KERRY KING『FROM HELL I RISE』(2024)
2024年5月17日にリリースされたケリー・キングの初ソロアルバム。
言わずと知れたSLAYERのギタリスト、ケリー・キングがバンドのライブ活動休止(2019年)後に初めて取り組んだソロプロジェクト(本作リリースが解禁されたあとに、SLAYERは今年いくつかのフェスで数本ライブを行うことを発表)。2020年初頭から盟友ポール・ボスタフ(Dr/SLAYER)とともに本プロジェクトにじっくり取り掛かり、DEATH ANGELのマーク・オセグエダ(Vo)、MACHINE HEADやVIO-LENCEなどで名を馳せたフィル・デンメル(G)、HELLYEAHのカイル・サンダース(B)というスラッシュメタル/ヘヴィミュージック界のオールスターメンバーと呼べるような布陣が揃ったところで、2023年に本作を一気に完成させます。
プロデューサーに名手ジョシュ・ウィルバー(GOJIRA、LAMB OF GOD、MEGADETH、TRIVIUMなど)を迎えた本作(ケリーにとっては初タッグになるのかな?)。首尾一貫して王道かつ正統的なオールドスクール・スラッシュメタルが展開されており、全13曲/約46分まったく息つく間を与えないほどの緊張感と殺傷力を持った、いかにもケリー・キングらしい刺々しいサウンドを楽しむことができます。
期待感を十分に高めてくれるオープニングSE「Diablo」からストロングスタイルの疾走スラッシュナンバー「Where I Reign」へと続く“お約束”的な流れや、緩急に富んだドラマチックなアレンジの「Crucifixation」、ケリーらしい不穏なリフワークを楽しめる「Tension」からメドレーのように続くショートチューン「Everything I Hate About You」など、切れ味鋭いアップチューンと重々しいミドルナンバーがバランスよく配置された構成は、SLAYERファン、いや黄金期のUSスラッシュメタルを愛重してきたリスナーにはたまらないものがあるのではないでしょうか。楽曲の1つひとつの完成度も非常に高く、目新しさこそないものの、ケリー・キングというアーティストに我々が求める要素はすべてここに詰め込まれているだけに、満足度は非常に高いはずです。
また、マーク・オセグエダのボーカルスタイルもどことなくトム・アラヤを彷彿とさせるものがあり(こんなに似てたっけ? 意図的に“寄せてる”のか、それともケリー側のリクエストなのか)、その楽曲スタイルや作風も相まって、「もしSLAYERが『REPENTLESS』(2015年)に続くスタジオアルバムを制作するとしたら……」なんて“Ifの世界”まで楽しめてしまう。SLAYERの“ブレイン”でありスラッシュメタルのオリジネーターのひとりであるケリーが、がそのSLAYERをお題にベイエリア・オールスターズと一緒に「存在するはずのないSLAYERの次作」を作ってしまった。本作はそんな解釈すら可能な1枚ではないでしょうか。
オールドスクールなヘヴィメタル、そしてエクストリームミュージックをとことん愛する者なら間違いなく琴線に触れるはず。局地的には「2024年を代表するような1枚」と呼べる本作を携え、ケリー・キングは現在ツアーを行なっている最中ですが、秋にSLAYERが稼働してしまうことで一時的に活動がストップしてしまいそう。そのあとでもいいので、できればこのメンツでの来日を実現させ、定期的に新作を届けてくれるとありがたいです。
▼KERRY KING『FROM HELL I RISE』
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