ENTOMBED『CLANDESTINE』(1991)
1991年11月12日にリリースされたENTOMBEDの2ndアルバム。日本盤は『密葬』の邦題で、1992年5月21日発売。同日に1stアルバム『LEFT HAND PATH』(邦題『顚落(てんらく)への道』)も本邦初リリースされ、リアルタイムではこの2ndアルバムが日本デビューアルバムとなります。
結成時からのフロントマンであるLG・ペトロフ(Vo)が一時的にバンドを脱退。彼に代わりオルヴァル・サフストロムをゲストに迎えてEP『CRAWL』(1991年)を制作するものの、続く今作のレコーディングではニッケ・アンダーソン(Dr/THE HELLACOPTERS、IMPERIAL STATE ELECTRIC、LUCIFERなど)がボーカルも兼任する形で進んでいきます。
サウンド的には北欧デスメタルの真骨頂といった内容。スラッシュメタルやハードコアからの影響が伝わる疾走感の強いテイストと、ドゥームメタル的なミドルヘヴィパートをバランスよく織り交ぜた構成や、のちのメロディックデスメタルとは異なる、1曲の中のアレンジ/曲構成でドラマチックさを演出する作風からは、当時のUSデスメタルとは一線を画する個性を見つけることができます。
また、本作からはグルーヴィーなロックンロール的側面も見つけることができ、これがのちに“Death 'N' Roll”と呼ばれる独自のスタイルへと昇華され、続く3rdアルバム『WOLVERINE BLUES』(1993年)での個性へつながっていきます。そう考えると、本作はピュアにデスメタルを表現した1stアルバムと個性を確立する3rdアルバムへの橋渡し的作品、あるいは過渡期の1枚とも言えるのかなと。
そんな作品でボーカルを担当するのがペトロフではなく、ドラマーのニッケというのも興味深いところ。ニッケのボーカルはデスメタルのそれというよりは、ハードコア寄りのボーカルスタイル。それもあってか、本作はデスメタルのアルバムを聴いているというよりは、スラッシュ/ハードコア経由のエクストリームメタルという印象が強いかもしれません。ボーカルの個性という点においてはペトロフには敵いませんが、この暴力的でぶっきらぼうなニッケの歌唱も嫌いになれない。むしろ、この粗暴なボーカルだからこそ『CLANDESTINE』の楽曲群が活きたとも受け取れないでしょうか。個人的にはそう前向きに解釈しています。
ENTOMBEDのオリジナルアルバムで、唯一ペトロフが歌っていないアルバム。もし、彼のボーカルで本作をリレコーディングしていたらどんな仕上がりになったのか……のちに本作を完全再現したライブアルバムも制作されていますが、同作では別のシンガーが歌っているので……。
残念ながらペトロフは2021年3月7日に、49歳の若さでこの世を去ってしまいました。ペトロフは“もうひとつのENTOMBED”ことENTOMBED A.D.として活動していましたが、本家でも分家でもいいのでペトロフが歌う『CLANDESTINE』のスタジオ録音版は聴いてみたかったな。
改めて、故人のご冥福をお祈りいたします。
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