カテゴリー「David Bowie」の45件の記事

2023年1月13日 (金)

IGGY POP『BLAH-BLAH-BLAH』(1986)

1986年10月23日にリリースされたイギー・ポップの7thアルバム。日本アナログは同年10月21日、同CDは11月21日に発売。

1983年夏からしばらくの間、薬物依存の治療に取り組みつつ日常生活を安定させようと、音楽活動を休止したイギー。同じ頃、盟友デヴィッド・ボウイが過去の共作曲「China Girl」をアルバム『LET'S DANCE』(1983年)でセルフカバーし、シングルとしても大ヒットさせるなど、印税面でイギーをバックアップします。また、ボウイは続く『TONIGHT』(1984年)でイギーをレコーディングに呼び、コーラス参加などで少しずつリハビリさせていくことに。こうしてイギーは少しずつ自身の音楽活動にも着手し始め、新しいアルバムのためにボウイと楽曲制作を進めていきます。

プロデューサーにはQUEENやボウイ、YESDURAN DURANなどで知られるデヴィッド・リチャーズを迎え、元SEX PISTOLSスティーヴ・ジョーンズ(G)や本作のツアーにも参加するケヴィン・アームストロング(G)、ボウイとの交流も深かったマルチプレイヤーのエルダル・キジルチャイとともにレコーディングを敢行。80年代半ばらしい打ち込み主体の、キラキラしたポップ感が異彩を放つアルバムを完成させます。

イギーの持ち味的にはこのテイストは「ちょっと違うんじゃないか?」という声が多いかと思います。が、まずは彼自身を表舞台に引きずりあげることが当時の重要項目であり、本作はその役目を見事に果たす1枚だったのではないでしょうか。事実、リリース当時は「Real Wild Child (Wild One)」や「Cry For Love」のMVがMTVを中心にヘヴィローテーションされましたし。また、「Isolation」などを筆頭に、楽曲の方向性やサウンドの作風的にもボウイが大ヒットを飛ばした『LET'S DANCE』や『TONIGHT』の延長線上にあり、かつボウイが楽曲制作に携わり、コーラスでも参加していることはアピールポイントとしても非常に大きく、当時中学生だった僕のようなイギー初心者にも触れやすかったわけですからね(アラフィフ世代の洋楽リスナーは本作でイギーを初めて知ったという方も少なくなかったことでしょう)。

実際、どの曲も非常によく作り込まれており、ボウイファンなら「これ、自分で歌えよ!」と思ってしまうような良曲も少なくありません。それをイギーが、あえて煮えたぎるパワーを抑えた穏やかな歌声で表現するアンバランスさ。好きなことをするために我慢してこれを歌い切ったという解釈もできるでしょうが、大半の楽曲制作にイギー自身が関わっていることを考えると、実はここで表現されていることも少なからず彼の内面に蓄積されていたものと捉えることもできるはず。事実、ここでの経験はその後の作品にも多々反映されていますしね。

スティーヴ・ジョーンズは「Fire Girl」「Cry For Love」「Little Miss Emperor」(この曲のみアナログ未収録)の3曲でイギーと共作を果たし、「Cry For Love」では彼らしいワイルドなギターソロも披露。当時のスティーヴはアンディ・テイラー(元DURAN DURAN)とのコラボレーションなどで経験を蓄積していた最中で、これらの経験が続く初ソロアルバム『MERCY』(1987年)へとつながっていきます。

セールス的にも全米75位/全英43位とまずまずの結果を残し、アメリカではソロデビュー作『THE IDIOT』(1977年)の全米72位に続く成功を収めました。この成功があったから、坂本龍一のアルバム『NEO GEO』(1987年)参加(「Risky」を歌唱)が実現したり、本領発揮の『INSTINCT』(1988年)が生まれたりしたわけですからね。

 


▼IGGY POP『BLAH-BLAH-BLAH』
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2023年1月11日 (水)

IGGY POP『THE IDIOT』(1977)

1977年3月18日にリリースされたイギー・ポップの1stソロアルバム。

THE STOOGES解散後にデヴィッド・ボウイと出会い、彼のバックアップでIGGY & THE STOOGESとして再始動。『RAW POWER』(1973年)を完成させるも、活動がままならずままバンドは空中分解し、イギーは重度の薬物依存状態に陥ります。そんなイギーに再び手を差し伸べたのがボウイ。アメリカからベルリンへと彼を引き込むと、当時ボウイが興味を持っていたジャーマンロック/クラウトロックに興味を持ち始めます。

その流れから、2人のコラボレーションがスタート。ベーシックトラックをある程度固めたところで、トニー・ヴィスコンティが介入。カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といったボウイ『LOW』(1977年)の参加メンバーが追加レコーディングを行なって、アルバムを完成に導きます。

ちなみに、『LOW』のリリースは1977年年1月で、追ってこの『THE IDIOT』がリリースされていますが、実際の制作期間は『THE IDIOT』が1976年7〜8月で、『LOW』は同年9〜11月。つまり、『THE IDIOT』は『LOW』の習作ともいえる1枚であり、2作は兄弟のような存在であることが伺えます。あとは、ブライアン・イーノがいるかいないかの違いか。そこはかなり大きいですものね。

イギーは本作について「a cross between James Brown and Kraftwerkと表現していますが、なるほど納得の例えです。THE STOOGESにおけるダウナーな部分を強調させた楽曲群と、適度に取り入れられたエレクトロの要素、パンクというよりはのちのポストパンク的にも映るその方向性は、ある意味では“早すぎた1枚”と言えるかもしれません。しかし、これがあったからのちのJOY DIVISIONへとつながり、さらにはDEPECHE MODENINE INCH NAILSへと続いていった……というのは大袈裟でしょうか。

イギーらしい躍動感は次作『LUST FOR LIFE』(1977年)に譲るものの、アート性や実験性の豊かさにおいては本作のほうが優っており、そこも含めてボウイの色が強く出てしまった感は否めません。のちにボウイ自身が『LODGER』(1979年)で歌詞とタイトルを改め「Red Money」と題してセルフカバーした「Sister Midnight」、メガヒット作『LET'S DANCE』(1983年)で取り上げた「China Girl」など、彼自身の思いれが強い楽曲が並んでいるのかもしれません。

長尺で実験性の強い「Dum Dum Boys」や「Mass Production」、ボウイのサックスが煌びやかさを生み出す「Tiny Girls」、そして映画『トレインスポッティング』で「Lust For Life」とともに印象的なシーンで使用された「Nightclubbing」など、聴きどころ満載。イギーのヘロヘロボーカルも妙にマッチしていて、気持ちよく楽しめる1枚です。

 


▼IGGY POP『THE IDIOT』
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2023年1月10日 (火)

DAVID BOWIE『DAVID BOWIE』(1967)

1967年6月1日にリリースされた、デヴィッド・ボウイの記念すべき1stアルバム。

ボウイは1964年にDAVIE JONES WITH THE KING BEES名義でシングル「Liza Jane」でレコードデビューを果たしますが、以降THE MANISH BOYS、DAVIE JONES WITH THE LOWER THIRD名義でシングルを複数枚発表するものの鳴かず飛ばず。1996年にシングル「Do Anything You Say」にて名義を現在のデヴィッド・ボウイへと変更し、同年後半にDecca Recordsが新設したレーベル・Deram Recordsと契約し、12月に「Rubber Band」をリリースします。翌1967年4月には「The Laughing Gnome」を発表し、同年6月1日にシングル「Love You Till Tuesday」とともにこの1stアルバムを同時リリースすることになります。

全14曲が収録された本作は、プロデューサーにマイク・ヴァーノン(FLEETWOOD MAC、ジョン・メイオールなど)、エンジニアにガス・ダッジョ(エルトン・ジョンなど。その後の「Space Oddityのプロデューサー)を迎えて制作。全楽曲がボウイの書き下ろしで、先の3枚のシングルのうち「The Laughing Gnome」のみ未収録となります(ほか2曲に関してもシングルとは別バージョンで収録)。

さて、気になる内容ですが……60年代半ば〜後半らしいマージービートを下地にした、スウィング感の強いビートポップとフォーキーなサウンドが中心。当時のレーベル的にはボブ・ディラン的な詩人としてボウイを打ち出したかったようですが、確かにその片鱗も随所に感じられるものの、ではそれが特出した才能かと言われると、この時点では未開花と言わざるを得ません。ですが、メロディメイカーとしての才能はすでにこの時点でかなり魅力的なものがあり、続く2ndアルバム『DAVID BOWIE』(1969年)のかけらもわずかながら見つけることができるはずです。

Deram時代のボウイはシングルヒットを飛ばすこともできず、アルバムもチャートインせず。結局、同レーベルとの契約は3枚のシングルと1枚のアルバムのみで終了してしまいます。その後、ボウイがシングル「Space Oddity」でシーンへと返り咲く(当時、全英5位を記録)までに、さらに2年の歳月を要することになるわけです。

そういう作品ということもあり、1990年にEMIが着手したボウイのカタログ・リイシュー企画には(レーベルが違うということもあり)本作は含まれておらず、しばらくはボウイのキャリアからスルーされてきました。が、1997年にDecca Recordsから本作収録曲+アルバム未収録のシングル&未発表音源にて構成された企画盤『DAVID BOWIE: THE DERAM ANTHOLOGY 1966-68』がリリースされたことを機に、わずかながら再注目されるように。サブスク全盛の現代においては、ほかの代表作とあわせて楽しむことができるようになりました。良い時代になったものです。

後年、ボウイは本作制作期の楽曲を中心に再録したアルバム『TOY』に2000年頃取り掛かりますが、結局お蔵入りとなり、2021年まで日の目をみることはありませんでした。世の中的には黒歴史のような1枚になっていましたが、当の本人にとってはキャリアの(真の意味での)原点であり、技術や才能を開花させた晩年にもう一度ちゃんとした形として残したかったという思いも強かったのかもしれませんね。

 


▼DAVID BOWIE『DAVID BOWIE』
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DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980)

1980年9月12日にリリースされたデヴィッド・ボウイの14thアルバム。

実験性の強かった“ベルリン三部作”は、その音楽自体に対する評価は非常に高かったものの、セールス的には決して大成功とは言い難く、特にシングルヒットに関して言えば「Sound And Vision」の全英3位、「Boys Keep Swinging」の同7位以外はTOP10入りを逃しています(かの「"Heroes"」でさえ最高24位ですし)。そのポップ嗜好が前作『LODGER』(1979年)あたりから少しずつ復調し始め、従来の実験性をポップ感が上回り始めたのがこの『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』となります。

共同プロデューサーにはトニー・ヴィスコンティ、レコーディングにカルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった鉄壁の布陣を迎えるも、過去3作でタッグを組んだブライアン・イーノ(Synth)は今作では不参加。代わりにロバート・フリップ(G/KING CRIMSON)、ロイ・ビタン(Piano)、ピート・タウンゼント(G/THE WHO)といった豪華な布陣が名を連ね、ボウイが思い描く新たなスタイル完成の手助けをしています。

オープニングを飾る「It's No Game, Pt.1」での日本語ナレーションをフィーチャーしたアバンギャルドさに不意を突かれるも、以降は前作で試みたニューウェイヴ的手法が見事に開花。ロバート・フリップらしさ万歳のギターフレーズを随所に散りばめた「Scary Monsters (And Super Creeps)」、自身の代表曲「Space Oddity」の主人公・トム少佐は実は宇宙飛行士ではなく単なるジャンキーだったと歌う「Ashes to Ashes」、王道感の強いミディアムロック「Teenage Wildlife」など、時代とリンクした楽曲群がズラリと並びます。

この中から「Ashes to Ashes」が、シングルとしては「Space Oddity」(1975年)以来となる全英1位を獲得(セールス面でも本国で70万枚近いヒットに)。続く「Fashion」も全英5位/全米70位と好成績を残し、さらに「Scary Monsters (And Super Creeps)」(全英20位)、「Up The Hill Backwards」(同32位)とスマッシュヒットを続けます。特に本作リリース後には、QUEENとのコラボ曲「Under Pressure」(1981年)の全英1位/全米29位という話題作もあり、この良い流れを続く『LET'S DANCE』(1983年)での最盛期へとつなげていくことになります。

実験性と大衆性を天秤にかけ、大衆性を若干強目に打ち出したことで、独自の先鋭的な個性を見事に保ちながら音楽的/セールス的にも成功を手にしたボウイ。『LET'S DANCE』では大衆性に全振りして旧来のファンを不安に陥れるものの、その采配含めてデヴィッド・ボウイ。僕は『LET'S DANCE』からボウイに入った世代ですが、この頃の空気感をリアルタイムで味わってみたかったなと思わせられる1枚です。

 


▼DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』
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2023年1月 9日 (月)

DAVID BOWIE『LODGER』(1979)

1979年5月18日にリリースされたデヴィッド・ボウイの13thアルバム。当時の邦題は『ロジャー(間借人)』。

『LOW』(1977年)『"HEROES"』(1977年)と続いた“ベルリン三部作”の最終作。ただし、レコーディング自体はスイス・モントルーで行われており、制作にトニー・ヴィスコンティ(プロデュース)やブライアン・イーノ(Synth)らが参加していることから三部作のひとつと捉えられています。

レコーディングにはこのほか、カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と過去2作の布陣に加え、エイドリアン・ブリュー(G/のちのKING CRIMSONに加入)、ロジャー・パウエル(Synth/当時UTOPIA)、サイモン・ハウス(Mandolin, Violin/当時HAWKWIND)が参加。作風的には『"HEROES"』の流れを汲むエモーショナルでソウルフルなロックサウンドと、ニューウェイヴにも通ずる多国籍感の強いポップチューンで構成された、過去2作とも若干異なる世界観が展開されています。

前作の延長線上にある「Fantastic Voyage」からスタートする本作は、アフリカンミュージック的ビートとコーラスワークを取り入れた「African Night Flight」、レゲエテイストと東欧的エキゾチックさを包括する「Yassassin」、浮遊感の強いプラスティックソウル「D.J.」など、かつてないほどのバラエティ豊かさを見せます。こういった作風が当時勃発し始めていたニューウェイヴ=アフター・パンクとも自然と重なり、改めてボウイがやろうとしていたことが時代と呼応していたという事実に驚かされることになります。

その後もパワフルさとエモーショナルさに満ち溢れた「Look Back In Anger」、80年代のスタイルとも重なる「Boys Keep Swinging」、イギー・ポップに提供した「Sister Midnight」(アルバム『THE IDIOT』収録)の別バージョン「Red Money」など、統一感よりも拡散方向を意識した楽曲が続きます。ジャーマンロック/クラウトロックにワールドミュージックを掛け合わせることで、さらに新たなジャンルを作り上げようとする攻めの姿勢は過去2作同様。ただ、その実験的な側面がより大衆性なものへとシフトし始めている印象も少なからず見受けられます。

そういった考えが、続く『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980年)へとつながっていくのかなと考えると、実は“ベルリン三部作”のピークは2作目『"HEROES"』であり、すでにこの『LODGER』は次のステップへの過渡期に突入していたんだと気付かされます。本当にここまでのボウイの試行錯誤の繰り返しは、聴いていて面白くてたまりませんね。

 


▼DAVID BOWIE『LODGER』
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2023年1月 8日 (日)

DAVID BOWIE『"HEROES"』(1977)

1977年10月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの12thアルバム。当時の邦題は『英雄夢語り(ヒーローズ)』。

前作『LOW』(1977年)からそれほど間を置かずに制作/リリースされたこともあり、テイストや作風は『LOW』を踏襲したもの。プロデュースもトニー・ヴィスコンティが携わり、レコーディングもブライアン・イーノ(Synth)やカルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と前作と同じ布陣で臨んでいますが、ここに元KING CRIMSON(当時)のロバート・フリップ(G)が加わることで、より個性的なサウンドを生み出すことに成功しています。

歌モノ中心の前半(アナログA面)、実験的なインスト中心の後半(アナログB面)という構成は前作同様ですが、前作よりもロック色が強まっているのが今作の特徴か。また、前作の楽曲が『STATION TO STATION』(1976年)から引き継ぐヒンヤリ感でまとめられていたのに対し、今作は70年代前半のボウイが持っていたエモーショナルさが復調しており、実験性やアバンギャルドさを上回る王道感を高めることに成功しています。

特に前半パートはタイトルトラック「"Heroes"」をハイライトに、「Beauty And The Beast」「Joe The Lion」など、近作で会得したスタイルをより良い形に昇華。「"Heroes"」に関しては、ロバート・フリップのギターがいい味を出しており、楽曲自体がもつアンセム感をより強調させています。

一方で、アルバム後半は前作における「Speed Of Life」にあたる「V-2 Schneider」を導入に、続く「Sense Of Doubt」でより深みのあるダークなサウンドを展開。ジャーマンプログレ/テクノの影響下にあるダウナーなアレンジは、前半のエモさと対極にあり、この対比/緩急含め聴き応えのある構成を作り上げています。

そして、アルバムラストを歌モノ「The Secret Life Of Arabia」で締めくくるのもなお良し。実験性の強いインストのみで固めるのではなく、最後に再びセクシーなボーカルなナンバーを置くからこそ、単に「前半/後半と色の違うアルバム」だけでは終わらなかった。そこを含め、トータルバランスに優れた1枚ではないでしょうか。『LOW』と甲乙つけ難い完成度の傑作です。

 


▼DAVID BOWIE『"HEROES"』
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DAVID BOWIE『LOW』(1977)

1977年1月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの11thアルバム。

『YOUNG AMERICANS』(1975年)『STATION TO STATION』(1976年)と立て続けにアメリカでアルバム制作を続けたボウイは、この頃ドラッグまみれで心身ともに疲弊状態。ここから抜け出そうとベルリンへと身を移し、プロデューサーに盟友トニー・ヴィスコンティを迎えて新たな創作活動を開始します。

レコーディングにはROXY MUSICの初期メンバーであるブライアン・イーノ(Key)が全面的に参加。また、カルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった前作からの面々もベルリンまで飛び、さらには当時ボウイとの交流が復活し始めていたイギー・ポップもコーラスで加わっています。ここでの共演は、のちのイギーのアルバム『IDIOT』(1977年)や『LUST FOR LIFE』(1977年)まで続いていくことになります。

のちに“ベルリン三部作”と呼ばれる連作の第1弾となる今作は、前作『STATION TO STATION』でもその片鱗を見せ始めていたKRAFTWERKなど実験的なジャーマンロックからの影響が表出。アナログA面にあたる冒頭7曲のうち5曲(M-2「Breaking Glass」からM-6「Be My Wife」)が歌モノ楽曲で、アナログB面(M-8「Warszawa」以降)がインストゥルメンタルナンバー中心という異色の構成となっています。特に、「Warszawa」以降の4曲は前衛的なエレクトロニック/アンビエントミュージックを独自の解釈で表現しており、ブライアン・イーノから受けた影響がより濃く表れたスタイルと言えるでしょう。

一方、歌モノ楽曲で表現されるのは、『STATION TO STATION』で試みた独自のホワイトファンク/プラスティックソウルをよりヨーロピアンテイストで進化させたものばかり。イーノらしい電子音が随所に加わることで、その良い意味でのノイジーさが心地よく感じられ、『YOUNG AMERICANS』から、いやもっと言えば『DIAMOND DOGS』からの試行錯誤がようやく結実したと言っても過言ではありません。

母国イギリスではパンクロックが新たなムーブメントを生み出そうとする中、喧騒から離れベルリンで新たな形を完成させたボウイ。一見別々の道を歩んでいるように映りますが、ここで生み出した方向性がのちのニューウェイヴで交差することになるのですから、なんとも面白いものです。

 


▼DAVID BOWIE『LOW』
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2023年1月 7日 (土)

DAVID BOWIE『STATION TO STATION』(1976)

1976年1月23日にリリースされたデヴィッド・ボウイの10thアルバム。

前作『YOUNG AMERICANS』(1975年)でブラックミュージックからの影響をストレートに表現したボウイでしたが、改めて「白人の自分がブラックミュージックを表現すること」と真摯に向き合い始めます。その結果、ストレートにブラックミュージックを演奏するのではなく、ヨーロッパ人である自分の感性を通過させることが今作のテーマへとつながっていきます。

前作の制作にも携わったハリー・マスリンを共同プロデューサーに、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)、ロイ・ビタン(Key)といった名うてのセッションミュージシャンをレコーディングに迎えてLAにて制作。その結果、ヨーロッパ特有の翳りやひんやりとした空気感を孕んだ独自のソウルミュージックを構築することに成功しています。

オープニングを飾るタイトルトラック「Station To Station」は10分以上におよぶ、プログレッシヴな大作。文字通りのプログロックというよりは初期KRAFTWERKにも通ずるテイストが感じられ、続く『LOW』(1977年)以降に取り組む電子音楽への片鱗も見え隠れします。まさにこの1曲に本作のすべてが集約されてる……というのは過言でしょうか。そういった意味では、『YOUNG AMERICANS』と『LOW』をつなぐ過渡期的1枚なのかもしれません。

もちろん、前作の延長線上にある「Golden Years」のような曲もあるし、その流れを汲みつつ次作以降の香りを漂わせる「TVC15」や「Stay」みたいな曲もある。さらに、80年代以降のアダルト路線を先取りしたような「Wild Is The Wind」(ニーナ・シナモンのカバーでお馴染みの1曲)まで存在し、一定のトーンを保ちながらも実は意外といろんなことにトライしているという、非常に面白い1枚だったりします。

自身が“プラスティックソウル”と呼んだ『YOUNG AMERICANS』がどこかユルさを孕んだ“迷い”の1枚だとしたら、その“迷い”がひとつのスタイルへと結実していく予兆を示したのがこの『STATION TO STATION』だったのかな。そういった意味では、実は70年代の諸作品においてもっとも重要なアルバムかもしれません。

 


▼DAVID BOWIE『STATION TO STATION』
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2023年1月 6日 (金)

DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』(1975)

1975年3月7日にリリースされたデヴィッド・ボウイの9thアルバム。

前作『DIAMOND DOGS』(1974年)でグラムロック期からなんとか抜け出そうと踠き続けたボウイ。同作を携えたツアーでもその兆候は見受けられ、ツアー後半ではソウルミュージックに接近したサウンド/パフォーマンスを見せ始めます。そこに活路を見つけたのか、次作のレコーディングをフィラデルフィア・ソウルの本拠地といえるSigma Sound Studiosにて実施。プロデューサーには盟友トニー・ヴィスコンティを迎え、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ウィリー・ウィークス(B)、アンディ・ニューマーク(Dr/SLY AND THE FAMILY STONEなど)、マイク・ガーソン(Key)、デヴィッド・サンボーン(Sax)といった名手たちのほか、ジョン・レノン(G, Vo)やルーサー・ヴァンドロス(Vo)など豪華ゲストも参加した、非常にゴージャスな“プラスティック”ソウルアルバムに仕上がっています(「プラスティックソウル」という呼称は、ボウイ自身の発言より)。

タイトルトラック「Young Americans」の緩やかさに度肝を抜かれるオープニングから、ボウイのセクシーな低音が見事に活かされたソウルバラード「Win」、分厚いコーラスがカッコいいルーサー・ヴァンドロスとの共作「Fascination」、楽曲自体は従来のボウイらしさに満ち溢れているのにアレンジによってユルユルのソウルチューンへと生まれ変わった「Right」と、グラムロックのグの字すら見つけられないその内容は、衝撃以外の何ものでもありません。初めてアルバムを通して聴いたときの驚き、今でもよく覚えています。

ただ、80年代の「Let's Dance」がリアルタイム組の筆者にとっては、驚きと同時に納得できるものも正直あったわけで。70年代半ばのリアルタム組とは違った驚きだったことだけは、しっかり付け加えておきます。そりゃあ、バリバリのグラムロックが数枚続いたあとにいきなりこれを聴かされたら、驚かないほうが不思議でしょ。

ロック中心の時代と比べて全体的にテンポダウンした楽曲が多いこともあってか、1曲1曲の尺が長いのも本作の特徴。全体的に5分前後の楽曲中心で、「Somebody Up There Likes Me」に至っては6分半。なもんだから全8曲で40分という、それまでの彼のアルバムの中では曲数の少なさが特徴的です。

その「Somebody Up There Likes Me」から始まるアルバム後半、続く「Across The Universe」はお馴染みジョン・レノンによるTHE BEATLES時代の名曲。これをバンドアレンジでソウルフルに歌い上げるという荒技は、「Fame」の制作にジョンが協力してくれたことに対するお礼もあるのでしょうか。原曲の印象が強いこともあり、最初は違和感バリバリでしたが、これはこれで良いんじゃないかな。で、同じテンポ感の「Can You Hear Me」を経て、最後は自身初の全米1位を獲得したファンクチューン「Fame」で締めくくり。宮沢りえのカバーでもお馴染みの1曲です。実は筆者、最初にこの曲に触れたのは1990年のリメイクバージョンからだったので、当初はこの曲の魅力に気付けずにいました。なので、あとからオリジナルバージョンを聴いてそのカッコよさを再認識した次第です。

ここで会得したスタイルが、その後の『LET'S DANCE』(1983年)へとつながっていくことを考えると、一見気の迷いのように見えるこの経験も非常に重要だったことが理解できるはず。若干のユルさは気になりますが、忘れた頃に聴きたくなる1枚でもあります。

 


▼DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』
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2023年1月 5日 (木)

DAVID BOWIE『DIAMOND DOGS』(1974)

1974年5月24日にリリースされたデヴィッド・ボウイの8thアルバム。初出時の邦題は『ダイアモンドの犬』。

『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)『ALADDIN SANE』(1973年)で架空のロックスター“ジギー・スターダスト”を演じ続けたボウイは、強く根付いてしまったイメージから脱却するために1973年7月3日、イギリスでの最終公演にて“引退”を宣言。カバーアルバム『PIN UPS』(1974年)でティーンエイジャーの頃の気持ちを取り戻しつつ、次に向けたステップの一環としてバックバンドTHE SPIDERS FROM MARSを解散させます。

そうした流れの中で出会ったジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』に感銘を受けたボウイは、同作からインスパイアされたアルバム制作に取り掛かります。しかし、オーウェルの遺族から『1984年』を使った作品作りを拒否されることに。同じ頃にウィリアム・バロウズが一躍有名にした“カットアップ”手法(ひとつの文章を切り刻み、ランダムに並べ直して新たな文章を作り上げる技法)を用いた作詞術に興味を持ち、新作に取り入れることに。結果として『1984年』とは異なる、「半人半獣の主人公が退廃した未来を予言する」という新たなコンセプトを立ち上げ、『DIAMOND DOGS』というアルバムを完成させます。

ボウイ自身がプロデュースを手がけ、ストリングスのみ旧友トニー・ヴィスコンティが担当。レコーディングではボウイ自身が大半のギターを演奏し、マイク・ガーソン(Key)やエインズレー・ダンバー(Dr)といった前作からのメンバーやハービー・フラワーズ(B)、トニー・ニューマン(Dr)、アラン・パーカー(G/「1984」のみ)、アール・スリック(「Rock'N Roll With Me」のみ)といった面々が脇を固めます。

音楽的には「Diamond Dogs」や「Rebel Rebel」などを筆頭に、グラマラスなロックンロールが中心。過去2枚のオリジナルアルバムの延長線上にある1枚と言えるでしょう。しかし、先にも書いたように作詞の手法が変わったことにより、言葉から受けるイメージに変化が生じていたり、オープニングのSE的トラック「Future Legend」からM-6「Rebel Rebel」まで続くコンセプチュアルな作風などもあり、単なるグラムロックとは異なる印象を受けます。

後半もその作風は踏襲されているのですが、徐々にダークさや穏やかさが強まっていきまず。そんな中、ファンキーなギターストロークとストリングスを大々的にフィーチャーしたスリリングな「1984」(あれ、しっかり使っちゃってるし。笑)や「Big Brother」など、ソウルフィーリングが強まった楽曲も見つけることができ、ボウイなっりに試行錯誤していることも伺えます。

アルバムとしてのインパクトは過去2作には及ばず、やはり過渡期という印象は拭えませんが、本作が続く『YOUNG AMERICANS』(1975年)で迎える新たな変革期への序章になるとは、リリース当時は誰も予想できなかったのではないでしょうか。

 


▼DAVID BOWIE『DIAMOND DOGS』
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