GREG PUCIATO『MIRRORCELL』(2022)
2022年7月1日にリリースされたグレッグ・プチアートの2ndソロアルバム。日本盤未発売。
『CHILD SOLDIER: CREATOR OF GOD』(2020年)から1年9ヶ月ぶりに届けられたスタジオアルバム。エクスペリメンタルメタルをベースに、ニューウェイヴやオルタナティヴロック、インダストリアルロックなどの色合いを散りばめた、衝撃的な前作を経て、この2作目ではそことも異なるサウンドを聴かせてくれます。
レコーディングは前作から引き続き、ドラムのみPOISON THE WELLのメンバーで初期のTHE BLACK QUEENに携わった経験を持つクリス・ホーンブルックが担当。それ以外の楽器はすべてグレッグが担当しています。本当に多彩ね。
前作の時点でひとつのジャンルに固執することを放棄し、ひたすらやりたいことにトライしていたグレッグですが、その指向は今作も同様。今回はオルタナやグランジなど90年代前半のUSロックをベースにしながら、時には耽美な世界観が強調された楽曲を構築しています。冒頭の1分半程度のインスト「In This Hell You Find Yourself」こそエクスペリメンタルメタル的な嗜好ですが(どこかNINE INCH NAILS的ですよね)、続くミドルヘヴィの「Reality Spiral」はグルーヴメタル meets グランジ的なヘヴィさ&メロディアスさを提示。「Never Wanted That」での耽美な陰鬱さはALICE IN CHAINSにも通ずる世界観と言えるでしょう。グレッグのボーカルスタイルもジェリー・カントレル的ですし……ってそういえば、グレッグはジェリーとも仲良しだし、2021年発売のジェリーのソロアルバム『BRIGHTEN』にもコーラスで全面参加してしましたね。なるほど、納得です。
かと思えば、「Lowered」ではレバ・マイヤーズ(Vo/CODE ORANGE)をフィーチャー。パーカッシヴなドラうフレーズと、グランジとは異なる耽美なメロディとレバのスージー・スー(SIOUXSIE AND THE BANSHEES)的な情念系ボーカルの相性は抜群で、先の「Never Wanted That」とあわせて前半のハイライトと言える1曲です。ホント、この曲でのレバのボーカルが素晴らしすぎます。
チープなニューウェイヴ的打ち込みビートを用いた「We」から始まるアルバム後半は、グランジライクな前半とは空気が一変。囁くようなグレッグのボーカルと相まって、緩やかな空気がダダ流しされていきます。ところが、この手のユルい楽曲はこれ1曲で終わり、続く「I, Eclipse」では再び暗黒世界に引き戻されます。とはいっても、グランジ的暗黒ではなく、ニューウェイヴ的な暗黒さなんですけどね。「Rainbows Underground」はグランジとニューウェイヴを良いさじ加減でミックスした良曲で、ラストはタイト&ヘヴィなドラムと呪文のような呟きから絶叫へと変化するボーカルが聴き手を魔界へと引き摺り込む9分近い大作「All Waves To Nothing」で終了。エクスペリメンタル寄りのこの曲で終わり、再びオープニングのインスト「In This Hell You Find Yourself」へと戻っていくというループ感は、どこか無限地獄のようにも感じられます。
前作から味変したものの、出汁に使っている食材は一緒。その出汁の魅力に気付きさえすれば、『CHILD SOLDIER: CREATOR OF GOD』と今作『MIRRORCELL』がかけ離れたものではなく、実は地続きであることもご理解いただけるはず。個人的には下半期開始早々いきなりの年間ベスト候補に、思わずガッツポーズです。
なお、本作をbandcampでダウンロード購入すると、ボーナストラックとしてインストのM-1以外の8曲の「ボーカルトラックのみバージョン」と「インストバージョン」の全16トラックが付属。メロディがしっかりしていてボーカルだけ抜き出しても楽しめると同時に、改めてインストへの力の入れ具合にも圧倒されるので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。
▼GREG PUCIATO『MIRRORCELL』
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