カテゴリー「Cheap Trick」の32件の記事

2024年4月30日 (火)

V.A.『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』(2014)

2014年8月19日にリリースされた、カントリー系アーティストによるMÖTLEY CRÜEトリビュートアルバム。日本盤未発売。

かのテイラー・スウィフトを輩出したナッシュビルのカントリー系レーベルBig Machine Recordsが企画した本作。そのテイラーを中心に、当時はカントリーミュージックもロックやハードロックを通過したオルタナティヴなものが増え始めていた時期でもあり、本作はそうした若い世代を中心に、カントリーとクラシックロック/ハードロックのクロスオーバーを目指して制作されたようです。

アルバムにはRASCAL FLATTS、FLORIDA GEORGIA LINE、リアン・ライムス、ジャスティン・ムーア、BIG & RICH、クレア・ボウエン&サム・パラディオ(2人とも俳優で、ドラマ『ナッシュビル カントリーミュージックの聖地』出演)、ELI YOUNG BAND、ローレン・ジェンキンス、THE CADILLAC THREE、THE MAVERICKS、ブラントリー・ギルバート、グレッチェン・ウィルソン、ダリアス・ラッカー(HOOTIE & THE BLOWFISHのフロントマン)と、カントリーに限定せずその周辺で活躍するアーティストが多数集結。また、ポップパンクバンドHEY MONDAYのキャサディー・ポープ(Vo)、ニューメタルバンドSTAINDのアーロン・ルイス(彼はソロではカントリーにチャレンジ)といった変わり種も名を連ねているほか、CHEAP TRICKのロビン・ザンダー(Vo)や、本家からヴィンス・ニールもゲスト参加しています。

アルバムはRASCAL FLATTSによる「Kickstart My Heart」からスタート。「えっ、これカントリー?」って疑問が生じそうサウンドメイクは、モロにハードロック。本家ほどのドギツさこそないものの、ヘアメタルバンドのカバーと言われても通用しそうな仕上がりです。続くFLORIDA GEORGIA LINE「If I Die Tomorrow」もダウンチューニングしたディストーションギターを使用していることから、ハードロック的側面が強く打ち出されている。その一方で、マンドリンのようなアコースティック楽器を取り入れることで、カントリーらしさもしっかり漂わせたアレンジに「なるほど」と納得。この2曲はHR/HMリスナーも入っていきやすいのではないでしょうか。

リアン・ライムス「Smokin' In The Boys Room」は、原曲がもともとカバーということもあって、どうとでも料理しようがありますよね。かなりレイドバックしたアレンジで、ここでようやく本作がカントリーミュージックによるトリビュートだと強く認識し始めます。ジャスティン・ムーア「Home Sweet Home」にはヴィンス・ニールがゲスト参加しており、原曲のダイナミックさを後退させたスモーキー&ソウルフルな仕上がり。キャサディー・ポープ&ロビン・ザンダー「The Animal In Me」はカントリーというよりも、ロック系アーティストによる普通のカバーといった印象かな。

アーロン・ルイス「Afraid」は原曲を一度解体して再構築した、これぞカバーと呼べるような1曲。歌詞のみ一緒といった印象で、言われないと同じ曲だと気づかないのではないでしょうか。BIG & RICH「Same Ol' Situation (S.O.S.)」も同様のテイストで、テンポ感やコード感を変えることで王道カントリー色を強めることに成功しています(ただ、こちらはサビになってようやく「ああ、あの曲か」と気づくのでは)。

クレア・ボウエン&サム・パラディオという俳優さん2人によるカバー「Without You」は、原曲のイメージを残しつつアーシーにカバー。ELI YOUNG BAND「Don't Go Away Mad (Just Go Away)」は原曲が持っていたロッド・スチュアート(というかFACES)色をさらに枯れさせるとこうなるかな、な印象。ローレン・ジェンキンス「Looks That Kill」は原曲の邪悪さ皆無の、レイドバック感満載の良質なカバー。THE CADILLAC THREE「Live Wire」は原曲の印象的なキメフレーズは残しつつもテンポダウンし、スライドギターを取り入れることで滑らかさが強調されています。THE MAVERICKS「Dr. Feelgood」はチカーノミュージック的テイストを強めることで、原曲とは別の意味でのノリのよさが際立つ仕上がりです。

ブラントリー・ギルバート「Girls, Girls, Girls」は原曲に沿ったアレンジ/サウンドメイクで、1オクターブ下で歌うことで“らしさ”を表現。グレッチェン・ウィルソン「Wild Side」は“もしもZZ TOPがMÖTLEY CRÜEをカバーして、女性ボーカルで表現したら?”というお題で制作されたような、なかなか面白な1曲。ダリアス・ラッカー「Time For Change」は「HOOTIE & THE BLOWFISHにこういう曲、ありそうだよね?」って仕上がりで、全然アリ。

以上、全15曲。普段HR/HMしか聴かないというハードコアな方々には少々厳しいかもしれませんが、1枚のロック/ポップスのコンピとしては比較的楽しめる内容ではないでしょうか。リリース当時、結構な頻度でリピートした記憶がありますし、久しぶりに引っ張り出して聴いてみてもその印象は変わることはありませんでした。MÖTLEY CRÜEファンのためのものよりも、MÖTLEY CRÜEをお題にしたカントリー系コンピとしてフラットに接するほうがより本質を掴めるかもしれません。

本作はリリース当時、Billboard 200(アルバムチャート)で最高5位、同Top Country Albumsで2位を記録。なお、リリースから5年後の2019年3月22日には「Home Sweet Home」のシングルエディットとライブバージョン(ともにジャスティン・ムーアのもの)を追加したExtended Editionも配信されています。

 


▼V.A.『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』
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2022年11月18日 (金)

CHIP Z'NUFF『PERFECTLY IMPERFECT』(2022)

2022年3月18日にリリースされたチップ・ズナフENUFF Z'NUFF)の2ndソロアルバム。

GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラー(Dr)とタッグを組んだEP『ADLER Z'NUFF』収録の5曲をボーナストラックとして追加した全15曲入り1stアルバム『STRANGE TIME』(2015年)から、約2年ぶりの新作。前作がCleopatra Recordsからだったのに対し、今作は本家ENUFF Z'NUFFと同じくFrontiers Musicからのリリースとなり、日本盤もAvalon Lebelから同タイミングに発表されています。

気心知れた仲間たちとスタジオに集まって制作された前作と異なり、今作では多くのパートをチップ自身が担当。ドラムのみリック・ニールセン(G/CHEAP TRICK)の実子であり現在CHEAP TRICKで叩いているダックス・ニールセン、そして元GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラーが大半の楽曲でプレイし、ラストのMOTT THE HOOPLEカバー「Honaloochie Boogie」のみENUFF Z'NUFF現メンバーのダニエル・ヒルが叩いております。また、「Welcome To The Party」ではWHITESNAKEの一員でありJOEL HOEKSTRA'S 13ではレーベルメイトとなるジョエル・ホークストラ(G)がギターをプレイしています。

基本路線は前作『STRANGE TIME』……というか、現在のENUFF Z'NUFFとなんら変化はありません。なので、従来のENUFF Z'NUFFファンおよびチップVo体制移行後の彼らが好きなリスナーなら、問答無用で楽しめる1枚だと思います。それくらい「ソロでやる必要、ある?」って疑問に感じてしまう1枚。

ただ、視点を変えると「曲自体はENUFF Z'NUFFそのものだけど、演奏に関しては地味で突出したものが感じられない」と受け取ることもできる。ドラムは別として、上モノ(ギターなど)で個性を発揮しているのは先のジョエルがゲストプレイヤーとして参加した「Welcome To The Party」くらい。なもんで、優しい曲と優しい演奏(退屈とは言いませんが……)の連続でスルスル聴き進められて、気づいたら終わっている。しかも、特に大きな引っ掛かりもなく。そこだけがマイナスポイントかな。

ただ、そういった緩やかな方向性は今のチップの歌声にフィットしているのも事実。ドニー・ヴィが歌えばトゲの備わった良曲集という趣で楽しめるかもしれませんが、こういうチップらしいテイストもアリっちゃあアリだと思えるようになったのは収穫とも言えるかな。

1986〜7年頃にデモが制作されたENUFF Z'NUFFの未発表曲「Heaven In A Bottle」(当然ドニーとの共作)や、穏やかかつおおらかなメロディが印象的な「I Still Hail You」、ダークさが目立つ「Heroin」、カバーというよりはコピーに近い「Honaloochie Boogie」など特筆すべき楽曲も多く、実はENUFF Z'NUFFの最新作『FINER THAN SIN』(2022年)と対で語られるべき1枚かもしれません。

 


▼CHIP Z'NUFF『PERFECTLY IMPERFECT』
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2022年11月17日 (木)

CHEAP TRICK『NEXT POSITION PLEASE』(1983)

1983年8月15日にリリースされたCHEAP TRICKの7thアルバム。

ロイ・トーマス・ベイカーをプロデューサーに迎えニューウェイヴ寄りの作風へとシフトさせた前作『ONE BY ONE』(1982年)から1年4ヶ月ぶりの新作。今回はかのトッド・ラングレンと、以降も彼らの作品にたびたび関わることになるイアン・テイラーがプロデュースを担当し、2ndアルバム『IN COLOR』(1977年)の時期に立ち返ったかのようなパワーポップ節全開の1枚を完成させます。

オープニングトラック「I Can't Take It」は4thアルバム『DREAM POLICE』(1979年)制作時にはデモが存在したようですが、ここまで完成することなく残されてきた1曲。バンドアンサンブルこそニューウェイヴ通過後の色合いを感じさせますが、この溌剌としたテイストは間違いなく“あの”CHEAP TRICKが帰ってきた!と言いたくなる仕上がりです。

以降も、前作での経験を散りばめつつ初期の青臭いパワーポップに回帰した楽曲を連発。かと思えば、大人になった表現が印象的な「Younger Girl」や「3-D」、初期のテイストをバージョンアップさせたような「Don't make Our Love A Crime」や「You Talk Too Much」など良質なポップチューンが並びます。中にはTHE WHO「My Generation」のイントロを遊びでフィーチャーした「Invaders Of The Heart」のような楽曲も存在し、そのボリュームのわりに1曲1曲の濃さが際立つ仕上がりです。

そんな中、70年代後半に活躍したUKパワーポップバンドTHE MOTORSのカバー「Dancing The Night Away」(原曲のプロデュースはかのジョン・マット・ラング)、トッド・ラングレンが提供した「Heaven's Falling」といった変わり種も収録。どちらもバンドのカラーに則しており、良質なカバーといえるでしょう。

バンドメンバーの多くは本作のことを好きな作品として挙げる機会も多いですが、海外では90年代以降しばらく廃盤状態。2006年にはバンドの希望により一部楽曲を差し替え&追加した全16曲仕様(もともとアナログは12曲、CD/カセットは14曲入り)の“The Authorized Version”として再発されています。サブスクなどで聴ける現行バージョンはこちらとなっているので、旧バージョンが聴きたい方は中古ショップを探してみてはいかがでしょう。

バンドの高評価に相反して、本国では最高61位とゴールドディスク獲得を逃しています。シングルヒットも1曲も生まれておらず、まさにバンド低迷期を代表する1枚と言えるでしょう。が、「I Can't Take It」は今でもライブで頻繁に披露されるので、この曲をきっかけに隠れた良曲揃いの本作にも触れてみることをオススメします。

 


▼CHEAP TRICK『NEXT POSITION PLEASE』
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2022年11月16日 (水)

CHEAP TRICK『ONE ON ONE』(1982)

1982年4月30日にリリースされたCHEAP TRICKの6thアルバム。

プロデューサーにジョージ・マーティン、レコーディングエンジニアにはジェフ・エメリックというビートルズでお馴染みの布陣を迎えて制作された前作『ALL SHOOK UP』(1980年)から1年半ぶりの新作。アルバム完成後にオリジナルメンバーのトム・ピーターソン(B)が脱退してしまい、ピート・コミタを新メンバーに迎えツアーを続けるものの、彼も1年少々でバンドを離れてしまいます。

その後、トムが復帰するまでバンドをサポートすることになるジョン・ブラントが正式加入。QUEENの初期作やJOURNEYTHE CARSなどで知られるロイ・トーマス・ベイカーをプロデューサーに迎え完成させたのが本作です。

自身の影響やファン心がそのまま作品につながった『ALL SHOOK UP』が大きな成功を収めることができなかった事実に対して、続く今作では時代の流れを捉えてニューウェイヴ的な側面も積極的に取り入れられています(それがTHE CARSでヒットを飛ばしていたロイを迎えた理由のひとつでしょう)。

基本的な楽曲作りは名作『DREAM POLICE』(1979年)や『ALL SHOOK UP』の流れを汲むものですが、味付けや質感はニューウェイヴ直下にあるもの。オープニングトラック「I Want You」や「Oo La La La」「Saturday At Midnight」「I Want Be Man」あたりは完全にその延長線上の楽曲と言えるでしょう。

その一方で、ポップでキャッチーなミディアムバラード「If You Want My Love」、ハードロックとグラムロックをミックスしたような「Lookin' Out For Number One」、シングルカットもされた「She's Tight」など従来の彼らのイメージを踏襲した楽曲も存在。とはいえ、「She's Tight」あたりはちょっとした味付けにニューウェイヴ風味も加わっており、時代を感じさせます。

ハードロックやパワーポップ直径のストレートなロックサウンドを前面に打ち出した初期3作を好むリスナーからは、この変化は真正面から受け止めることができなかったかもしれません。ただ、結果論としてはこの音楽的冒険や日和見主義もCHEAP TRICKというバンドの歴史上では切っても切り離せないものであり、このへんの作品が後続たちに与えた影響も少なくないと思うんです。

彼らのカタログの中では、そこまで上位にくるような1枚ではないかもしれませんが、前作『ALL SHOOK UP』同様に聴けば聴くほどに深みが感じられる隠れた良作ではないでよすか。意外と今の自分のモードにも合っていて、ここ最近はかなりの頻度でリピートしています。

 


▼CHEAP TRICK『ONE ON ONE』
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2022年5月23日 (月)

V.A.『TOP GUN: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』(1986)

1986年5月13日にリリースされた、映画『トップガン』のオリジナル・サウンドトラックアルバム。

本作はアメリカで1986年5月16日、日本では同年12月6日に公開された同名映画の主題歌や劇中挿入歌を集めた作品集。映画『フットルース』での大ヒットに引き続き起用されたケニー・ロギンス、再ブレイク前のCHEAP TRICK、久しくアメリカでのヒットを失っていたBERLIN、グロリア・エステファン率いるMIAMI SOUND MACHINE、『フットルース』でのマイク・レノ(Vo)に続いてバンドでの参加となったLOVERBOYビリー・アイドルとのコラボレーションで知名度を上げていたスティーヴ・スティーヴンスなどバラエティに富んだ面々が参加しています。

本作からはケニー・ロギンス「Danger Zone」(全米2位)および「Playing With The Boys」(同60位)、BERLIN「Take My Breath Away」(同1位)、LOVERBOY「Heaven In Your Eyes」(同12位)といったヒットシングルも多数誕生(CHEAP TRICK「Mighty Wings」もシングルカットされたものの、チャートインせず)。これらのシングルヒットや映画のバカ売れを受け、アルバム自体も全米1位/全英4位を記録。今日までにアメリカのみで900万枚を売り上げるメガヒット作となっています。

大半の楽曲を職業ライター(ジョルジオ・モロダーやハロルド・フォルターメイヤーなど)が手がけたことで、楽曲自体からは各アーティストの“色”はほぼ伝わりません。そこはもう、映画のさまざまな場面を盛り上げるために用意された楽曲ですから、最終的にそれを誰が歌うかってだけですよね(これが原因で、参加を断ったアーティストも多いとのこと)。ヒット曲コンピの側面もある程度ありながらも、あくまで映画ありきの1枚。時代的にもMTVを意識した、映像ありきのコンピレーションアルバムと言えるのではないでしょうか。

実際、本作からシングルカットされた楽曲のMVにはすべて映画の名シーンが効果的に使われており、もはや映画がアルバムを売るための壮大なロングMVなんじゃないかと錯覚するほど。時代ですね。

映画産業的にも音楽産業的にもイケイケだった80年代半ば、本作の大成功は良くも悪くも、その後に続く“メガヒット/豪華アーティスト参加サントラ”の雛形になったことは間違いありません(もちろん、それ以前の『フットルース』サントラのヒットがあってこそですが)。

今聴くと、いろんな意味で時代を感じさせる内容ですが、名実ともにここから唯一ブレイクしたスティーヴ・スティーヴンスにとっては、いろいろ忘れられない1枚なのではないでしょうか。これがなかったら、翌年のマイケル・ジャクソン『BAD』(1987年)参加もなかったでしょうから。

なお、本作は1999年、2006年にそれぞれスペシャルエディション、デラックスエディションとして再発。映画で使用されながらもサントラ未収録だったオーティス・レディング「(Sittin' On) The Dock Of The Bay」、THE RIGHTEOUS BROTHERS「You've Lost That Lovin' Feelin'」といった印象的な楽曲が追加された“完全版”となっており、サブスクではこちらのバージョンを聴くことができるようです。なお、2006年版にはさらにREO SPEEDWAGON「Can't Fight This Feeling」、MR. MISTER「Broken Wings」、EUROPE「The Final Countdown」、STARSHIP「Nothing's Gonna Stop Us Now」、ジェニファー・ラッシュ「The Power Of Love」と映画には一切関係ないものの、同時期にヒットした楽曲5曲が追加されています。

いよいよ映画『トップガン マーヴェリック』が公開間近。今度のサントラは本作のような形ではなく、レディー・ガガやハンス・ジマー、ハロルド・フォルターメイヤーによる楽曲が中心のようですが、懐かしのケニー・ロギンス「Danger Zone」なども再収録されるようなので、若干は「あの頃」を追体験できるかもしれませんね。

 


▼V.A.『TOP GUN: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』
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2021年9月10日 (金)

CHEAP TRICK『THE LATEST』(2009)

2009年6月23日にリリースされたCHEAP TRICKの16thアルバム。日本盤は同年7月22日発売。

前作『ROCKFORD』(2006年)から3年ぶりの新作。2000年代のCHEAP TRICKは『SPECIAL ONE』(2003年)が前作から6年ぶりの新作だったものの、以降は3年間隔で新作を届けてくれ、年齢のわりにハイペースで創作活動を続けているバンドでした。

今作から制作陣に、2021年時点での最新作『IN ANOTHER WORLD』まで関係が続くジュリアン・レイモンドが初参加。キーボードには元JELLYFISHのロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.が参加したほか、アディショナル・ミュージシャンのクレジットに同じく元JELLYFISHのジェイソン・フォークナーや、トッド・ユース、LINUS OF HOLLYWOODといったパワーポップ界隈の名前を多数見つけることができます。

だからということはないでしょうけど、今作はパワフルなロックチューン全開だった前作と比較すると幾分落ち着いた印象を受けます。良い感じに“枯れた”大人のパワーポップ(オルタナカントリー寄り)に、職人受けしそうな高品質なポップソングの数々は、30年を超えるキャリアに相応しい仕上がりで、CHEAP TRICKに憧れてミュージシャンになったパワーポップ界隈の人たちにとっては理想的な1枚ではないでしょうか。

友人の死からインスパイアされたという、讃美歌のような「Sleep Forever」から厳かに始まったかと思えば、SLADEのカバー「When The Light Are Out」で弾けんばかりのパワーポップを響かせる。かと思えば「Miss Tomorrow」「Sick Man Of Europe」で王道のCHEAP TRICK節を響かせ、「These Days」「Miracle」といったバラードでリスナーのハートを鷲掴みにする。アルバム後半もストレートなロックチューン「Everyday You Make Me Crazy」「California Girl」「Alive」でノリにノセたかと思えば、ミディアムバラード「Everybody Knows」「Time Of Our Lives」「Closer, The Ballad Of Burt And Linda」でしっかり浸らせ、最後は極上のピアノバラード「Smile」で締め括り。

全体的にミディアム/スローナンバーの目立つ作風ですが、いっときの売れ線バラードやパワーバラード路線とは異なり、しっかりルーツの見えるミディアムナンバー中心なので、そこは嫌悪感を覚えることはないかと。先にも書いたように、本作は30年選手による“大人のパワーポップ”がテーマですからね(本人たちにその覚えがなくても、我々はそう受け取っています)。そんなアルバムに『THE LATEST』(=最新作)という、身も蓋もないタイトルを付けるセンスも嫌いになれません。

なお、本作は結果的にバン・E・カルロス(Dr)が参加した最後のスタジオアルバムになってしまいました。

 


▼CHEAP TRICK『THE LATEST』
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2021年9月 9日 (木)

CHEAP TRICK『HEAVEN TONIGHT』(1978)

1978年4月24日にリリースされたCHEAP TRICKの3rdアルバム。

デビュー作『CHEAP TRICK』(1977年)が1977年2月発売、前作『IN COLOR』(1977年)が同年9月発売と約7ヶ月間隔でのリリースペースが続いていた初期のCHEAP TRICK。適度なパンキッシュさとガレージロック度の強い1作目、極端なポップネスへと振り切った2作目を経て、続くこの3作目では過去2作の中間に位置する、バランス感に優れた良作に仕上げられています。

ポップ度に関して言えば前作にも匹敵する甘さが備わっているものの、それを構築するバンドサウンドがより“硬く”なったことで、ロックバンドとしてのタフさが急増。結果、「Surrender」や「On Top Of The World」のようなポップな楽曲もロックチューンとして通用する、これこそパワーポップと言わんばかりの仕上がり。かと思えば「High Roller」や「Oh Claire」のように1作目に含まれていそうなヘヴィ路線の楽曲、「Heaven Tonight」のようなヘヴィバラード、「Stiff Competition」を筆頭とするハードドライヴィンなロックチューン、「How Are You?」みたいに前作の流れを継承するポップソングも用意されており、ソングライターとしての幅もより広がりを見せています。

この短期間でソングライターとしてはもちろんのこと、ロックバンドとしての表現力も一気に成長を遂げ、早くも初期の集大成と呼べるアルバムを完成させたCHEAP TRICK。海外でのリリースタイミングには、ここ日本で初の日本武道館公演も成功させ、その模様を収めたライブアルバム『AT BUDOKAN』(1978年)は初の全米トップ10入り(最高4位)を果たすことになります。

とはいえ、直前にリリースされた今作もその時点では過去最高の全米48位まで上昇し、シングル「Surrender」も全米62位と初のシングルトップ100入りを遂げるのですから、『AT BUDOKAN』での成功はここで約束されていたといっても過言ではありません。

集大成的内容の『HEAVEN TONIGHT』、ライブでの躍動感を伝える『AT BUDOKAN』を経て、CHEAP TRICKは4thアルバム『DREAM POLICE』(1979年)で最初の大きなピークに到達します。リリースの流れに沿って各アルバムを聴いていくと、バンドが波に乗っていく感覚が伝わるはず。特に『IN COLOR』から『HEAVEN TONIGHT』、『HEAVEN TONIGHT』から『DREAM POLICE』への流れはその進化ぶりがより明確に理解できるのではないでしょうか。

 


▼CHEAP TRICK『HEAVEN TONIGHT』
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2021年4月10日 (土)

CHEAP TRICK『IN ANOTHER WORLD』(2021)

2021年4月9日にリリースされたCHEAP TRICKの20thアルバム。現時点で日本盤未発売。

Big Machine(Universal流通)と契約し発表した7年ぶりの新作『BANG, ZOOM, CRAZY... HELLO』(2016年)を筆頭に、2年足らずでアルバム3作を連発した彼ら。単曲での配信はあったものの、アルバムとしては前作に当たるクリスマスアルバム『CHRISTMAS CHRISTMAS』(2017年)から3年半ぶりとなります。

今作から新たにメジャーのBMG(Warer系)と契約しましたが、制作陣はまったく変わらず。15thアルバム『ROCKFORD』(2006年)から携わるジュリアン・レイモンドが、バンドとの共同プロデューサーとして名を連ねています。というわけで、中身的にもここ数作の路線と何ら変わらず、王道のCHEAP TRICK節を轟かせております。

全13曲を収録しておりますが、うち1曲がアルバム収録曲「Another World」の別バージョン「Another World (Reprise)」、さらにジョン・レノンのカバー「Gimme Some Truth」。さらに、アルバムのオープニングを飾る「The Summer Looks Good On You」は2018年に先行配信されていた既発曲なので、純粋な新曲は10曲といったところでしょうか。ですが、そんなことはどうでもいい! だって、どれも最高にご機嫌なロックンロール/パワーポップ/バラードなんですから。

先に触れた「Another World」ですが、オリジナルバージョンはバラードスタイルのミディアムナンバーで、「Another World (Reprise)」と題した別バージョンはハードドライビングなロックアレンジ。元は同じ曲ではあるものの、何気に別モノとして楽しめるのではないでしょうか。

「The Summer Looks Good On You」は言わずもがな、タイトルからして最高な「Boys & Girls & Rock N Roll」や今作からのリードトラック「Light Up The Fire」、「Here's Looking At You」など現役ぶりをアピールするアップチューンも豊富ですし、ビートルズ・ライクな「Quit Waking Me Up」、タイトなミディアムロック「The Party」、ジミー・ホールがハーモニカで参加したブルースロック「Final Days」、音数の少ないメロウなスローナンバー「So It Goes」、どことなくサイケデリックなバラード「I'll See You Again」など、従来の“らしさ”をブラッシュアップした良曲揃い。アルバムラストを飾る「Gimme Some Truth」ではスティーヴ・ジョーンズSEX PISTOLS)のギターを大々的にフィーチャーしており、こちらもおまけとしては十分な1曲と言えるでしょう。

ここ10数年、リリースペースは以前と比べてだいぶ落ちているものの、そのぶん大きくがっかりさせられるアルバムが存在しない彼ら。今作も期待以上の内容でした。この先、あと何枚の新作を聴くことができるかはわかりませんが、できることならこのクオリティを保ったまま“らしい”作品を、1枚でも多く届け続けてくれることを願わずにはいられません。

 


▼CHEAP TRICK『IN ANOTHER WORLD』
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2020年10月 2日 (金)

ACE FREHLEY『ORIGINS VOL.2』(2020)

2020年9月18日にリリースされた、エース・フレーリーのカバーアルバム第2弾。

スタジオ作品としては『SPACEMAN』(2018年)から2年ぶりの新作となるこのアルバムは、2016年発売の『ORIGINS VOL.1』の続編。第1弾にはエースのルーツにあたるロックバンド/アーティストのカバーに加えKISS時代のセルフカバー3曲を含む全12曲が収録されていましたが、今回KISSナンバーはボーナストラックとして切り分けられ、本編11曲ではLED ZEPPELINDEEP PURPLECREAMTHE BEATLESTHE ROLLING STONES、THE KINKS、MOUNTAIN、HUMBLE PIE、ジミ・ヘンドリクス、PAUL REVERE & THE RAIDERS、THE ANIMALSといった(一部、日本人には印象の薄いものが含まれていますが)ロッククラシックと呼ぶにふさわしい名曲たちを取り上げています。

ボーナストラックを含む全12曲中、エースがメインボーカルを務めるのは10曲。前作ではKISS時代の盟友ポール・スタンレーがゲストボーカルとして参加していましたが、今回はリタ・フォードが「Jumpin' Jack Flash」で、ロビン・ザンダー(CHEAP TRICK)が「30 Days In The Hole」でそれぞれ“らしい”歌声を聴かせてくれます。そのほか、前作から引き続きジョン・5(G/ROB ZOMBIE、ex. MARILYN MANSON)が「I'm Down」「Politician」、エースと同じく元KISSのブルース・キューリック(G)が「Manic Depression」、ピーター・フランプトンやSIMON & GARFUNKELとの演奏でも知られるロブ・サビーノ(Organ)が「Space Truckin'」がゲスト参加。本編11曲ではMR. BIGのサポートなどで知られるマット・スター(Dr)がプレイしています。

セレクトされているアーティストの前作との被りを見ると、エース自身がそこまで広く、いろんなジャンルを聴いているわけではないことが伺えますし、視点を変えればクラシックロックと呼ばれる60〜70年代の音楽にそれだけ強く影響を受けたという現れなのでしょう。まあ、エースが今さらパンク以降の音楽をカバーしても説得力がありませんけどね。

おなじみのヘタウマ・ヘロヘロボーカルはここでも健在で、激ウマシンガーが歌うことで知られる「Good Time Bad Times」や「Space Truckin'」でもこれまで同様に歌うことで自身の個を強くアピール。もはや伝統芸能の域に達しつつあります。逆に脱力系「I'm Down」は、これはこれでいい味を出しているんじゃないかと。そう、味は深いんですよ。なので、テクよりも感性に訴えかけるシンガーなんだと思います(たぶん)。

リタ・フォードは前作にも参加していたので割愛しますが(するなよ)、注目のロビン・ザンダーは相変わらずの説得力でMR. BIGファンにおなじみの「30 Days In The Hole」を歌唱。ぶっちゃけ、エリック・マーティンよりも(以下割愛)。最近カバーづいているCHEAP TRICKおよびロビン・ザンダーですが、ここまできたら一度カバー集を制作してみるというのはいかがでしょうか。まあそれはそれで普通すぎるか。

個人的に気になった(気に入った)のが、終盤3曲……ジミヘン「Manic Depression」、PAUL REVERE & THE RAIDERS「Kicks」、THE ANIMALS「We Gotta Get Out Of This Place」の流れ。前半〜中盤の大衆的な選曲/仕上がりと比べると、この3曲にはエースの真髄/魂がより濃く表現されている気がしてなりません。この3曲のためだけに本作をゲットすべしと断言したいくらいです。だからこそ、ボーナストラック扱いのKISS「She」セルフカバーは蛇足な気がするのですが(だからボートラなんだろうけどね)。

第1弾ほどのインパクトはないものの、KISSファンやCHEAP TRICKファン、そしてクラシックロック・リスナーには十分に楽しめる内容だと思います。

 


▼ACE FREHLEY『ORIGINS VOL.2』
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2020年9月20日 (日)

CHIP Z'NUFF『STRANGE TIME』(2015)

2015年2月3日にリリースされたチップ・ズナフの1stソロアルバム。日本盤未発売。

ドニー・ヴィ(Vo, G)と並び、初期からENUFF Z'NUFFの主要メンバーとして知られるチップ・ズナフ(B, Vo)。ドニー脱退後は自身がリードボーカルを兼任し活動を継続していますが、ドニーがバンドを再脱退してしばらくバンド活動がままならなかった時期に、こんなソロアルバムを出していたんですね。実はつい最近まで未チェックでした。

本作はTHE KINKSのカバー「All Day And All Of The Night」を含むアルバム本編10曲に、元GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラー(Dr)とタッグを組んだEP『ADLER Z'NUFF』収録の5曲をボーナストラックとして追加した全15曲入り。アルバムとしては約70分とかなり長尺ですが、ひとまずここでは本編10曲とボートラ5曲を分けて考えたいと思います。

まずは、アルバム本編から。気心知れた仲間とともに、自身のスタジオなどで制作された本作は、基本的にENUFF Z'NUFFの延長線上にある作風。穏やかでダークでサイケデリック……という点においては初期や90年代半ばのENUFF Z'NUFFを髣髴とさせ、大半の楽曲がチップひとりで書かれたものだという事実に驚かされます。というのも、どの曲もチップ&ドニー名義で制作されたENUFF Z'NUFFのアルバムに収録されていても不思議じゃないくらい、完成度が高いのです。

オープニングを飾るダウナーな「Sunshine」からして、王道のENUFF Z'NUFF流サイケナンバーだし、中にはNINE INCH NAILSのトレント・レズナーと共作&リック・ルービンがプロデュースしたヘヴィな「Strange Time」という異色作まで存在する。で、その異色作から続く「Dragonfly」のダウナー感もたまらない。なにこれ、なんでENUFF Z'NUFFで出してくれなかったの? っていうか、ドニーばかりが天才だと思い込んでいて、バンドを守り続けるチップのことを過小評価していて本当にゴメン! そう思わずにはいられない内容でした。

90年代後期の作品に収録されていても不思議じゃないシャッフルビートのポップナンバー「Still Love Your Face」、ファンクの影響が強いダンサブルなオルタナチューン「F..Mary..Kill」、ダウナー感強めのパワーポップ「Strike Three」や「Hello To The Drugs」など、派手めの演奏でアレンジされたら確実にENUFF Z'NUFFナンバーとして通用する良曲ばかり。しかし、チップのボーカルの地味さが悪い方向に手伝って、この良曲たちをうまく生かせていない。そこだけが本当に勿体ない! ドニーのアクが強いボーカルで表現されていたら、どれだけ名作になっていたことか……。

ちなみに、「All Day And All Of The Night」にはゲストとしてCHEAP TRICKのロビン・ザンダー、そして元ガンズのスティーヴン・アドラーがゲスト参加。これもロビンがリードをとればよかったのに……と思わずにはいられません。それくらい、コーラス&ハモリでのロビンの声が特徴的すぎるんですよ。はあ。

一方、スティーヴン・アドラーと完全共作で挑んだEP5曲は、元ガンズのアドラーらしい派手さが加わった、非常にハードロック色の強い作風。オープニングを飾る「My Town」なんて完全にソレですよね。そこに、チップらしいパワーポップ感(美メロハーモニーやアナログシンセを使ったフレージングなど)が加わることで、デビュー時のENUFF Z'NUFFをちょっとだけ思い出させてくれます。全体の音作りもファットでキラキラ感が強く、アルバム本編のダーク&シンプルと対極にある構成です(メロディライン自体は同じくらい良質なのに。不思議です)。なお、「Tonight We Met (And Now We're Going To Fuck)」にはアドラーの盟友スラッシュがゲスト参加。いかにもなギタープレイを聴かせてくれます。

アルバム本編然りEP然り、楽曲を軸にした作品評価は高くなりますが、ボーカルを軸にした場合はどうしてもそこよりも劣るものになってしまう。頭では「もうドニーとは決別したんだ……」と理解していても、体がドニーの声を求めてしまう。チップって、つくづく不幸な人だなと思います。と同時に、ドニーをいつまでも求め続けてしまう僕らもね(苦笑)。

 


▼CHIP Z'NUFF『STRANGE TIME』
(amazon:海外盤CD / MP3

 

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