カテゴリー「Chris Cornell」の9件の記事

2020年12月20日 (日)

TEMPLE OF THE DOG『TEMPLE OF THE DOG』(1991)

1991年4月16日にリリースされたTEMPLE OF THE DOG唯一のアルバム。日本盤は同年6月21日にポニーキャニオンから発売、その後1993年12月にポリドール(現ユニバーサル)から再発されますが、以降2020年まで一度も再発されていません。

TEMPLE OF THE DOGはクリス・コーネル(Vo)&マット・キャメロン(Dr)のSOUNDGARDEN組とマイク・マクレディ(G)、ストーン・ゴッサード(G)、そしてジェフ・アメン(B)というPEARL JAM組(当時はデビュー前)からなるプロジェクトバンドで、クリスのかつてのルームメイトだったアンドリュー・ウッド(Vo/MOTHER LOVE BONE)がオーバードーズで亡くなったことを受け、彼のトリビュートのために結成。ストーンとジェフはMOTHER LOVE BONEのメンバーでもあったことから参加が決まり、そこにクリスの盟友マット、ジェフ&ストーンが新たに結成するPEARL JAMの一員マイクが加わり、クリスが書き下ろしたトリビュートソングを中心にアルバム制作がスタートします。

アルバム全10曲中、クリスの書き下ろし曲が7曲、ジェフ&ストーン書き下ろし1曲(「Pushin' Forward Back」)とジェフ単独書き下ろし2曲(「Times Of Trouble」「Four Walled World」)という構成で、歌詞はすべてクリスによるもの。ブルースやサイケデリックロックをベースにしたそのサウンドは、ある意味ではSOUNDGARDEN的でもありPEARL JAM的でもある。さらには、ジェフ&ストーンがいることでMOTHER LOVE BONE的でもある、と。でも、SOUNDGARDENやPEARL JAM、さらにはMOTHER LOVE BONEそのものといった印象を受けることもなく、結果として3者のよいとこ取りで収まっているのが興味深いのではないでしょうか。そういった意味では、ここで展開されているサウンドってのちに一大ムーブメントを巻き起こすグランジの範疇に含まれるものと言えるのかもしれません。

SOUNDGARDENのようにBLACK SABBATHLED ZEPPELIN的オールドスクール・ハードロック色は薄く、どちらかといえばPEARL JAMがのちにデビューアルバム『TEN』(1991年)で展開するオーソドックスな土着的ロックの色が強い。なのに、「Reach Down」みたいに11分以上におよぶジャムセッション的長尺ドローンナンバーがあったりするから面白いんですよね。SOUNDGARDEN的な尖った要素は薄く、クリスのダイナミックなボーカルをおおらかでオーソドックスなUSハードロックに乗せてみたらこうなりましたという、ある意味ではクリスのプレ・ソロアルバムと言えなくもないのかな。その作品で、デビュー前のエディ・ヴェダーも「Hunger Strike」で歌声を聞かせていたりするのは、今思うと非常に貴重なコラボレーションだなと思わずにはいられません(30年近く経った今の目線だと、マットがPEARL JAM入りしたことで、「PEARL JAM feat.クリス・コーネル」にも見えてしまうしね)。

本作はリリース当初こそあまり話題になりませんでしたが、1991年後半……PEARL JAMが『TEN』を、SOUNDGARDENが『BADMOTORFINGER』(1991年)をそれぞれ発表し、1992年にかけてじわじわとヒットを飛ばすことで本作もチャートを急浮上。「Hunger Strike」や「Say Hello 2 Heaven」のラジオヒットも手伝って、アルバムは全米5位という好記録を残しています。

にしても、この時期のボーカリストとしてのクリス・コーネルの神がかりっぷりは、飛び抜けたものがありますよね。僕はリリース当時、ポニーキャニオン盤を購入していたものの、当初はそこまで真剣に聴き込めていなくて。ところが、『TEN』や『BADMOTORFINGER』リリース後にクリスのボーカルやPJのカッコよさにヤラれてから聴き返したら、「もっと早く気づけよ……」ってくらい本作の魅力にどっぷりハマッてしまったくちなんです。グランジという文化を語る上でも、そしてシアトル界隈の当時の人間関係を知る上でも本作は絶対に欠かせない1枚。リリースから30年近く経った2020年に聴いても、まったく色褪せない傑作です。

なお、本作は2016年秋に発売25周年を記念して、別ミックスやデモ音源を含むデラックス・エディションも発売。こちらはストリーミングなどでも手軽に聴くことができます。デモ音源はスタジオライブ的な生々しさが強く、ただでさえ正式音源の少ないこのプロジェクトの真の顔を見極める上では非常に貴重と言えるでしょう。まあ、ビギナーはまずアルバム本編をじっくり聴きこんで、そのあとにデラックス版の追加音源に触れることをオススメします。

 


▼TEMPLE OF THE DOG『TEMPLE OF THE DOG』
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2020年12月16日 (水)

CHRIS CORNELL『NO ONE SINGS LIKE YOU ANYMORE』(2020)

2020年12月11日にリリースされたクリス・コーネルの5枚目にして最後のスタジオアルバム。同日のデジタル配信に続き、2021年3月19日にはフィジカル(CD、アナログ)での発売も予定されています。

本作はクリスが生前(2016年)、プロデューサーのブレンダン・オブライエンとの共同作業で制作していたカバーアルバムで、演奏はすべてクリスとブレンダンが担当。クリスが多大な影響を受けた10曲が選ばれており、彼の意図した曲順どおりに並べられています。

クリスが亡くなったのが2017年5月なので、おそらく同年後半には本作を正式にリリースしていたんだろうな……そう思えるほど、このアルバムは完璧な形で仕上げられているんです。クリス亡き後、ブレンダンが多少付け足した箇所はあるのかもしれませんが、基本的には2016年当時とほぼ変わりないんだろうなと(まったく付け足していないと言われても“死人に口なし”。当のクリスは否定できないですから)。それくらいあの当時(2015年前後)の彼のスタイルに通ずる作風なので、最初から最後まで安心して聴くことができるはずです。

いわゆるハードロック的なアーティストからピックアップされたのは、今年夏に先行配信されたGUNS N' ROSES「Patience」のみ。といっても、この曲自体もともとアコースティックナンバーなので、ハードロックとはかけ離れていますが。それ以外は本当に“いわゆる”ルーツ的な存在ばかり(ジャニス・ジョプリン、ハリー・ニルソン、ジョン・レノンELO、テリー・リードなど)。そんな中、シネイド・オコナーのカバーでおなじみのプリンス作「Nothing Compares 2 U」あたりは比較的最近の楽曲といえるのかな(といっても30年前ですが)。この曲のカバーは2018年発売のコンピレーションアルバム『CHRIS CORNELL』にライブバージョンで収録されていましたが、スタジオ版はこれが初出。今回のアルバムでは直前に配置された「Patience」から続く良い流れを作っており、本作におけるクライマックスのひとつと言えるでしょう。

そのほかにもSOUNDGARDENでの表現にも通ずるアレンジの「You Don't Know Nothing About Love」(原曲はカール・ホール)や、ソロ3作目『SCREAM』(2009年)でのテイストを彷彿とさせる「Showdown」(原曲はELO)など、注目すべきポイントは本当に満載。ただ、本作における最大の聴きどころは、ラストナンバーとして用意された名曲「Stay With Me Baby」のカバーではないでしょうか。

「Stay With Me」とも呼ばれるこの曲は女性ソウルシンガーのロレイン・エリソンが歌う原曲のほか、ベット・ミドラーやテリー・リードなどさまざまなアーティストによって取り上げられており、HR/HM系でもWHITESNAKEが9thアルバム『RESTLESS HEART』(1997年)でカバーしていたので、こっち側のリスナーでも知っているという方は少なくないのでは。クリスのバージョンはテリー・リード版を元にしているようですが、晩年のクリスのしゃがれ切った歌声が非常にマッチした、最高のカバーバージョンと言えるでしょう。すでにアメリカのドラマ『VINYL』のサウンドトラックに提供済みだった既発テイクですが、この曲がラストに置かれる意味含め、これ1曲のために本作を手にしてもいいくらい、というのは言い過ぎでしょうか。

もちろん、それ以外のカバーもアコースティックサウンドをベースにしつつ、現代的な味付けが随所に施されており、今の耳で聴いてもしっかり楽しめる1枚に仕上がっています。晩年のクリスがこんな穏やかなアルバムを制作していたという事実にちょっと寂しさも感じますが、最後の最後にこのような素敵なアルバムを届けようとしていた彼の意思に敬意を評しつつ、本作をじっくり堪能したいと思います。

 


▼CHRIS CORNELL『NO ONE SINGS LIKE YOU ANYMORE』
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2020年4月28日 (火)

SLASH『SLASH』(2010)

2010年3月末にリリースされた、スラッシュのソロアルバム。これまでSLASH’S SNAKEPIT名義では2枚のアルバムを発表していますが、ソロ名義ではこれが初のオリジナルアルバムとなります。

2007年にスコット・ウェイランド(Vo)が脱退したことで、事実上の解散状態に陥ったVELVET REVOLVER。スラッシュはUniversal Musicと新たに契約し、これまでのキャリアを総括するようなソロアルバム制作に臨みます。

彼と親交の深いミュージシャンを多数迎えた本作は、イアン・アストベリー(THE CULT)、オジー・オズボーン、ファーギー、マイルズ・ケネディALTER BRIDGE)、クリス・コーネルSOUNDGARDEN)、アンドリュー・ストックデイル(WOLFMOTHER)、アダム・レヴィーン(MAROON 5)、レミー・キルミスター(MOTÖRHEAD)、キッド・ロック、M.シャドウズ(AVENGED SEVENFOLD)、ロッコ・デルーカ、イギー・ポップと曲ごとに異なるシンガーが参加した豪華な内容に。さらに日本盤のみ、稲葉浩志(B'z)をフィーチャーした楽曲も用意されたことで、当時はリリース前から賛否両方の意味で話題となりました。

サウンド的には、過去にスラッシュが参加したバンド……GUNS N' ROSESやVELVET REVOLVER、そして自身のSNAKEPITの延長線上にあるものですが、それらをアクの強いシンガーたちが自身のメロディで歌うことにより、スラッスの楽曲であると同時に各シンガー自身の楽曲にもなっている、まさにコラボらしいコラボ作と呼べる仕上がりです。だって、オープニングのイアン・アストベリーが歌う「Ghost」からして、彼が歌うことでどう聴いたってTHE CULT以外の何者でもない楽曲に昇華されていますし、それこそオジーが歌う「Crucify The Dead」もオジーの近作に収録されていても不思議じゃない内容。ハードロック調の「Beautiful Dangerous」がファーギーのアルバムに収録されていたとしても、別に不思議じゃないし……っていう妙な納得感があるのは、それこそ本作に参加したシンガーたちの個性がいかに強いかという証拠でもあるわけです。

また、本作には1曲のみインストナンバー「Watch This」が収録されているのですが、こちらではベースに盟友ダフ・マッケイガン、ドラムにデイヴ・グロール(FOO FIGHTERS)という夢の組み合わせが実現しています。これ、デイヴがそのまま歌っても面白かったのにね。

本作で唯一複数歌っているマイルズ・ケネディとは相性が良かったのか、本作を携えたワールドツアーにも帯同することに。結局、その後もスラッシュのソロ活動では毎作彼が参加することになります。

ちなみに、誰もが気になる稲葉浩志が参加した「Sahara」ですが……稲葉による日本語詞で歌われているので、稲葉のソロ曲のように聴こえます。スラッシュらしさももちろんそこそこ見受けられるのですが、やっぱり他シンガー同様に稲葉のアクの強さが優っており、そこはさすがだなと。けど、どうせなら英詞で歌えばよかったのにね……日本語が悪いってことではなく、この流れで最後に日本語が飛び込んでくると、ちょっと違和感がね。80年代によくあった、外タレが日本盤ボーナストラックに提供した「日本語バージョン」みたいで、少し恥ずかしくなってしまうと言いますか。曲やボーカルパフォーマンスが素晴らしいだけに、非常に勿体ないと思いました。

なお、本作はのちに国別に内容の異なるボーナストラック/ディスクを付けたさまざまな別バージョンが発表されており、そちらにはCYPRESS HILLとファーギーによるガンズ「Paradise City」やマイルズ・ケネディが歌う「Sweet Child O' Mine」アコースティックカバー、ニック・オリヴェリやアリス・クーパー参加のアルバム未収録曲、先の稲葉歌唱曲「Sahara」の英語バージョン(!)などが収録されております。おいおい、英語版あるじゃねーかよ(苦笑)。

 


▼SLASH『SLASH』
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2020年4月 5日 (日)

ALICE IN CHAINS『SAP』(1992)

ALICE IN CHAINSが1992年2月に発表した4曲入りEP。日本盤は海外からだいぶ遅れ、初来日公演に合わせて1993年10月下旬に初リリースされました。

1stアルバム『FACELIFT』(1990年)のツアーを終えたバンドは、キャメロン・クロウ監督による映画『シングルス』のために新曲を制作することになりスタジオ入り。ここで翌1992年初夏に発表される「Would?」(のちに2ndアルバム『DIRT』にも収録)や、『DIRT』収録曲の「Rooster」、そしてこの『SAP』収録曲を含む10曲前後のデモが完成します。バンドはこの機会を無駄にすることなく、1991年11月に再びスタジオ入り。PEARL JAMのデビューアルバム『TEN』(1991年)を手がけたばかりのリック・パラシャーとともに、4〜5日でこのEP収録曲をレコーディングしたのでした。

“樹液”を意味するタイトルの本作(アルバムジャケットが、まさに樹液を採取する様を表現したものです)は、まさにバンドの根幹となる歌に焦点を当てた楽曲が並び、それらをシンプルなアコースティックサウンドで表現するという、その後のALICE IN CHAINSにとって必要不可欠なスタイルがここでひとつ完成します。

レコーディングには同郷シアトル出身のHEARTからアン・ウィルソンがゲスト参加。またSOUNDGARDENクリス・コーネルMUDHONEYのマーク・アームといった気心知れた仲間たちも加わり、リラックスした環境の中で制作されたことが伺えます。

アン・ウィルソンはオープニングトラック「Brother」で主張の強い歌声を響かせ、ジェリー・カントレル(G, Vo)が初めてリードボーカルを担当した「Am I Inside」でも美しいコーラスを聴かせてくれます。また、クリス&マークが参加した「Right Turn」はALICE IN CHAINS、SOUNDGARDEN、MUDHONEYの合体ということで“ALICE MUDGARDEN”名義による楽曲となり、それとわかるボーカルを耳にすることができます。

アコースティック主体といいながらも、「Got Me Wrong」では適度に歪んだギタープレイも楽しむことがで、その不穏なメロディ運び含め、続く『DIRT』や『JAR OF FLIES』(1994年)への布石を見つけることができるはず。たった4曲しか収録されていないものの、実はバンドの歴史上非常に重要な作品ではないかと思っています。

なお、本作のCDではラストナンバー「Am I Inside」終了後にお遊びナンバー「Love Song」を隠しトラックとして収録しています。こちら、Apple Musicなどでは単独楽曲として聴くことができますが、Spotifyでは未収録。できれば配信版でも隠しトラックとして通してほしかったですね。

 


▼ALICE IN CHAINS『SAP』
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2018年10月28日 (日)

CHRIS CORNELL『CARRY ON』(2007)

SOUNDGARDENのフロントマン、クリス・コーネルによる2作目のソロアルバム。SOUNDGARDEN解散後に制作された初ソロアルバム『EUPHORIA MORNING』(1999年)から8年ぶりとなりますが、その間にはRAGE AGAINST THE MACHINEのメンバーと結成したAUDIOSLAVEとして3枚のアルバムを発表しており、本作はそのAUDIOSLAVEからの脱退直後に発表されたもの。特にソロとしては、その前年に映画『007 カジノ・ロワイヤル』の主題歌「You Know My Name」(全米79位)を発表しており、良い流れでアルバムも発表されたことになります。

内容的には前作『EUPHORIA MORNING』にあった内省的な作風を引き継ぎつつも、よりエモーショナルで力強くなっているのではないでしょうか。オープニングを飾る「No Such Thing」なんてそれまで封印していたSOUNDGARDEN的ヘヴィ路線を用いているし、かと思えば「Arms Around Your Love」ではAUDIOSLAVEで得たエモい歌モノ路線が引き継がれている。確かに多少内省的ではあるものの、ここには2つのアメリカのトップバンドを渡り歩いたクリスならではの「ど真ん中で戦う」という意思が強く感じられるのです。

その表れとして、かどうかはわかりませんが、本作にはマイケル・ジャクソンの大ヒット曲「Billie Jean」のカバーも収録。もちろん“まんま”ではなく、いかにもクリスらしい落ち着いたトーンのアレンジで生まれ変わっており、完全に自分のモノにしてしまっています。

かと思えば「Safe And Sound」みたいに大らかなソウルナンバーがあったり、「Scar On The Sky」といったサイケデリックカントリーソングもあるし、「Your Soul Today」のギターリフなんてストーンズAC/DCみたいなど直球さがにじみ出ている。すべてにおいて彼のキャリアを総括するような意思が感じられ、と同時に文字どおり「ここから続けていく(=Carry On)」という決意表明も受け取れる。アルバムのラストに、そのきっかけとなった映画主題歌「You Know My Name」(007主題歌らしく、ストリングスをフィーチャーしたスタンダード色の強い1曲)が置かれているという構成からも、彼がここから何を成し遂げようとしているのかが感じられるのではないでしょうか。

とはいえ、クリスのソロは実験的な次作『SCREAM』(2009年)でひと区切りつけることになってしまう。その理由は、SOUNDGARDEN再結成によるものなので仕方ないのですが……もしあのまま、バンドを復活させることなくソロアーティストとして細々と音楽活動を続けていたら、彼は……それでも同じ道をたどったのでしょうか。ここでたられば話をしても仕方ないですが、この『CARRY ON』から始まった新たな旅の行方を見届けてみたかったものです。



▼CHRIS CORNELL『CARRY ON』
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2018年10月27日 (土)

ALICE COOPER『THE LAST TEMPTATION』(1994)

1994年7月リリースの、アリス・クーパー通算20枚目のスタジオアルバム。モダンな産業ハードロックサウンドによる『TRASH』(1989年)で再ブレイクを果たし、続く同系統の『HEY STOOPID』(1991年)もそれなりの成功を収めましたが、本作は生々しいバンドサウンドを主軸に据えた、時代に呼応した作品となっています。

プロデューサーにはドン・フレミング(SONIC YOUTH、TEENAGE FANCLUBHOLEなど)、デュアン・バロン&ジョン・パーデル(オジー・オズボーンDREAM THEATERKIXなど)、アンディ・ウォレス(SEPULTURAFAITH NO MOREBLIND MELONなど)を迎え制作。曲ごとにプロデューサーが異なり、ドンは「Nothing's Free」「Lost In America」「Bad Place Alone」、デュアン&ジョンは「You're My Temptation」「Lullaby」「It's Me」、それ以外の楽曲をアンディが手がけています。

ドン・フレミングがプロデュースした「Nothing's Free」「Lost In America」あたりは70年代のアリス・クーパーらしさが復活しつつ、90年代前半のシーンを接見したオルタナティヴロック/グランジからの影響も感じさせる生々しいサウンドで、シンプルで刺々しいバンドサウンドの中にしっかりキャッチなーメロディが備わっている。かと思えば、ジャック・ブレイズ(NIGHT RANGER)&トミー・ショウ(STYX)のDAMN YANKEESコンビのペンによる「You're My Temptation」「It's Me」あたりは、前作までの流れを汲みつつもしっかりモダンな色付けが施されているのですから、さすがの一言です。

とはいえ、本作最大の聴きどころは中盤に置かれた「Stolen Prayer」「Unholy War」の2曲ではないでしょうか。前者はアリスとクリス・コーネルSOUNDGARDEN)との共作で、後者はクリス単独による書き下ろし曲。クリスは2曲でボーカル&コーラスでも参加しており、その存在感を示しています。本作発売の数ヶ月前にSOUNDGARDENはアルバム『SUPERUNKNOWN』で初の全米1位を獲得したばかりで、そんなクリスをソングライター&ボーカルでフィーチャーするあたりにアリスの本気度が伺えます。クリスらしいダークな楽曲を歌うアリス、最高です。

また、本作は70年代の名作『WELCOME TO MY NIGHTMARE』(1976年)の主人公であるスティーヴンが登場するコンセプトアルバムでもあります。そのへんも往年のファンには興味深いものがあるのではないでしょうか(当時発売された限定盤には、そのへんのストーリーが描かれたコミックも同梱されていました)。

ここまでやったにも関わらず、残念ながら本作は全米68位止まり。シングルヒットも生まれていません。グランジ世代にはオリジネーターであるアリスも“旧世代側の人”と受け取られてしまったのでしょうか。『TRASH』や『HEY STOOPID』は苦手だけど70年代のヒット作は好きというリスナーもスッと入っていける、隠れた名盤だと思うので、機会があったらチェックしてみてください。



▼ALICE COOPER『THE LAST TEMPTATION』
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2018年9月22日 (土)

SANTANA『GUITAR HEAVEN: THE GREATEST GUITAR CLASSICS OF ALL TIME』(2010)

2010年9月にリリースされた、SANTANA通算20枚目のスタジオアルバム。全米2位を記録した前作『ALL THAT I AM』(2005年)から5年ぶりの新作は、全曲60〜90年代のロッククラシックスのカバーで占められた意欲作。もちろん、メガヒットした『SUPERNATURAL』(1999年)以降の作品同様に、全曲異なるボーカリストがフィーチャーされた豪華なカバー集となっています。

その組み合わせも興味深いところで、クリス・コーネルSOUNDGARDEN)とLED ZEPPELIN「Whole Lotta Love」をコラボしたかと思えば、もはやおなじみのロブ・トーマス(MATCHBOX TWENTY)とはCREAM「Sunshine Of Your Love」で再共演。かと思うと、ラッパーのNASとAC/DC「Back In Black」で異色共演を果たしたり、ビートルズ「While My Guitar Gently Weeps」ではインディア・アリー(本作唯一の女性ボーカル)の歌声とヨーヨー・マのチェロとコラボ。もう無茶苦茶なわけですよ。

選曲もカルロス・サンタナが気に入ったものというより、アメリカで人気のロッククラシックスといった印象が強く、DEF LEPPARD「Photograph」(クリス・ドートリーが熱唱)やVAN HALEN「Dance The Night Away」(TRAINのパトリックが担当)あたりは確実に別の思惑が働いている気がする(笑)。

かと思うと、ストーンズが「Can't You Hear The Knocking」(スコット・ウェイランドがいい味出してる!)だったりTHE DOORSが「Riders On The Storm」(LINKIN PARKのチェスター・ベニントンと本家レイ・マンザレクが参加)だったりと、ちゃんとこだわりも感じられるから本当に不思議。

もちろんDEEP PURPLE「Smoke On The Water」(PAPA ROACHのジャコビー)やT. REX「Bang A Gong (Get It On)」(BUSHのギャヴィン)、ジミヘン「Little Wings」(ジョー・コッカー御大!)といったスタンダードも忘れてない。

デラックスエディションのみ、CCR「Fortunate Son」(CREEDのスコット)とレッチリ「Under The Bridge」(SANTANAのバンドメンバー)が追加されているんですが、日本盤は「Under The Bridge」の代わりにベンジー(浅井健一)が歌うZZ TOP「La Grange」が収録されています。いかにも日本仕様といったボートラですが、これもなかなかの出来なので機会があったらチェックしてみてください。

全体的にサンタナらしいラテンアレンジが加えられており、それがどの曲においても良いフレイバーになっているから不思議。もちろん、そんなアレンジに合いそうな曲を選んでいるんでしょうけど、ツェッペリンにしろストーンズにしろドアーズにしろ、これがオリジナルなんじゃないかと錯覚してしまうほどの出来栄え。原曲レイプで終わらず、しっかりサンタナらしいプレイ(=個性)が加えられているので、彼のファン以外でもちゃんと楽しめるはず。まあ、遊びとしては最高に贅沢ですわな。



▼SANTANA『GUITAR HEAVEN: THE GREATEST GUITAR CLASSICS OF ALL TIME』
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2017年10月 7日 (土)

CHRIS CORNELL『EUPHORIA MORNING』(1999)

1997年に突如解散を発表したSOUNDGARDEN。そのフロントマンであったクリス・コーネルが1999年に発表した初のソロアルバムが本作。2001年には元RAGE AGAINST THE MACHINE組と新バンド・AUDIOSLAVEを結成するため、続く2ndソロアルバムは同バンドの活動が止まった2007年になってしまい、そういう意味でも本作はあの時期のクリスの嗜好を知れる格好の題材でした。

SOUNDGARDENのメインソングライターであったクリスなわけですから、ソロアルバムとはいえバンド時代のテイストは少なからず感じられるはず。そう思ってリリース当時、初めて本作に接したのですが、結果は聴いてもらったとおり。ハードロックもグランジもここにはあらず、もっと穏やかな、言ってしまえばAOR的な香りすらする落ち着いた作風でした。

SOUNDGARDEN時代の盟友マット・キャメロン(Dr)が1曲のみドラムを担当していますが、基本的にはプロデュースを担当したナターシャ・シュナイダー&アラン・ヨハネス(後者は今年発表されたマット・キャメロンのソロアルバムにも参加)周りの人たちで構成。大半の楽曲はジョシュ・フリースがドラムを叩き、それ以外のベーシックトラックはクリス、ナターシャ、アランらが担当しているため、いわゆるバンド感は皆無。アコースティック主体で、よりパーソナルな印象を受ける内容に仕上げられています。

3年後に発表されるAUDIOSLAVEのデビューアルバムでは、そのクリスの声の衰えにショックを受けましたが、このアルバムの時点ではまだ“SOUNDGARDENのクリス・コーネル”そのもの。声を張り上げて歌うような楽曲はバンド時代ほど多くはありませんが、適度に力強く歌いながらも、基本は彼の魅力がもっとも伝わりやすい低・中音域をメインにしたナンバーが中心で、非常に聴いていて気持ちよいものばかり。そういった点では“いかにもソロアルバム”といった印象で、もっと言ってしまえばそれ以上でもそれ以下でもないという……悪い言い方をしてしまうと、印象に残りにくい作品かもしれません。

もちろん、じっくり聴き込めば1曲1曲の完成度の高さに驚かされるわけですが、パッと聴きではそこまでダイレクトに伝わるような即効性はないので、注意が必要かも。とはいえ、SOUNDGARDEN時代のアコースティックベースの楽曲が気に入っていた人なら、一発で気にいるはずです。

久しぶりに引っ張り出して聴いてみましたが、SOUNDGARDENの解散前ラストアルバム『DOWN ON THE UPSIDE』(1996年)からの流れで聴くと、実は意外と入っていきやすいのかも、という1枚です。

ちなみに本作、2015年に再リリースされた際にはタイトルを『EUPHORIA MOURNING』と綴りを変更。当初はこちらの綴りで発表したかったものの、『EUPHORIA MORNING』のほうが良いタイトルじゃないかということで、こちらに決定した経緯があるようです。



▼CHRIS CORNELL『EUPHORIA MORNING』
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2017年8月13日 (日)

V.A.『SINGLES: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』(1992/2017)

1992年秋に全米公開された映画『シングルス(SINGLES)』のサウンドトラックアルバム。日本では先にサントラがリリースされ、映画は翌1993年春に公開されました(単館ではなかったものの公開劇場数は少なく、どこも小規模劇場での公開だったと記憶しています)。

シアトルを舞台にしたラブストーリーなのですが、当時のシアトルといえばグランジブームまっただ中。主人公のひとりであるクリフ(マット・ディロン)がロックバンドをやっていることなどもあり、劇中にはALICE IN CHAINSやクリス・コーネル(SOUNDGARDEN)、エディ・ヴェダー(PEARL JAM)なども登場します。

サントラは映画公開に先駆けて1992年6月にUS発売(日本では9月発売)。内容は当時人気のグランジバンドやシアトル出身のレジェンドたちの楽曲で大半が占められ、全13曲中11曲が当時未発表曲でした。リードトラックとしてALICE IN CHAINSの新曲「Would?」(同年9月発売の2ndアルバム『DIRT』にも収録)が公開されるやいなや、大反響を呼んだのをよく覚えています。

ALICE IN CHAINS、PEARL JAM、SOUNDGARDEN、MUDHONEYSMASHING PUMPKINSといった当時ど真ん中のバンドから、SCREAMING TREES、MOTHER LOVE BONEというグランジ黎明期のバンド、THE REPLACEMENTSのポール・ウェスターバーグ、HEARTのアン&ナンシー姉妹の別ユニットTHE LOVEMONGERS、ジミ・ヘンドリクスといったレジェントたちまで。さらにはクリス・コーネルのソロ曲まで含まれているのですから、当時のグランジシーンを振り返る、あるいはシアトルのロックシーン(メタルは除く)に触れるという点においては非常に重要な役割を果たすコンピレーションアルバムだと思います。

そのサントラ盤が、発売から25年を経た2017年に、未発表テイクや劇中で使用されたもののサントラ未収録だった楽曲を集めた2枚組デラックスエディションで再発。ディスク1は当時のままで、ディスク2にその貴重な音源がたっぷり収められています。

ここには、マット・ディロンが劇中で所属していたバンド・CITIZEN DICKの楽曲「Touch Me, I'm Dick」(MUDHONEY「Touch Me, I'm Sick」のパロディカバー)や、のちにSOUNDGARDENの楽曲として発表される「Spoonman」のクリス・コーネルソロバージョン、ALICE IN CHAINやSOUNDGARDENのライブ音源、TRULYやBLOOD CIRCUSの楽曲、マイク・マクレディ(PEARL JAM)のソロ曲などを収録。おまけ感の強いものから本気で貴重なテイクまで盛りだくさんの内容で、ここまでを含めて映画『シングルス』をしっかり振り返れるのかな?と改めて思いました。

映画自体は観ても観なくても大丈夫ですが(笑)、1992年という時代の節目を追体験したいのなら、NIRVANAやPEARL JAMのオリジナルアルバムだけではなく、ぜひ本作も聴いていただきたいと、あの当時をリアルタムで通過したオッサンは強く思うわけです。サントラと思ってバカにしたら、きっと痛い目を見るよ?

ちなみに、本作のデラックスエディションが発売されたのが5月19日(海外)。クリス・コーネルが亡くなったのがその前々日の17日ということもあり、真の意味での“グランジの終焉”を実感させる1枚になってしまったことも付け加えておきます。



▼V.A.『SINGLES: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』
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