ENUFF Z'NUFF『BRAINWASHED GENERATION』(2020)
2000年7月上旬にリリースされたENUFF Z'NUFFの15thアルバム。日本盤未発売。
チップ・ズナフ(Vo, B)をリードボーカルに据えた編成が本格化し、それまでのドニー・ヴィ(Vo, G)路線に慣れ親しんだ耳に違和感を残した前作『DIAMOND BOY』(2018年)から、ほぼ2年ぶりの新作となる本作。チップがリードボーカルなのはもちろんなのですが、楽曲のスタイルのせいでしょうか、前作よりも馴染んだ感が強まった印象を受けます。
そのひとつ前の『CLOWNS LOUNGE』(2016年)が初期のデモ音源が多く含まれていたせいか、その流れを汲む前作は初期のグラムメタル路線やサイケポップ/メタル路線が復調していました。こういう派手さを伴う楽曲に、チップのこもり気味でインパクトの弱い歌声は合っていなかったんですよね。ところが、今回は中期パワーポップ路線が再び強まったせいで、彼のセンチメンタルな歌声が妙にマッチした。これが本作の成功の秘訣だったのではないでしょうか。
とはいえ、前作までのメタリックな色も要所要所に散りばめられている。見方によっては、これまでの集大成感が強い内容なのかな。それは参加ゲストによる影響も大きく、「Strangers In My Head」では脱退したドニー・ヴィがリードボーカルを担当。さらにマイク・ポートノイ(Dr/SONS OF APOLLOなど)やエース・フレーリー(G/ex. KISS)、ダックス・ニールセン(Dr/CHEAP TRICK)なども華を添えており、程よい派手さを保ちつつも軸にあるパワーポップ感は損なわれることはないという、絶妙なバランス感で成立しております。
なお、ドニー参加の「Strangers In My Head」はドラマーがドニー在籍時のメンバーであるヴィニー・カスタルドなので、もしかしたら新曲ではなく、前々作『CLOWNS LOUNGE』からのさらなるアウトテイクかもしれませんね。
楽曲の良さは近作の中でもピカイチだと思います。オープニングのショートチューン「The Gospel」からリードトラック「Fatal Distraction」への流れ、「I Got My Money Where My Mouth Is」や「Help I'm In Hell」といった楽曲群、どれも素晴らしいんですよ。ただ……これを全部ドニーが歌ったら、きっと2000年前後の諸作にも匹敵する良作として評価されたのではないでしょうか。しかし、如何せんボーカルが弱すぎる……派手なギターソロに全部持っていかれちゃうんですよね。そこだけが勿体ない。やっぱりこのバンドは、早急にフロントマンらしいフロントマンを探して立て直すのが正解だと思います。チップ・ズナフ、ソングライターとしては一流中の一流だけど、フロントマン&リードボーカルの器ではないですよ、残念ながら。
大好きなバンドだからこそ評価が厳しくなってしまいますが、ボーカル以外は90点以上のレベルをキープしているので、ぜひ……(本当はドニーが復帰して歌ってくれるのが一番なんですけどね!)。
▼ENUFF Z'NUFF『BRAINWASHED GENERATION』
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