カテゴリー「Compilation Album」の22件の記事

2024年4月30日 (火)

V.A.『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』(2014)

2014年8月19日にリリースされた、カントリー系アーティストによるMÖTLEY CRÜEトリビュートアルバム。日本盤未発売。

かのテイラー・スウィフトを輩出したナッシュビルのカントリー系レーベルBig Machine Recordsが企画した本作。そのテイラーを中心に、当時はカントリーミュージックもロックやハードロックを通過したオルタナティヴなものが増え始めていた時期でもあり、本作はそうした若い世代を中心に、カントリーとクラシックロック/ハードロックのクロスオーバーを目指して制作されたようです。

アルバムにはRASCAL FLATTS、FLORIDA GEORGIA LINE、リアン・ライムス、ジャスティン・ムーア、BIG & RICH、クレア・ボウエン&サム・パラディオ(2人とも俳優で、ドラマ『ナッシュビル カントリーミュージックの聖地』出演)、ELI YOUNG BAND、ローレン・ジェンキンス、THE CADILLAC THREE、THE MAVERICKS、ブラントリー・ギルバート、グレッチェン・ウィルソン、ダリアス・ラッカー(HOOTIE & THE BLOWFISHのフロントマン)と、カントリーに限定せずその周辺で活躍するアーティストが多数集結。また、ポップパンクバンドHEY MONDAYのキャサディー・ポープ(Vo)、ニューメタルバンドSTAINDのアーロン・ルイス(彼はソロではカントリーにチャレンジ)といった変わり種も名を連ねているほか、CHEAP TRICKのロビン・ザンダー(Vo)や、本家からヴィンス・ニールもゲスト参加しています。

アルバムはRASCAL FLATTSによる「Kickstart My Heart」からスタート。「えっ、これカントリー?」って疑問が生じそうサウンドメイクは、モロにハードロック。本家ほどのドギツさこそないものの、ヘアメタルバンドのカバーと言われても通用しそうな仕上がりです。続くFLORIDA GEORGIA LINE「If I Die Tomorrow」もダウンチューニングしたディストーションギターを使用していることから、ハードロック的側面が強く打ち出されている。その一方で、マンドリンのようなアコースティック楽器を取り入れることで、カントリーらしさもしっかり漂わせたアレンジに「なるほど」と納得。この2曲はHR/HMリスナーも入っていきやすいのではないでしょうか。

リアン・ライムス「Smokin' In The Boys Room」は、原曲がもともとカバーということもあって、どうとでも料理しようがありますよね。かなりレイドバックしたアレンジで、ここでようやく本作がカントリーミュージックによるトリビュートだと強く認識し始めます。ジャスティン・ムーア「Home Sweet Home」にはヴィンス・ニールがゲスト参加しており、原曲のダイナミックさを後退させたスモーキー&ソウルフルな仕上がり。キャサディー・ポープ&ロビン・ザンダー「The Animal In Me」はカントリーというよりも、ロック系アーティストによる普通のカバーといった印象かな。

アーロン・ルイス「Afraid」は原曲を一度解体して再構築した、これぞカバーと呼べるような1曲。歌詞のみ一緒といった印象で、言われないと同じ曲だと気づかないのではないでしょうか。BIG & RICH「Same Ol' Situation (S.O.S.)」も同様のテイストで、テンポ感やコード感を変えることで王道カントリー色を強めることに成功しています(ただ、こちらはサビになってようやく「ああ、あの曲か」と気づくのでは)。

クレア・ボウエン&サム・パラディオという俳優さん2人によるカバー「Without You」は、原曲のイメージを残しつつアーシーにカバー。ELI YOUNG BAND「Don't Go Away Mad (Just Go Away)」は原曲が持っていたロッド・スチュアート(というかFACES)色をさらに枯れさせるとこうなるかな、な印象。ローレン・ジェンキンス「Looks That Kill」は原曲の邪悪さ皆無の、レイドバック感満載の良質なカバー。THE CADILLAC THREE「Live Wire」は原曲の印象的なキメフレーズは残しつつもテンポダウンし、スライドギターを取り入れることで滑らかさが強調されています。THE MAVERICKS「Dr. Feelgood」はチカーノミュージック的テイストを強めることで、原曲とは別の意味でのノリのよさが際立つ仕上がりです。

ブラントリー・ギルバート「Girls, Girls, Girls」は原曲に沿ったアレンジ/サウンドメイクで、1オクターブ下で歌うことで“らしさ”を表現。グレッチェン・ウィルソン「Wild Side」は“もしもZZ TOPがMÖTLEY CRÜEをカバーして、女性ボーカルで表現したら?”というお題で制作されたような、なかなか面白な1曲。ダリアス・ラッカー「Time For Change」は「HOOTIE & THE BLOWFISHにこういう曲、ありそうだよね?」って仕上がりで、全然アリ。

以上、全15曲。普段HR/HMしか聴かないというハードコアな方々には少々厳しいかもしれませんが、1枚のロック/ポップスのコンピとしては比較的楽しめる内容ではないでしょうか。リリース当時、結構な頻度でリピートした記憶がありますし、久しぶりに引っ張り出して聴いてみてもその印象は変わることはありませんでした。MÖTLEY CRÜEファンのためのものよりも、MÖTLEY CRÜEをお題にしたカントリー系コンピとしてフラットに接するほうがより本質を掴めるかもしれません。

本作はリリース当時、Billboard 200(アルバムチャート)で最高5位、同Top Country Albumsで2位を記録。なお、リリースから5年後の2019年3月22日には「Home Sweet Home」のシングルエディットとライブバージョン(ともにジャスティン・ムーアのもの)を追加したExtended Editionも配信されています。

 


▼V.A.『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』
(amazon:海外盤CD / MP3

 

2022年11月 8日 (火)

V.A.『THE RETALIATORS: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』(2022)

2022年9月16日にリリースされた映画『THE RETALIATORS』のサウンドトラックアルバム。日本盤未発売。

この映画はMOTLEY CRUEPAPA ROACHなどが所属するレコードレーベル・Better Noise Music系列のBetter Noise Filmsが制作したスリラーホラー映画。MOTLEY CRUEのトミー・リー(Dr)がストリップクラブのDJとしてスポット出演しているほか、FIVE FINGER DEATH PUNCH、PAPA ROACH、ESCAPE THE FATEのメンバーらも劇中で見つけることができる、ホラー映画マニア&メタルファンの筆者のような人間にはたまらない内容となっています(だからといって内容や完成度が高いとは思いませんが。笑)。

サントラに参加するアーティストもBetter Noise Musicに所属するバンド/アーティストばかりで、映画の面テーマである「The Retaliators Theme (21 Bullets)」はニッキー・シックス(B/MOTLEY CRUE、SIXX:A.M.)とジェイムズ・マイケル(Vo/SIXX:A.M.)の書き下ろしであると同時に、MOTLEY CRUEの面々やASKING ALEXANDRIAICE NINE KILLS、FROM ASHES TO NEWのフロントメンバーがコラボ参加。アルバムにはこのほかにもPAPA ROACHやTHE HU、EVA UNDER FIRE、FROM ASHES TO NEW、ASKING ALEXANDRIA、トミー・リー、CLASSLESS ACT、FIVE FINGER DEATH PUNCH、NOTHING MORE、CROSSBONE SKULLY、BAD WOLVES、コリィ・マークス、TEMPT、HYRO THE HERO、ALL GOOD THINGSなどが楽曲提供しています。

また、FROM ASHES TO NEWはアンダース・フリーデン(Vo/IN FLAMES)と、ASKING ALEXANDRIAはWITHIN TEMPTATIONと、CLASSLESS ACTはヴィンス・ニール(Vo/MOTLEY CRUE)、THE HUはジャコビー・シャディクス(Vo/PAPA ROACH)と、BAD WOLVESはスペンサー・チャーナス(Vo/ICE NINE KILLS)と、HYRO THE HEROはダニー・ワースノップ(Vo/ASKING ALEXANDRIA)&ミック・マーズ(G/MOTLEY CRUE)と、コリィ・マークスはタイラー・コノリー(Vo/THEORY OF A DEADMAN)&ジェイソン・フック(G/ex. FIVE FINGER DEATH PUNCH)と、ALL GOOD THINGSはHOLLYWOOD UNDEADと、それぞれコラボレーションが実現。CLASSLESS ACT×ヴィンス・ニール「Classless Act」は既発曲ですが、それ以外は本作のために新たに制作されたものが大半です。

僕は盤(CD)では購入しておらず、bandcampでDL購入したものを聴いているのですが、フィジカルは全18トラック、デジタル/ストリーミングは全27トラックとなっており、デジタル版には曲の合間に映画からのスキットが9トラック用意。CDのほうは単純に曲のみの収録なんでしょうかね。

ニッキーが新たに書き下ろした「The Retaliators Theme (21 Bullets)」はMOTLEY CRUEというよりはSIXX:A.M.寄りの楽曲なので、できることならSIXX:A.M.名義でレコーディングしてほしかったかな。

個人的な収穫はモダンメタルの王道といえるASKING ALEXANDRIA feat. WITHIN TEMPTATIONの「Faded Out」、AC/DCライクなクラシックロック感が強いCrossbone Skully「Evil World Machine」あたりかな。Crossbone Skullyは覆面バンドっぽくてまだその正体がわからない存在ですが、今度の動向を追ってみたいバンドのひとつです。

ニューメタル以降のモダンメタルに、ヒップホップに振り切ったトミー・リー、スリージーなハードロックを主旨するCLASSLESS ACTやCROSSBONE SKULLY、TEMPTなど、Better Noise Musicというレーベルのカタログ的な1枚は、映画云々を抜きにしても気持ちよく楽しめる良質なコンピだと思います。

 


▼V.A.『THE RETALIATORS: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』
(amazon:海外盤CD / MP3

 

2022年11月 5日 (土)

V.A.『RANDY RHOADS TRIBUTE』(2000)

2000年2月23日にリリースされたランディ・ローズ(ex. OZZY OSBOURNE、ex. QUIET RIOT)のトリビュートアルバム。日本限定で制作されたものですが、海外では韓国でも発売されていたようです。

プロデュースや制作の総指揮を担当したのは、SKID ROWACCEPTMETALLICAなどのプロデュースやエンジニアリングで知られるマイケル・ワグナー。それもあってか、参加ミュージシャンは過去に彼と仕事をしたことがあるHR/HM系アーティストが多数名を連ねています。

そのメンツもセバスチャン・バック(Vo/ex. SKID ROW)、ロブ・ロック(Vo/IMPELLITTERI)、ジョー・リン・ターナー(Vo/ex. RAINBOWなど)、マーク・スローター(Vo/SLAUGHTER)、ウルフ・ホフマン(G/ACCEPT)、ジェイク・E・リー(G/RED DRAGON CARTEL、ex. OZZY OSBOURNE、ex. BADLANDS)、ケイン・ロバーツ(G/ex. ALICE COOPER)、ロイ・Z(G/WEST BOUND、TRIBE OF GYPSIES、HALFORDなど)、ジョージ・リンチ(G/ex. DOKKENなど)、山本恭司(G/BOW WOW)、クリス・インペリテリ(G/IMPELLITTERI)、アル・ピトレリ(G/SAVATAGE、ex. MEGADETHなど)、ダイムバッグ・ダレル(G/ex. PANTERA)、チェット・トンプソン(G/ex. HELLION)と、ピュアHR/HM界隈には非常に豪華なもので、曲ごとに異なる組み合わせで華を添えています。なお、リズム隊はマイク・ブリグナーデロ(B/GIANT)&マイケル・カーテロン(Dr/ex. DAMN YANKEES)が固定で担当しています。

日本のレーベル主導ということもあり、その人選こそ日本のメタルファンが好みそうなものですが、内容的には可もなく不可もなくといった印象。そもそも取り上げられている楽曲がオジー・オズボーンの初期2作からなので、選曲も限定されますし、そりゃあこうなるわなといったところでしょうか。だって、前半5曲が『BLIZZARD OF OZZ』(1980年)、後半5曲が『DIARY OF A MADMAN』(1981年)からで、冒頭4曲に関しては『BLIZZARD OF OZZ』とまったく同じ流れですし、耳馴染み良すぎるというか聴き飽きたものがありますから。

ワールドワイドリリースが実現した『IMMORTAL RANDY RHOADS - THE ULTIMATE TRIBUTE』(2015年)と比べると、聴きやすさや安定感は今作のほうが勝るものの、繰り返し聴きたくなるかと言われるとそれはまた別の話。初期QUIET RIOT時代の楽曲を含むこと、サージ・タンキアンSYSTEM OF A DOWN)やトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)みたいにアクの強いアーティストを含むという点で、個人的には『IMMORTAL RANDY RHOADS - THE ULTIMATE TRIBUTE』のほうが好みかな。あくまで僕個人の視点ですが。

ただ、多くのHR/HMリスナーにとってはこの『RANDY RHOADS TRIBUTE』のほうが正義なんでしょうね。その理由も理解できますが。

過去にオジーバンドに在籍したジェイクが大切な「Crazy Train」のソロを崩しまくっていたり、ジョージ・リンチはジョージ・リンチのままだったり、クリス・インペリテリもクリス・インペリテリのままだったりと、まあ面白いっちゃあ面白いんですが、そんな中でランディに対する敬意がしっかりプレイに表れた山本恭司やダイムバッグ・ダレルのソロは、すべてを超越した正義感が伝わります。

シンガーに関しても、もうひとりふたり意外性の強い方が参加していたら、もうちょっと印象が変わったのかも。そもそも、オジーが歌う楽曲ですから、そこまで歌唱力/表現力の高いシンガーを必要するわけではないですから、アクの強さで勝負する人がいてもよかったんだけどな……というのも、ごく個人的な感想です。まあ、この4人(バズ、ロブ・ロック、ジョー・リン・ターナー、マーク・スローター)だと不思議と統一感も伝わったので、全然アリっちゃあアリなんですけどね。

先の『IMMORTAL RANDY RHOADS - THE ULTIMATE TRIBUTE』と違って日本限定作品ということもあり、現在は廃盤状態であり、サブスクでも聴くことができない代物。中古盤ショップを回れば意外と簡単に、かつ安価で入手できますので、気が向いたらチェックしてみてはどうでしょう。

 


▼V.A.『RANDY RHOADS TRIBUTE』
(amazon:国内盤CD

2022年11月 1日 (火)

V.A.『IMMORTAL RANDY RHOADS - THE ULTIMATE TRIBUTE』(2015)

2015年3月3日にリリースされた、ランディ・ローズ(G/ex. OZZY OSBOURNE、ex. QUIET RIOT)のトリビュートアルバム。日本盤は同年3月25日発売。

ランディのトリビュートアルバムは、過去にオジーの楽曲のみを集めた『RANDY RHOADS TRIBUTE』(2000年)が発表されていますが、今作は1970年代のQUIET RIOT時代の楽曲も含む選曲。また、前作がピュアなHR/HM系アーティストによるものなら、今作はランディと同時代に登場したミュージシャンや活動を共にしたアーティスト、90年代以降のモダンなメタルを奏でるミュージシャンなど、より幅広さを感じさせる人選となっています。

まあとにかく、オープニングの「Crazy Train」を聴いて多くのリスナーがひっくり返るのではないでしょうか。だって、ボーカルがサージ・タンキアンSYSTEM OF A DOWN)、ギターがトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)ですからね。正統派メタルリスナーやランディを妄信的に愛する方からは非難の嵐じゃないかな(苦笑)。ただ、個人的にはサージのボーカルにはオジー愛を感じたし、トムのギターもただコピーするんじゃなくて自分らしさを貫きながらランディのスタイルを表現しようとする強い意志も伝わりましたが、いかがでしょうか。

その後も、シンガーはオジーやケヴィン・ダブロウをコピーしつつ(ほとんどティム・リッパー・オーウェンズですが。笑)、ギタリストたちはランディの印象的なフレーズを随所に残しつつ、各々の個性を発揮させる。原曲レイプだ、けしからん!と怒る気持ちもわかりますが、だったらそもそもトリビュートアルバムだのカバーアルバムだの聴かないほうがいいし、これくらい遊んでくれるから聴きがいもあるわけで。個人的にはどれくらい原曲を“壊す”かが楽しみなわけで、そういう意味では本作は……ギターに関しては及第点だけど、それ以外のパートや楽曲アレンジに関しては普通すぎるかな。

そんな中、己を突き通しまくるチャック・ビリー(TESTAMENT)による「Mr. Crowley」が、サージ歌唱の「Crazy Train」並みによかったな。この曲では、今は亡きアレクシ・ライホ(G/BODOM AFTER MIDNIGHT、ex. CHILDREN OF BODOM)の泣きまくりギターも楽しめるので、なお良し。あと、ジョエル・ホーケストラ(G/WHITESNAKE)が頑張りまくりの「Killer Girls」も悪くなかったな。

逆に、実際にオジーバンドに在籍した経験を持つガス・G.(FIREWIND)による「Goodbye To Romance」や、ブラッド・ギルス(NIGHT RANGER)による「Suicide Solution」が、ランディ云々よりも自分らしさ全開なのが笑えます。特にガス・G.、君はやりすぎだ(笑)。

まあ、あれです。こういったカバーアルバムやトリビュートアルバムはマジになりすぎないのが一番。笑いながら「お、意外と良いじゃん」「いやいや、それはないでしょ」とかツッコミ入れつつ楽しむのが、精神衛生上もっとも好ましいと思います。

なお、本作はサブスクでも配信されていますが、2015年のCD/アナログ盤と曲順が若干異なっているのでご注意を(オリジナルの曲順はこのあたりでご確認いただけます)。

 


▼V.A.『IMMORTAL RANDY RHOADS - THE ULTIMATE TRIBUTE』
(amazon:国内盤CD+DVD / 海外盤CD+DVD / 海外盤アナログ / MP3

 

2022年7月 8日 (金)

V.A.『ELVIS (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)』(2022)

2022年6月24日にデジタルリリースされた、映画『エルヴィス』のサウンドトラックアルバム。フィジカル(CD)は同年7月29日発売予定。

本作はアルバムリリースと同日に全米で、7月1日に日本で劇場公開された、エルヴィス・プレスリー生涯を描いた伝記映画内で使用されたプレスリーの楽曲、およびカバー曲をまとめたもの。CD版は全22曲がディスク1枚にまとめられていますが、デジタル版は全37曲(36曲バージョンもあるのでご注意を)/トータル約120分におよぶ大ボリュームの内容となっています。

僕も数日前に劇場で同映画を観てきたばかりですが、それまでヒット曲しか知らないし、アルバムを聴くとしてもベスト盤程度でそこまで熱心に知ろうとしなかったプレスリーのことを、その時代背景含めて非常にわかりやすく学ぶことができる良質な内容で、2時間40分という長尺さをまったく感じさせないほど夢中になれました。あと、50〜60年代の音質で無理して学ぼうとせず、主演のオースティン・バトラーが歌う(あるいは、今の音で伴奏/録音された)テイクを通してプレスリーの楽曲に触れることで、軸にあるブルースやカントリー、ゴスペルの要素の魅力に気づくことができたのは非常に大きかったと思います。また、プレスリーとB.B.キングとの関係性や、若き日のリトル・リチャードの美しさ(そりゃあモデル出身のアルトン・メイソンが演じているんだから美しいわけだ)、かのゲイリー・クラークJr.が「That's All Right」の原曲者であるアーサー・“ビッグ・ボーイ”・クルーダップを熱演している点なども見どころで、こちらもいろいろ勉強になりました。

そういった意味でも、このサントラに収録されたリメイク/カバー曲の数々は2022年の耳で楽しむには十分な内容で、映画に触れたあとに聴くことでより深く楽しめるはず。僕自身、サブスクでリピートするだけでは飽き足らず、Amazonでデジタル版(もちろん37曲バージョン)をダウンロード購入してしまうほどでしたから。

アルバムにはドージャ・キャット、エミネム&シーロー・グリーン、スウェイ・リー&ディプロ、ケイシー・マスグレイヴス、MÅNESKIN、スティーヴィ・ニックス&クリス・アイザック、ションカ・デュクレ(劇中でビッグ・ママ・ソーントン役担当)、レス・グリーニー、ヨラ(劇中ではシスター・ロセッタ・サープ役担当)、デンゼル・カリー、レネーシャ・ランドルフ、ジャズミン・サリヴァン、パラヴィなどがプレスリーの楽曲をカバーしたほか、プレスリーのボーカルテイクを用いた形でのコラボナンバー/リミックス/リメイクにはスチュアート・プライス、プナウ、ナルド・ウィック、マーク・ロンソン、TAME IMPALA、ジャック・ホワイトといった錚々たる面々も名を連ねており、モダンなR&B/ソウル方面だけでなく現代的なロック/ダンスミュージックへの拡散含めて、プレスリーが与えた影響の強さを再認識できる内容と言えるのではないでしょうか。

もちろんプレスリー本家の諸作品に手を出すのは当たり前の話なのかもしれませんが、1971年生まれの僕が聴いても初期の音源は戦前ブルースやチャック・ベリーなど初期のロックンロールに触れるのと同じくらい、気軽に聴けるという感覚が薄くて。曲によってはストーンズの初期作品もつらいですからね。そういった意味では、本作に収録されたプレスリー歌唱曲は一部リミックスやバックトラックをリテイクするなどしているため、現代的な感覚で原曲の良さを味わえる。かつ、カバーやコラボテイクからは曲の良さやその根底にあるルーツなども再認識することができる。そういった意味では、「プレスリー入門」ではなく「プレスリー入門への副読本」と言ったほうが正しいのかもしれません。

ここで地盤を作ってから改めてプレスリーのオリジナル音源に触れると、また以前とは違った印象を受けるんじゃないかな……僕自身はまだそこまで踏み込んではいませんが、いずれはプレスリーの諸作品もしっかりおさらいしてみたいと思いました。そう感じさせてくれただけでも、映画『エルヴィス』とこのサントラが果たした役割は非常に大きかったんじゃないでしょうか。

まあとにかく。劇中でオースティン・バトラーが演じる若き日のプレスリーが本当に美しいので、晩年との差含めぜひ劇場で(できれば一番デカいスクリーン&音響施設がしっかりした劇場で)観てもらいたいです。

 


▼V.A.『ELVIS (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3

 

2022年5月23日 (月)

V.A.『TOP GUN: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』(1986)

1986年5月13日にリリースされた、映画『トップガン』のオリジナル・サウンドトラックアルバム。

本作はアメリカで1986年5月16日、日本では同年12月6日に公開された同名映画の主題歌や劇中挿入歌を集めた作品集。映画『フットルース』での大ヒットに引き続き起用されたケニー・ロギンス、再ブレイク前のCHEAP TRICK、久しくアメリカでのヒットを失っていたBERLIN、グロリア・エステファン率いるMIAMI SOUND MACHINE、『フットルース』でのマイク・レノ(Vo)に続いてバンドでの参加となったLOVERBOYビリー・アイドルとのコラボレーションで知名度を上げていたスティーヴ・スティーヴンスなどバラエティに富んだ面々が参加しています。

本作からはケニー・ロギンス「Danger Zone」(全米2位)および「Playing With The Boys」(同60位)、BERLIN「Take My Breath Away」(同1位)、LOVERBOY「Heaven In Your Eyes」(同12位)といったヒットシングルも多数誕生(CHEAP TRICK「Mighty Wings」もシングルカットされたものの、チャートインせず)。これらのシングルヒットや映画のバカ売れを受け、アルバム自体も全米1位/全英4位を記録。今日までにアメリカのみで900万枚を売り上げるメガヒット作となっています。

大半の楽曲を職業ライター(ジョルジオ・モロダーやハロルド・フォルターメイヤーなど)が手がけたことで、楽曲自体からは各アーティストの“色”はほぼ伝わりません。そこはもう、映画のさまざまな場面を盛り上げるために用意された楽曲ですから、最終的にそれを誰が歌うかってだけですよね(これが原因で、参加を断ったアーティストも多いとのこと)。ヒット曲コンピの側面もある程度ありながらも、あくまで映画ありきの1枚。時代的にもMTVを意識した、映像ありきのコンピレーションアルバムと言えるのではないでしょうか。

実際、本作からシングルカットされた楽曲のMVにはすべて映画の名シーンが効果的に使われており、もはや映画がアルバムを売るための壮大なロングMVなんじゃないかと錯覚するほど。時代ですね。

映画産業的にも音楽産業的にもイケイケだった80年代半ば、本作の大成功は良くも悪くも、その後に続く“メガヒット/豪華アーティスト参加サントラ”の雛形になったことは間違いありません(もちろん、それ以前の『フットルース』サントラのヒットがあってこそですが)。

今聴くと、いろんな意味で時代を感じさせる内容ですが、名実ともにここから唯一ブレイクしたスティーヴ・スティーヴンスにとっては、いろいろ忘れられない1枚なのではないでしょうか。これがなかったら、翌年のマイケル・ジャクソン『BAD』(1987年)参加もなかったでしょうから。

なお、本作は1999年、2006年にそれぞれスペシャルエディション、デラックスエディションとして再発。映画で使用されながらもサントラ未収録だったオーティス・レディング「(Sittin' On) The Dock Of The Bay」、THE RIGHTEOUS BROTHERS「You've Lost That Lovin' Feelin'」といった印象的な楽曲が追加された“完全版”となっており、サブスクではこちらのバージョンを聴くことができるようです。なお、2006年版にはさらにREO SPEEDWAGON「Can't Fight This Feeling」、MR. MISTER「Broken Wings」、EUROPE「The Final Countdown」、STARSHIP「Nothing's Gonna Stop Us Now」、ジェニファー・ラッシュ「The Power Of Love」と映画には一切関係ないものの、同時期にヒットした楽曲5曲が追加されています。

いよいよ映画『トップガン マーヴェリック』が公開間近。今度のサントラは本作のような形ではなく、レディー・ガガやハンス・ジマー、ハロルド・フォルターメイヤーによる楽曲が中心のようですが、懐かしのケニー・ロギンス「Danger Zone」なども再収録されるようなので、若干は「あの頃」を追体験できるかもしれませんね。

 


▼V.A.『TOP GUN: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』
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2022年3月19日 (土)

V.A.『SPAWN: THE ALBUM』(1997)

1997年7月29日にリリースされた、映画『スポーン』のサウンドトラックアルバム。日本盤は同年9月10日発売(日本盤はオリジナルアートワークを採用)。

本作は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』(1993年)のように、当時旬のロック/メタルバンドと先鋭的なクラブミュージックアーティストを組み合わせた、コラボ曲のみで構成されたコンピレーションアルバムで、純粋なサウンドトラック盤とは異なる仕様となっています。また、『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』がメタル/グランジ系バンドとヒップホップアーティストとのコラボレーションが中心だったのに対し、この『SPAWN: THE ALBUM』ではメタル/グランジ/オルタナティヴロック/ニューメタル勢とエレクトロニカ/テクノ系アーティストとのコラボで構成されています。

楽曲の大半はジャンルの異なる2組との共作で制作されたものですが、中にはMETALLICA「For Whom The Bell Tolls」をDJスプーキーがリミックスしたテイクや、ORBITALの1990年のヒット曲「Satan」をカーク・ハメット(G/METALLICA)がギタリストとして参加した形での再録バージョンも含まれており、すべてが純粋な新曲とは言えません。ですが、いろんな変遷を経た2022年の耳で聴くとどれも非常に親しみやすいテイクばかりで、リリース当時よりも今のほうがフィットするような印象を受けます。

ロック系からの参加アーティストはFILTERMARILYN MANSON、カーク・ハメット、KORN、BUTTHOLE SURFERS、METALLICA、STABBING WESTWARD、MANSUNトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)、SILVERCHAIR、ヘンリー・ロリンズ、INCUBUSSLAYER、SOUL COUGHING。テクノ系からはTHE CRYSTAL METHOD、SNEAKER PIMPS、ORBITAL、THE DUST BROTHERS、モービー、DJスプーキー、ジョシュ・ウィンク、808 STATE、THE PRODIGY、ヴィトロ、ゴールディ、DJグレイボーイ、ATARI TEENAGE RIOT、ロニ・サイズとかなりバラエティに富んだ面々が揃っています。

FILTER×THE CRYSTAL METHOD「(Can't You) Trip Like I Do」やマンソン×SNEAKER PIMPS「Long Hard Road Out Of Hell」、KORN×THE DUST BROTHERS「Kick The P.A.」などはそれぞれのバンドのカラーが強く、このままオリジナルアルバムに入っていたとしても不識じゃない仕上がり。ドラムンベース調に味付けされたMETALLICA×DJスプーキー「For Whom The Bell Tolls (The Irony Of It All)」も当時は「……へっ?」と困惑したものの、今聴くと全然アリに思えるから不思議。当時全米1位を記録したノリノリのTHE PRODIGYは「One Man Army」でトム・モレロをギターに迎えたことで、非常にロック色濃厚なトラックを楽しむことができます。

かと思えば、当時はまだブレイク前だったINCUBUSは、早くも独特のテイストを持つ「Familiar」で個性を発揮しまくっているし、SLAYER×ATARI TEENAGE RIOTという最強&最狂の組み合わせによる「No Remorse (I Wanna Die)」では前のめりなアゲアゲドラムンベースを堪能できる。曲によって出来のまちまちはあるものの、全体を通して非常に気持ちよく“踊れる”ラウドロックアルバムではないかと思っています。

とはいえ、リリース当時は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』ほどのインパクトは与えられず、かつメタル寄りリスナーからはあまり歓迎された記憶もなかったかな。チャート的にはBillboard 200(全米アルバムチャート)で最高7位まで上昇し、50万枚以上のヒットになっているので、ここ日本では“早すぎた”1枚だったのかもしれません。

現在のミクスチャーロック的スタンスを考えると、90年代に映画のサウンドトラックとして制作された『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』とこの『SPAWN: THE ALBUM』って、実は非常に重要な役割を果たした作品集だと思うんですよね。日本では評価は低いのかもしれないけど、このタイミングだからこそ改めて触れておきたい重要作だと断言しておきます。

 


▼V.A.『SPAWN: THE ALBUM』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3

 

2021年9月11日 (土)

V.A.『THE METALLICA BLACKLIST』(2021)

2021年9月10日にデジタルリリースされたコンピレーションアルバム。フィジカル(CD、アナログ)は10月1日発売予定。

本作はMETALLICAの5thアルバムにして“ブラックアルバム”の愛称で知られる最大のヒット作『METALLICA』(1991年)の発売30周年を記念して、同作の最新リマスター盤&ボックスセットと合わせて制作・発表された、同作の録り下ろしカバー曲53曲を集めたCD4枚組/アナログ7枚組のコンピレーションアルバム。オリジナルの全12曲を53組が1曲単位でカバーしていくわけですから、そこは当然同じ曲のダブりも発生します。そのへんは、下の内訳を見ていただければご理解いただけるかと。

M-1. Enter Sandman [6組]
M-2. Sad But True [7組]
M-3. Holier Than Thou [6組]
M-4. The Unforgiven [6組]
M-5. Wherever I May Roam [4組]
M-6. Don't Tread On Me [3組/うち1組はM-8との組曲]
M-7. Throught The Never [2組]
M-8. Nothing Elese Matters [13組/うち1組はM-6との組曲]
M-9. Of Wolf And Man [1組]
M-10. The God That Failed [2組]
M-11. My Friend Of Misery [3組]
M-12. The Struggle Within [1組]

M-1、2、4、5、8といったシングルカット曲に人気が集中するのは理解できます。しかし、そんな中でMETALLICA初のスローバラードM-8を13組もがカバーするというのは、非常に興味深いものがあります。まあ、こういったシンプルでわかりやすいバラードのほうが使い勝手も良いのかもしれませんね。

参加アーティストはHR/HMの範疇に含まれるバンドからオルタナ系、パンク/ハードコア、ヒップホップ、R&B、クラブミュージック、ジャズ、ラテン、カントリーなどジャンルさまざま。そういった方々が少なからずMETALLICA(というか『ブラックアルバム』)から影響を受けているというのもあるのでしょうか。「え、その人がその曲をカバーするの?」という驚きから「想定の範囲内!」という安心安定のカバーまで、色とりどりの名曲群カバーを楽しむことができます。

「Enter Sandman」のように個性が確立され切った楽曲はアレンジが難しいのか、基本的にはメインリフを軸に歌やリズムで味付けをしている感が強いかな。そんな中で、フアネスの「Enter Sandman」はメインリフに味付けを加えることで、独特のカラーを作り上げていて好印象。リナ・サワヤマも4つ打ちダンスビートにメタルギターを被せ、歌でぐいぐい引っ張る方法で良き味付けを示しています。WEEZERは途中まで普通かな……と安心していると、途中に“らしい”フレーズを散りばめており、思わずニヤリ。彼らにしては淡白ですが、これはこれでアリかな。

「Sad But True」はリズムがシンプルなので、意外といじりがいがあるのかな。サム・フェンダーのピアノバラード風アレンジも良いし、JASON ISBELL AND THE 400 UNITのブルースロック風も良き。MEXICAN INSTITUTE OF SOUNDもラテンアレンジも、ST. VINCENTの70年代中盤ボウイ風もよかった。

……と細々解説していったらキリがないので、以下はお気に入りのカバーのみ挙げていきます。サイケデリックメタル調に再構築したBIFFY CLYROの「Holier Than Thou」、ゴシック風オルタナロックのCAGE THE ELEPHANT「The Unforgiven」、サイケなヒップホップに進化したJ.バルヴィン「Wherever I May Roam」、ドラムンベース調リミックスのTHE NEPTUNES「Wherever I May Roam」、不穏なピアノの音色にゾクゾクするPORTUGAL. THE MAN「Don't Tread On Me」、メロディを独自に解釈し浮遊感の強いクラブミュージックとミックスさせたトミ・オウォ「Through The Never」、エルトン・ジョンやヨーヨー・マ、ロバート・トゥルヒーヨ、チャド・スミスをバックに従えたマイリー・サイラスの正統派パワーバラード「Nothing Else Matters」、悲しみに満ちた鎮魂歌風のデイヴ・ガーンDEPECHE MODE)「Nothing Else Matters」、逆にメジャーキーに転調したことでパワーポップ風に生まれ変わったMY MORNING JACKET「Nothing Else Matters」、このバージョンで本家にもカバーしてほしいGOODNIGHT, TEXASのオルタナカントリー風「Of Wolf And Man」、スリリングな演奏が心地よいカマシ・ワシントン「My Friend Of Misery」、アコギ2本のみで構築されるインストアレンジがさすがのRODRIGO Y GABRIELA「Struggle Within」……といったところでしょうか。

さすがに4時間以上ある音源集なので、すべてを細々と紐解いていくにはいくら文字があっても足りないくらい。なので、これは配信から半日以上かけて2、3度通して聴いた初日の感想ということで。同じ曲が6曲とか10数曲とか続く構成なので、通して聴く頻度はそう多くはないと思いますが、気になるトラックを複数ピックアップしてプレイリストで聴くというのもアリかな。もちろん、『ブラックアルバム』からの印象的/特徴的なカバーは本作に収録された以外にもたくさん存在するので、それらを混ぜ込んだプレイリスト作りもありかもしれませんね。

 


▼V.A.『THE METALLICA BLACKLIST』
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2020年5月 2日 (土)

V.A.『RONNIE JAMES DIO: THIS IS YOUR LIFE』(2014)

2014年4月初頭にリリースされた、ロニー・ジェイムズ・ディオのトリビュートアルバム。日本盤は海外に先駆け、同年3月下旬に発売されました。

2010年5月にがんのためこの世を去ったディオを追悼すべく、メタル界の重鎮から次世代バンドまで幅広い層が一堂に会したこのアルバム。全14曲(ボーナストラック除く)中、本作のために録音された未発表テイクは10曲と単なる埋め合わせ的アルバムでないことが伺えます。

そのラインナップもロブ・ハルフォードJUDAS PRIEST)やグレン・ヒューズ(ex. DEEP PURPLE)、SCORPIONSMOTÖRHEAD、ビフ・バイフォード(SAXON)といった大御所からMETALLICAANTHRAX、DOROなど直接的なフォロワー、そしてHALESTORM、コリィ・テイラー(SLIPKNOTSTONE SOUR)、KILLSWITCH ENGAGEなどの次世代アーティスト、さらにはヴィニー・アピス、ダグ・アルドリッジ、ジェフ・ピルソン、ルディ・サーゾ、クレイグ・ゴールディ、サイモン・ライト、スコット・ウォーレンといったDIOオールスターズまで、世代的にもかなり広いものとなっています。

本編ラストに収められたDIO「This Is Your Life」(1996年の『ANGRY MACHINES』収録曲)を除く13曲中、RAINBOWナンバーを選んだのが5組、BLACK SABBATHナンバーが3組、DIOナンバーが5組とやはりRAINBOWへの人気が集中。METALLICAに至ってはメドレー形式で4曲取り上げてますからね。ズルいわ(笑)。

サバス曲は当然すべて80年代の……と思いきや、オニ・ローガン(Vo/ex. LYNCH MOB)は『DEHUMANIZER』(1992年)からの「I」を選ぶ通ぶりを発揮。こちらはジミー・ベイン(B)やローワン・ロバートソン(G)といった旧DIO組も参加しています。この曲、こうやって聴くと思ったほどモダンなテイストが少なくて、80年代のディオ・サバスを踏襲してたんだねと気づかされます。

1曲ずつ解説していたらキリがないので割愛しますが、ANTHRAX「Neon Knights」におけるジョー・ベラドナのモノマネぶりが相変わらず最高なことと、SCORPIONS「The Temple Of The King」が完全に自分のものと化していること、METALLICAメドレーの強引ぶりなどは特筆すべきものがあるかなと。もちろん、ほかの楽曲も最高なので、原曲を知らないリスナーでも楽しめるはずです。

なお、日本盤にはSTRYPERによる「Heaven & Hell」、DIO DISCIPLES(DIO最終ラインナップのディオ抜き)による「Stand Up And Shout」を追加収録。ストリーミングなどのデジタルバージョンではHATEBREEDのフロントマン、ジャスタによる「Buried Alive」を聴くことができます。ここはぜひ、日本盤を手に入れておきたいところです。

 


▼V.A.『RONNIE JAMES DIO: THIS IS YOUR LIFE』
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2018年11月25日 (日)

V.A.『MOORE BLUES FOR GARY: A TRIBUTE TO GARY MOORE』(2018)

2018年10月リリースの、ゲイリー・ムーアのトリビュートアルバム。アルバムジャケットにあるように、ゲイリーの諸作品やライブに参加してきたベーシスト、ボブ・デイズリーが中心となって制作された本作には、ニール・カーター(Key)やドン・エイリー(Key/DEEP PURPLE)、エリック・シンガー(Dr/KISS)、グレン・ヒューズ(Vo)に加え、元SKID ROW(「Youth Gone Wild」じゃないほう)のブラッシュ・シールズ(Vo)といったゲイリー・ムーアと馴染み深い面々、ゲイリーの実子であるガス・ムーア(Vo)とジャック・ムーア(G)のほか、豪華ゲストプレイヤーが多数参加しています。

そのメンツもジョン・サイクス(G)やダニー・ボウズ(Vo/THUNDER)、スティーヴ・ルカサー(G/TOTO)、ジョー・リン・ターナー(Vo)、リッキー・ウォリック(Vo/BLACK STAR RIDERS)、スティーヴ・モーズ(G/DEEP PURPLE)、デーモン・ジョンソン(Vo, G/BLACK STAR RIDERS)、ダグ・アルドリッチ(G/THE DEAD DAISIES)などなど。とにかく、無駄に豪華です。

選曲的にはブルースに傾倒した『STILL GOT THE BLUES』(1990年)以降の作品にこだわることなく、初期の『BACK ON THE STREETS』(1978年)から『VICTIMS OF THE FUTURE』(1983年)、『WILD FRONTIER』(1987年)の楽曲も収録。ボブ・デイズリー自身が関わっていることもあってか、『POWER OF THE BLUES』(2004年)という晩年の作品から3曲も選ばれていることがちょっと意外でした。

基本的にはどの曲もゲイリー独特の粘っこいギターフレーズを活かしつつ、オリジナルを尊重しながら随所に自身の個性を取り入れていく手法で、またボブが中心となって制作していることもあって統一感も強く、この手のトリビュートアルバムとしてはかなり水準の高いもののように思います。HR/HM系ギタリストが多く参加しているものの、各自そこまで出しゃばることもないので、本当に気持ちよく楽しめる1枚です。

やはり本作最大の聴きどころは、久しぶりにシーン復帰を果たしたジョン・サイクス参加の「Still Got The Blues (For You)」になるかと。ゲイリーからの影響も大きく、彼と同じTHIN LIZZY(=フィル・ライノット)にもお世話になった関係もあり、そりゃあもうディープなソロを聴かせてくれています。まあこの曲自体、基本的にメインフレーズの繰り返しになるのでそこまでアドリブを効かせることは難しいのですが、特に終盤のソロはサイクスらしいもので、フェイドアウトせずにこのままずっと聴いていたい!と思わせられるはずです。

で、この曲を歌うのがTHUNDERのダニー・ボウズというのが、また最高。思ったよりも感情抑え気味ですが、それがギターのエモーショナルさに拍車をかけているように感じました。うん、これ1曲のために購入してたとしても無駄じゃないと思います。

個人的にはこのほか、リッキー・ウォリックが歌い、スティーヴ・モーズがギターを弾く「Parisienne Walkways」、グレン・ヒューズが最高のボーカルパフォーマンスを聴かせる「Nothing's The Same」、思ったよりもゲイリー・ムーア色の強いダグ・アルドリッチのプレイが印象に残る「The Loner」、デーモン・ジョンソンが歌って弾いてと大活躍の「Don't Believe A Word」あたりがお気に入り。もちろん、そのほかの曲も文句なしに良いです。

来年の2月で、亡くなってから早8年。ゲイリー・ムーアというギタリストがどんな存在だったか、改めてロック/ブルース/HR/HMシーンに与えた影響をこのアルバムから振り返ることができたら、と思います。彼の名前しか知らないという若いリスナーにこそ聴いてほしい1枚です。



▼V.A.『MOORE BLUES FOR GARY: A TRIBUTE TO GARY MOORE』
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