カテゴリー「Eric Clapton」の12件の記事

2022年10月30日 (日)

OZZY OSBOURNE『PATIENT NUMBER 9』(2022)

2022年9月9日にリリースされたオジー・オズボーンの12thアルバム(スタジオアルバムとしては通算13作目)。

コロナ禍ということもあり、前作『ORDINARY MAN』(2020年)から約2年半という非常に短いスパンで届けられた今作。前作が10年ぶりの新作だったことを考えると、この間隔の短さは異常と思わずにはいられません。

全米3位という過去最高順位を獲得した前作に倣い、今作も引き続きアンドリュー・ワット(ポスト・マローン、ジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラスなど)がプロデュースを担当。ただ、前作がダフ・マッケイガン(B/GUNS N' ROSES)とチャド・スミス(Dr/RED HOT CHILI PEPPERS)、そしてアンドリュー(G)がベースのトラックをレコーディングにしたのに対し、今回はベースにダフ、ロバート・トゥルヒーヨ(METALLICA)、クリス・チェイニー(ex. JANE'S ADDICITIONなど)、ドラムにチャドのほかテイラー・ホーキンス(FOO FIGHTERS/本作が生前最後のレコーディング作品)が参加し、ギターのベーシックトラックもアンドリューに加えザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETY )もプレイしていることから、前作以上に“戻ってきた感”が強まっています。

また、リードギター/ギターソロに関しても曲ごとに豪華なゲストを迎えているのが本作最大の特徴。ザックが4曲でそれらしいプレイを披露しているほか、マイク・マクレディ(PEARL JAM)が1曲、BLACK SABBATH時代の盟友トニー・アイオミが2曲、60年代“3大ギタリスト”のうちの2人……ジェフ・ベックが2曲、エリック・クラプトンが1曲にゲスト参加と、ツアーが行えず固定バンドを持たない今のタイミングならではのバラエティ豊かな布陣が華を添えています。

楽曲の指向自体は『ORDINARY MAN』の延長線上にある、“BLACK SABBATHのいいとこ採り+『NO MORE TEARS』(1991年)以降の王道ハードロック”路線を踏襲した楽曲ばかり。例えば、アイオミ参加の「No Escape From Now」はアレンジ含め完全にサバスを踏襲したものだし、ジェフ・ベックがプレイするタイトルトラックも前作に収録されていても不思議じゃない仕上がり。そんな中、クラプトンがいかにもなプレイを披露する「One Of Those Days」が“サバス meets CREAM”みたいなサイケデリックハードロックで、思わずニヤリとしてしまいます。

かと思えば、ザックが豪快なギタープレイを聴かせてくれる「Parasite」や「Evil Shuffle」はもろにBLACK LABEL SOCIETY経由のオジーサウンドだし、「Mr. Darkness」や「Nothing Feels Right」は良い意味で『NO MORE TEARS』以降を思わせるコラボレーションといった印象。さすが息が合っていると言いますか、痒いところに手が届く仕上がりです。

個人的には、マイク・マクレディ参加の「Immortal」が曲調/メロディ含め『NO REST FOR THE WICKED』(1988年)〜『NO MORE TEARS』期のオジーっぽかったり、終盤に収められた「Dead And Gone」も『THE ULTIMATE SIN』(1986年)期を彷彿とさせたりと好印象。さらに、ラストを飾る2分程度のスローブルース「Darkside Blues」もお遊び以上の魅力があり、非常に気に入っています。

前作に存在したピアノバラードなどスローナンバー皆無、全13曲で60分強と非常にボリューミーな内容で、消化するまでに少々時間を要する作品ですが、個人的には今作って前作『ORDINARY MAN』と対で存在することで成立する1枚なのかなという気がしています。これ1枚だけで評価するとミスリーディングしてしまいそうだけど、『ORDINARY MAN』から地続きの連作として捉えると初めて見えてくるものがある。そんな意味深な良作ではないでしょうか。

 


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2022年6月16日 (木)

SHERYL CROW『SHERYL: MUSIC FROM THE FEATURE DOCUMENTARY』(2022)

2022年5月6日にリリースされたシェリル・クロウの最新コンピレーションアルバム。日本盤は同年5月18日発売。

本作は今年3月11日にアメリカのカルチャーコンベンション『SXSW』にてプレミアム公開され、5月6日に米・テレビネットワークSHOWTIMEにて放送されたドキュメンタリー映画『SHERYL』にあわせて制作された、サウンドトラック的立ち位置のベストアルバム。映画では1993年のメジャーデビュー以降に直面した性別や年齢での差別、うつ病やがんとの対峙など名声の代償と戦いながら才能を発揮していく彼女の約30年間を追った内容とのことです。

1962年生まれのシェリルが正式デビューしたのは、1993年8月発売のアルバム『TUESDAY NIGHT MUSIC CLUB』にて。当時、すでに31歳と遅咲きの印象ですが、このアルバムから生まれた「All I Wanna Do」(全米2位)、「Strong Enough」(同5位)の大ヒットが手伝い、アルバムも最高3位、アメリカだけで700万枚を超えるメガヒット作となりました。続く2ndアルバム『SHERYL CROW』(1996年)も全米6位/300万枚以上のヒットを記録し、このコンピレーションアルバムのオープニングを飾る代表曲のひとつ「If It Makes You Happy」(全米10位)や日本のテレビCMソングでもおなじみの「Everyday Is A Winding Road」(同11位)などを輩出しました。さらに、この時期には映画『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)の主題歌「Tomorrow Never Dies」(本作未収録)も担当するなど、早くもアーティストとして大きなピークを迎えています。

そんな黄金期の楽曲は、このコンピ盤のDISC 1にまるまる収録。最初の2枚のアルバムから15曲も選出されているあたりに、この時期に対する思い入れが伝わります。悪い言い方をしてしまえば、それ以降は初期2作の成功には追いつけていないと見なすこともできるわけですが……。まあとにかく、彼女の黄金期をリアルタイムで知らない世代には、おさらいとして十分な役割を果たす1枚ではないでしょうか。おまけ的に映画『カーズ』(2005年)のサウンドトラックから「Real Gone」のスタジオライブ音源も追加されていますしね。

そして、DISC 2は3rdアルバム『THE GLOBE SESSIONS』(1998年)以降の楽曲および新録曲3曲で構成。『THE GLOBE SESSIONS』から5thアルバム『WILDFLOWER』(2005年)あたりまでは僕自身もリアルタムで触れていたのですが、本作には『WILDFLOWER』からは1曲もセレクトされず。6thアルバム『DETOURS』(2008年)以降の3作はスルーされ、10thアルバム『BE MYSELF』(2017年)からは1曲のみ。しかし、最新作『THREADS』(2019年)からは6曲と多くセレクトされています。これは同作がコラボ曲で構成されていることも大きく影響しているのかなと。例えば、ジョージ・ハリスンのカバー「Beware Of Darkness」ではエリック・クラプトンスティング、ブランディ・カーライルと共演していますし、THE ROLLING STONESのカバー「Thw Worst」では本家キース・リチャーズとコラボを果たしていますしね。無駄に豪華。

新録3曲もある意味ではその流れを汲んでおり、ストーンズのカバー「Live With Me」にはミック・ジャガーがブルースハープでゲスト参加。アレンジ/演奏含め、本家に匹敵するカッコよさなので、ぜひストーンズファンやアーシーなハードロックを愛聴するリスナーにも触れてほしい1曲です。そのほかの新曲「Forever」と「Still The Same」はこれまでの彼女のスタイルの延長線上にある、ミディアム/スローナンバー。「Live With Me」でロックアーティストとしての存在感を示し、残りの2曲でシンガー/表現者としての深みを提示しているのかなと。

残念ながら、先のドキュメンタリー映画は今のところ日本では視聴不可ですが、この作品を観てからサントラに触れるとより味わい深く楽しめるのかな。もちろん、彼女のキャリアを総括するという点においても、本作はそれなりに効力のある内容なので、これからシェリル・クロウというアーティストに触れてみようとおもうビギナーにもうってつけの作品だと思います。僕もこのアルバムを聴いて、抜け落ちていた2000年代後半以降の音源(特にコラボ作『THREADS』)を積極的にチェックしてみようと思えたくらいでしたから。

 


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2020年11月17日 (火)

THE ROLLING STONES『STEEL WHEELS LIVE』(2020)

2020年9月25日にリリースされたTHE ROLLING STONESのライブ作品。

ライブ作品のリリースを目的としたものではない録音物をレストアして公式発売する“Official Bootleg”の一環で発表されたもの。ここのところ90年代のライブ作品がいくつもリリースされてきましたが、1989年のアルバム『STEEL WHEELS』のツアー関連では2012年のライブ音源『LIVE AT THE TOKYO DOME』(デジタルリリースのみ)、2015年の“From The Vault”シリーズからのライブ映像『LIVE AT THE TOKYO DOME』に続く3作目となります。といっても、先の東京ドーム作品は同一公演のものなので、正しくは2作品目なのですが。

本作には1989年8月31日からスタートしたワールドツアーの中から、1989年最後の公演となった12月17、19、20日のニュージャージー州アトランティック・シティでのライブを収録したもの(セットリストどおりということになると、本作は19日の模様を収めたものでしょうか)。この3公演にはLA公演(同年10月)でオープニングアクトを務めたGUNS N' ROSESからアクセル・ローズ(Vo)&イジー・ストラドリン(G)、そしてエリック・クラプトン(G)とジョン・リー・フッカー(G)がゲスト参加。当時海外ではラジオ放送もされ、この音源が日本にもブートレッグとして流れてきたものです。確かCD3枚組の大容量で、値段も1万円前後したような……浪人生だった自分にはキツイ出費でした(苦笑)。

当時の記憶をたどりながら本作(音源)に触れたのですが、その音のクリアさ、きめ細かさに驚かされました。いや、FMラジオ音源(を元にしたブート)も相当聴きやすかったですが、あれから30年以上を経て公式に届けられたこの音源、通常のライブ作品として何ら問題のない仕上がりだと思います。

このライブの次(約2ヶ月後)が初の日本公演とあって、選曲的にはジャパンツアー序盤に近いものがあり、内容的には大きな驚きはないのですが、やはり特筆すべきはアクセル&イジー参加の「Salt Of The Earth」、クラプトン参加の「Little Red Rooster」、クラプトン&ジョン・リー・フッカーとの共演曲「Boogie Chillen'」でしょう。Setlist.fmによると、ストーンズが「Salt Of The Earth」をライブで披露するのは1968年以来21年ぶりとのこと。ミック・ジャガーキース・リチャーズ、アクセルの3人が歌い分けるこの「Salt Of The Earth」は豪華なものがあります。若き日のアクセルは若干緊張気味なのか、いつものアグレッシヴさが足りないような気がしないでもありません(笑)。イジーのギターは……と耳を傾けると、どうしてもロニー・ウッドのスライドプレイに耳が行ってしまうという(苦笑)。ゴメンね、イジー。

クラプトン参加の「Little Red Rooster」は、聴けばすぐにわかるプレイなので書くまでもなく。続く「Boogie Chillen'」はジョン・リー・フッカーのカバーなので、主役は彼自身。ストーンズやクラプトンがレジェンドのバックを務めつつ、随所で自身の個性を出すという微笑ましさもこの時期ならではでしょうか。

まだストリーミングで音源しか耳にしていないので、映像のほうはこれから購入して確認しようと思いますが、東京ドーム公演とは違った海外での盛り上がりは一見の価値ありかなと。なお、ボックスセットには東京ドーム公演のDVDと、『STEEL WHEELS RARE REELS』と題して「Play With Fire」「Dead Flowers」(1989年9月3日のトロント公演)、「Almost Hear You Sigh」「I Just Want To Make Love To You」「Street Fighting Man」(1990年7月6日ロンドン公演)を収録したボーナスCDが付いているので、値段は張るけどこちらを購入してみようと思います。

 


▼THE ROLLING STONES『STEEL WHEELS LIVE』
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2019年1月 5日 (土)

ERIC CLAPTON『UNPLUGGED』(1992)

1992年8月にリリースされた、エリック・クラプトンのアコースティック・ライブアルバム。同年1月に行われた『MTV UNPLUGGED』の収録ライブから、のちにアルバム『PILGRIM』(1998年)でレコーディングされる「My Father's Eyes」や「Circus」などを除く全14曲が収められています。また、本作は全米1位、全英2位という大成功を記録し、特にアメリカでは1000万枚以上を売り上げるなど、その後のアンプラグド・ブームの火付け役となりました。

ちょうど本作の収録と前後して、クラプトンが映画『ラッシュ』のサウンドトラックを制作し、そこに収録したアコースティックナンバー「Tears In Heaven」が全米2位、全英5位と、彼のキャリア中もっとも成功した1曲となったこともこのアンプラグド・アルバムの成功に拍車をかけたことは間違いありません。

収録曲ですが、「Tears In Heaven」をはじめ「Old Love」や「Running On Faith」など過去のアルバムに収録されたオリジナル曲、DEREK AND THE DOMINOS時代の名曲「Layla」以外は、クラプトンの趣味趣向が反映されたブルースのカバー中心。もちろん、その中には「Before You Accuse Me」や「Rollin' And Tumblin'」といったCREAM時代からソロ時代までに取り上げてきたおなじみの曲も含まれています。

その中には、クラプトンが敬愛するロバート・ジョンソンのカバーも多く含まれており、ここでの経験がのちのブルース・カバーアルバム『FROM THE CRADLE』(1994年)やロバート・ジョンソンのみをカバーしたスタジオアルバム『ME AND MR. JOHNSON』(2004年)につながっていくわけです。

全編でクラプトンのアコースティックプレイと、リラックスした歌声を担当できる本作は、エレキスタイルで表現される緊張感の強い演奏とは異なる側面が反映されています。例えば「Layla」でのキーを下げ節回しを変えた歌唱スタイルなんて、まさにその色がもっとも強く表れているので、これがダメって人には無理強いできないかな。そんな人いるかどうかわかりませんが。

まあ本作は、ここ日本でもバカ売れしましたし、アメリカでも第35回グラミー賞(1993年)で6部門にノミネートされたうち3部門受賞(最優秀男性ロックボーカル、最優秀年間アルバム、最優秀ロックソング)を獲得。ギター弾いてた奴は急にアコギ(しかも、クラプトンと同じマーチンの000-42)を購入したり、来日した際にはそれまでロックのロの字もなかった女性から「行きたい!」と急に連絡が来たり……良くも悪くも“ブーム”を作ってしまった、罪深き1枚なんですわ。まあ、内容の良さとはまったく別の話題ですが。

なお、本作は2013年にカットされた「My Father's Eyes」や「Circus」、放送のために2回演奏された楽曲なども含むボーナスディスクや別売りされていたDVD同梱のデラックス・エディションも発売。90年代前半、早くも名曲と噂されていた「Circus」(当時のタイトルは「Circus Left Town」)聴きたさに西新宿界隈をさまよった身としては、クリアな音質で当時の音源を楽しめるこのバージョン発売には歓喜したものです(ぶっちゃけ、『PILGRIM』のスタジオバージョンよりこっちのほうが好きなので)。



▼ERIC CLAPTON『UNPLUGGED』
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2019年1月 3日 (木)

STING『...NOTHING LIKE THE SUN』(1987)

スティングが1987年秋に発表した、通算2作目のスタジオソロアルバム。本作からは「We'll Be Together」(全米7位/全英41位)、「Be Still My Beating Heart」(全米15位)、「Englishman In New York」(全米84位/全英51位)、「Fragile」(全英70位)、「They Dance Alone」(全英94位)などのシングルヒットが生まれ、アルバム自体も全米9位、全英1位という好成績に恵まれました。特に「We'll Be Together」「Englishman In New York」が当時ビールやビデオテープのCMソングに使用されたこともあり、日本のファンの間でも馴染み深いアルバムの1枚と言えるでしょう。

前作『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』(1985年)THE POLICE時代の恩恵もあり大ヒットを記録。そういう意味では続く今作でソロアーティストとしてのスティングの真価が問われるわけですが、そういった外野からの声を完全に無視するかのように、このアルバムではジャズを軸にした独自の世界観が展開されています。

アルバムのオープニングを飾る「The Lazarus Heart」のジャズやフュージョンを彷彿とさせるノリ、「Englishman In New York」でのレゲエとジャズをミックスしたテイストは、まさにスティングならではと言えるでしょう。また、「They Dance Alone」後半の展開や、ジミ・ヘンドリクスのカバー「Little Wing」に感じられるインプロ的緊張感は、本作に到るまでに彼が経験したソロツアーが大きく反映されているのではないでしょうか。

そういえば、本作は参加メンバーもそうそうたるもので、ルーベン・ブラデス(Vo, G)、ハイラム・ブロック(G)、エリック・クラプトン(G)、マーク・ノップラー(G)、アンディ・サマーズ(G)、マーク・イーガン(B)、ケンウッド・デナード(Dr)、マヌ・カチェ(Dr)、アンディ・ニューマーク(Dr)、ケニー・カークランド(Key)、ブランフォード・マルサリス(Sax)、ギル・エヴァンス(オーケストラ指揮)、GIL EVANS ORCHESTRAなど、ジャズやフュージョン、ブラックミュージック、ロックなどさまざまなジャンルからトップアーティストが勢揃い。ギル・エヴァンスが参加してるというのが、そもそもポップス/ロック界的には当時、相当衝撃的だったような記憶があります。

『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』と比較すると全体的に穏やかで、ロックやポップスのジャンルにおいてはかなり地味な部類に入る作品だと思います。事実、当時高校生だった自分にはかなり大人な内容で、正直すぐに気に入ったかと言われると微妙でしたし。が、中にはグッとくる楽曲も多かったですし、スティングが活動を重ねアルバムを重ねていくごとに、振り返ってこの作品を聴くと「これ、ものすごいアルバムなんじゃないか……」と少しずつ気づくという。そんな濃さと奥深さを持つ傑作のひとつだと思います。

ですが本作、実はかなり闇の深い1枚でもあります。本作の制作に向かう過程で、スティングは最愛の母親を亡くしています。また、ツアーで訪れた南米で触れた、現地の内戦などでの犠牲者たち……こういった出来事から受けた死生観が、歌詞に落とし込まれている。それがアルバム全体を多く「明るくなりきれない」空気につながっているのではないでしょうか。

また、本作は当時としては破格のフル・デジタル・レコーディング作品。そんな触れ込みもあって、当時のCDとしてはかなり音が良かった記憶が。もちろん、現在はもっと音の良い作品は山ほどあるので、今となってはどうってことのないトピックですが。



▼STING『...NOTHING LIKE THE SUN』
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2018年8月22日 (水)

CHUCK BERRY『HAIL! HAIL! ROCK'N'ROLL』(1987)

1987年に制作・公開されたライブ/ドキュメンタリー映画『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』のサウンドトラック的ポジションにあたる、チャック・ベリーのライブアルバム。ちゃんと音源を聴いたことがない人でも、チャック・ベリー=「Johnny B. Goode」の人、という構図は自然と浮かんでくるはず。僕もそのひとりで、さらに「ビートルズストーンズが初期にカバーした人」といった程度の知識で、実はこのアルバムを通して初めてチャック・ベリーという人にちゃんと触れ、映画(というかビデオ)で初めて動く姿を目にしたのでした。

この映画は、チャック60歳の誕生日をお祝いするライブイベントを、彼を敬愛するキース・リチャーズがプロデュースしていく流れが収められたもので、さてどんなレジェンドの一挙手一投足が見られるのか、と楽しみにしていると……その期待が木っ端微塵に打ち砕かれます。

なんだよ、ただの偏屈ジジイじゃねえか、と(笑)。

リハーサルにもちゃんと参加しない、キースがうまく進めようとするといちゃもんをつけるチャックの姿は、ダックウォークでギターをプレイする伝説的な姿とは真逆にあるもので、チャックの前ではあのキースも子供に見えてしまうのですから、本当に面白いものです。ぜひアルバムと同時に、この映画のほうもチェックしていただきたいです。良くも悪くも、ロック史に残る名ドキュメント作品ですので。

ですが、そんなチャックもライブ本番はきっちりこなすわけです。この、良い意味でのテキトーさが、長きにわたり愛され続けた所以……とは思いたくないですが、アルバムで聴けるロッククラシックの数々と、そのチャックを支えるキースを中心としたバンドたち(ドラムにスティーヴ・ジョーダン、キーボードにチャック・リーヴェルという布陣はアレサ・フランクリンのときと同じ)に加え、ゲストプレイヤーとしてエリック・クラプトン、ロバート・クレイ、ゲストボーカルでエタ・ジェイムズ、ジュリアン・レノン、リンダ・ロンシュタットが参加。リンダ・ロンシュタットの力強い歌声や、クラプトンらしいブルージーなギタープレイ、さらには父親ジョン・レノンそっくりな歌声で「Johnny B. Goode」を歌うジュリアンなど、聴きどころ満載です。

チャック・ベリーってどれから聴けばいいの?とお悩みのあなた。遺作となった『CHUCK』(2017年)でもベストアルバムでもいいですが、僕は単なる映画のサントラでは終わらない、ここでしか聴けない豪華なコラボ&名演が詰まった本作をオススメしたいと思います。後半の名リフ連発っぷりは、ただただアガりっぱなしですから。



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2018年2月21日 (水)

BUDDY GUY『DAMN RIGHT, I'VE GOT THE BLUES』(1991)

昨日のジョニー・ウィンターと同時期によく聴いた1枚。そうですね、たぶんこの頃の僕は確実にブルースにかぶれていたんだと思います。そりゃそうか、1990年2月にROLLING STONES初来日公演に立会い、同年末にはエリック・クラプトンの武道館公演、翌1991年12月にはジョージ・ハリスン&クラプトンの東京ドーム公演に足を運んでいたのですから。あと、1990年にスティーヴィー・レイ・ヴォーンが亡くなったのを機に彼の音にも触れ始めたり、ロバート・ジョンソンの音源が初CD化されたからと手を伸ばしてみたり……若気の至りですね(苦笑)。

そんな中、1991年に発表されたバディ・ガイ通算7枚目のスタジオアルバム『DAMN RIGHT, I'VE GOT THE BLUES』にも手を出したわけですね、当時。THE STONE ROSESで知られるSilvertone Records移籍第1弾アルバムとなった本作は、初の全米トップ200入り(最高136位)を記録。翌年の第34回グラミー賞では最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム賞を受賞し、自身初のグラミー受賞を果たしたそうです(Wiki情報によると)。

さて、このアルバムですが、とにかくゲストが豪華なのですよ。前作から9年も間隔が空いたこともあり(その間、レーベル契約はなかったとのこと)、久しぶりの新作を祝すようにマーク・ノップラー(DIRE STRAITS)、ジェフ・ベック、エリック・クラプトンがゲストギタリストとして参加。ドラマーにはリッチー・ヘイワード(LITTLE FEAT)を起用するなど、全体的にロック色の強い骨太なブルースアルバムに仕上がっています。

自身の楽曲はもちろんのこと、ブルース/ソウルアーティストのスタンダートナンバー(「Five Long Years」や「Mustang Sally」「Early In The Morning」など)も積極的に取り上げられており、そういった点では親しみやすい内容かもしれません。僕もジェフ・ベックが参加した「Mustang Sally」を耳にしたのをきっかけに、本作を手にしたのですから。

クラプトンとベックがそれぞれ良い味を出しているし、個々のプレイの違いを聴き比べられるという点でも非常に興味深い1枚だと思います。そして、リッチー・ヘイワードのずっしりとしたドラミングも聴き応えがあり、そのへんもロックリスナーにはとっつきやすさにつながっているのではないでしょうか。

……なんて、本作の“おまけ”についてばかり書いてきましたが、本作のキモはもちろんバディ・ガイの歌とギタープレイ。特にボーカルワークに関しては特筆に値するものがあり、ヘタな若手ソウルシンガーを聴くよりも意味があるんじゃないかと思わせられるほど。ギタープレイにしても「There's Something On Your Mind」で聴けるあの絶妙なトーンは、とてもじゃないけど真似できないなと思ってしまいます。

そういえば、当時よくバンドで「Mustang Sally」を本作のアレンジでカバーしたっけ。そうですね、完全にかぶれまくってましたね……良い思い出です。

最近のバディ・ガイは、数年前にリリースした2枚組アルバム『RHYTHM & BLUES』(2013年)が全米27位にランクインし話題になったばかり。同作にはキッド・ロックやキース・アーバン、スティーヴン・タイラージョー・ペリー&ブラッド・ウィットフォード(AEROSMITH)、ゲイリー・クラーク・Jr.あたりもゲスト参加しているので、こちらもロックリスナーには親しみやすい作品集かもしれませんね。まあ、まずはこの『DAMN RIGHT, I'VE GOT THE BLUES』から入っていくことをオススメしますが。



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2018年2月19日 (月)

ERIC CLAPTON『JOURNEYMAN』(1989)

エリック・クラプトンが1989年11月に発表した、ソロ名義で通算11枚目のオリジナルアルバム。前2作を手がけたフィル・コリンズから、大御所ラス・タイトルマンにプロデューサーを変更して制作された最初のアルバムで、重厚なハードロックから彼のルーツであるブルース、さらにはAORにも通ずる大人の色香漂うモダンなポップロックまで、まるでそれまでのキャリアを総括するかのようにバラエティに富んだ、非常に聴き応えのある1枚に仕上がっています。

とはいえ本作はクラプトン単独書き下ろし曲が皆無で、大半が職業作家による楽曲やジョージ・ハリスン書き下ろし曲「Run So Far」(ジョージは同曲のレコーディングにも参加)、さらにはエルヴィス・プレスリー「Hound Dog」やレイ・チャールズ「Hard Times」といったスタンダード曲のカバー、ボ・ディドリー「Before You Accuse Me」のブルースカバーなどで締められています。そんな中でクラプトンはソングライティングにおいて、シングルカットもされたミック・ジョーンズ(FOREIGNER)との共作「Bad Love」、当時は若手ブルースギタリストとして頭角を現し始めていたロバート・クレイとの共作「Old Love」の2曲に携わったのみ。

じゃあクラプトン色が薄いのかといわれると、実はそんなこともなく。ギタープレイはもちろんのこと、ボーカルワークでも存在感の強さを証明しています。実際、本作はセールス的にも成功を収めており、「Bad Love」はここ日本でもCMソングに起用されて馴染み深い1曲となっています。

また、本作に収録された楽曲が過去のソロ曲やCREAM〜DEREK AND THE DOMINOS時代の名曲たちと混ざり合ったときの自然さときたら……本作に続いて発表されたライブアルバム『24 NIGHTS』(1991年)でもこの『JOURNEYMAN』からの楽曲が軸になっていることからも、本作はクラプトンの80年代後半以降における代表作のひとつになったことが伺えるのではないでしょうか。

他人が書いた曲とはいえ、重厚なハードロック「Pretending」やソウルフルなバラード「Running On Faith」、産業ロックテイストのミドルナンバー「No Alibis」は良曲と呼べるし、特に前2曲は当時のライブにおいても重要な役割を果たすキラーチューンだったと思います。また、フィル・コリンズがドラムで参加した疾走感の強い「Bad Love」、ライブでは終盤にエモーショナルなギターソロが長尺で展開される「Old Love」、のちの“アンプラグド”でおなじみとなる「Before You Accuse Me」と、印象深い楽曲が満載。「Hard Times」での“枯れ”感や「Lead Me On」で聴かせるアダルト感も、のちの「Tears In Heaven」や「Change The World」に通ずるものがあるのではないでしょうか。

クラプトンのソロ作というとどうしても70年代の諸作品をまず最初に挙げる傾向が強いですが、80年代育ちの自分としてはそこに本作も付け加えたいと思うくらい、大好きな1枚です。この当時のクラプトンを深く知りたければ、本作と先のライブ盤『24 NIGHTS』、そしてメガヒット作『UNPLUGGED』(1992年)の3作品を聴けば間違いないはずです。



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2018年2月18日 (日)

GEORGE HARRISON『CLOUD NINE』(1987)

ジョージ・ハリスンが1987年11月に発表した、通算11枚目のソロアルバム。本作からは「All Those Years Ago」(1981年/全米2位、全英13位)以来となるヒットシングル「Got My Mind Set On You」(全米1位、全英2位)、「When We Was Fab」(全米23位、全英25位)が生まれ、アルバム自体も全米8位、全英10位のヒット作となりました。特にアメリカではセールス100万枚を突破し、これは1970年の大作『ALL THINGS MUST PASS』に次ぐ記録となります。

アルバムとしては前作『GONE TROPPO』(1982年)から5年もの間隔が空いていますが、実際その当時のジョージは音楽業界からなかば引退状態にあったとのこと。ですが80年代後半からマドンナ主演映画『上海サプライズ』への楽曲提供をはじめ、1988年にジェフ・リン、ボブ・ディラン、トム・ペティ、ロイ・オービソンと覆面バンドTRAVELING WILBURYSを始動させたあたりから音楽活動が本格化。TRAVELING WILBURYSで活動をともにしたジェフ・リンをプロデューサーに迎え、新たなソロアルバムを制作することになるのでした。

本作は僕が積極的に洋楽を聴き初めてから初めてのジョージのソロアルバム。リアルタイムで亡くなった報道と立ち会ったジョン・レノンや、大きなヒットこそなかったものの常に新作を提供し続けたポール・マッカートニーと比べ、どうしても影の薄い“FAB 4”のひとりがジョージでした(あれ、もうひとりは……)。

そんなですから、初めて「Got My Mind Set On You」を聴いたときは、正直グッときたことを覚えています。いや、別にビートルズをリアルタイムで聴いてきた世代でもないですし、70年代のジョージの活躍も知らない世代でもない、完全な後追いの小僧ですよ。だけど、そんな僕でも「ああ、ジョージが帰ってきた!」なんて思ってしまうほど、この極上のポップチューンは当時16歳だった自分の胸に響きまくったわけです。

アルバム自体もブルージーな「Cloud 9」やビートルズ時代を彷彿とさせるアレンジの「This Is Love」「When We Was Fab」「Someplace Else」があったり、ゲストプレイヤーとしてエリック・クラプトンやエルトン・ジョン、リンゴ・スターなどが参加していたりと、とにかく豪華。いわゆる“パブリックイメージとしてのジョージ・ハリスン”と“にわかファンがなんとなく思い浮かべる「ビートルズのジョージ」”を見事に具現化したサウンド&アレンジには、さすがジェフ・リン!と思わずにはいられません。ホント、この人が舵取りをしなかったらこんなアルバムにはならなかったんでしょうね。

まあ、そのへんもあって本作が旧来のファンからは叩かれる対象になっているのも理解できます。が、本作がジョージ生前最後のオリジナルアルバムとなってしまった今となっては、そんな物言いはどうでもよく。やっぱり誰がなんと言おうと、よくできたポップ/ロックアルバムだと思うのです。

それ以前の作品と比較すれば、確かにジョージのカラーは若干薄めです。が、本作がなかったらのちの「Free As A Bird」も「Real Love」もなかったんだろうなと考えると、やはり彼のキャリア上重要な1枚であることには間違いありません。

まあとにかく、一度はそういった雑音をシャットアウトして、本作と向き合ってみることをオススメします。高1の秋、自分が初めてこのアルバムと向き合ったときみたいに。



▼GEORGE HARRISON『CLOUD NINE』
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2017年11月17日 (金)

RICHIE SAMBORA『STRANGER IN THIS TOWN』(1991)

『NEW JERSEY』(1988年)リリース後の2年近くにわたるワールドツアーを終えたBON JOVIは、そのまま長いオフ期間に突入。1990年8月にはジョン・ボン・ジョヴィが初のソロアルバム『BLAZE OF GROLY』を発表したことで、ファンは「ああ、しばらく活動再開はないかな?」と残念に感じたのではないでしょうか。それと前後して、相方のリッチー・サンボラ(G)は映画『フォード・フェアレーンの冒険』サウンドトラックに、初のソロトラック「The Wind Cries Mary」(ジミ・ヘンドリクス「風の中のマリー」のカバー)を提供。さらにそのまま本格的なソロ活動へと移行していき、1991年9月に1stソロアルバム『STRANGER IN THIS TOWN』を発表します。

同作は、アーシーでカントリー寄りの方向性だったジョンのソロとは異なり、『NEW JERSEY』でのブルージーなハードロックをよりモダンに、かつダークに仕上げた内容。リッチーはソングライティングやギターのみならず、ボーカリストとしても大活躍しています。もともとBON JOVIのライブでシンガーとしての力量を遺憾なく発揮してきた彼だけに、いわゆる“ギタリストのソロアルバム”ではなく“シンガーソングライターのソロアルバム”になったのは頷ける話です。

レコーディングにはBON JOVIのメンバーであるデヴィッド・ブライアン(Key)とティコ・トーレス(Dr)に加え、KING CRIMSONなどで知られるジョン・レヴィンやランディ・ジャクソンなどのベーシスト、さらに1曲のみエリック・クラプトンがギターで参加。楽曲は先にも書いたようにリッチーがメインで書き、曲によってデズモンド・チャイルドなどの職業ライターが加わっており、そのへんもパーソナルな仕上がりだったジョンのソロと比較してよりBON JOVI寄りと言えるでしょう。

なので、『SLIPPERY WHEN WET』(1986年)から『KEEP THE FAITH』(1992年)あたりまでのBON JOVIが好きなリスナーなら間違いなく気に入る内容だと思います。だって、中には『NEW JERSEY』のアウトテイク「Rosie」まで含まれているんですから。

もともと、リッチーはそこまで癖や個性が強いギタリストというイメージがあまりなく、曲に合った印象的なソロプレイ(というかフレーズ)を残してきた人。あくまで“曲ありき”のプレイヤーだと思うので、こういった楽曲がしっかり作り込まれたアルバムでこそ彼の魅力が光るんじゃないかと思うのです。そういう意味では、ソロデビュー作がこういう内容になったのは正解だったのかなと。ただし、シンガーとしては……ここまでめいっぱい歌っているのを聴いて思ったのは、うまいけどジョンのように強烈な個性はないかなと。やっぱりこの人は、強いフロントマンの隣に立ってこそ自らの魅力を発揮させるギタリストなんだと思いました。だからこそ、今の状況は残念でならないのですが……。

のちにBON JOVIのライブでも披露されてきた「Stranger In This Town」やシングルカットもされた「Ballad Of Youth」、クラプトンが参加した「Mr. Bluesman」、アコースティックバラードの名曲「The Answer」など、とにかく楽曲の出来は文句なし。ジョンの『BLAZE OF GLORY』との比較含め、ぜひあわせて聴いてもらいたい1枚です。

 


▼RICHIE SAMBORA『STRANGER IN THIS TOWN』
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