INHALER『CUTS & BRUISES』(2023)
2023年2月17日にリリースされたINHALERの2ndアルバム。
イライジャ・ヒューソン(Vo, G)、ジョシュ・ジェンキンソン(G)、ロバート・キーティング(B)、ライアン・マクマホン(Dr)のアイルランド・ダブリン出身4人組バンドによる、1stアルバム『IT WON'T ALWAYS BE LIKE THIS』(2021年)に続く新作アルバム。前作は本国&イギリスでチャート1位を獲得する人気ぶりですが、ここ日本んではアルバムデビュー前の2022年2月に初来日公演が実現(パンデミック直前で無事敢行)し、本来なら2022年夏のサマソニで再来日が実現んする予定でした。が、スケジュールの都合(おそらく本作の制作か)でキャンセルされ、今年8月のサマソニで満を持して再来日が叶うことになります。
デビューアルバムから約1年7ヶ月という短いスパンで新作が届けられたのは、間違いなく“withコロナ”という環境も影響してのことでしょう。日本含め以前のようにワールドツアーを展開できないからこそ、その想像欲赴くままダメ押しで新作を制作し、人気をより確かなものへと固めていく作業は、この時期のバンドにとって非常に大切ですしね。特に、2ndアルバムってデビュー前からのストックを一度切らしたあと、ゼロから作り上げていくからこそバンドの真価が問われますし。
で、そんな重要作なこのアルバムですが、我々の心配を軽く蹴散らかす充実の内容。前作を手がけたアントニー・ゲン(PULPの初期メンバー。ELASTICAのキーボーディストとしてツアー参加経験あり)が引き続きプロデュースを手がけていることもあり、前作からの良いムーブを継承しつつも、よりポジティブな空気に満ちたギターロック/ギターポップがこれでもかと詰め込まれています。
80〜90年代の王道UKギターロックを下地にしつつ、THE 1975などにも通ずるモダンなギターロック/ギターポップのテイストをふんだんに散りばめた楽曲スタイルは、我々のような世代にとって懐かしくもあり、同時に新鮮さも伝わるという非常に良い塩梅の仕上がり。隙間の多いアレンジ/バンドアンサンブル、温かみの強い音作りもクセになるものがあり、終始安心感を持って接することができます。
また、イライジャの歌声や歌唱スタイルは、U2のフロントマンであり彼の実父でもあるボノと重なる部分も多い。若き日のボノほど血気盛んではなく、むしろ90年代以降の肩の力が抜けたボノの歌声にも似ており、そこも心地よさや耳馴染みの良さにつながっているかもしれません。
ギターサウンドの作り込み方も非常に凝ったものがあり、ハートウォーミングな質感の中にも時に鋭角さが見つけられるなど、とにかくバランス感が冴え渡っている。リズム隊の硬すぎない音作りも良好で、オルタナティヴな要素を含みつつもしっかりメインストリームロックを全うしようとする姿勢にも共感が持てます。インパクトという点においては若干物足りなさも感じますが、それ以外はパーフェクト。もしかしたら、これくらいのバランスが2023年という時代においてはベストなのかな。
▼INHALER『CUTS & BRUISES』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)