TOM KEIFER『THE WAY LIFE GOES』(2013)
2013年4月30日にリリースされた、元CINDERELLAのトム・キーファー(Vo, G)による1stソロアルバム。日本盤は同年5月22日発売。
トムのスタジオ新作音源は、CINDERELLAのラスト作となった4thアルバム『STILL CLIMBING』(1994年)以来、実に19年ぶり。ちょうど『STILL CLIMBING』制作前後からトムの喉の不調もあり、何度か手術も経験。バンドはその間に不定期ながらもライブを行なっていますが、トム自身はこのソロアルバムに向けて2003年頃からゆっくりと準備を進めていたようです。
Warner Music傘下のインディーズレーベル・Merovee Recordsから発表された本作は、グレッグ・モロウ(Dr)、マイケル・ローズ(B)、トニー・ハーレル(Key)という手練の一流ミュージシャンたちをバックに迎えて制作。また、曲ごとに元バンドメイトのジェフ・ラバー(G/2021年没)、パット・ブキャナン(G,Harp)、ゲイリー・バーネット(G)、ロン・ウォレス(G)、エタ・ブリット(Cho)などゲストプレイヤーも多数参加しており、要所要所で適度な華やかさの感じられる音作りとなっています。
全体的な方向性としては、CINDERELLA時代の3rdアルバム『HEARTBREAK STATION』(1990年)でのアーシーかつレイドバックしたアメリカンロック、カントリーロックを下地に、オーソドックスな楽曲群を楽しむことができます。「Fool's Paraside」のような楽曲こそあるもののハードロック的側面は薄く、そういった点でも完全に“『HEARTBREAK STATION』のその先”と言えるような仕上がりです。
トムのボーカルは中音域の地声を中心にしつつも、キメるべきポイントではしっかりジャニス・ジョプリンばりのしゃがれたハイトーンも聞かせてくれる。初期のように終始ハイトーンでがなるのではなく、ナチュラルな地声で歌い通す中に時折ハイトーンが飛び込んでくるからこそ、良いアクセントになっている。喉のコンディションを維持するという点においても、このバランス感は大事なのかもしれません。もっとも、この穏やかな土着的サウンドの上では無理にシャウトする必要も感じられませんしね。
聴く人によっては地味で引っ掛かりのない1枚に感じられるかもしれない。しかし、『HEARTBREAK STATION』で展開されたR&Bを通過したロックンロールやアコースティック色の強いカントリー路線にも一定の理解を示したリスナーなら、本作は十分に理解してもらえるはず。これ!というキメの1曲が存在しないことだけは難点ですが、それでもリラックスしながら聴く分には文句なく楽しめる1枚だと思います。
なお、本作はリジー・ヘイル(HALESTORM)をフィーチャーしたCINDERELLA「Nobody's Fool」のセルフカバーやジョー・コッカーのカバーで知られるビートルズ「With A Little Help From My Friends」などボーナストラック3曲に、特典映像を収録したDVDを付け、アートワークを変更した形で2017年10月20日に再リリース。現在サブスクなどではこちらのバージョンが流通しています。アルバム本編14曲はそのまま変わらずなので安心ですが、終盤になって急に経路の違う名曲中の名曲「Nobody's Fool」が飛び込んでくるのでびっくりするかもしれません。
にしても、リジーは本当に良いシンガーですね。往年のトムに匹敵する、いや、彼とは違う魅力を兼ね備えたパワフルボーカルは本当に魅力的ですし、それに応えるトムも全盛期には及ばないものの、テクニックと味わい深さで本領発揮。サウンドこそハードロックですが、この世界観自体は非常にゴスペルチックなものも感じられ、改めて素晴らしい曲だなと実感させられます。一方の「With A Little Help From My Friends」はジョー・コッカー版アレンジで、THUNDERやBON JOVIなど手垢が付いたカバー。こちらも原曲およびアレンジが最高すぎるので、最終的には先の「Nobody's Fool」とともにアルバム本編の印象を消してしまうのが難点。頑張れ、トム・キーファー。
▼TOM KEIFER『THE WAY LIFE GOES』
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