前作『SOUNDS OF THE UNIVERSE』(2009年)から約4年ぶりの新作にして、Columbia Records移籍第1弾アルバム。前作発表後、デイヴ・ガーン(Vo)の悪性腫瘍発覚というトラブルがあったものの、Teenage Cancer Trustの一環で行われたチャリティライブ(2010年2月)では元メンバーのアラン・ワイルダー(Key)と「Somebody」で約15年ぶりに共演するといううれしいサプライズもありました。
新たな環境から発表された本作ですが、プロデュースを担当したのは『PLAYING THE ANGEL』(2005年)、『SOUNDS OF THE UNIVERSE』を手がけてきたベン・ヒアリー(BLUR、DOVES、ELBOWなど)。これまでどおり、エレクトロサウンドとオーガニックな生音を程よいバランスで融合させた、彼らにしか生み出すことのできないオリジナリティあふれる内容に仕上がっています。
オープニングを飾る「Welcome To My World」からして我が道をゆく王道スタイルなのですが、この曲然り、続く「Angel」然りですが、適度にEDM色が散りばめられており、しっかり時代に呼応していることにも気付かされます。かと思えば、「My Little Universe」ではブリープテクノ的なテイストが散りばめられていたり、「Heaven」ではゴスペル、「Slow」ではブルースなど、過去の彼ら……特に1990年前後から2000年代半ばあたりまでの活動中期の経験を随所から見つけ出すことができる。ある意味、バンドとして個性が固まったところからネクストレベルへと移行していったタイミングの活動を振り返り、見直しているような内容と受け取ることもできるのではないでしょうか。
本作は1987年秋に発表された6thアルバム『MUSIC FOR THE MASSES』を携え、1987〜88年に開催されたワールドツアーから、101本目にして最終公演に当たる1988年6月18日の米・カリフォルニア州パサディナRose Bowlでのスタジアムライブの模様を収めたもの。アナログ盤は2枚組/全17曲、CDは2枚組/全20曲と収録容量の違いで差ができてしまっています(アナログ盤でカットされたのは「Sacred」「Nothing」「A Question of Lust」)。
当時、このライブ盤を聴いて驚いたのは、その歓声の凄まじさとデイヴ・ガーン(Vo)のアッパーさ。SE的な「Pimpf」を経てスタートする「Behind The Wheel」での熱狂的な歓迎されっぷりは、当時日本でMTVを通じてでしかDEPECHE MODEを知らなかった自分にとってかなり衝撃なものでした。実際、スタジアムでライブをできるほどの人気をアメリカで獲得していたことを考えると、この大歓声が仕込みでもなんでもないことに気付かされるわけですが。
当時はアラン・ワイルダーを含む4人編成で、ライブも1990年代以降のサポートメンバーを迎えた大編成とは異なるもの。だからこその(良くも悪くも80年代的な)音数の少ないエレクトロニックサウンドが、スタジアムという大会場でどんな音量で鳴らされていたのか、非常に気になります。「Something To Do」みたいな80年代前半の楽曲は特にね。
選曲的にはもちろん『MUSIC FOR THE MASSES』からの楽曲が中心で、そこに『BLACK CELEBRATION』(1986年)や『SOME GREAT REWARD』(1984年)といったアメリカでのブレイク作を交えた内容といったところでしょうか。さすがに「Leave In Silence」や「See You」は選出されていませんが、ラストに「Just Can't Get Enough」「Everything Counts」という初期楽曲が用意されているあたりは微笑ましかったりします。
ご存知DEPECHE MODEのフロントマン、デイヴ・ガーンは2003年のアルバム『PAPER MONSTERS』から不定期にソロ活動を始めましたが、2012年に発表されたSOULSAVERSのアルバム『THE LIGHT THE DEAD SEE』にリードボーカルで参加したのを機に、2015年の自身のアルバム『ANGELS & GHOSTS』よりDAVE GAHAN & SOULSAVERS名義でソロ作を発表。今作は同名義での2作目のアルバム(正確には『THE LIGHT THE DEAD SEE』を含め3作目)となります。
01. The Dark End Of The Street [ジェイムズ・カー] 02. Strange Religion [マーク・ラネガン] 03. Lilac Wine [アーサー・キット、ジェフ・バックリー] 04. I Held My Baby Last Night [エルモア・ジェイムズ] 05. A Man Needs A Maid [ニール・ヤング] 06. Metal Heart [キャット・パワー] 07. Shut Me Down [ローランド・S.ハワード] 08. Where My Love Lies Asleep [ジーン・クラーク] 09. Smile [チャーリー・チャップリン、ナット・キング・コール] 10. The Desperate Kingdom Of Love [PJハーヴェイ] 11. Not Dark Yet [ボブ・ディラン] 12. Always On My Mind [グウェン・マクレエ、エルヴィス・プレスリー]
これらが、前作『ANGELS & GHOSTS』でも楽しめたゴスペル色豊かなアレンジで楽しめるわけです。これはもともとSOULSAVERSの持ち味のひとつなわけですが、このオルタナ・ゴスペルやオルタナ・ブルースチックなテイストでまとめられると、不思議と90年代前半のDEPECHE MODE、特に『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)期の空気感とも重なるものがあり、デイヴの声と見事に合っていることに気付かされるわけです。
どの曲もクワイアがフィーチャーされており、音数の少ないシンプルなアレンジに見事フィットしている。穏やかなアレンジが中心の中、豪快なブルースロックぶりを発揮し、それにあわせてデイヴのボーカルも冴え渡る「I Held My Baby Last Night」は圧巻の一言。かと思えば、「Smile」のようなスタンダードナンバーも余裕に歌いこなしてみせる。で、そのあとにオルタナテイストのソウルバラード「The Desperate Kingdom Of Love」へと流れ、最後の最後にプレスリーの歌唱で知られる「Always On My Mind」でピースフルに締め括る。お見事な選曲/構成です。
全体を覆うダークさは若干薄れ、サウンド的には先のようなテイストを取り入れつつも『VIOLATOR』(1990年)や『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)でのオルタナティヴロックを彷彿とさせる色合いも復調。オープニングを飾る「Dream On」のアコースティックギターからは、あの頃の空気を多少なりとも感じることができるのではないでしょうか。ブルージーな作風の「The Dead Of Night」もまさに同様ですが、そこに現代的なテイストが加えられることでバージョンアップしていることも伺えます。
かと思えば、「When The Body Speaks」のように荘厳なストリングスとオルタナロック、そしてブリープテクノが融合したかの如く、ダウナーなサウンドスケープが展開されている。また、デイヴのボーカルも前作での悲壮感たっぷりなテイストから抜け出し、穏やかさの中に優しさと棘を隠しもった唯一無二の歌声を聴かせてくれる。「そうそう、これこれ!」と言いたくなる要素が至るところに散りばめられた、まさにDEPECHE MODE以外の何者でもない作品に仕上げられています。
でも、そこから5年くらい経ってからかな。たぶん次作『PLAYING THE ANGEL』(2005年)が発売されたあとだったと思うけど、ここで久しぶりにDEPECHE MODE熱が盛り上がり、過去作を振り返ろうとしたとき真っ先に手にしたのがこの『EXCITER』だったのです。時間を置いてから再び触れたことで、フラットな気持ちで本作と向き合えたことは言うまでもなく、当時の心境と見事にリンクしたこともよく覚えています。
今思えば、『ULTRA』でバンドとして再スタートを切ったDEPECHE MODEですが、あれはリハビリ期間に他ならず、真の意味で第2章の幕開けを切ったのはこの『EXCITER』からだったのではないか。発売から20年経った今、そんなことを考えています。思えばこのバンド、『MUSIC FOR THE MASSES』(1987年)以降は毎作(良い意味で)おかしなことになっており、そこに拍車が掛かったのが『EXCITER』だったのではないでしょうか。古くからのファンの間では賛否ある1枚ですが、個人的には前作『ULTRA』同様に2021年の今だからこそ聴くべき隠れた名盤のひとつだと断言しておきます。
全米&全英1位を獲得した前作『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)から4年ぶりの新作。バンドは同作を携えたワールドツアー「DEVOTIONAL TOUR」を1993〜94年にかけて14ヶ月にわたり敢行し、大成功を収めました。また、同アルバム収録曲のライブテイクをオリジナルアルバムと同じ曲順で収めたキャリア2作目のライブアルバム『SONGS OF FAITH AND DEVOTION LIVE』(1993年)も発表。こちらはオリジナルアルバムほどの成功は記録できませんでしたが(全英46位、全米193位)、バンドの人気はピークに達したのではないでしょうか。
1996年に入り、ひとまずデイヴ抜きでマーティンとアンディ・フレッチャー(Key)は新作レコーディングを開始。アランが抜けた穴を新規プロデューサーとして起用したティム・シムノン(BOMB THE BASS)とともに曲作り/トラック制作を進めます。途中からデイヴも合流しますが、まだまだ復調にまで至っていなかったこともあり、このときに録音したボーカルで使用できたものはごくわずか。しかし、それでも根気強くスタジオワークを続け、1997年2月にようやく完成にまで漕ぎ着けます。
当時、リードトラック「Barrel Of A Gun」を最初に聴いたときは、デイヴのどこか覇気のないボーカル(しかもじゃっかん歪む)を含めそのダークさに若干引きました。いや、これまでの作品だって、それこそ前作『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』だってダークでした。しかし、この「Barrel Of A Gun」とそれに続くアルバム『ULTRA』のダークさはどこか別方向からのもの……生理的な嫌悪感を覚えるくらいのダークさだったのです。例えば、それ以前の作品が自身の宗教観など信仰から生まれるものだったとしたら、今作はそういった信仰すらあてにならないという絶望の底から生まれたものという気がしてならないのです。
だからなのか、本作リリース当時はあまりポジティブに受け入れることができず、生理的拒否反応を示すのです。特に1997年当時はTHE CHEMICAL BROTHERSやTHE PRODIGYのようなアッパー、かつサイケデリックなダンス/エレクトロニックミュージックがブレイクしており、僕自身もそういった方向性に興味を示していたので、しばらくは『ULTRA』という作品の魅力に気づくことはできませんでした。
M-1. Enter Sandman [6組] M-2. Sad But True [7組] M-3. Holier Than Thou [6組] M-4. The Unforgiven [6組] M-5. Wherever I May Roam [4組] M-6. Don't Tread On Me [3組/うち1組はM-8との組曲] M-7. Throught The Never [2組] M-8. Nothing Elese Matters [13組/うち1組はM-6との組曲] M-9. Of Wolf And Man [1組] M-10. The God That Failed [2組] M-11. My Friend Of Misery [3組] M-12. The Struggle Within [1組]
「Sad But True」はリズムがシンプルなので、意外といじりがいがあるのかな。サム・フェンダーのピアノバラード風アレンジも良いし、JASON ISBELL AND THE 400 UNITのブルースロック風も良き。MEXICAN INSTITUTE OF SOUNDもラテンアレンジも、ST. VINCENTの70年代中盤ボウイ風もよかった。
……と細々解説していったらキリがないので、以下はお気に入りのカバーのみ挙げていきます。サイケデリックメタル調に再構築したBIFFY CLYROの「Holier Than Thou」、ゴシック風オルタナロックのCAGE THE ELEPHANT「The Unforgiven」、サイケなヒップホップに進化したJ.バルヴィン「Wherever I May Roam」、ドラムンベース調リミックスのTHE NEPTUNES「Wherever I May Roam」、不穏なピアノの音色にゾクゾクするPORTUGAL. THE MAN「Don't Tread On Me」、メロディを独自に解釈し浮遊感の強いクラブミュージックとミックスさせたトミ・オウォ「Through The Never」、エルトン・ジョンやヨーヨー・マ、ロバート・トゥルヒーヨ、チャド・スミスをバックに従えたマイリー・サイラスの正統派パワーバラード「Nothing Else Matters」、悲しみに満ちた鎮魂歌風のデイヴ・ガーン(DEPECHE MODE)「Nothing Else Matters」、逆にメジャーキーに転調したことでパワーポップ風に生まれ変わったMY MORNING JACKET「Nothing Else Matters」、このバージョンで本家にもカバーしてほしいGOODNIGHT, TEXASのオルタナカントリー風「Of Wolf And Man」、スリリングな演奏が心地よいカマシ・ワシントン「My Friend Of Misery」、アコギ2本のみで構築されるインストアレンジがさすがのRODRIGO Y GABRIELA「Struggle Within」……といったところでしょうか。
続く新作に先駆けて、バンドは1989年夏に新作シングル「Personal Jesus」を発表。この曲が全英13位、全米28位という好成績の残し、翌年春発売のアルバム『VIOLATOR』は全英2位、全米7位という大ヒットを記録しました。また、同作からは「Enjoy The Silence」(全英6位、全米8位)、「Policy Of Truth」(全英16位、全米15位)、「World In My Eyes」(全英17位、全米52位)といったヒットシングルも次々に生まれ、アルバム自体もアメリカで300万枚以上を売り上げる最大のヒット作となりました。
そして、デイヴ・ガーン(Vo)の歌声もより艶を増し、いよいよ本格的なカリスマ化が進みます。これも彼らに人気に拍車をかけることになり、単なる“イギリスのエレポッップバンド”から“世界を代表するアリーナバンド”へと成長していくわけです。前作で提示した“大衆のための音楽”(=『MUSIC FOR THE MASSES』)が、ここでついに現実のものとなったのです。
リリースから30年近く経った今聴き返しても、サウンドに古臭さを感じることもなく、楽曲自体がどれも優れている。この手の音楽ってテクノロジーの進化とともに時代的劣化が否めないところもあるのですが、このアルバムと続く『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)にそれを感じないのは“ロック的”だからなのかもしれません。