Cymbals『sine』(2002)
男女混合トリオ、cymbalsが'02年夏にリリースした、通算3枚目のオリジナルアルバム、「sine」。実は彼等の音に触れるの、このアルバムが初めてだったんですね。手にした理由は簡単。店頭で視聴して一発で気に入ったから。もうそれ以外の何ものでもないですよ。聴いてて気持ちいいサウンド、気持ちいいボーカル、気持ちいい空気感。それがこのアルバムなわけです。
全然予備知識とかなくて、せいぜい女性ボーカル+男性ふたりによるユニット、その中のひとりである矢野博康がモーニング娘。のことが好きで、以前某音楽誌で「日本には天才がふたりいる。ひとりはイチローで、もうひとりが加護ちゃん」と発言したこと(笑)、そしてその後彼は念願のハロプロと仕事上で関わるようになること(「FOLK SONGS」シリーズや市井紗耶香 in Cubic-Crossのアレンジを手掛ける)、等々‥‥ホントその程度の知識で、音に関しては全く想像がつかなかったわけで。で、このアルバムに手を出した時はまだハロプロとのお仕事はする前で、単純に先の音楽誌での発言が頭に残ってただけで「‥‥この人はどういう音を作る人なんだろう?」といった、簡単な興味から聴いてみようと思ったわけで。で、聴いたらハマッた、と。
お洒落なポップス、というイメージが相応しい1曲目"Sine"が静かに流れ去ると、ゴリゴリのベースが‥‥スペイシーなシンセが被さり、ギターが暴れまくる。リズムはドラムンベースの如くただ突き進む‥‥というインスト"Baumkuchen"、そしてエンディングのシンセをそのまま引きずって、爽やかな5月の明け方‥‥といったイメージを彷彿させる"Satellite Sings"。このアルバムの基本形は、打ち込みを主体としたポップス。所々に生楽器(ドラムだったりストリングスだったり)が挿入され、歌モノ(全て英詞)の後にインストが出てきたり、そしてそのインストで新たな空気を作ったところに別の歌モノが‥‥といった、コンセプトがありそうな、なさそうな、そんなアルバム。とにかく聴いてて気持ちいい。メロディの良さもあるし、ボーカル・土岐の歌声・歌い方がそれにマッチしてるのもあるし、非常に練られたバックトラックがそれらふたつの要素を盛り上げたりしてて‥‥上手い表現が見つからないんだけど、ただただ気持ちいい。
丁度リリース時期が重なったこともあり、よく俺の周りではスーパーカーやくるり等との比較を持ち出す人がいたんだけど‥‥当時は「ああ、なるほどねっ?」とか思いながらも、実は今現在のスーパーカーやくるりに全くと言っていい程愛着のない俺は、結構違和感を感じてたのね。けど、あれから1年近く経った今、こうやって改めてこのアルバムを聴いてるんだけど‥‥全然別物だわな、やっぱ。当たり前の話なんだけど、スーパーカーやくるりが今やってるようなサウンドに革新性を求めて音楽性が変化(=進化)していったのに対し、cymbalsの場合は「単純に『この曲』に合ったアレンジが、これだった」といった程度の考えだったのかも、と。それは最新作「Love You」を聴いてしまった今だからこそ、そう思えるようになったのかもね。
あと、英語詞というのも結構重要な要素かも。上の2バンドって、やはり歌詞がかなり耳に(頭に)グサリと入り込んで来るんだけど、cymbalsの場合はブックレットの歌詞や対訳を読むまで内容が判らない。だからただ曲を聴く分に関しては、その曲に対しての決めつけとか固定観念のようなものが生まれない。こういうポップスの場合って、実はそういうのが結構大事かもね、なんて思う瞬間もあったりするので、ええ(但し、全てにおいてそういう事が当てはまるとは思ってませんよ。「だからみんな英語で歌え」とか、そういう意味ではなくて。大した意味もないようなことをひたすら判りやすい日本語で歌ったり、ってのも同じような意味合いを持つと思うんです。だからこそ、ポップスとして成立するんだ、と。ポップスってのはそういうもんでいいと思うし、そうあるべきと個人的には思ってます)。上記2バンドがあくまで「ロックバンド」なのに対して、これは結構大きな違いかな、と。
まぁそうは言ってみても、今更そういうの、どうでもいいんですよね。サウンドが、メロディが、歌声が、ただ気持ちよければそれでいい。だから俺達は今晩もベッドルームで、cymbalsを聴き続けるのです。
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