BBM『AROUND THE NEXT DREAM』(1994)
1994年5月中旬にリリースされた、BBM唯一のオリジナルアルバム。日本盤は海外から1ヶ月遅れの、同年6月中旬に発売されました。
BBMはBRUCE BAKER MOOREの略で、ジャック・ブルース(Vo, B)、ジンジャー・ベイカー(Dr)、ゲイリー・ムーア(Vo, G)というメンバー3人の苗字の頭文字を取ったもの。90年代に入ってから『STILL GOT THE BLUES』(1990年)、『AFTER HOURS』(1992年)とブルースにどっぷり浸かっていたゲイリー・ムーアが、1993年にジャック・ブルースのバースディライブにゲスト参加したことをきっかけに元CREAM組と邂逅。ゲイリーとしては自身のルーツである伝説的バンドCREAMの面々と一緒にバンドを組む最高の機会を手にし、一方のジャック&ジンジャーからすると「いつまで経ってもエリック・クラプトンが乗り気じゃないCREAM再結成を、それに匹敵する若い才能とともに限りなく近い形で実現することができる」わけで、まあWin-Winな関係だったことが伺えます。
アルバムは全10曲中6曲をゲイリー&ジャックのタッグで制作(一部楽曲にはジャズの系譜にあるキップ・ハンラハンの名前も)で、「Naked Flame」「Wrong Side Of Town」の2曲がゲイリー単独で書いたもの、残り2曲はブルースのカバー(「High Cost Of Loving」「I Wonder Why (Are You So Mean to Me?)」ともにアルバート・キングで知られる楽曲)となっています。
プロデューサーはゲイリーの諸作を手がけてきたイアン・テイラー。なんとなくこの流れから、本作が『STILL GOT THE BLUES』や『AFTER HOURS』の延長線上にあることが想像できることでしょう。実際、アルバムで展開されているサウンド、楽曲はまさにそういったスタイルにあるもの。ですが、ゲイリーはあくまで“バンドのギタリスト”に徹し、ボーカルの大半をジャックが担当している。そこへんはCREAMというレジェンドに対するリスペクトも大きかったのではないでしょうか。オープニングの「Waiting In The Wings」や「Glory Days」なんて、ゲイリーというよりはCREAMのそれですものね。
かと思うと、「Where In The World」のようなCREAMともゲイリーとも異なる(ある意味では両者っぽいですけどね)、毛色の違う新境地ナンバーも含まれている。続く「Can't Fool The Blues」はゲイリーのブルースアルバムに含まれていても不思議じゃない仕上がりで、ここではゲイリーが思いっきり歌いまくっている。「Naked Flame」で聴けるボーカルも味わい深くて、個人的には好印象です(ゲイリー作ですがジャックが歌っているジャジーな「Wrong Side Of Town」も最高です)。
「I Wonder Why (Are You So Mean to Me?)」ではこのトリオらしいヒリヒリした演奏を堪能できますが、全体的にはこれを超えるような緊張感は皆無。むしろ、最初に聴いたときは「……ユルすぎない?」と不満を感じたほどでした。それはCREAMとの比較のみならず、ゲイリーの過去作との比較も含めて。きっとこれが1994年にゲイリー・ムーアという“若造”がジャック&ジンジャーというレジェントに立ち向かうギリギリのラインだったんでしょうね。
歌の比率が低いぶん、ゲイリーのギターは非常に濃厚さを増しており、なかなか聴き応えがあると思います。なので、ゲイリーのアルバムの延長で聴けば間違いなく楽しめるはず。間違っても「CREAMの再現」なんてハードルを高くしないように。
なお、BBM自体は同作を携えたショートツアー後に空中分解。2002年には本作のリマスター&エクスパンド盤が発表されていますが、そちらにはアルバム未収録の「Danzer Zone」「The World Keeps On Turnin'」「One Day」やデモ音源などが楽しめます。この中でも「One Day」は出色の出来で、のちにゲイリーのベストアルバムにも収録されたほど。「Still Got The Blues」にも通ずる泣きのバラードで名曲度が高いものの、アルバム本編から漏れたということはジャック&ジンジャーとやるべき曲ではなかったのかもしれませんね。
▼BBM『AROUND THE NEXT DREAM』
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