MARS ELECTRIC『BEAUTIFUL SOMETHING』(2000)
2000年3月14日にリリースされたMARS ELECTRICの1stアルバム。日本盤は同年5月24日発売。
MARS ELECTRICは1995年に米・アラバマ州バーミンガム出身で結成された4人組バンド。当時のメンバーはジェイコブ・バントン(Vo, G)、クリス・シモンズ(G)、カール・ホッパー(B)、マット・フィン(Dr)の4人で、結成当初はWISHという名前で活動ていたそうです。バンドは1997年にAtlantic Recordsと契約を結ぶものの、作品発表前に契約が破棄されることに。その後、1999年に伝説のA&Rジョン・カロドナーがHR/HM専門レーベルとして新設立したPortrait Records(ソニー傘下。再結成したRATTやGREAT WHITE、CINDERELLAなどが在籍)と改めて契約を結び、同時期にデビューしたTHE UNION UNDERGROUNDとともにプッシュされました。
彼らが結成された1995年のロックシーンはグランジブームが下火になり、それと打って変わるようにニューメタル/グルーヴメタルが勢いを増していったタイミング。デビュー時期もLINKIN PARKやPAPA ROACHなどの新興勢力と重なりますが、MARS ELECTRICはモダンなメタルサウンドに足を突っ込むことなく、グランジを通過しつつもオーソドックスなアメリカンハードロック鳴らしています。
パワフルなギターリフでグイグイ引っ張るよりは全体のアンサンブルを楽しむようなアレンジ、ハスキーで中音域をベースにしたジェイコブの歌声のせいもあってか、PEARL JAMあたりのアーシーなロックバンドと印象が重なる。しかし、それだけでは終わっておらず、随所に80年代のヘアメタルやパワーポップからの影響も感じられる。さすがジョン・カロドナーが惚れ込んだバンドというだけありますね。サウンドメイクこそハードロック的ですが、世が世ならSTONE TEMPLE PILOTSあたりと並べて語られてもおかしくなかったのかなという気がしないでもありません。
オープニングを飾る「Someday」を筆頭に楽曲のクオリティが高く、まったくB級感がない。これ、リリースが10年、いや5年早かったら、もっと日本でも評価されたんじゃないでしょうか。一時期のHAREM SCAREMのようでもあり、もっといえば3rdアルバム『3』(1995年)あたりのFIREHOUSEともイメージが重なるし。もっと言えば、同じグランジ通過組のNICKELBACKや3 DOORS DOWNあたりとの共通点もたくさん見つけられる。そういう普遍性の強いサウンド/楽曲が中心な本作、実は今のような時代こそ再注目されるタイミングなんじゃないかとも思うわけで。せっかくジェイコブがミック・マーズ(G/ex. MOTLEY CRUE)のソロアルバムに参加したんだから、ここでこのアルバムにも再び日の目が当たってほしいと思っているのは僕だけでしょうか。
ただ、その音像的に派手さは皆無だし山場となるようなキメ曲もない。全体的に平均点よりちょっと上くらいのクオリティなので、さらっと聴き流してしまう可能性もゼロではないことも付け加えておきます。聴く人が聴けばしっかり届く、中毒性の高い1枚だと思います。
なお、MARS ELECTRICは本作リリース後にSTONE TEMPLE PILOTSやMOTLEY CRUE(ここでミック・マーズと対面しているんですね)などのツアーに帯同するものの、リリースから1年経たずして解散。その後、ジェイコブはLYNAMというバンドを結成して、現在もそちらで活動を続けています。また、解散前に制作していた2ndアルバム用の音源が2003年にインディーズレーベルから『FAME AMONG THE VULGAR』と題して発表されているようです。こちらは配信されていないので未聴ですが、機会があったらチェックしてみたいと思います。
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