Coccoが約2年振りに帰ってきた‥‥いや、正確には「帰ってきた」と言い切れないもどかしさを伴う、人前への登場といった方がいいのかな? とにかく、2001年4月に我々の前を去った後、一切の音楽活動を中止していた彼女が、再び自分の音楽を、自分の言葉で表現し始めた。個人的にはそれだけで十分なんだけどね。
2003年8月15日。正に「日本中でみんなが黙祷する日」に、彼女は我々に対する問題提議を伴い戻ってきた。真新しい楽曲と、百数十人の子供達を引き連れて‥‥それがこのDVDの中で歌われている "Heaven's hell" という楽曲。たった1曲の新曲ではあるけれど、この時の生演奏会では約10分に及ぶ長丁場を、素人同然の子供達と共にやり遂げ、聴き手を十二分に惹き付ける、本当に素晴らしい歌と演奏を我々に見せて/聴かせてくれたのでした。この映像を最初に目にしたのは、同年8月末のTBS系「NEWS23」での特集にて。約30分に及ぶドキュメント(舞台裏やメイキング、そしてCoccoとのインタビュー等)の中で、彼女が何故2年前に音楽活動を中止したのか、そして何故再び人前で歌うことを選んだのか、それらが彼女の言葉で語られています(勿論今回のDVDの中にもその場面は収録されています)。
このDVDはその番組、そして沖縄のテレビ局で放送された同イベントのドキュメントを合わせ、市場流通用に再編集した、約60分に及ぶドキュメントDVDです。当然イベント当日の歌の模様も完全収録されています。
しかし、ここで注目すべきなのは‥‥実は彼女の新曲についてではなく(それはまた別の機会にちゃんと語りたいと思います)、何故彼女が「歌」と「ゴミ拾い」を結びつけたか、そしてそこに向かわせたかなんじゃないでしょうか。勿論その答えの全てがこのDVDの中に存在するのですが‥‥ま、俺が改めて書くまでもないので、とにかくあなた自身の目で確認してもらいたいな、と思います。
自分の住んでいる場所もまた、海に囲まれています。夏になれば海水浴客やリゾート客で栄える、それなりに名の知れた町のようです。が、決して綺麗な海ではありません。昔は綺麗だったんです。けど、段々と汚くなっていった。勿論、そういった観光客が汚した結果がそれ、とは言い切れません。地元に住む人達による汚染だって間違いなくあります。いろんな要因が重なり合った結果が、今の汚い海なんでしょう。
よく自分が子供の頃‥‥小学生の頃だったかな? 海開きの前になると必ず、土曜の午前中を使って近くの海水浴場へ行って、砂浜のゴミ拾いをするんです。観光客が捨てていった空き缶やビニール、家庭ゴミ等。酷いモノになると使用済みのコンドームとか‥‥勿論、全部が全部観光客が捨てていったものではなく、中には他の海からたどり着いたゴミ‥‥明らかに余所の土地にしか存在しない品物だったり、あるいは海外から漂着したゴミだったり‥‥そういったものを「何で僕達が拾わなくちゃいけないんだろう?」といった疑問を抱きつつ、強制的に拾わされていました。全ては「観光客に気持ちよく海を使ってもらえるように」と‥‥
このDVDを観たとき、そういった子供の頃に感じた違和感をふと思い出しました。けどもし今、同じようなことを強いられたとしたら‥‥多分あの頃とは違った考えの下、ゴミ拾いをすると思います。そういえば以前、女の子と地元の海に行った時、あまりにゴミが凄かったんで無意識のうちにゴミ拾いしてたんですよ。遊びながらですが。そしたらね、その子は俺に言うわけですよ‥‥「なんでそんなことするの?」って。自分にとっては落ちてるゴミを拾うことは、普通のことなんですよね。フジロックとか行くとそうでしょ? まぁ落ちてるゴミを拾わないまでも、絶対に自分からゴミをゴミ箱以外に捨てようなんて思わない。あんまり酷い散らかりようだったら無意識のうちに拾ってしまう、みたいな。その感覚だったんですよね。けど、そんなこと知らない普通の子達にとっては、むしろゴミを捨てる方が普通の感覚で、拾うなんて恥ずかしい行為、あるいはバカみたいに映るわけですよ、極端な話。それを改めて認識した時、ちょっとショック受けましたね。だってさ、自分らの海じゃないか、って。誰のものでもない、だけど俺らの海なんだよ、って。説明しても無駄だと思ったから、その場はそのままやりすごしたけど。後になって、その時にそれを説明できなかった自分に腹立たしく感じたりなんかしてね‥‥
DVDの内容から脱線してるように見えるかもしれないけど、つまりはそういうことなんです。このDVDを観るってことは、そういった問題意識と向き合うこと。決してCoccoは「沖縄に来てゴミ拾いをして」と言ってるんじゃないんですよ。それぞれ身の回りで、個人レベルで出来ることをやっていこう。それを考える切っ掛けを我々に与えてくれてるんですよ。そういったことを判りやすく伝えるために、彼女は今回「歌」に託した。イベントのサブタイトルにあるじゃないですか、「もしも歌が届いたら 海のゴミを拾ってね」って。海じゃなくてもいいんですよ、山でも、川でも。もっともっと、身の回りの自然を大切にして欲しい。そうすることが、いろんなことに繋がっていくと、彼女は信じてるんです。それが最終的に世界平和に繋がるんじゃないか、と‥‥
歌が世界を変えることは不可能でしょう。ジョン・レノンも成し得なかったんだから。けど何度も書くけど、世界は変わらなくても人間の意識を変えることはできる。大きな成果は得られなくても、個人レベルの小さな変化をもたらすことは可能なんです。だって、この "Heaven's hell" という曲を聴いて心動かされた人、沢山いるでしょ? それはあなたの心の中にある「何か」が動かされたからでしょ? それをそこで終わりにして欲しくないんです。考えることをそこで放棄して欲しくないんです‥‥彼女はそう言いたかったんじゃないかな‥‥
最後に‥‥ちょっと話題から逸れちゃいますが‥‥このDVDを観ていて何度か涙してしまうシーンがあったんですが、個人的に最も涙を堪えきれなかったのは、彼女が子供達の前であの "Raining" を弾き語りするシーン。勿論そこに至るまでの会話込みで、ですが‥‥とにかく全てを観て欲しいです、音楽のみではなくね。
▼Cocco『Heaven's hell』
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