カテゴリー「Enuff Z' Nuff」の18件の記事

2022年11月18日 (金)

CHIP Z'NUFF『PERFECTLY IMPERFECT』(2022)

2022年3月18日にリリースされたチップ・ズナフENUFF Z'NUFF)の2ndソロアルバム。

GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラー(Dr)とタッグを組んだEP『ADLER Z'NUFF』収録の5曲をボーナストラックとして追加した全15曲入り1stアルバム『STRANGE TIME』(2015年)から、約2年ぶりの新作。前作がCleopatra Recordsからだったのに対し、今作は本家ENUFF Z'NUFFと同じくFrontiers Musicからのリリースとなり、日本盤もAvalon Lebelから同タイミングに発表されています。

気心知れた仲間たちとスタジオに集まって制作された前作と異なり、今作では多くのパートをチップ自身が担当。ドラムのみリック・ニールセン(G/CHEAP TRICK)の実子であり現在CHEAP TRICKで叩いているダックス・ニールセン、そして元GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラーが大半の楽曲でプレイし、ラストのMOTT THE HOOPLEカバー「Honaloochie Boogie」のみENUFF Z'NUFF現メンバーのダニエル・ヒルが叩いております。また、「Welcome To The Party」ではWHITESNAKEの一員でありJOEL HOEKSTRA'S 13ではレーベルメイトとなるジョエル・ホークストラ(G)がギターをプレイしています。

基本路線は前作『STRANGE TIME』……というか、現在のENUFF Z'NUFFとなんら変化はありません。なので、従来のENUFF Z'NUFFファンおよびチップVo体制移行後の彼らが好きなリスナーなら、問答無用で楽しめる1枚だと思います。それくらい「ソロでやる必要、ある?」って疑問に感じてしまう1枚。

ただ、視点を変えると「曲自体はENUFF Z'NUFFそのものだけど、演奏に関しては地味で突出したものが感じられない」と受け取ることもできる。ドラムは別として、上モノ(ギターなど)で個性を発揮しているのは先のジョエルがゲストプレイヤーとして参加した「Welcome To The Party」くらい。なもんで、優しい曲と優しい演奏(退屈とは言いませんが……)の連続でスルスル聴き進められて、気づいたら終わっている。しかも、特に大きな引っ掛かりもなく。そこだけがマイナスポイントかな。

ただ、そういった緩やかな方向性は今のチップの歌声にフィットしているのも事実。ドニー・ヴィが歌えばトゲの備わった良曲集という趣で楽しめるかもしれませんが、こういうチップらしいテイストもアリっちゃあアリだと思えるようになったのは収穫とも言えるかな。

1986〜7年頃にデモが制作されたENUFF Z'NUFFの未発表曲「Heaven In A Bottle」(当然ドニーとの共作)や、穏やかかつおおらかなメロディが印象的な「I Still Hail You」、ダークさが目立つ「Heroin」、カバーというよりはコピーに近い「Honaloochie Boogie」など特筆すべき楽曲も多く、実はENUFF Z'NUFFの最新作『FINER THAN SIN』(2022年)と対で語られるべき1枚かもしれません。

 


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2022年11月15日 (火)

ENUFF Z'NUFF『FINER THAN SIN』(2022)

2022年11月11日にリリースされたENUFF Z'NUFFの16thアルバム。

新作スタジオアルバムとしては日本未発売の『HARDROCK NITE』(2021年)からちょうど1年ぶり、オリジナルアルバムとしては同じく日本未発売の『BRAINWASHED GENERATION』(2020年)から2年4ヶ月ぶり。ここ2年はボリューム満点のデモ&未発表曲集『NEVER ENUFF: RARITIES & DEMOS』(2021年)もあったので供給過多な気もします。

そんな中届けられた本作はチップ・ズナフ(Vo, B)、トリー・ストッフリーゲン(G)、ダニエル・ヒル(Dr)という2016年から不動の3人に、2019年に一度脱退していたトニー・フェンネル(G)が復帰。「Steal The Light」などドニー・ヴィ(Vo, G)在籍時を彷彿とさせるスタイルと、「Catastrophe」などチップ体制になってからの路線を上手にミックスした、近作の中でも非常に良質の1枚に仕上がっています。

オープニングの「Sound Check」は文字通り、ライブやレコーディングのサウンドチェックで軽くセッションしているようなインストナンバー。ここから徐々にエンジンがかかり、「Catastrophe」「Steal The Light」と新旧の方向性を代表するような楽曲でアルバムは盛り上がりを見せます。「Steal The Light」、これめちゃめちゃ良いじゃないですか。やればできるのね。

その一方で、スピード感の強いスリリングな「Lost And Out Of Control」で新鮮さを感じさせつつ、再び従来のスタイルをなぞった「Intoxicated」で聴き手のハートを鷲掴み。なにこの起伏に富んだ、リスナーを見事に惹きつける作風。これドニーが歌ってたら(以下略

アルバム後半は7分近くにおよぶヘヴィ&サイケデリックな「Hurricane」、メロディ&ハーモニーが上質で軽快なパワーポップ「Trampoline」「Temporarily Disconnected」、SEX PISTOLSの名曲をド直球でカバーした「God Save The Queen」からオープニングトラック「Sound Check」へ再び戻る「Reprise」で締めくくり。アルバムとしてのストーリーも感じさせ、バラエティ豊かさもしっかり備わっている。かつ、1曲1曲の個性がしっかり立っており、「これドニーが歌ってたら(以下略」なんて冗談はいいながらもチップの歌もしっかり馴染んでいる。さらっとリリースされた本作ですが、実は何気にチップ・ズナフ体制、いや、ここ20年くらいにおいてのベストアルバムではないでしょうか。

そこまで期待していなかったからこそ、余計に驚かされた本作の素晴らしさ。このタイミングに日本盤がリリースされてよかったです。でも、日本盤はボーナストラックの「Intoxicated」リミックスは蛇足かな。流れが完璧すぎるだけに、ちょっと勿体なかったです。

 


▼ENUFF Z'NUFF『FINER THAN SIN』
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2021年11月22日 (月)

ENUFF Z'NUFF『HARDROCK NITE』(2021)

2021年11月12日にリリースされたENUFF Z'NUFFの最新カバーアルバム。日本盤未発売。

スタジオアルバムとしては昨年7月発売のオリジナル作品『BRAINWASHED GENERATION』(2020年)に続く新作。カバーアルバムは過去にも『COVERED IN GOLD』(2014年)と題したカバーコンピが存在しましたが、今回はビートルズナンバー、およびポール・マッカートニー(WINGS含む)とジョン・レノンのソロ楽曲から厳選された10曲を録り下ろし。すべの楽曲においてチップ・ズナフ(Vo, B)がリードボーカルを担当しています。

ザーッと聴いた印象では、パワーポップのルーツとしてビートルズをカバーするのではなく、ビートルズ周辺楽曲を題材にハードロックアルバムを作るという方向性かしら。ミックスの硬質感であったりアレンジに詰め方でったりが、以前の彼らと比べたら雑なんですよね。安直にハードロック風に焼き直しました、という感じとでもいいましょうか。

オープニング曲「Magical Mystery Tour」のイントロでちょっとしたコラージュ的遊びが飛び出すものの、その後の楽曲自体はストレートにハードロック色強めにカバーした印象。続く「Cold Turkey」も原曲自体がブルースロック的なのもあって、完全にハードロックのそれですし。かと思えば、味付けのしようが如何様にもあるであろう「Eleanor Rigby」までもがド直球のハードロックアレンジ。もっとほかにあっただろうに……。

以降もGUNS N' ROSESで手垢が付きまくりの「Live And Let Die」を、イントロで無駄にドラマチックにしようとするも失敗していたり、原曲よりもヘヴィではない「Helter Skelter」、唯一パワーポップ寄りな「Jet」、なんのひねりもない「Revolution」や「Back In The U.S.S.R」などが続きます……これまで無数ものビートルズHRカバー集が世に放たれましたが、それらと比べても工夫がなさすぎて評価に困るといいますか。

そんな中で、サイケデリックロック色を強めることでらしさが垣間見える「Dear Prudence」、ジョー・コッカー版アレンジでカバーした「Witha A Little Help From My Friends」あたりは特筆しておいてもいいかな、という仕上がり。前者はまあそうなるか……感が否めなくもないけど、このアルバムの中ではハイライトっぽい仕上がり。そして、アルバムの最後を締め括る後者は、このアレンジ自体BON JOVIやらTHUNDERも取り上げているのでHR/HMリスナーには新鮮味ゼロだけど、この流れの中ではフックになっているのではないでしょうか。

というわけで、なぜこんな作品をこのタイミングに制作して世に出そうと思ったのかは謎。彼らの名前くらいしか知らない人は無理して聴く必要もない、完全なファンアイテム。ビートルズのカバーを収集しているコアファンからどんなリアクションがあるのか、正直怖いくらいに平凡な“お遊び”盤。完全オリジナルの新作にボーナスディスクとしてくっ付けるでちょうどよかったんじゃないでしょうか。残念です。

 


▼ENUFF Z'NUFF『HARDROCK NITE』
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2021年9月 8日 (水)

ENUFF Z'NUFF『SEVEN』(1997)

1997年2月18日に海外でリリースされたENUFF Z'NUFFの7thアルバム。日本では1994年9月30日にCHIP & DONNIE名義で、『BROTHERS』というタイトルにて発表されました。

制作時期が『TWEAKED』(1995年)と重なること、特に日本では同作と同時期(1994年11月末)発売ということで、表裏一体の2枚であることが伺えます。ヘヴィ&ダークな『TWEAKED』と比べると、CHIP & DONNIE名義で発表されることとなった今作はよりパワーポップ色の強い、カラフルさと穏やかさが同居した意欲作に仕上がっています。

レコーディングメンバーはドニー・ヴィ(Vo, G, Key)、チップ・ズナフ(B, G, Vo)、ジョニー・モナコ(G)、リッキー・ペアレント(Dr)という布陣で、アディショナル・プレイヤーとしてデレク・フリーゴ(G)が3曲ほど参加。『TWEAKED』がドニー、チップ、リッキーにジーノ・マルティノ(G)という布陣だったことを考えると、この『SEVEN』および『BROTHERS』が最新ラインナップだったということになるのでしょうか(続く『PARAPHERNALIA』も同編成で制作されていますしね)。

上記のように日本では当初、バンドとは別名義の、あくまでドニーとチップによる“レノンマッカートニー”的作品集として発表されたこともあり、「やけにパワーポップ側に振り切ったアルバムだな」と感じながら聴いた記憶があります。しかし後年、海外では “ENUFF Z'NUFFの7作目”としてカウントされるようになったことで、素直に“バンドの一部”と捉えられるようになったんじゃないでしょうか。特に海外では、本作のあとに『PARAPHERNALIA』が続くという流れも自然ですし、『TWEAKED』と本作との間にレアトラック集『PEACH FUZZ』(1996年)を挟んでいることも効果的ですよね。

内容に関しては、文句なしの高品質さを誇り、ビートルズ・ライクな側面やCHEAP TRICKを彷彿とさせるカラー、90年代初頭のオルタナティヴロック的なテイストも随所に散りばめられており、曲によってはハードロック度が高いものもあり。『TWEAKED』から毒気を抜くとこうなるんじゃないか?とも感じられる部分が豊富にあるので、やはり今作は『TWEAKED』と地続きであり、一緒に語るべき重要な1枚ではないでしょうか。

『PARAPHERNALIA』以降のZNUFFが好きなら、間違いなく気に入るであろう1枚。いや、むしろ『TWEAKED』という“アク抜き”を含めて本作が好きな人なら、以降の活動は間違いなく受け入れられずはず。バンドにとって分岐点となった1枚ではないでしょうか。

なお、本作は海外での正式リリースに伴い3曲のボーナストラックが追加されています。うち1曲は『BROTHERS』にも収められたジョン・レノン「Jealous Guy」のカバー。残りの2曲はオリジナル曲の「For Your Girl」と「I Won't Let You Go」で、後者はサックスをフィーチャーしたアレンジがなかなかです。

 


▼ENUFF Z'NUFF『SEVEN』
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2021年9月 7日 (火)

ENUFF Z'NUFF『NEVER ENUFF: RARITIES & DEMOS』(2021)

2021年8月27日にリリースされたENUFF Z'NUFFのデモ音源集。日本盤未発売。(※2021年12月追記)同年12月15日に日本盤が発売となりました。

CD3枚組、アナログ4枚組でトータル40曲という非常にボリューミーな内容の本作は、80年前半にドニー・ヴィ(Vo, G)&チップ・ズナフ(Vo, B)が残したデモ音源をまとめたもので、リリース元はDeadline Music / Cleopatra Records。大半はカセットベースのデモなのか、音質的には良好とは言えないものも含まれています。また、曲によって音質/録音状態もまちまちなので、コアなファン向けアイテムといったところでしょうか。

しかし、収録されている楽曲は「これぞZ'NUFF!」と言えるような美メロ/良曲のオンパレード。メジャーデビュー期のようなハードロック色の強いテイストというよりは、中〜後期のパワーポップ路線の延長線上にある楽曲が中心で、そこにピロピロしたギターソロが乗るという、1stアルバム『ENUFF Z'NUFF』(1989年)以降の路線に通ずるアレンジの楽曲も少なくありません。それはそれで悪くなく、個人的には意外にも好印象だったりします。

曲によってはフェードアウトの途中で終わってしまうもの、曲頭が若干削れているものもあり、正真正銘の“デモ”ばかり。だけど、これらを磨きに磨けばそのへんの中途半端なパワーポップバンドに勝るであろう楽曲集/アルバムが数枚は作れるのでは。もちろん、そのためにはドニーがすべて歌うことが大前提ですけどね。

それにしても、40曲中半数近くはネット上に転がっている音質の悪い流出音源で耳にしたことがあるものばかりで、それらが少しだけ音質が向上した形で耳にできるというのはうれしい限り。中にはドニーがソロで発表した未発表音源集『THIS & THAT』(2004年)などで発表済みのデモ曲、ポール・ギルバートに提供した「Girl Crazy」のオリジナルバージョンも含まれており、特に後者はキーの違いこそあれど原曲を聴ける喜びは何ものにも変え難いものがあります。

音質的なものやアレンジの完成度もあって、そう何度も繰り返し聴くタイプのアルバムではないかもしれませんが(特に40曲っていうボリュームがね。苦笑)、それでも良い曲は良いわけで。ENUFF Z'NUFFに多少なりとも興味がある方、全アルバム網羅したよって方はぜひチェックしてみることをオススメします。

 


▼ENUFF Z'NUFF『NEVER ENUFF: RARITIES & DEMOS』
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2021年6月20日 (日)

ENUFF Z'NUFF『PEACH FUZZ』(1996)

1996年1月19日にリリースされたENUFF Z'NUFFの6thアルバム。

当初は完全新作と謳われていた本作、実は以前発売された『1985』(1994年)同様に、過去にレコーディングされながらもアルバム未収録だった楽曲を集めた、いわゆる寄せ集めコンピレーションアルバム。「Let It Go」や「Kitty」あたりは2ndアルバム『STRENGTH』(1991年)からのシングルC/W曲として発表済みなので、そういった事情もディープなファンは承知だったのでしょうね。

とはいえ、常にクオリティの高い楽曲を増産し続ける彼らのこと。本作には“残りもの”感は一切なく、言われなければ3rdアルバム『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』(1993年)の延長線上にある1枚として受け取るのではないでしょうか。事実、当時の僕もそう感じながら聴いていましたから。

レコーディングクレジットの参加メンバーから各曲の制作時期はなんとなく想像できますが、おそらく大半は『ANIMALS WITH HUMAN INTELLIGENCE』前後に録音したものなのかな。ジーノ・マルティノ(G)やジョニー・モナコ(G)の名前がないことから、80年代後半〜90年代初頭の楽曲が中心なんでしょうね。全体の音の質感やドラムの音色、楽曲の方向性的にも初期3作と重なるものがありますしね(中にはデモトラックっぽいクオリティの音源も含まれていますが)。そういった意味では、ハードロック色の強い時期のズナフがお気に入りというリスナーにはうってつけの1枚かもしれません。

本当に今聴き返しても、オリジナルアルバムとして純粋に通用するクオリティの1枚。アルバムとしてのまとまりは過去作ほど強くはないかもしれませんが、「Message Of Love」や「So Long」あたりは以降の作風にも通ずるものが感じられるので、90年代後半に『PARAPHERNALIA』(1999年)で本格的に復調するまでのつなぎとしても存分に機能する佳作かなと。個人的にはドニー・ヴィ(Vo, G)が歌ってくれさえすればオールOKです。

なお、本作は初出時、日本盤と海外盤とで収録内容/曲順およびアートワークがまったく異なるものでした(海外盤は日本盤より2曲少ない全10曲。実は隠しトラックとして「Kitty」が収録されているので、本当は11曲入り)。日本盤は90年代以降一度も最初されていませんが、海外では2008年の再発以降、日本盤と同じ収録内容/曲順に新たなアートワークが施されたものが流通しています。現在ストリーミングサービスで耳にすることができるバージョンもこちらなので、ご安心を。

 


▼ENUFF Z'NUFF『PEACH FUZZ』
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2020年11月21日 (土)

ELLEFSON『NO COVER』(2020)

2020年11月20日にリリースされたデイヴィッド・“ジュニア”・エレフソン(B/MEGADETH)のソロアルバム第2弾。

日本では今年3月に発売された初のソロアルバム『SLEEPING GIANTS』(海外では2019年7月リリース)に続く今作は、全曲豪華ゲストを迎えたカバー集。全19曲の大半はエレフソンのルーツ的楽曲になるのでしょうが、そんな中にFIGHTの「Nailed To The Gun」があったり、ビリー・アイドル「Rebel Yell」やW.A.S.P.「Love Machine」といったMEGADETHのデビューと非常に近しい時期の楽曲も含まれています。これは相方のトム・ハザート(Vo)の趣味なんでしょうかね。

さてさて。そんな本作のレコーディングメンバーですが、ベーシックはトム、エレフソン、アンディ・マルトンジェリ(G/ARTHEMIS)の3人が中心で、曲によって以下のようなゲストが参加しています(とにかく長いのでご注意を)。

※ボーカル
ジェイソン・マクマスター(DANGEROUR TOYS、WATCHTOWER)、ドロ・ペッシュ、ジェイコブ・バントン(ミック・マーズ、LYNAM、ex. STEVE RILEY'S L.A. GUNS、ex. MARS ELECTRICなど)、アンドリュー・フリーマン(LAST IN LINE)、アル・ジュールゲンセン(MINSTRY)、ブランドン・イーグレイ(CROBOT)、デイヴ・アルヴィン(WHITE TRASH)、トッド・カーンズ(THE AGE OF ELECTRIC)、マーク・スローターSLAUGHTER)、チップ・ズナフENUFF Z' NUFF

※ギター
ロン・“バンブルフット”・サール(一部ボーカルも/SONS OF APOLLOASIAなど)、ガス・G(FIREWIND)、アンディ・ジェイムズ(ex. SACRED MOTHER TONGUE)、エディ・オヘダ(ex. TWISTED SISTER)、グレッグ・ハンデヴィット(KUBLAI KHAN、ex. MEGADETH)、フランク・ハノン(TESLA)、ラス・パリッシュ(STEEL PANTHER、ex. FIGHT)、ジョン・アクイリノ(ICON)、タイソン・レズリー、デイヴ・シャープ(DEAD BY WEDNESDAY)、シャニ・キメルマン、ドリュー・フォーティアー(ZEN FROM MARS)

※ドラム
パオロ・カリディ(HOLLOW HAZE、ex. KILLING TOUCH)、デイヴ・マクレイン(SACRED REICH、ex. MACHINE HEAD)、チャック・ビーラー(ex. MEGADETH)、チャーリー・ベナンテ(ANTHRAX)、デイヴ・ロンバード(SUICIDAL TENDENCIESDEAD CROSSMR. BUNGLE、ex. SLAYER)、ジミー・デグラッソ(ex. BLACK STAR RIDERS、ex. MEGADETH、ex. Y&Tなど)、ダーク・ヴェルビューレン(MEGADETH、ex. SOILWORK)、オーパス(DEAD BY WEDNESDAY)、トロイ・ルケッタ(TESLA)、マイク・ヘラー(RAVEN、ZEN FROM MARS、ex. FEAR FACTORY

演奏はどれも原曲に忠実で、可もなく不可もなくといったところ。トム・ハザートがメインで歌う前半はダミ声中心なので、曲によっては「う〜ん……」と思うものも含まれています。が、中盤から後半……「Riff Raff」(AC/DC)、「Over The Mountain」(オジー・オズボーン)、「Sweet F.A.」(SWEET)、「Downed」(CHEAP TRICK)あたりはトム不参加でそれぞれマイク・マクマスター、アンドリュー・フリーマン、トッド・カーンズ、チップ・ズナフが歌っているので安心して楽しめるはずです。また、「Sheer Heart Attack」(QUEEN)や「Love Me Like A Reptile」(MOTÖRHEAD)にはドロ・ペッシュが、「Say What You Will」(FASTWAY)にはマーク・スローターがそれぞれ参加しており、聴けばそれとすぐにわかるボーカルで楽しませてくれます。

まあ、こういうアルバムはああだこうだ言わずに無心で楽しむのが一番なんでしょうね。強いて言うなら……ジュニアってそんなにCHEAP TRICK好きだったんだ、と(笑)。あと、DEF LEPPARDもね(アートワークの話)。なんだかんだこの人、ポップなものが好きなんでしょうかね。

 


▼ELLEFSON『NO COVER』
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2020年9月20日 (日)

CHIP Z'NUFF『STRANGE TIME』(2015)

2015年2月3日にリリースされたチップ・ズナフの1stソロアルバム。日本盤未発売。

ドニー・ヴィ(Vo, G)と並び、初期からENUFF Z'NUFFの主要メンバーとして知られるチップ・ズナフ(B, Vo)。ドニー脱退後は自身がリードボーカルを兼任し活動を継続していますが、ドニーがバンドを再脱退してしばらくバンド活動がままならなかった時期に、こんなソロアルバムを出していたんですね。実はつい最近まで未チェックでした。

本作はTHE KINKSのカバー「All Day And All Of The Night」を含むアルバム本編10曲に、元GUNS N' ROSESのスティーヴン・アドラー(Dr)とタッグを組んだEP『ADLER Z'NUFF』収録の5曲をボーナストラックとして追加した全15曲入り。アルバムとしては約70分とかなり長尺ですが、ひとまずここでは本編10曲とボートラ5曲を分けて考えたいと思います。

まずは、アルバム本編から。気心知れた仲間とともに、自身のスタジオなどで制作された本作は、基本的にENUFF Z'NUFFの延長線上にある作風。穏やかでダークでサイケデリック……という点においては初期や90年代半ばのENUFF Z'NUFFを髣髴とさせ、大半の楽曲がチップひとりで書かれたものだという事実に驚かされます。というのも、どの曲もチップ&ドニー名義で制作されたENUFF Z'NUFFのアルバムに収録されていても不思議じゃないくらい、完成度が高いのです。

オープニングを飾るダウナーな「Sunshine」からして、王道のENUFF Z'NUFF流サイケナンバーだし、中にはNINE INCH NAILSのトレント・レズナーと共作&リック・ルービンがプロデュースしたヘヴィな「Strange Time」という異色作まで存在する。で、その異色作から続く「Dragonfly」のダウナー感もたまらない。なにこれ、なんでENUFF Z'NUFFで出してくれなかったの? っていうか、ドニーばかりが天才だと思い込んでいて、バンドを守り続けるチップのことを過小評価していて本当にゴメン! そう思わずにはいられない内容でした。

90年代後期の作品に収録されていても不思議じゃないシャッフルビートのポップナンバー「Still Love Your Face」、ファンクの影響が強いダンサブルなオルタナチューン「F..Mary..Kill」、ダウナー感強めのパワーポップ「Strike Three」や「Hello To The Drugs」など、派手めの演奏でアレンジされたら確実にENUFF Z'NUFFナンバーとして通用する良曲ばかり。しかし、チップのボーカルの地味さが悪い方向に手伝って、この良曲たちをうまく生かせていない。そこだけが本当に勿体ない! ドニーのアクが強いボーカルで表現されていたら、どれだけ名作になっていたことか……。

ちなみに、「All Day And All Of The Night」にはゲストとしてCHEAP TRICKのロビン・ザンダー、そして元ガンズのスティーヴン・アドラーがゲスト参加。これもロビンがリードをとればよかったのに……と思わずにはいられません。それくらい、コーラス&ハモリでのロビンの声が特徴的すぎるんですよ。はあ。

一方、スティーヴン・アドラーと完全共作で挑んだEP5曲は、元ガンズのアドラーらしい派手さが加わった、非常にハードロック色の強い作風。オープニングを飾る「My Town」なんて完全にソレですよね。そこに、チップらしいパワーポップ感(美メロハーモニーやアナログシンセを使ったフレージングなど)が加わることで、デビュー時のENUFF Z'NUFFをちょっとだけ思い出させてくれます。全体の音作りもファットでキラキラ感が強く、アルバム本編のダーク&シンプルと対極にある構成です(メロディライン自体は同じくらい良質なのに。不思議です)。なお、「Tonight We Met (And Now We're Going To Fuck)」にはアドラーの盟友スラッシュがゲスト参加。いかにもなギタープレイを聴かせてくれます。

アルバム本編然りEP然り、楽曲を軸にした作品評価は高くなりますが、ボーカルを軸にした場合はどうしてもそこよりも劣るものになってしまう。頭では「もうドニーとは決別したんだ……」と理解していても、体がドニーの声を求めてしまう。チップって、つくづく不幸な人だなと思います。と同時に、ドニーをいつまでも求め続けてしまう僕らもね(苦笑)。

 


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2020年7月28日 (火)

ENUFF Z'NUFF『BRAINWASHED GENERATION』(2020)

2000年7月上旬にリリースされたENUFF Z'NUFFの15thアルバム。日本盤未発売。

チップ・ズナフ(Vo, B)をリードボーカルに据えた編成が本格化し、それまでのドニー・ヴィ(Vo, G)路線に慣れ親しんだ耳に違和感を残した前作『DIAMOND BOY』(2018年)から、ほぼ2年ぶりの新作となる本作。チップがリードボーカルなのはもちろんなのですが、楽曲のスタイルのせいでしょうか、前作よりも馴染んだ感が強まった印象を受けます。

そのひとつ前の『CLOWNS LOUNGE』(2016年)が初期のデモ音源が多く含まれていたせいか、その流れを汲む前作は初期のグラムメタル路線やサイケポップ/メタル路線が復調していました。こういう派手さを伴う楽曲に、チップのこもり気味でインパクトの弱い歌声は合っていなかったんですよね。ところが、今回は中期パワーポップ路線が再び強まったせいで、彼のセンチメンタルな歌声が妙にマッチした。これが本作の成功の秘訣だったのではないでしょうか。

とはいえ、前作までのメタリックな色も要所要所に散りばめられている。見方によっては、これまでの集大成感が強い内容なのかな。それは参加ゲストによる影響も大きく、「Strangers In My Head」では脱退したドニー・ヴィがリードボーカルを担当。さらにマイク・ポートノイ(Dr/SONS OF APOLLOなど)やエース・フレーリー(G/ex. KISS)、ダックス・ニールセン(Dr/CHEAP TRICK)なども華を添えており、程よい派手さを保ちつつも軸にあるパワーポップ感は損なわれることはないという、絶妙なバランス感で成立しております。

なお、ドニー参加の「Strangers In My Head」はドラマーがドニー在籍時のメンバーであるヴィニー・カスタルドなので、もしかしたら新曲ではなく、前々作『CLOWNS LOUNGE』からのさらなるアウトテイクかもしれませんね。

楽曲の良さは近作の中でもピカイチだと思います。オープニングのショートチューン「The Gospel」からリードトラック「Fatal Distraction」への流れ、「I Got My Money Where My Mouth Is」や「Help I'm In Hell」といった楽曲群、どれも素晴らしいんですよ。ただ……これを全部ドニーが歌ったら、きっと2000年前後の諸作にも匹敵する良作として評価されたのではないでしょうか。しかし、如何せんボーカルが弱すぎる……派手なギターソロに全部持っていかれちゃうんですよね。そこだけが勿体ない。やっぱりこのバンドは、早急にフロントマンらしいフロントマンを探して立て直すのが正解だと思います。チップ・ズナフ、ソングライターとしては一流中の一流だけど、フロントマン&リードボーカルの器ではないですよ、残念ながら。

大好きなバンドだからこそ評価が厳しくなってしまいますが、ボーカル以外は90点以上のレベルをキープしているので、ぜひ……(本当はドニーが復帰して歌ってくれるのが一番なんですけどね!)。

 


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2019年5月14日 (火)

ENUFF Z'NUFF『10』(2000)

ENUFF Z'NUFFが2000年10月にリリースした通算9作目のスタジオアルバム(日本では同年3月に先行リリース)。9作目なのに『10』というタイトル? と当時は疑問に思ったものですが、これは1998年のライブアルバム『LIVE』を加えた「通算10作目のアルバム」という意味なんだとか。紛らわしいですね。

この頃の彼らは海外ではインディーズ、日本ではメジャー(ポニーキャニオン)という非常に不安定な状況下でしたが、こうやって安定した良作を日本でしっかり流通させてくれる、しかも海外よりも半年以上も前にリリースしてくれるという恵まれた現状を喜ばしく思ったものです。

が、そういった活動状況が災いしてか、本作は日本でリリースされたバージョンと、半年後に海外でリリースされたバージョンとで収録内容および曲順が一部異なりました(もっと言えばジャケットもね)。SpotifyやApple Musicで聴けるストリーミングバージョンは今でこそ日本バージョンに準じた内容なので、ここでは初出の日本バージョンで話を進めます。

前作『PARAPHERNALIA』(1999年)までの数年は過去に制作した音源をパッケージしてお茶を濁していた感が強かった彼らですが、その『PARAPHERNALIA』で本格的に息を吹き返し、続く今作『10』では当時の彼らが目指した「普遍的なロック/パワーポップ」スタイルがひとつの到達点にまで達したように思います。

デビュー当時のようなフラッシーなギタープレイや重厚なハードロックサウンドを完全に排除して、地味ながらも普遍的な楽曲作りに専念した結果が本作なのかなと。それに、『PARAPHERNALIA』までは確実に存在したハードロック的要素が本作では可能な限り払拭されている。スタイル的にはダークな『TWEAKED』(1995年)とアコースティックベースの『SEVEN』(1997年)をよりスケールアップさせたような印象を受けますが、今作でのソングライターとしての手応えは、間違いなくバンドの(というよりもフロントマンであるドニー・ヴィの)その後の方向性を決定づけたと言っても過言ではない気がします。

若干ダークながらもヘヴィすぎない「Wake Up」から「The Beast」への流れ、そこから一気に弾ける「There Goes My Heart」という構成も素晴らしいですし、何よりも「There Goes My Heart」という名曲が含まれているというだけで本作に対する評価は大きく変わる気がします。

さらに「All Right」や「Holiday」といった良メロナンバーも含まれていますし、「Bang On」みたいなアップテンポのロックンロールやサイケデリック調の「Fly Away」、本作でもっともハードロック色が強い「No Place To Go」(USバージョンの『PARAPHERNALIA』にオリジナルバージョン収録。今作のバージョンではチップ・ズナフが歌唱)があったりと、アルバムとしてもバラエティ豊か。「ENUFF Z'NUFFってどんなバンド?」と質問されたら、まずこれを聴かせておけ!と言いたくなるくらい、“らしさ”がたっぷり詰まった1枚です。

 


▼ENUFF Z'NUFF『10』
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