COURTNEY BARNETT『THINGS TAKE TIME, TAKE TIME』(2021)
2021年11月12日にリリースされたコートニー・バーネットの3rdアルバム。
全米22位、全英9位のほか本国オーストラリアでは2位まで上昇した前作『TELL ME HOW YOU REALY FEEL』(2018年)から3年半ぶりの新作。作曲に2年を費やし、レコーディングを2020年終盤から2021年初頭にかけてシドニーとメルボルンにて、コートニーとWARPAINTのドラマー、ステラ・モズガワの2人だけで制作された意欲作です。
ガレージロック色の強かった前作と比べると、全体を覆う空気感は穏やかでピースフルなことに気付かされます。それは上記のように、気心知れた仲間とリラックスした環境下で制作できたことによるものが大きいのではないでしょうか。実際、各楽曲からは「愛、再出発、癒し、自分自身の新たな発見」のようなテーマも感じられ、これらが等身大の言葉とシンプルなサウンド/アレンジで表現されているのです。
とにかく、必要な音以外が存在しないアンサンブルは、ステラ・モズガワとのミニマムな制作体制で臨んだ結果でもあり、ある意味では過去2作のファンからは反感を買いかねない作風かもしれません。実際、デビューアルバム『SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES I JUST SIT』(2015年)でいきなり成功を収め、続くフォローアップ作『TELL ME HOW YOU REALY FEEL』や盟友カート・ヴァイルとのコラボアルバム『LOTTA SEA LICE』(2017年)にて、デビュー作のイメージを引き継ぐことで得られたものも大きかったはずです。だからこそ、この3作目は勝負作でもあり、過去からの脱却や新たな可能性を提示する必要もあったのでしょう。
そこにコロナ禍やロックダウンという不可抗力が後押しすることで、変化を求められることになった。キャリア上での変化のタイミングと予期せぬトラブルとが同じタイミングに発生したことで、改めて自分自身と向き合うことができた。本作は単に過去2作と作風が異なるからダメと、簡単に済ませることもできるかもしれない。だけど、それでいいのかなと。
冒頭を飾る「Rae Street」を筆頭に、「Turning Green」や「Take It Day By Day」「If Don't Hear From You Tonight」など、これまでの延長線上にあるといえる楽曲も複数存在する。ですが、それらからじわじわ伝わるポジティブさとリラックスした空気感は、同じことをやろうとしても必然的に違うものへと昇華していることに気付かされます。それがこの3年間でコートニーが得た成果の表れなんじゃないでしょうか。
実はこの変化、ここから始まる彼女の確変のほんの一端なんじゃないかな……そう思わずにはいられません。それくらい、何か新しい物語の始まりを予感させる1枚だなと。この先に生まれるであろういくつかの傑作のあとに初めて、この変化の始まりの1枚を改めて「過渡期」と評するのか、それとも「新たな黄金期の始まり」と評するのか……今この瞬間の評価よりも、数年先にどう捉えらているかのほうが個人的には気になります。
肩の力を抜いてまったり楽しめる。34分の中に山らしい山はないかもしれないけど、だからこそ余計なことを考えずに向き合える良作です。
▼COURTNEY BARNETT『THINGS TAKE TIME, TAKE TIME』
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