におよぶツアーも実施しています。要は、それぞれがやりたいことをやりたいタイミングに取り組み、3人のスケジュールが合ったところでツアーなりセッションなりを実施していたと。で、まとまったタイミングがコロナ以降に生まれたことで、再び腰を据えてレコーディングの準備に取り掛かった……ということなんでしょう。
デビューから在籍したLoud & Proud Recordsを離れ、新たにThree Dog Musicという自主レーベル(日本では新たにソニー・ミュージックへ移籍)から発表される本作は、基本路線は過去2作と大きく変わっていません。つまり、我々がこのバンドに求める「トリオ編成ならではの緊張感の強いインタープレイの応酬と、ソウルやブルースをルーツにもつアーシーなハードロック」がこれでもかという程に展開されているのです。もちろん、そこには過去2作以上にスキルアップした演奏/アンサンブルと、クオリティに磨きがかかった楽曲群が並んでおり、マンネリ感は皆無。リッチー・コッツェン関連の諸作品を楽しめる方なら、文句なしに気に入る1枚かと思います。
序盤はリード曲「Xanadu」や「Mad World」を筆頭に、このバンドらしいグルーヴ感を前面に押し出した楽曲が並びますが、中盤の折り返しに置かれた「Stars」あたりからその傾向が少しずつ変化しています。6分におよぶこの曲では、楽器隊の非凡な個性が随所に発揮され、最後までヒリヒリしたインタープレイが楽しめます。そこから「The Vengeance」で味付けも少しずつ変わっていき、ダイナミックなビートの「Pharaoh」、高速ブギービートが気持ちいい「Gaslight」、スローテンポのブルースロック「Lorelei」、3人の個性的かつハイレベルの演奏がこれでもかと楽しめる8分近い「The Red Wine」と楽曲のバラエティ豊かさが広がりを見せていくのです。mなもんですから、最後までまったく飽きることなく楽しめるんですよね。
このバンドの過去2作のアルバム、どちらも13曲入りで60分を超えるボリュームとあって、最後まで聴くのに覚悟が必要になるんですよね。じゃなかったら、ダラダラ聴き流して終わってしまうみたいな。だから、そこまで強く印象に残らないことも多くて(繰り返し聴くには時間もそれだけ必要ですし)。でも、今作は全10曲/50分と比較的コンパクト。かつ、楽曲の幅も後半に向けて広がっていくから最後まで緊張感を持って聴くことができる。バンド側のアルバム制作における意識も、ここ数年で少し変化したのかもしれませんが、これは個人的にも喜ぶべき方向転換だと思っています。
▼THE WINERY DOGS『III』
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