カテゴリー「Dio」の14件の記事

2024年4月11日 (木)

DIO『THE LAST IN LINE』(1984)

1984年7月2日にリリースされたDIOの2ndアルバム。

DIO名義でのデビュー作となった前作『HOLY DIVER』(1983年)から約1年1ヶ月という短いスパンで届けられた本作。ロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)、ヴィニー・アピス(Dr)、ヴィヴィアン・キャンベル(G/現DEF LEPPARD)、ジミー・ベイン(B)という前作と同じメンバーに、前作を携えたツアーから参加したクロード・シュネル(Key)という布陣で初めて制作されたスタジオ作品となります。

前作で確立させたDIOらしいスタイルを、より研ぎ澄ましたのが本作と言えるでしょう。楽曲のスマートさはもちろんのこと、ヴィヴィアンのギタープレイもより個性を確立させたものへと進化しており、彼の初期における代表作と言える内容だと断言できます。

オープニングを飾る「We Rock」は、DIOにとってアンセムと呼べるような代表曲。前作でオープナーを務めた「Stand Up And Shout」よりも洗練された感とドラマチックさが増しており、これぞヘヴィメタルと呼びたくなるような仕上がりです。続くタイトルトラック「The Last In Line」はRAINBOWBLACK SABBATHから引き継ぐ仰々しいミディアムヘヴィの完成形と言えるもの。ヘヴィメタルファンならこの2曲だけで完全に心を鷲掴みにされるはずです。

その後も緩急に富み、アレンジの練り込まれた楽曲群が並びます。「We Rock」同様のファストチューンながらも荒々しさが際立つ「I Speed At Night」や、キャッチーなミディアムナンバー「One Night In The City」、サバス時代の某曲を再構築したかのような(笑)「Evil Eyes」、ポップテイストがのちの作風に影響を与えることになる「Mystery」、「The Last In Line」にならぶ仰々しい大作「Egypt (The Chains Are On)」など、楽曲の充実度は前作以上。そりゃあ全英4位、全米23位と前作以上のヒットになるのも納得です。

ただ、アルバムとしてのインパクトはデビュー作『HOLY DIVER』のほうが上なんですよね。事実、リピートするのも不思議と今作より前作のほうが多い。特に今作においては、冒頭2曲のインパクトが強すぎるがあまり、それ以降が平均点以上の仕上がりでも薄く思えてしまうのかもしれません。そういえば、学生の頃はダビングした本作のカセットをA面の途中までしか聴かないことも多かったな……。

でも、久しぶりにアルバム通して聴いてみたら、やっぱりいいアルバムだなと再認識。子供の頃は飽き性だったのもあって、これをじっくり楽しむ余裕がなかったのかもしれません。今の感覚だったら、『HOLY DIVER』よりこっちのほうが好みかも。

 


▼DIO『THE LAST IN LINE』
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2023年2月 7日 (火)

BLACK SABBATH『MOB RULES』(1981)

1981年11月4日にリリースされたBLACK SABBATHの10thアルバム。邦題は『悪魔の掟』。

トニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)、ビル・ワード(Dr)のオリジナル編成にロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo/ex. RAINBOW)が加入して制作された前作『HEAVEN AND HELL』(1980年)が、本国イギリスで最高9位、アメリカでも最高28位とヒットを飛ばし、辛うじて低迷期を脱したBLACK SABBATH。しかし、その成功も束の間、『HEAVEN AND HELL』を携えたツアー途中でビルが脱退してしまいます。

しかし、そのツアーを支えたのが、リック・デリンジャーなどと活動をともにしてきたヴィニー・アピス(Dr)。バンドはそのままヴィニーを正式メンバーに迎え、ジェフ・ニコルズ(Key)をレコーディングメンバーに迎えて、再びマーティン・バーチ(IRON MAIDENWHITESNAKEDEEP PURPLEなど)とスタジオ入りします。

ロニー、トニー、ギーザーの3頭体制で制作された楽曲の数々は、『HEAVEN AND HELL』の雰囲気を引き継ぎつつも若干オジー・オズボーン期のテイストも復調。それもあってか、前作ほど様式美を追求した方向性というわけでもなく、「Neon Knights」をより陽気にさせたアップチューン「Turn Up The Night」やひたすらヘヴィさに振り切ったミドルナンバー「The Sign Of The Southern Cross」、豪快さが増した「The Mob Rules」、オジーが歌っても何ら違和感のない「Country Girl」など比較的バラエティ豊かな楽曲群はどこか軸を失ったようにも映り、聴き手に散漫な印象を与えます。

1曲1曲の仕上がりは非常に高く、トニーのギターワークもオジー時代のおどろおどろしさ&ヘヴィさ、そして『HEAVEN AND HELL』で得たメロディアスなスタイルの両面を発揮しており、アーティスト/プレイヤーとしての成長を強く感じさせる。しかし、それがアルバムのトータル面に直結したかといえばそうでもなく、残念ながら1枚のまとまったアルバムとしての完成度は前作より劣っていると言わざるを得ません。

ロニーの持ち味を見事に活かした「Falling Off The Edge Of The World」のような名曲も存在するものの、この方向でひっぱり切ったらもっと成功できたんじゃないか……そんなもどかしさを伴う1枚です。個人的には嫌いになりきれない魅力もしっかり感じているんですけどね。結局、本作での活動を経て1982年にロニーとヴィニーがバンドを脱退し、そのまま新バンドDIOを結成。その後、サバスは意外なシンガーをリクルートすることになります。

 


▼BLACK SABBATH『MOB RULES』
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2022年2月11日 (金)

BLACK SABBATH『LIVE EVIL』(1982)

1982年12月14日にアメリカでリリースされたBLACK SABBATH初のライブアルバム。本国イギリスでは翌1983年1月18日発売。

オジー・オズボーン(Vo)在籍時はライブアルバムを1枚も制作することもなく、オジー脱退後に1973年の音源がバンドの許諾なしに『LIVE AT LAST』(1980年)と題して発表されたのみ。バンド公認のライブアルバムはこのロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)在籍時の音源が最初の正式リリースとなるわけです。

本作はディオ加入後2作目のスタジオアルバム『MOB RULES』(1981年)を携えて、1982年4〜5月に実施されたUSツアーからセレクトされたもの。当時のメンバーはトニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)のオリジナルメンバーにディオ、『MOB RULES』から参加のヴィニー・アピス(Dr)、そしてツアーメンバーのジェフ・ニコルス(Key)という布陣。『HEAVEN AND HELL』(1980年)や『MOB RULES』からの楽曲をライブで再現するにはキーボードは欠かせませんものね。

アルバムのキモとなるのは、もちろんディオ加入後の楽曲……「Neon Knights」や「Children Of The 」シー「Heave And Hell」といった『HEAVEN AND HELL』収録曲や、「Voodoo」「The Mob Rules」「The Sign Of The Southern Cross」をはじめとする『MOB RULES』収録曲。スタジオ音源以上に生々しくワイルドなディオのボーカルと、ライブならではのフリーキーさも織り交ぜたアイオミのギタープレイは聴き応え満点で、個人的にはスタジオテイク以上にお気に入りです。特に長尺ギターソロをフィーチャーした12分にもおよぶ「Heave And Hell」と、続く「The Sign Of The Southern Cross」からメドレー形式で「Heave And Hell」へと戻っていく構成では、ライブならではの醍醐味を堪能できるはずです。

一方で、ディオが歌うオジー時代のサバス曲も味わい深くて、これはこれでアリと思わされるものばかり。「N.I.B.」なんて完全に自分のモノにしてしまっていますし、暑苦しいまでに歌い上げる「Black Sabbath」なんてオジーバージョンとは異なる黒魔術感が伝わる、別モノとして楽しめるのではないでしょうか。それもこれも、アイオミとギーザーがプレイしている点、そしてヴィニーのハードヒットなドラミングがマッチしているからこそ。「War Pigs」のドラマチックさも全然アリですよね。

ですが、「Iron Man」や「Paranoid」といったシンプルな楽曲に関しては、どうしてもオジーの印象が強すぎて「ちょっとこれは……」と思ってしまうかも。演奏自体は非常に素晴らしいのですが、気合入れて力みすぎなディオの「Iron Man」は最初なかなか馴染めなかったものです。しかし、90年代に制作された『DEHUMANIZER』(1992年)を通過したあとに振り返ると、「まあ、これはこれで……」と寛大な気持ちで接することができるように。あのアルバム、今となっては非常に重要な役割を果たしていたんですね……。

ちなみにサバスが初めて日本に訪れるのは、1980年のこと。つまり、『HEAVEN AND HELL』リリース後のディオサバスだったわけです。そう考えると、当時のリスナーにとってはこの『LIVE EVIL』という作品は初来日公演を追体験するに最適なアルバムだったのかな。

なお、本作はアナログ盤(2枚組)やデジタル版(ストリーミング含む)では全14トラック/約84分の収録内容ですが、CDに関しては複数のバージョンが存在するのでご注意を。特に初期のCDは「War Pigs」がカットされた全13トラック/1枚もので流通しており、のちに「War Pigs」を追加した全14トラック/CD1枚ものが再発。しかし、こちらは収録容量の関係でMCなどがカットされた不完全版で、デラックス・エディションと題したCD2枚組バージョンこそが当初のアナログ盤(と現行のデジタル版)と同内容となっています。紛らわしいったらありゃしない(苦笑)。

 


▼BLACK SABBATH『LIVE EVIL』
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2020年5月 2日 (土)

V.A.『RONNIE JAMES DIO: THIS IS YOUR LIFE』(2014)

2014年4月初頭にリリースされた、ロニー・ジェイムズ・ディオのトリビュートアルバム。日本盤は海外に先駆け、同年3月下旬に発売されました。

2010年5月にがんのためこの世を去ったディオを追悼すべく、メタル界の重鎮から次世代バンドまで幅広い層が一堂に会したこのアルバム。全14曲(ボーナストラック除く)中、本作のために録音された未発表テイクは10曲と単なる埋め合わせ的アルバムでないことが伺えます。

そのラインナップもロブ・ハルフォードJUDAS PRIEST)やグレン・ヒューズ(ex. DEEP PURPLE)、SCORPIONSMOTÖRHEAD、ビフ・バイフォード(SAXON)といった大御所からMETALLICAANTHRAX、DOROなど直接的なフォロワー、そしてHALESTORM、コリィ・テイラー(SLIPKNOTSTONE SOUR)、KILLSWITCH ENGAGEなどの次世代アーティスト、さらにはヴィニー・アピス、ダグ・アルドリッジ、ジェフ・ピルソン、ルディ・サーゾ、クレイグ・ゴールディ、サイモン・ライト、スコット・ウォーレンといったDIOオールスターズまで、世代的にもかなり広いものとなっています。

本編ラストに収められたDIO「This Is Your Life」(1996年の『ANGRY MACHINES』収録曲)を除く13曲中、RAINBOWナンバーを選んだのが5組、BLACK SABBATHナンバーが3組、DIOナンバーが5組とやはりRAINBOWへの人気が集中。METALLICAに至ってはメドレー形式で4曲取り上げてますからね。ズルいわ(笑)。

サバス曲は当然すべて80年代の……と思いきや、オニ・ローガン(Vo/ex. LYNCH MOB)は『DEHUMANIZER』(1992年)からの「I」を選ぶ通ぶりを発揮。こちらはジミー・ベイン(B)やローワン・ロバートソン(G)といった旧DIO組も参加しています。この曲、こうやって聴くと思ったほどモダンなテイストが少なくて、80年代のディオ・サバスを踏襲してたんだねと気づかされます。

1曲ずつ解説していたらキリがないので割愛しますが、ANTHRAX「Neon Knights」におけるジョー・ベラドナのモノマネぶりが相変わらず最高なことと、SCORPIONS「The Temple Of The King」が完全に自分のものと化していること、METALLICAメドレーの強引ぶりなどは特筆すべきものがあるかなと。もちろん、ほかの楽曲も最高なので、原曲を知らないリスナーでも楽しめるはずです。

なお、日本盤にはSTRYPERによる「Heaven & Hell」、DIO DISCIPLES(DIO最終ラインナップのディオ抜き)による「Stand Up And Shout」を追加収録。ストリーミングなどのデジタルバージョンではHATEBREEDのフロントマン、ジャスタによる「Buried Alive」を聴くことができます。ここはぜひ、日本盤を手に入れておきたいところです。

 


▼V.A.『RONNIE JAMES DIO: THIS IS YOUR LIFE』
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HEAVEN & HELL『THE DEVIL YOU KNOW』(2009)

2009年4月末にリリースされたHEAVEN & HELL唯一のスタジオアルバム。

HEAVEN & HELLはロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)、トニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)、ヴィニー・アピス(Dr)という『MOB RULES』(1981年)や『DEHUMANIZER』(1992年)を制作したBLACK SABBATHの面々による変名バンド。2007年にディオ在籍時の楽曲を集めたコンピレーションアルバム『BLACK SABBATH: THE DIO YEARS』をリリースした際、この4人による新曲を3曲制作しましたが、ここで得た手応えから再度スタジオ入りし、アルバムまで完成させるに至るわけです。

オジー・オズボーンとのBLACK SABBATHも“生きている”ちゃあ生きているタイミングだったので、サバス名義ではなくディオ・サバスの1作目に当たるアルバム『HEAVEN AND HELL』(1980年)のタイトルをそのままバンド名に用いて、ツアーやレコーディングを続けますが、本作リリースから1年後の2010年5月16日、ディオはこの世を去ることに。結果として、本作が生前最後のレコーディング作品となってしまいました。きっと、ディオ自身も死期を悟り、最後にもうひと花という意味でサバス復帰を選んだのでしょうね。

作風的には『HEAVEN AND HELL』や『MOB RULES』よりも、再編後に制作した『DEHUMANIZER』に近い、ミドルヘヴィナンバーを中心とした内容。ですが、『DEHUMANIZER』のようなモダンヘヴィネス的色合いはまったくなく、むしろ『HEAVEN AND HELL』や『MOB RULES』に含まれていたミドルヘヴィナンバーをより熟成させた、濃厚でねっとりしたディオ・サバス曲で構成されています。要するに、悪いわけがない。最高の仕上がりなのです。

当時のアイオミのスタイルを考えると、本作の次に制作されたオジー・サバスの最終作『13』(2013年)にも通ずる作風と言えるでしょう。つまり、アイオミが「BLACK SABBATHとは?」という命題と向き合い、2人の代表するシンガーとともに完成させた“答え”という意味で、本作と『13』は対となる2枚だと思うのです。

『13』ではひたすらドゥーミーでミドルスロウな楽曲ばかりにご執心でしたが、ここではミドルを軸に若干のアップダウンが用意され、その緩急が聴き手に心地よさを与えてくれる。つまり、同じミドル続きでも『13』ほど退屈しないのが今作最大の特徴であると。それには、ディオという稀代の名シンガーの尽力も大きいと思います。ディオ御大、最後の最後にベストパフォーマンスを残そうと制作に臨んだのでしょう。どこをどう切り取ってもディオ以外の何者でもありません。

わかりやすい派手さは皆無ですが、ディオ・サバスを愛する者、あるいはロニー・ジェイムズ・ディオというシンガーの歌が好きなリスナーなら間違いなくハマる1枚。モダンメタルが台頭する2009年という時代に、オールドスクール世代がかましたカウンターという意味においても非常に重要な作品だと断言できます。

日本盤CDには先のコンピ盤『BLACK SABBATH: THE DIO YEARS』に収録された新曲3曲が、ボーナストラックとして追加されています。つまり、『THE DEVIL YOU KNOW』日本盤を購入すれば、HEAVEN & HELLとしてレコーディングしたオリジナル曲はすべて手に入ることになるので、これから購入する際には迷わず日本盤をゲットしておきましょう。

 


▼HEAVEN & HELL『THE DEVIL YOU KNOW』
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2020年2月25日 (火)

DIO『STRANGE HIGHWAYS』(1993)

1993年10月にヨーロッパと日本、翌1994年1月に北米でリリースされたDIOの6thアルバム。

当時18歳だったローワン・ロバートソン(G)を新ギタリストに迎え制作した『LOCK UP THE WOLVES』(1990年)がセールス的に失敗。その後BLACK SABBATHへと再加入し、『DEHUMANIZER』(1992年)という当時問題作扱いされた異色ヘヴィ作を制作、ツアーも行ったもののアルバム1枚で再脱退。自身のメインバンドDIOを再始動させます。

新たなギタリストとして迎えられのは、WWIIIといったバンドで活動していたトレイシー・Gという人物。DIO加入により一躍名を挙げた人物です。そのほかのメンバーは、BLACK SABBATHからそのままスライドしてきたヴィニー・アピス(Dr)と、DOKKEN解散後にMcAULEY SCHENKER GROUPやWAR & PEACEといったバンドで活動していたジェフ・ピルソン(B)と名うてのプレイヤーばかりで、マイク・フレイザー(AC/DCAEROSMITHTHUNDERなど)をプロデューサーに迎え満を辞して完成したのがこの『STRANGE HIGHWAYS』という問題作(笑)でした。

ディオ・サバスがモダンヘヴィネス寄りになったことで、当時は誰もが「こんなの、僕たちの求めるディオ・サバスじゃない!」と否定的な意見を寄せたと記憶しています。実際、僕自身も「『HEAVEN AND HELL』はどこに?」と完全否定したものです(その後、完全肯定派に鞍替えしましたが。笑)。『DEHUMANIZER』という「やるべきではなかった」アルバムを経て、古巣に戻ったディオが再び様式美の世界へと舞い戻った……と、本作を手に取ったときは安心したものです。

けど、オープニングを飾る「Jesus, Mary & The Holy Ghost」の冒頭数分でCD再生を止めてしまう自分……「なんだ、このヘヴィロック版KING CRIMSONは!?」と動揺を隠せず、しばらく再生ボタンを押すことができずにいました。

……モダンヘヴィネス化の戦犯はお前だったか、ディオよ(苦笑)。

CDを購入したものの、しばらくはフルで聴くことがなかったこのアルバム。1曲1曲が重すぎるし難解だし、なによりも通して聴くには非常に体力を要するんです。例えば、METALLICAブラックアルバムMOTLEY CRUEセルフタイトルアルバムも最初は同じように「通して聴くのに体力を要する」アルバムでした。しかし、慣れるとそのポップさや要所要所に用意されたフックが気持ちよく、自然とリピートできるようになっていたんです。ところが、このDIOの『STRANGE HIGHWAYS』に関してはいつまで経ってもそうならない……なぜなんでしょう。

要するにこれ、ディオ御大が歌っているからこそDIOの作品として成立しているものの、バックトラックやメロディに関してはDIOである必要のないものばかりなんです。良くも悪くも“振り切れている”楽曲群が揃った本作は、今の耳で聴けば全然スルスルと聴き進めることができる、ダーク&ヘヴィの佳作なのですが、王道メタルバンドのモダンヘヴィネス化やオルタナメタル化に対して心を広く持てきれていなかった1992〜3年の自分にはハードルの高い1枚だったわけです。

まんまKING CRIMSONなアレンジのヘヴィロック「Jesus, Mary & The Holy Ghost」を筆頭に、確かにキャッチーさや親しみやすさは皆無な楽曲ばかり。ですが、トレイシー・Gのリフワークやソロプレイは当時のモダンメタルとしてはかなり非凡なものがありますし、ディオのボーカルも必要以上にアグレッシヴかつヒステリックで、これはこれでアリと思えてしまう。「Hollywood Black」や「Evilution」「One Foot In The Grave」あたりのグルーヴ感は2020年の今も通用するものがありますし、アップテンポの「Here's To You」やヘヴィバラードの「Give Her The Gun」にはなんだかんだいってDIO節が感じられるし、結果としては「あれ、意外と良いかも?」と思えてしまう。時間の経過によって評価が大きく変わった1枚ではないでしょうか。

もちろん、80年代前半のDIOこそがすべてというリスナーもいらっしゃることでしょう。その意見は否定しませんし、それもまた正しいと思います。だけど、ちょっと視野を広げるだけで「こんな表現方法もあるんだ。こんな側面も持っているんだ」と新しい扉が開くこともある。サバスの『DEHUMANIZER』もこの『STRANGE HIGHWAYS』も歴史上スルーされることの多い作品かもしれませんが、だからこそ不意に出会ったときの「見つけた」感はより強いものがあるのではないかな。そんな「切り捨てるには勿体ない」1枚です。

 


▼DIO『STRANGE HIGHWAYS』
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2020年2月24日 (月)

BLACK SABBATH『DEHUMANIZER』(1992)

1992年6月末にリリースされたBLACK SABBATHの16thアルバム。日本盤は約1週間遅れの、同年7月上旬に発売されました。

トニー・アイオミ(G)にトニー・マーティン(Vo)、コージー・パウエル(Dr)を中心とした布陣で14thアルバム『HEADLESS CROSS』(1989年)を制作し、同作のツアーからニール・マーレイ(B)が加入。その編成で15thアルバム『TYR』(1990年)を制作したBLACK SABBATHは、ロニー・ジェイムズ・ディオ時代の名盤『HEAVEN AND HELL』(1980年)を思わせる様式美スタイルでリスナーを喜ばせてくれました。

しかし、この布陣は長くは続きませんでした。「ロニー時代のサウンドに挑むなら、せっかくだし当の本人呼んじゃえよ!」ってことで(いや違うけど)、トニー・マーティンに代わりロニー御大を呼び戻したアイオミ。さらにベーシストをオリメンのギーザー・バトラーに交代し、ディオ/アイオミ/ギーザー/コージーという夢のような編成が実現します。

ところが、コージーが落馬により骨折。バンド離脱を余儀なくされ、後任にヴィニー・アピスが加わることになります。これにより10thアルバム『MOB RULES』(1981年)の編成が復活することになり、いわゆる“ディオ・サバス”としての3作目『DEHUMANIZER』が生まれるわけです。

アルバム発売前に、映画『ウェインズ・ワールド』のサウンドトラックに新曲「Time Machine」を提供。『HEAVEN AND HELL』に収録されていしょうなアップテンポのハードロックで、我々の期待を煽ってくれましたが、いざ届けられたアルバムは『HEAVEN AND HELL』や『MOB RULES』とも、それこそ直近の『TYR』とも異なる、現代的なヘヴィさが強調された異色作でした。

様式美を意識した作風というよりは、当時流行り始めていたモダンヘヴィネス系を彷彿とさせる、リフでグイグイ引っ張り続けるダークなミドルチューンが中心。そこにディオのボーカルが乗ることで“らしさ”は若干維持されているものの、歌メロの抑揚が過去の名作ほど起伏に富んだものではない。この平坦さ(今聴くとそこまで平坦でもないけど)こそ1992年という時代ならではで、ディオにしろアイオミにしろ「過去の焼き直し」ではなく「今のシーンと対峙する」ことを念頭に置いたアルバム作りに臨んだことが伺えます。

アイオミのリフワークはさすがの一言だけど、オジー・オズボーン在籍時のヘヴィさとも異なる新たなダークさ、ヘヴィさを表現している。かつ、そこに従来らしさもにじませているもんだから、リリース当時は非常に複雑な新曲になったものです。「あれ、アイオミ先生……トニー・マーティンをクビにしてまでやりたかったことがこれなの?」と。

ところが。ディオ・サバスはこの1枚で再び頓挫。アイオミ先生は再びトニー・マーティンを呼び戻し、『HEADLESS CROSS』路線を推し進めた傑作『CROSS PURPOSES』(1994年)を完成させ、一方のディオ御大はモダンヘヴィネス路線に特化した『STRANGE HIGHWAYS』(1993年)をリリースするのでした……はい、戦犯が誰かおわかりですね(笑)。

でもね。本作のリリースから30年近くを経た今、このアルバムとしっかり向き合うと……めっちゃ良いんですよ。ディオらしさもしっかり表現できているし、アイオミのリフメイカー/ソングライターとしての才能も際立っている。むしろ、グランジやモダンヘヴィネス系が台頭し始めたタイミングに、HR/HMのオリジネイターとしてちゃんと“今”と向き合い、そこで自分ができることを提示してくれている。退屈な曲がゼロとまでは言いませんが、全体を通して普通に楽しめる1枚だと思います。

個人的にはイントロで異彩さを放つ「Master Of Insanity」や、途中での展開がいかにもな「Computer God」、サイケなメロディラインが新鮮な「Sins Of The Father」、もっともディオ・サバスらしい「Too Late」などお気に入り多数。まあ、ここでの経験がさらに10数年後にHEAVEN AND HELLという変名ディオ・サバスへとつながっていくわけですが、それはまた別の機会に。

 


▼BLACK SABBATH『DEHUMANIZER』
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2020年1月 2日 (木)

banned songs of US radio after 9.11

つい先日、昨年の9月11日に配信されたKERRNG!の記事「HERE ARE THE 164 SONGS THAT WERE BANNED FROM AMERICAN RADIO AFTER 9/11」がTwitterで流れてきたんですね。このリスト自体、これまでも完全版・不完全版問わずさまざまな形で流出していたと思いますし、実際僕も学生時代に湾岸戦争をテーマに「表現の自由」や「自主規制」について卒論を書いていたので、常に気になってチェックしていました。今回の記事も特別目新しさはなかったのですが、急にふと「そういえば、卒論書いてた90年代前半は実際にそういう曲を全部聴くのに相当苦労したけど、今ってストリーミングサービスがあるし、もしかしてこのリストの曲全部聴けるんじゃないかな……」と思ったんですね。

で、実際にプレイリストを作ってみようと思い、検索を開始……始めたのが明け方だったのですが、気づいたら1、2時間でプレイリスト完成。記事中に登場する曲名やアーティスト名に多少の間違いがあったので、ネット上で公開されている同様の記事(結局Wikipediaが一番便利でした)とも照らし合わせつつ、完全なるプレイリストを完成させました。

さすがに全曲ありました。すごいですね、Spotify(今回はApple Music版は作成せず。だって2つも作るの時間かかるし)。RAGE AGAINST THE MACHINEのみ全曲放送禁止だったので、本来なら彼らの楽曲はすべて入れるべきなんでしょうけど、それだと埒が明かないので各アルバムから主要ナンバー1曲ずつ、計4曲を入れることにしました。そこに「Knockin' On Heaven's Door」のみボブ・ディラン版とGUNS N' ROSES版の2曲を用意して、全168曲/11時間14分というアホほど長いプレイリストが完成したわけです(笑)。

一応、アーティスト名アルファベット順、複数の曲がリストにあるアーティストに関しては曲名もアルファベット順で並べてあります。なので、AC/DCみたいにいきなり7曲も続いてしまうこともありますが、シャッフル再生すると普通にラジオ感覚で楽しめるのではないでしょうか……しかも、いい曲ばかりですし。

こんなご時世だからこそ、こういった楽曲を手軽に楽しめる自由をかみしめつつ、今の生活に感謝したいと思います。またいつ、これらの楽曲やほかのヒット曲が放送禁止になるか、本当にわかりませんしね(しかも、あの当時よりも状況的には最悪ですから)。

 

※ブラウザ(記事上)でプレイリストを再生すると100曲しか表示されないようなので、プレイヤー右上のSpotifyロゴをクリックして、自身のSpotifyプレイヤーで再生することをオススメします。

2018年12月26日 (水)

RAINBOW『LONG LIVE ROCK 'N' ROLL』(1978)

1978年春にリリースされた、RAINBOW通算3作目のスタジオアルバム。リッチー・ブラックモア(G)、ロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)、コージー・パウエル(Dr)という、いわゆる“三頭政治”時代のラストアルバムに当たります。

前作『RISING』(1976年)まで在籍したジミー・ベイン(B)とトニー・カレイ(Key)が事実上クビになり、本作のレコーディングにはセッションミュージシャンとしてボブ・ディズリー(B)とデヴィッド・ストーン(Key)が参加。リッチー自身も半数以上の曲でベースを担当しています。

大作主義だった『RISING』から一変、本作ではアメリカでのラジオヒットを狙った3〜4分台の楽曲が大半を占め、長尺ナンバーはアナログA面ラスト(M-4)の「Gates Of Babylon」とアナログB面ラスト(M-8)の「Rainbow Eyes」のみ。これによってRAINBOWらしさが減退したのかというと、実はまったくそんなことはなく。リッチーのギターも、ロニーのボーカルも、そしてコージーのドラミングも緊張感のある、そして非常に勢いの強いものとなっています。

確かにオープニングを飾る「Long Live Rock 'n' Roll」や、それに続く「Lady Of The Lake」のキャッチーさは前作までになかったカラーかもしれません。けど、こういったスタイルは振り返るとDEEP PURPLE時代からリッチーが持っていたカラーですし、後追いの自分からしたら特に違和感なく楽しめるんですよね。

長尺の楽曲にしても、「Gates Of Babylon」の持つ怪しい雰囲気とリフ(とそのメロディ)がちょっとだけツェッペリンっぽかったりして新鮮ですし。かと思えば、トラッドミュージック的な色合いが強いスローバラード「Rainbow Eyes」も素晴らしい仕上がり。この曲でリッチー/ロニー/コージー時代が幕を下ろしたのも、今となっては「しょうがないよな……」と思うものがあったり、なかったり。

アルバムとしての思い入れとなると『RISING』のほうが数歩勝るのですが、本作には「Kill The King」というHR/HM界の歴史に残る名曲/名演が含まれていることもあって、個人的評価が非常に高い1枚だったりします。そこに「Gates Of Babylon」や「Rainbow Eyes」のような楽曲も含まれているんですから、嫌いになれるわけがない。いや、嫌いな人なんていないですよね?

なお、本作の2枚組デラックス盤(サブスクはこちらが配信されています)では、本作のラフミックスバージョンも楽しむことができます。完成度はオリジナル盤のほうが勝りますが、そちらではよく聴き取れないフレーズも楽しめるので、マニア向けとはいえ貴重な音源集ではないでしょうか。



▼RAINBOW『LONG LIVE ROCK 'N' ROLL』
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2018年7月 3日 (火)

BRIDES OF LUCIFER『BRIDES OF LUCIFER』(2018)

昨年6月に開催された『GRASPOP METAL MEETING』など、海外のメタルフェスに出演したのを機に一部で話題になっていた、女性13人からなるHR/HMの名曲をカバーするコーラス隊BRIDES OF LUCIFERがアルバムをリリースしました。

本作でピックアップされている楽曲たちは下記のとおり(曲名後ろのカッコは原曲アーティスト名)。


01. Burn In Hell [TWISTED SISTER]
02. Walk [PANTERA
03. Warriors Of The World [MANOWAR]
04. Chop Suey! [SYSTEM OF A DOWN
05. Painkiller [JUDAS PRIEST
06. Fear Of The Dark [IRON MAIDEN
07. Roots Bloody Roots [SEPULTURA
08. O Father O Satan O Sun! [BEHEMOTH]
09. Holy Diver [DIO
10. South Of Heaven [SLAYER
11. Futility [SCALA & KOLACNY BROTHERS]
12. Halo [MACHINE HEAD
13. White Moon [SCALA & KOLACNY BROTHERS]


ライブではこのほか、RAMMSTEIN「Engel」あたりもカバーされているみたいですね。

ライブやレコーディングには彼女たちのほか、ドラム/ベース/ギター/ピアノが入り、原曲に比較的忠実なアレンジでカバーされています。もちろん、コーラスがメインになるので、彼女たちの歌声が前面に出るようなアレンジも新たに施されており、曲によってはギターソロパートをカットしていたりもします。

どのバンドの曲もボーカルのクセが強いものばかりで、特にPANTERAやSEPULTURAみたいなスクリームメインの楽曲、SYSTEM OF A DOWNのように変態的なボーカルが耳に残る曲すらも聖歌のようなボーカルアレンジで表現されているので、聴き進めていくうちに「あれ、こんなに聴きやすくて大丈夫?」と不安に陥る瞬間も。メタルファンには数年に1枚は世に産み落とされる“ネタCD”として楽しめば、そこまで不快ではないはず。むしろ、僕は積極的に楽しんでおります。

逆に、普段メタルに疎い人にこそ「ね? 意外と曲自体は悪くないんだよ?」と手に取ってほしい1枚だったりして。まあ、一緒に笑って聴いてみましょうよ。

あ、あと本作で2曲もピックアップされているSCALA & KOLACNY BROTHERSという存在。彼らはこのBRIDES OF LUCIFERの先輩的存在でもある、2000年代前半に90年代〜ゼロ年代のUKロックやグランジの代表曲をピアノ伴奏でカバーしたベルギーの少女合唱隊のこと。グループ名は指揮者&ピアノ伴奏者でもある中心人物となる兄弟の名前から取られています。このグループのオリジナル曲をカバーするあたりに、BRIDES OF LUCIFERの起源が見え隠れするのも興味深いところです。



▼BRIDES OF LUCIFER『BRIDES OF LUCIFER』
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