MICK MARS『THE OTHER SIDE OF MARS』(2024)
2024年2月23日にリリースされたミック・マーズの1stアルバム。日本盤は同年2月28日発売。
ご存知のようにミックはMOTLEY CRUEのギタリストですが、ニッキー・シックス(B)とともに結成以来常にバンドに残っていたものの、2022年10月に強直性脊椎炎の影響によりツアーから引退を発表。しかし、この引退発表についてミック自身は「ツアーから離れるだけ」、バンド側は「バンドから脱退する」という解釈の違いがあり、その後裁判騒ぎとなっています。MOTLEY CRUE側はミックの後釜としてジョン・5(ex. DAVID LEE ROTH、ex. MARILYN MANSON、ex. ROB ZOMBIEなど)を迎えて、昨年秋には久しぶりの来日公演も成功させたばかりです。
これまでもソロアルバムの噂はゼロではなかったし、バンド自体でもEP『QUATERNARY』(1994年)にソロインスト曲「Bittersuite」を発表した経験があります。しかし、こうしてバンドを離れたからこそ実現したソロ作でそんなことにトライするのか。それが実現のものとなろうとした頃から、その内容に自然と期待が高まっていました。
アルバムのプロデューサーには著名なマイケル・ワグナー(ACCEPT、DOKKEN、SKID ROWなど。MOTLEY CRUEの1stアルバム『TOO FAST FOR LOVE』をメジャー再発する際にはリミックスを担当)を迎え、曲作りはWINGERのポール・テイラー(Key, G)、そして2000年代初頭にMARS ELECTRICとしてメジャーデビューし、現在はLYNAMの一員として活動を続けるジェイコブ・バントン(Vo)と中心に進めることに。レコーディングにもこの2名は全面的に参加し、ほかにはレイ・ルージアー(Dr/KORN)、クリス・コーリアー(B)、ブリオン・ガンボア(Vo)といった面々が名を連ねています。
内容的にはモダンメタルと呼ぶに相応しいテイストで、楽曲自体はMOTLEY CRUEで演奏したとしても何ら不思議ではないものばかり。ミックのギターはバンド自体よりもエッジの効いたサウンドで、72歳という年齢をまったく感じさせないほどに攻撃的。そんなギタープレイをレイを中心とするタイト&ヘヴィなリズムが下地を作り、そこにジェイコブのハスキーな中音域ボイスが乗ることで、フレッシュながらも安定感のある強固なアンサンブルを作り上げている。かつ、楽曲自体のクオリティも高いので、全10曲/約39分を最後まで心置きなく楽しむことができるわけです。
プロデューサー名や参加メンバーの名前から古き良きヘアメタルをイメージするかもしれませんが、そういう方には本作はちょっと退屈に映るのかな? 僕自身はセルフオマージュに走ることなく、新たなことにトライしようとするおじいちゃんの心意気に胸を打たれましたし、ミックの暴力的なギターサウンドを思う存分楽しめる『MOTLEY CRUE』(1994年)がもっとも好きなので、今作で試みていることに対して肯定的なんですよ。本家がいつまで経っても新曲にとりかからないし、アルバムなんて出す気配もなさそうなんだから、僕はこのアルバムを大歓迎しますよ。
個人的には全編で気持ち良い歌声を響かせているジェイコブのことを再評価する、いいきっかけをくれた1枚でもあります。MARS ELECTRIC、当時よく聴いていたんですよ。唯一のメジャー作『BEAUTIFUL SOMETHING』(2000年)はストリーミング配信も実施されているので、本作で興味を持った人はぜひチェックしてほしいな。
▼MICK MARS『THE OTHER SIDE OF MARS』
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