V.A.『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』(2014)
2014年8月19日にリリースされた、カントリー系アーティストによるMÖTLEY CRÜEトリビュートアルバム。日本盤未発売。
かのテイラー・スウィフトを輩出したナッシュビルのカントリー系レーベルBig Machine Recordsが企画した本作。そのテイラーを中心に、当時はカントリーミュージックもロックやハードロックを通過したオルタナティヴなものが増え始めていた時期でもあり、本作はそうした若い世代を中心に、カントリーとクラシックロック/ハードロックのクロスオーバーを目指して制作されたようです。
アルバムにはRASCAL FLATTS、FLORIDA GEORGIA LINE、リアン・ライムス、ジャスティン・ムーア、BIG & RICH、クレア・ボウエン&サム・パラディオ(2人とも俳優で、ドラマ『ナッシュビル カントリーミュージックの聖地』出演)、ELI YOUNG BAND、ローレン・ジェンキンス、THE CADILLAC THREE、THE MAVERICKS、ブラントリー・ギルバート、グレッチェン・ウィルソン、ダリアス・ラッカー(HOOTIE & THE BLOWFISHのフロントマン)と、カントリーに限定せずその周辺で活躍するアーティストが多数集結。また、ポップパンクバンドHEY MONDAYのキャサディー・ポープ(Vo)、ニューメタルバンドSTAINDのアーロン・ルイス(彼はソロではカントリーにチャレンジ)といった変わり種も名を連ねているほか、CHEAP TRICKのロビン・ザンダー(Vo)や、本家からヴィンス・ニールもゲスト参加しています。
アルバムはRASCAL FLATTSによる「Kickstart My Heart」からスタート。「えっ、これカントリー?」って疑問が生じそうサウンドメイクは、モロにハードロック。本家ほどのドギツさこそないものの、ヘアメタルバンドのカバーと言われても通用しそうな仕上がりです。続くFLORIDA GEORGIA LINE「If I Die Tomorrow」もダウンチューニングしたディストーションギターを使用していることから、ハードロック的側面が強く打ち出されている。その一方で、マンドリンのようなアコースティック楽器を取り入れることで、カントリーらしさもしっかり漂わせたアレンジに「なるほど」と納得。この2曲はHR/HMリスナーも入っていきやすいのではないでしょうか。
リアン・ライムス「Smokin' In The Boys Room」は、原曲がもともとカバーということもあって、どうとでも料理しようがありますよね。かなりレイドバックしたアレンジで、ここでようやく本作がカントリーミュージックによるトリビュートだと強く認識し始めます。ジャスティン・ムーア「Home Sweet Home」にはヴィンス・ニールがゲスト参加しており、原曲のダイナミックさを後退させたスモーキー&ソウルフルな仕上がり。キャサディー・ポープ&ロビン・ザンダー「The Animal In Me」はカントリーというよりも、ロック系アーティストによる普通のカバーといった印象かな。
アーロン・ルイス「Afraid」は原曲を一度解体して再構築した、これぞカバーと呼べるような1曲。歌詞のみ一緒といった印象で、言われないと同じ曲だと気づかないのではないでしょうか。BIG & RICH「Same Ol' Situation (S.O.S.)」も同様のテイストで、テンポ感やコード感を変えることで王道カントリー色を強めることに成功しています(ただ、こちらはサビになってようやく「ああ、あの曲か」と気づくのでは)。
クレア・ボウエン&サム・パラディオという俳優さん2人によるカバー「Without You」は、原曲のイメージを残しつつアーシーにカバー。ELI YOUNG BAND「Don't Go Away Mad (Just Go Away)」は原曲が持っていたロッド・スチュアート(というかFACES)色をさらに枯れさせるとこうなるかな、な印象。ローレン・ジェンキンス「Looks That Kill」は原曲の邪悪さ皆無の、レイドバック感満載の良質なカバー。THE CADILLAC THREE「Live Wire」は原曲の印象的なキメフレーズは残しつつもテンポダウンし、スライドギターを取り入れることで滑らかさが強調されています。THE MAVERICKS「Dr. Feelgood」はチカーノミュージック的テイストを強めることで、原曲とは別の意味でのノリのよさが際立つ仕上がりです。
ブラントリー・ギルバート「Girls, Girls, Girls」は原曲に沿ったアレンジ/サウンドメイクで、1オクターブ下で歌うことで“らしさ”を表現。グレッチェン・ウィルソン「Wild Side」は“もしもZZ TOPがMÖTLEY CRÜEをカバーして、女性ボーカルで表現したら?”というお題で制作されたような、なかなか面白な1曲。ダリアス・ラッカー「Time For Change」は「HOOTIE & THE BLOWFISHにこういう曲、ありそうだよね?」って仕上がりで、全然アリ。
以上、全15曲。普段HR/HMしか聴かないというハードコアな方々には少々厳しいかもしれませんが、1枚のロック/ポップスのコンピとしては比較的楽しめる内容ではないでしょうか。リリース当時、結構な頻度でリピートした記憶がありますし、久しぶりに引っ張り出して聴いてみてもその印象は変わることはありませんでした。MÖTLEY CRÜEファンのためのものよりも、MÖTLEY CRÜEをお題にしたカントリー系コンピとしてフラットに接するほうがより本質を掴めるかもしれません。
本作はリリース当時、Billboard 200(アルバムチャート)で最高5位、同Top Country Albumsで2位を記録。なお、リリースから5年後の2019年3月22日には「Home Sweet Home」のシングルエディットとライブバージョン(ともにジャスティン・ムーアのもの)を追加したExtended Editionも配信されています。
▼V.A.『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』
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