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カテゴリー「Cheap Trick」の27件の記事

2021年9月10日 (金)

CHEAP TRICK『THE LATEST』(2009)

2009年6月23日にリリースされたCHEAP TRICKの16thアルバム。日本盤は同年7月22日発売。

前作『ROCKFORD』(2006年)から3年ぶりの新作。2000年代のCHEAP TRICKは『SPECIAL ONE』(2003年)が前作から6年ぶりの新作だったものの、以降は3年間隔で新作を届けてくれ、年齢のわりにハイペースで創作活動を続けているバンドでした。

今作から制作陣に、2021年時点での最新作『IN ANOTHER WORLD』まで関係が続くジュリアン・レイモンドが初参加。キーボードには元JELLYFISHのロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.が参加したほか、アディショナル・ミュージシャンのクレジットに同じく元JELLYFISHのジェイソン・フォークナーや、トッド・ユース、LINUS OF HOLLYWOODといったパワーポップ界隈の名前を多数見つけることができます。

だからということはないでしょうけど、今作はパワフルなロックチューン全開だった前作と比較すると幾分落ち着いた印象を受けます。良い感じに“枯れた”大人のパワーポップ(オルタナカントリー寄り)に、職人受けしそうな高品質なポップソングの数々は、30年を超えるキャリアに相応しい仕上がりで、CHEAP TRICKに憧れてミュージシャンになったパワーポップ界隈の人たちにとっては理想的な1枚ではないでしょうか。

友人の死からインスパイアされたという、讃美歌のような「Sleep Forever」から厳かに始まったかと思えば、SLADEのカバー「When The Light Are Out」で弾けんばかりのパワーポップを響かせる。かと思えば「Miss Tomorrow」「Sick Man Of Europe」で王道のCHEAP TRICK節を響かせ、「These Days」「Miracle」といったバラードでリスナーのハートを鷲掴みにする。アルバム後半もストレートなロックチューン「Everyday You Make Me Crazy」「California Girl」「Alive」でノリにノセたかと思えば、ミディアムバラード「Everybody Knows」「Time Of Our Lives」「Closer, The Ballad Of Burt And Linda」でしっかり浸らせ、最後は極上のピアノバラード「Smile」で締め括り。

全体的にミディアム/スローナンバーの目立つ作風ですが、いっときの売れ線バラードやパワーバラード路線とは異なり、しっかりルーツの見えるミディアムナンバー中心なので、そこは嫌悪感を覚えることはないかと。先にも書いたように、本作は30年選手による“大人のパワーポップ”がテーマですからね(本人たちにその覚えがなくても、我々はそう受け取っています)。そんなアルバムに『THE LATEST』(=最新作)という、身も蓋もないタイトルを付けるセンスも嫌いになれません。

なお、本作は結果的にバン・E・カルロス(Dr)が参加した最後のスタジオアルバムになってしまいました。

 


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2021年9月 9日 (木)

CHEAP TRICK『HEAVEN TONIGHT』(1978)

1978年4月24日にリリースされたCHEAP TRICKの3rdアルバム。

デビュー作『CHEAP TRICK』(1977年)が1977年2月発売、前作『IN COLOR』(1977年)が同年9月発売と約7ヶ月間隔でのリリースペースが続いていた初期のCHEAP TRICK。適度なパンキッシュさとガレージロック度の強い1作目、極端なポップネスへと振り切った2作目を経て、続くこの3作目では過去2作の中間に位置する、バランス感に優れた良作に仕上げられています。

ポップ度に関して言えば前作にも匹敵する甘さが備わっているものの、それを構築するバンドサウンドがより“硬く”なったことで、ロックバンドとしてのタフさが急増。結果、「Surrender」や「On Top Of The World」のようなポップな楽曲もロックチューンとして通用する、これこそパワーポップと言わんばかりの仕上がり。かと思えば「High Roller」や「Oh Claire」のように1作目に含まれていそうなヘヴィ路線の楽曲、「Heaven Tonight」のようなヘヴィバラード、「Stiff Competition」を筆頭とするハードドライヴィンなロックチューン、「How Are You?」みたいに前作の流れを継承するポップソングも用意されており、ソングライターとしての幅もより広がりを見せています。

この短期間でソングライターとしてはもちろんのこと、ロックバンドとしての表現力も一気に成長を遂げ、早くも初期の集大成と呼べるアルバムを完成させたCHEAP TRICK。海外でのリリースタイミングには、ここ日本で初の日本武道館公演も成功させ、その模様を収めたライブアルバム『AT BUDOKAN』(1978年)は初の全米トップ10入り(最高4位)を果たすことになります。

とはいえ、直前にリリースされた今作もその時点では過去最高の全米48位まで上昇し、シングル「Surrender」も全米62位と初のシングルトップ100入りを遂げるのですから、『AT BUDOKAN』での成功はここで約束されていたといっても過言ではありません。

集大成的内容の『HEAVEN TONIGHT』、ライブでの躍動感を伝える『AT BUDOKAN』を経て、CHEAP TRICKは4thアルバム『DREAM POLICE』(1979年)で最初の大きなピークに到達します。リリースの流れに沿って各アルバムを聴いていくと、バンドが波に乗っていく感覚が伝わるはず。特に『IN COLOR』から『HEAVEN TONIGHT』、『HEAVEN TONIGHT』から『DREAM POLICE』への流れはその進化ぶりがより明確に理解できるのではないでしょうか。

 


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2021年4月10日 (土)

CHEAP TRICK『IN ANOTHER WORLD』(2021)

2021年4月9日にリリースされたCHEAP TRICKの20thアルバム。現時点で日本盤未発売。

Big Machine(Universal流通)と契約し発表した7年ぶりの新作『BANG, ZOOM, CRAZY... HELLO』(2016年)を筆頭に、2年足らずでアルバム3作を連発した彼ら。単曲での配信はあったものの、アルバムとしては前作に当たるクリスマスアルバム『CHRISTMAS CHRISTMAS』(2017年)から3年半ぶりとなります。

今作から新たにメジャーのBMG(Warer系)と契約しましたが、制作陣はまったく変わらず。15thアルバム『ROCKFORD』(2006年)から携わるジュリアン・レイモンドが、バンドとの共同プロデューサーとして名を連ねています。というわけで、中身的にもここ数作の路線と何ら変わらず、王道のCHEAP TRICK節を轟かせております。

全13曲を収録しておりますが、うち1曲がアルバム収録曲「Another World」の別バージョン「Another World (Reprise)」、さらにジョン・レノンのカバー「Gimme Some Truth」。さらに、アルバムのオープニングを飾る「The Summer Looks Good On You」は2018年に先行配信されていた既発曲なので、純粋な新曲は10曲といったところでしょうか。ですが、そんなことはどうでもいい! だって、どれも最高にご機嫌なロックンロール/パワーポップ/バラードなんですから。

先に触れた「Another World」ですが、オリジナルバージョンはバラードスタイルのミディアムナンバーで、「Another World (Reprise)」と題した別バージョンはハードドライビングなロックアレンジ。元は同じ曲ではあるものの、何気に別モノとして楽しめるのではないでしょうか。

「The Summer Looks Good On You」は言わずもがな、タイトルからして最高な「Boys & Girls & Rock N Roll」や今作からのリードトラック「Light Up The Fire」、「Here's Looking At You」など現役ぶりをアピールするアップチューンも豊富ですし、ビートルズ・ライクな「Quit Waking Me Up」、タイトなミディアムロック「The Party」、ジミー・ホールがハーモニカで参加したブルースロック「Final Days」、音数の少ないメロウなスローナンバー「So It Goes」、どことなくサイケデリックなバラード「I'll See You Again」など、従来の“らしさ”をブラッシュアップした良曲揃い。アルバムラストを飾る「Gimme Some Truth」ではスティーヴ・ジョーンズ(SEX PISTOLS)のギターを大々的にフィーチャーしており、こちらもおまけとしては十分な1曲と言えるでしょう。

ここ10数年、リリースペースは以前と比べてだいぶ落ちているものの、そのぶん大きくがっかりさせられるアルバムが存在しない彼ら。今作も期待以上の内容でした。この先、あと何枚の新作を聴くことができるかはわかりませんが、できることならこのクオリティを保ったまま“らしい”作品を、1枚でも多く届け続けてくれることを願わずにはいられません。

 


▼CHEAP TRICK『IN ANOTHER WORLD』
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2020年10月 2日 (金)

ACE FREHLEY『ORIGINS VOL.2』(2020)

2020年9月18日にリリースされた、エース・フレーリーのカバーアルバム第2弾。

スタジオ作品としては『SPACEMAN』(2018年)から2年ぶりの新作となるこのアルバムは、2016年発売の『ORIGINS VOL.1』の続編。第1弾にはエースのルーツにあたるロックバンド/アーティストのカバーに加えKISS時代のセルフカバー3曲を含む全12曲が収録されていましたが、今回KISSナンバーはボーナストラックとして切り分けられ、本編11曲ではLED ZEPPELINDEEP PURPLECREAMTHE BEATLESTHE ROLLING STONES、THE KINKS、MOUNTAIN、HUMBLE PIE、ジミ・ヘンドリクス、PAUL REVERE & THE RAIDERS、THE ANIMALSといった(一部、日本人には印象の薄いものが含まれていますが)ロッククラシックと呼ぶにふさわしい名曲たちを取り上げています。

ボーナストラックを含む全12曲中、エースがメインボーカルを務めるのは10曲。前作ではKISS時代の盟友ポール・スタンレーがゲストボーカルとして参加していましたが、今回はリタ・フォードが「Jumpin' Jack Flash」で、ロビン・ザンダー(CHEAP TRICK)が「30 Days In The Hole」でそれぞれ“らしい”歌声を聴かせてくれます。そのほか、前作から引き続きジョン・5(G/ROB ZOMBIE、ex. MARILYN MANSON)が「I'm Down」「Politician」、エースと同じく元KISSのブルース・キューリック(G)が「Manic Depression」、ピーター・フランプトンやSIMON & GARFUNKELとの演奏でも知られるロブ・サビーノ(Organ)が「Space Truckin'」がゲスト参加。本編11曲ではMR. BIGのサポートなどで知られるマット・スター(Dr)がプレイしています。

セレクトされているアーティストの前作との被りを見ると、エース自身がそこまで広く、いろんなジャンルを聴いているわけではないことが伺えますし、視点を変えればクラシックロックと呼ばれる60〜70年代の音楽にそれだけ強く影響を受けたという現れなのでしょう。まあ、エースが今さらパンク以降の音楽をカバーしても説得力がありませんけどね。

おなじみのヘタウマ・ヘロヘロボーカルはここでも健在で、激ウマシンガーが歌うことで知られる「Good Time Bad Times」や「Space Truckin'」でもこれまで同様に歌うことで自身の個を強くアピール。もはや伝統芸能の域に達しつつあります。逆に脱力系「I'm Down」は、これはこれでいい味を出しているんじゃないかと。そう、味は深いんですよ。なので、テクよりも感性に訴えかけるシンガーなんだと思います(たぶん)。

リタ・フォードは前作にも参加していたので割愛しますが(するなよ)、注目のロビン・ザンダーは相変わらずの説得力でMR. BIGファンにおなじみの「30 Days In The Hole」を歌唱。ぶっちゃけ、エリック・マーティンよりも(以下割愛)。最近カバーづいているCHEAP TRICKおよびロビン・ザンダーですが、ここまできたら一度カバー集を制作してみるというのはいかがでしょうか。まあそれはそれで普通すぎるか。

個人的に気になった(気に入った)のが、終盤3曲……ジミヘン「Manic Depression」、PAUL REVERE & THE RAIDERS「Kicks」、THE ANIMALS「We Gotta Get Out Of This Place」の流れ。前半〜中盤の大衆的な選曲/仕上がりと比べると、この3曲にはエースの真髄/魂がより濃く表現されている気がしてなりません。この3曲のためだけに本作をゲットすべしと断言したいくらいです。だからこそ、ボーナストラック扱いのKISS「She」セルフカバーは蛇足な気がするのですが(だからボートラなんだろうけどね)。

第1弾ほどのインパクトはないものの、KISSファンやCHEAP TRICKファン、そしてクラシックロック・リスナーには十分に楽しめる内容だと思います。

 


▼ACE FREHLEY『ORIGINS VOL.2』
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2020年9月20日 (日)

CHIP Z'NUFF『STRANGE TIME』(2015)

2015年2月3日にリリースされたチップ・ズナフの1stソロアルバム。日本盤未発売。

ドニー・ヴィ(Vo, G)と並び、初期からENUFF Z'NUFFの主要メンバーとして知られるチップ・ズナフ(B, Vo)。ドニー脱退後は自身がリードボーカルを兼任し活動を継続していますが、ドニーがバンドを再脱退してしばらくバンド活動がままならなかった時期に、こんなソロアルバムを出していたんですね。実はつい最近まで未チェックでした。

本作はTHE KINKSのカバー「All Day And All Of The Night」を含むアルバム本編10曲に、元GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラー(Dr)とタッグを組んだEP『ADLER Z'NUFF』収録の5曲をボーナストラックとして追加した全15曲入り。アルバムとしては約70分とかなり長尺ですが、ひとまずここでは本編10曲とボートラ5曲を分けて考えたいと思います。

まずは、アルバム本編から。気心知れた仲間とともに、自身のスタジオなどで制作された本作は、基本的にENUFF Z'NUFFの延長線上にある作風。穏やかでダークでサイケデリック……という点においては初期や90年代半ばのENUFF Z'NUFFを髣髴とさせ、大半の楽曲がチップひとりで書かれたものだという事実に驚かされます。というのも、どの曲もチップ&ドニー名義で制作されたENUFF Z'NUFFのアルバムに収録されていても不思議じゃないくらい、完成度が高いのです。

オープニングを飾るダウナーな「Sunshine」からして、王道のENUFF Z'NUFF流サイケナンバーだし、中にはNINE INCH NAILSのトレント・レズナーと共作&リック・ルービンがプロデュースしたヘヴィな「Strange Time」という異色作まで存在する。で、その異色作から続く「Dragonfly」のダウナー感もたまらない。なにこれ、なんでENUFF Z'NUFFで出してくれなかったの? っていうか、ドニーばかりが天才だと思い込んでいて、バンドを守り続けるチップのことを過小評価していて本当にゴメン! そう思わずにはいられない内容でした。

90年代後期の作品に収録されていても不思議じゃないシャッフルビートのポップナンバー「Still Love Your Face」、ファンクの影響が強いダンサブルなオルタナチューン「F..Mary..Kill」、ダウナー感強めのパワーポップ「Strike Three」や「Hello To The Drugs」など、派手めの演奏でアレンジされたら確実にENUFF Z'NUFFナンバーとして通用する良曲ばかり。しかし、チップのボーカルの地味さが悪い方向に手伝って、この良曲たちをうまく生かせていない。そこだけが本当に勿体ない! ドニーのアクが強いボーカルで表現されていたら、どれだけ名作になっていたことか……。

ちなみに、「All Day And All Of The Night」にはゲストとしてCHEAP TRICKのロビン・ザンダー、そして元ガンズのスティーヴン・アドラーがゲスト参加。これもロビンがリードをとればよかったのに……と思わずにはいられません。それくらい、コーラス&ハモリでのロビンの声が特徴的すぎるんですよ。はあ。

一方、スティーヴン・アドラーと完全共作で挑んだEP5曲は、元ガンズのアドラーらしい派手さが加わった、非常にハードロック色の強い作風。オープニングを飾る「My Town」なんて完全にソレですよね。そこに、チップらしいパワーポップ感(美メロハーモニーやアナログシンセを使ったフレージングなど)が加わることで、デビュー時のENUFF Z'NUFFをちょっとだけ思い出させてくれます。全体の音作りもファットでキラキラ感が強く、アルバム本編のダーク&シンプルと対極にある構成です(メロディライン自体は同じくらい良質なのに。不思議です)。なお、「Tonight We Met (And Now We're Going To Fuck)」にはアドラーの盟友スラッシュがゲスト参加。いかにもなギタープレイを聴かせてくれます。

アルバム本編然りEP然り、楽曲を軸にした作品評価は高くなりますが、ボーカルを軸にした場合はどうしてもそこよりも劣るものになってしまう。頭では「もうドニーとは決別したんだ……」と理解していても、体がドニーの声を求めてしまう。チップって、つくづく不幸な人だなと思います。と同時に、ドニーをいつまでも求め続けてしまう僕らもね(苦笑)。

 


▼CHIP Z'NUFF『STRANGE TIME』
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2020年9月19日 (土)

CHEAP TRICK『WOKE UP WITH A MONSTER』(1994)

1994年3月末にリリースされたCHEAP TRICKの12thアルバム。日本盤は同年4月上旬、『蒼い衝動』の邦題を付けて発表されています。

前々作『LAP OF LUXURY』(1988年)でセールス的に大復活を果たすものの、続く前作『BUSTED』(1990年)で『LAP OF LUXURY』ほどの成績を残すことができなかったCHEAP TRICK。折りからのHR/HMブームにも陰りが見え始めたことも影響し、1991年に発表した初のベストアルバム『THE GREATEST HITS』を最後にデビュー以来10数年にわたり在籍したEpic Recordsを離れることになります(その後、1993年にはロビン・ザンダーが初のソロアルバム『ROBIN ZANDER』をリリースしています)。

HR/HMブームが後押しして復活した彼らでしたが、今度はそのHR/HMを壊滅させたグランジ勢から「ルーツはCHEAP TRICK」という新たなバックアップが。これによりバンドは新たに老舗Warner Bro.と契約することになり、VAN HALENやTHE DOOBIE BROTHERSなどで知られるテッド・テンプルマンをプロデューサーに迎え、約4年ぶりの新作を完成させます。

「The Flame」的なバラードシングルやラジオヒットを目指した産業ロック路線にとらわれることなく、バンドはここで本来の自分たちらしさを取り戻します。オープニングを飾る「My Gang」のポップでキャッチーなギターロック、初期のダーク&サイケ感を取り戻したヘヴィな「Woke Up With A Monster」、そして黄金パワーポップチューン「You're All I Wanna Do」、「The Flame」を通過したことで生まれた自然体のスローバラード「Never Run Out Of Love」、キャッチーさの際立つミドルバラード「Didn't Know I Had It」など、アルバムは冒頭から中盤にかけて名曲目白押し。過去2作の産業ロック的な作りから脱却し、アルバム全体の音の抜けも非常によろしく、ボーカルと楽器隊のバランスの良さ、各楽器の音の粒までしっかり聞き取れそうなミックスなど含め、80年代以降のCHEAP TRICKの作品中もっとも高品質な1枚と言えるのではないでしょうか。

異色のダンスチューン「Ride The Pony」を筆頭に、硬質なギターロック「Girlfriends」「Let Her Go」、80年代後半の経験が見事に活きたミドルナンバー「Tell Me Everything」、70年代の彼らを思わせるヘヴィバラード「Cry Baby」、ハードなサウンドと軽やかなリズムがミックスされたダンスロック「Love Me For A Minute」と、アルバム後半も前半ほどではないにせよ完成度高め。個人的には前半5曲が鉄壁すぎるがゆえに、後半の楽曲群は若干質が落ちると感じてしまいます。といっても、平均点以上の出来なんですけどね。

日本盤はここにボーナストラック「Sabre Dance」(ハチャトゥリアンの「剣の舞」)のカバーを追加収録。異色のクラシックカバーではあるものの、意外とCHEAP TRICKというバンドに合っているから不思議です。

バンド本来の姿を取り戻した勝負作だったものの、過去2作には及ばない全米123位という結果を残し、結局Warner Bros.とは本作1枚で契約を終了。この時点ではグランジ経由の再評価は数字につながることなく、バンドは3年後に自主レーベルから2度目のセルフタイトルアルバム『CHEAP TRICK』(1997年)で再浮上に挑むことになります。

 


▼CHEAP TRICK『WOKE UP WITH A MONSTER』
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2020年7月28日 (火)

ENUFF Z'NUFF『BRAINWASHED GENERATION』(2020)

2000年7月上旬にリリースされたENUFF Z'NUFFの15thアルバム。日本盤未発売。

チップ・ズナフ(Vo, B)をリードボーカルに据えた編成が本格化し、それまでのドニー・ヴィ(Vo, G)路線に慣れ親しんだ耳に違和感を残した前作『DIAMOND BOY』(2018年)から、ほぼ2年ぶりの新作となる本作。チップがリードボーカルなのはもちろんなのですが、楽曲のスタイルのせいでしょうか、前作よりも馴染んだ感が強まった印象を受けます。

そのひとつ前の『CLOWNS LOUNGE』(2016年)が初期のデモ音源が多く含まれていたせいか、その流れを汲む前作は初期のグラムメタル路線やサイケポップ/メタル路線が復調していました。こういう派手さを伴う楽曲に、チップのこもり気味でインパクトの弱い歌声は合っていなかったんですよね。ところが、今回は中期パワーポップ路線が再び強まったせいで、彼のセンチメンタルな歌声が妙にマッチした。これが本作の成功の秘訣だったのではないでしょうか。

とはいえ、前作までのメタリックな色も要所要所に散りばめられている。見方によっては、これまでの集大成感が強い内容なのかな。それは参加ゲストによる影響も大きく、「Strangers In My Head」では脱退したドニー・ヴィがリードボーカルを担当。さらにマイク・ポートノイ(Dr/SONS OF APOLLOなど)やエース・フレーリー(G/ex. KISS)、ダックス・ニールセン(Dr/CHEAP TRICK)なども華を添えており、程よい派手さを保ちつつも軸にあるパワーポップ感は損なわれることはないという、絶妙なバランス感で成立しております。

なお、ドニー参加の「Strangers In My Head」はドラマーがドニー在籍時のメンバーであるヴィニー・カスタルドなので、もしかしたら新曲ではなく、前々作『CLOWNS LOUNGE』からのさらなるアウトテイクかもしれませんね。

楽曲の良さは近作の中でもピカイチだと思います。オープニングのショートチューン「The Gospel」からリードトラック「Fatal Distraction」への流れ、「I Got My Money Where My Mouth Is」や「Help I'm In Hell」といった楽曲群、どれも素晴らしいんですよ。ただ……これを全部ドニーが歌ったら、きっと2000年前後の諸作にも匹敵する良作として評価されたのではないでしょうか。しかし、如何せんボーカルが弱すぎる……派手なギターソロに全部持っていかれちゃうんですよね。そこだけが勿体ない。やっぱりこのバンドは、早急にフロントマンらしいフロントマンを探して立て直すのが正解だと思います。チップ・ズナフ、ソングライターとしては一流中の一流だけど、フロントマン&リードボーカルの器ではないですよ、残念ながら。

大好きなバンドだからこそ評価が厳しくなってしまいますが、ボーカル以外は90点以上のレベルをキープしているので、ぜひ……(本当はドニーが復帰して歌ってくれるのが一番なんですけどね!)。

 


▼ENUFF Z'NUFF『BRAINWASHED GENERATION』
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2020年5月14日 (木)

CHEAP TRICK『ALL SHOOK UP』(1980)

1980年10月にリリースされた、CHEAP TRICK通算5枚目のスタジオアルバム。

ライブアルバム『AT BUDOKAN』(1979年)および4thスタジオアルバム『DREAM POLICE』(1979年)がともに全米TOP10入り(前者が3位、後者が6位)を果たし、名実ともにトップバンドの仲間入りを果たしたCHEAP TRICK。これらのヒットをフォローアップすべく制作された今作『ALL SHOOK UP』は、ある意味ではバンドが本来挑戦したかったことが表現されているのですが、それは必ずしもファンが望むものではなかったという、わかりやすい例になっています。

プロデューサーに迎えられたのが、かのジョージ・マーティン。レコーディングエンジニアにはジェフ・エメリックという、ビートルズでおなじみの布陣で制作された本作のレコーディングはAbbey Road Studio……ではなく、Air Studioにて行われました。

バンドとしての個性を確立させた初期3作、そこからさらに一歩前進した『DREAM POLICE』で確固たる「CHEAP TRICKらしさ」を手にしたものの、今作ではそれとは同じことはしなかった。かといって「まんまビートルズ」というわけでもない。適度なハードロック感を残しつつも、彼らは本作で早くも“大人”になろうとしていたのではないか。1作目の『CHEAP TRICK』(1977年)から本作までの5作を続けて聴くと、よりそう感じられるのです。

オープニングを飾る「Stop This Game」で表現された壮大さは過去4作にはなかったものですし、「Just Got Back」や「Can't Stop It But I'm Gonna Try」では従来の“らしさ”をより大人びたものへと進化させている。かと思えば、ジョージ・マーティンとタッグを組んだからこそ生まれたであろう「World's Greatest Lover」のような名バラードもあるし、かの“すかんち”が某曲で元ネタにした「Baby Loves To Rock」のようなロックンロールナンバーもある。どちらも確実にジョン・レノンポール・マッカートニーの影響下にあるアレンジですよね。

後半も『DREAM POLICE』でトライしたことがビルドアップされたかのような「High Priest Of Rhythmic Noise」や「Go For The Throat (Use Your Own Imagination)」、ストレートな「Love Comes A-Tumblin' Down」、トライバルで風変わりな「Who D' King」など個性的な楽曲が満載。ただ、過去4作にあった「弾けるようなパワーポップ感」は若干薄れつつあるような印象もあります。そこを良しとするか否かで評価がわかれそうですね。

『AT BUDOKAN』、『DREAM POLICE』とわかりやすいパワーポップ/ロック作品が続いたことで、(またジョージ・マーティンなど憧れのスタッフと共作することで)バンドとして新たな一手を提示しようと思ったのでしょうが、リスナーはそれでも「第二の『DREAM POLICE』」を欲しがった。結果、本作は全米24位と前作から順位を落とし、セールス面でも50万枚と売り上げ半減します。シングルもチャートインしたのは「Stop This Game」(全米48位)のみ。内容は過去4作にも匹敵する(いや、個人的には今一番ピンとくる)1枚ですが、ヒットには結びつきませんでした。

また、ハードなツアー生活に嫌気が差したトム・ピーターソン(B, Vo)は、本作完成後にバンドを脱退。バンドはピート・コミタを迎え、ツアーを行います。ここから約8年間、バンドの低迷期が続くわけですね……。

 


▼CHEAP TRICK『ALL SHOOK UP』
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2020年5月13日 (水)

CHEAP TRICK『BUSTED』(1990)

1990年6月下旬にリリースされたCHEAP TRICKの11thアルバム。日本盤は同年7月下旬に発売されています。

トム・ピーターソン(B, Vo)が復帰し、オリジナルメンバーで制作した起死回生の前作『LAP OF LUXURY』(1988年)から「The Flame」という初の全米No.1シングルが生まれ、その後も「Don't Be Cruel」(全米4位)、「Ghost Town」(同33位)、「Never Had A Lot To Lose」(同75位)とヒットを連発。アルバムも最高16位まで上昇し、100万枚を超えるヒット作になるなど、第二の黄金期に突入したCHEAP TRICK。続く今作『BUSTED』では、その成功を持続させようとするさまざまなトライが見受けられます。

プロデューサーには引き続いリッチー・ズィトー(HEARTBAD ENGLISHWHITE LIONなど)を起用し、ダイアン・ウォーレンやテイラー・ローズ、ミック・ジョーンズ(FOREIGNER)などの外部ライターも楽曲制作に参加。ですが、前作ほど全面的に起用しているわけではなく、全体を通して見てみるとロビン・ザンダー(Vo, G)&リック・ニールセン(G)が中心となって書いている楽曲のほうが多いのかなと。また、外部ライター丸投げは1曲のみ(バラード「Wherever Would I Be」のみで(カバー曲を除く)、外部ライターが多数参加している曲にも必ずメンバーがひとりはクレジットされている。このあたりに前作とは異なる、バンドとしてのアイデンティティが強く感じられるのではないでしょうか。

作風的にもAORや産業ロック色を強めた前作の延長線用にあるものの、アレンジ的には前作のように曲によってちぐはぐということもなく、ロックバンドとしての一体感が若干強まっている。前作での成功が良い作用をもたらしたのか、まさに「大人(アダルト)ロック」と呼ぶにふさわしい大人の余裕が強く伝わってきます。リードシングルに選ばれた「Can't Stop Fallin' Into Love」なんてまさにその象徴的なナンバー、落ち着いたテンポに歌うようなベースライン、メロディをサポートするようなギタープレイとロビン・ザンダーの色香がにじみ出たボーカルまで含め、まるで80年代半ば以降のロッド・スチュワートが歌いそうな、すべてが完璧な1曲なのです。

もちろん、オープニングを飾る「Back 'N Blue」やタイトルトラック「Busted」、ビートルズを彷彿とさせる「Had To Make You Mine」、ロイ・ウッドのカバー「Rock 'N' Roll Tonight」など、それ以外にもCHEAP TRICKらしいロックナンバーは豊富ですし、クリッシー・ハインド(THE PRITENDERS)をフィーチャーした「Walk Away」や「When You Need Someone」などミディアムバラードもたっぷり用意。全体のバランスは前作以上の仕上がりで、80年代半ば以降の産業ロック期では最高の1枚だと思います。

ですが、本作は全米48位と前作ほどのヒットにはならず、シングルも「Can't Stop Fallin' Into Love」(全米12位)、「Wherever Would I Be」(同50位)の2枚がチャートインしたのみ。この失敗が影響してか、翌1991年に初のベストアルバム『THE GREATEST HITS』を発表し、デビューから在籍したEpic Recordsを離れることになります。

ですが、この1、2年後に勃発するグランジ・ムーブメントにより、CHEAP TRICKはみたび日の目を浴びることになるのでした。それについてはまた別の機会に。

 


▼CHEAP TRICK『BUSTED』
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2020年4月 3日 (金)

TINTED WINDOWS『TINTED WINDOWS』(2009)

2009年4月に発売されたTINTED WINDOWS唯一のオリジナルアルバム。日本盤は1ヶ月遅れでリリースされています。

TINTED WINDOWSはテイラー・ハンソン(Vo/HANSON)、ジェイムズ・イハ(G/THE SMASHIN PUMPKINS、ex. A PERFECT CIRCLE)、アダム・シュレシンジャー(B/FOUNTAINS OF WAYNE、IVY)、バン・E・カルロス(Dr/ex. CHEAP TRICK)という名うてのプレイヤー/ミュージシャンたちによって結成されたスーパーグループ。テイラーとアダムは90年代半ばから親交があり、またイハとアダムも各バンドのツアーなどで顔を合わせる機会が多く、2000年代に入ってからはイハがIVYのレコーディングに参加したり、共同でレーベルやスタジオを設立していました。そんな3人が意気投合し、それぞれが影響を受けた70〜80年代のパワーポップやニューウェイヴをモダンな形で表現するバンドとして結成されたのがこのTINTED WINDOWSでした。

彼らは大切なルーツのひとつであるレジェンド・CHEAP TRICKからバン・Eを迎え、アダム&イハのプロデュースで完成したのが本作。ボーナストラックを除く全11曲中、「Back With You」をイハ、「Nothing To Me」をテイラー、「Take Me Back」をテイラー&アダムが手がけ、残りの8曲すべてをアダムが単独で書き下ろしています。

HANSONが持つ突き抜けるようなポップネス、FOUNTAINS OF WAYNEのベースにあるオルタナティヴロック経由のパワーポップ感、そしてバン・Eを除く3人が多大な影響を受けたであろうCHEAP TRICKの香り。本作はそのすべてが凝縮された、終始ストレートに突き進むキャッチーなギターロックを堪能できる1枚と言えるでしょう。

FOWが持つカントリーテイストやCHEAP TRICKに備わっていたサイケデリック感は残念ながらここには含まれておらず(いわゆるハードロック的側面もだいぶ弱いかと)、どちらかというと「テイラー・ハンソンというフロントマンを、才能ある作曲家アダムが調理してみました」という印象が強い内容かもしれません。聴く人によってはそこに物足りなさを感じるかもしれませんが、個人的にはそこを抜きにしてもよく出来たパワーポップ/ギターロックアルバムだと断言したいな。だって、何度聴いて飽きがこないですからね。爆音で、気持ちよく楽しめる1枚です。

本作を携えた来日公演(2010年1月)にも足を運びましたが、当日は本作からの楽曲にTHE KNACK「Let Me Out」、BUZZCOCKS「I Don't Mind」のカバーを披露したことが特に印象に残っています。本作に参加したメンバーの各メインバンド、そしてカバーでピックアップしたバンド。ここにTINTED WINDOWSの本質があるのではないでしょうか。

テイラーは近年、TINTED WINDOWSは決して解散したわけではないと名言していましたが、結局2作目が制作されることなくアダムは新型コロナウイルスが原因で4月1日(現地時間)、この世を去りました。アダムといえばFOWかIVY、もしくは彼が手がけた映画『すべてをあなたに』の劇中曲「That Thing You Do!」が有名でしょうけど、僕的にはこのスーパーバンドも忘れたくないな……。

 


▼TINTED WINDOWS『TINTED WINDOWS』
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