カテゴリー「Extreme」の10件の記事

2023年9月23日 (土)

EXTREME: THICKER THAN BLOOD JAPAN TOUR 2023@昭和女子大学人見記念講堂(2023年9月21日)

Img_7553 EXTREME、最後に観たのは『III SIDES TO EVERY STORY』(1992年)を携えた武道館公演(1993年3月)なので、実に30年ぶりらしいです(笑)。今年6月に発売された新作『SIX』の出来も素晴らしかったし、かつ今回の会場に人見記念講堂がセレクトされていたこともあり、迷わず行くことに。ここで観るロック/メタル系ライブにこれまでハズレがなかったので、安心して脚を運んだのですが……。

オープニング「It ('s A Monster)」での、特にギターで顕著だった薄皮1枚挟んだような音の鳴り。ベースはHR/HM系というよりもファンク系寄り(ピック弾きなのにスラップ前提)の音作り、ドラムに至っては時代錯誤な“アリーナロック的エフェクト”がかかった音作り(おそらくトリガーかましてるのかな)……トータル、80年代後半の国内ホールで観たHR/HM系ライブみたいな音で、なんとも気持ち悪い。

そういったカセット録音時代のブート音源を大音量で鳴らされてる感覚に加え、ハコならではの反響が悪影響を及ぼし、そこにいるだけで船酔いしたような気持ち悪さが続くんです。この日は2階席だったこともよくなかったのかな、大好きな「Decadence Dance」でも、「Rest In Peace」や「Hip Today」でもまったく楽しむことができませんでした。耳の持病があるだけに、疲れが溜まっているときにこういう音を聴くと本当に体調に悪影響を与えるので、正直頭5、6曲の時点では「今日は帰ろうかな?」と思ってしまうほどでした。

しかし、中盤に「Hole Hearted」を挟んだあたりから状況に変化が。スタンドドラム&アコギというそれまでと異なるセッティングで鳴らされた音は、先ほどの合成着色料まみれのそれとは異なり、この会場にフィットしたものだったんです。その後、彼らのライブにおけるハイライトともいえる「Cupid's Dead」に移るのですが、序盤とは雲泥の差のミキシングで徐々に楽しめるように。さらに「More Than Words」を挟んだことで状況がさらに好転し、なんとかラストまでとどまることができました。

とはいえ、船酔い状態は最後まで残り、ライブ終了と同時に即退出。結果としては後味の悪いものとなってしまいました。彼らのような(ある意味)オールドスクールなヘアメタル/アリーナメタルと人見記念講堂って、こんなにも相性が悪かったんだと確認できたという点では収穫だったのかな。あとで聞いた話ですが、この日が彼らにとって今ツアーでの同会場初ライブだったこともあり、ライブエンジニアさんは音作りに相当苦労したそう。翌日も同会場で公演があったそうですが、初日よりは幾分よかったと聞いています。

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昨今の自分の趣味からかけ離れた音作りだったためか、今回は珍しくネガティブなことを書き連ねてしまいましたが、セトリやバンドのパフォーマンス自体はかなり満足度の高いものだったと思うので、そこはしっかり伝えておきます。

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セットリスト
01. It ('s A Monster)
02. Decadence Dance
03. #Rebel
04. Rest In Peace
05. Hip Today
06. Medley: Teacher's Pet / Flesh 'n' Blood / Wind Me Up / Kid Ego
07. Play With Me
08. Other Side Of The Rainbow
09. Hole Hearted
10. Cupid's Dead
11. Am I Ever Gonna Change
12. Midnight Express
13. More Than Words
14. Banshee
15. Take Us Alive
16. Flight Of The Wounded Bumblebee
17. Get The Funk Out
Encore
18. Small Town Beautiful / Song For Love
19. Rise

 

2023年3月11日 (土)

EXTREME『SAUDADES DE ROCK』(2008)

2008年8月12日にリリースされたEXTREMEの5thアルバム。日本盤は同年8月13日発売。

1996年にヌーノ・ベッテンコート(G, Vo)の脱退、ゲイリー・シェローン(Vo)のVAN HALEN加入などで解散の道を選んだEXTREMEですが、2004年以降何度か再結成ライブを行い、2005年にはパット・バッジャー(B)を除く3人にサポートメンバーを加えた形で来日公演も実施。その後、パットが正式に復帰し、新たなドラマーにケヴィン・フィグェリド(Dr)を迎えた新体制で2007年から本格的に活動再開。最後のオリジナルアルバムとなった『WAITING FOR THE PUNCHLINE』(1995年)から約13年ぶりの新作を完成させます。

ヌーノがプロデュースを手がけた本作は、全13曲からなる60分超の大作。ファンクメタルと呼ばれた初期のスタイルやQUEENからの影響を感じさせる中期のポップ/サイケデリック感、グランジを意識したオルタナティヴメタル感の強い後期スタイルなど、EXTREMEが歩んできた道のりをひとまとめにした集大成的内容でありながらも、“この雑多さこそがEXTREMEの極み”とも受け取れるバラエティ豊かさの中にも一本しっかりした軸が感じられる聴き応えのある1枚に仕上がっています。

彼ららしい分厚いコーラスワークが特徴の「Star」からスタートする本作ですが、オープニングは若干地味な印象も。そのへんは『WAITING FOR THE PUNCHLINE』と同じ匂いかもしれません。その後、「Comfortably Dumb」「Learn To Love」とグルーヴ感の強い楽曲が並び、バンドの軸にあるファンクメタル的要素をたっぷり楽しむことができます。ヌーノのギターもしっかり暴れまくっており、ゲイリーの歌とともに存在感の強さがしっかり示されています。

かと思えば、アップテンポのブルースロック「Take Us Alive」では新たな魅力も見受けられ、集大成の先を掴み取ろうとする前向きな姿勢も伝わる。その後もポップなヘヴィファンク「Run」、ダークなヘヴィバラード「Last Hour」、ストレートなアップチューン「Flower Man」、『WAITING FOR THE PUNCHLINE』の流れを汲むオルタナ調ミドルナンバー「King Of The Ladies」、ピアノを軸にしたミディアムバラード「Ghost」、ギター&ベースのユニゾンが気持ち良い極太ファンク「Slide」、アコースティックギター主体のスローナンバー「Interface」、クライマックスに相応しいサイケファンク「Sunrise」とEXTREMEらしい楽曲がずらりと並び、最後は繊細さの伝わるピアノバラード「Peace (Saudade)」で締めくくり。サウンド的には『III SIDES TO EVERY STORY』(1992年)のようなコンセプチュアルなテイストこそ感じられないものの、復活したバンドのリハビリとしては申し分のないクオリティだと思います。

ここから再びEXTREMEの快進撃が始まると当時は思っていましたが、今作を携えたツアーを終えて以降はマイペースなライブ活動を続け、気づけば10数年が経過。コロナ禍に入る前のインタビューで、ヌーノはすでに次作の準備は整っている的な話をしていましたが、待望の6作目『SIX』(2023年)が届けられるまでに15年も要するとは、誰もが想像していなかったと思います。リード曲「Rise」を聴く限りでは、本作『SAUDADES DE ROCK』の延長線上にあるテイストのようなので、ブランクを感じさせないバンドの健在ぶりに期待したいところです。

 


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2022年7月12日 (火)

DEREK SHERINIAN『VORTEX』(2022)

2022年7月1日にリリースされたデレク・シェリニアンの9thソロアルバム。日本盤は同年6月29日先行発売。

前作『THE PHOENIX』(2020年)から約1年10ヶ月という比較的短いスパンで届けられた今作。その前が『OCEANA』(2011年)から9年と考えると、これもコロナ禍がもたらしたひとつの良い点と言えるかもしれません。

今作では盟友サイモン・フィリップス(Dr)が共同プロデューサー/ソングライターとして全面参加。ベースはトニー・フランクリンやアーネスト・ティブス、ジミー・ジョンソン、リック・フィエラブラッチ、ジェフ・バーリンといったHR/HM、ジャズ、フュージョン界では名の知れた名手たちが担当しています。

恒例となった多彩なゲストギタリストは今回も豪華の一言で、タイトルトラック「The Vortex」にはスティーヴ・スティーヴンスBILLY IDOL)が“いかにも”なハイパーアクティブプレイを披露。続く「Fire Horse」ではヌーノ・ベッテンコート(EXTREME)が、彼ならではのファンキーなプレイで耳を惹きつけます。3曲目「Scorpion」はリズム隊+ピアノが織りなすジャジーな世界観で空気を一変するも、シームレスに続く「Seven Seas」では再びスティーヴ・スティーヴンスがプログレッシヴかつスペーシーな演奏&フレーズで、聴く者を圧倒させます。随所にジャジーなフレーズも用意されていますが、そんな中でも自分らしさを一切崩さないスティーヴのギターパフォーマンスはただただ圧巻です。

アルバム折り返し一発目は、スティーヴ・ルカサー(TOTO)&ジョー・ボナマッサ(BLACK COUNTRY COMMUNION)をフィーチャーした「Key Lime Blues」から。2人のギタリストによるユニゾンプレイと、その間を埋めるように弾き倒される個々の“らしい”プレイは、さすがの一言です。そこから、シタールやストリングスを導入したオリエンタルテイストの「Die Kobra」ではマイケル・シェンカーMICHAEL SCHENKER GROUPなど)&ザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNEZAKK SABBATH)という、個性派の2人を投入。スリリングさとドラマチックさが同居したこの曲は、派手さという点でも「The Vortex」や「Seven Seas」に次ぐものがあり、アルバム後半のハイライトと言える1曲ではないでしょうか。その2人のプレイを支えるリズム隊がトニー・フランクリン&サイモン・フィリップスというのも、またメタルファンには堪らないものがありますね。

ジャズ/フュージョン界の巨匠マイク・スターンを迎えた「Nomad's Land」で空気が一変すると、アルバムもいよいよ佳境へ突入したことを窺わせます。この曲の味わい深さは本作随一ではないでしょうか。そして、ラストは11分強におよぶ大作「Aurora Australis」。この曲ではSONS OF APOLLOでの盟友ロン“バンブルフット”サールをフィーチャーしており、プログ・ジャズと言わんばかりの独創性の強い仕上がり。ゲストのロン以上にデレクのピアノ/シンセが主軸となっており、まさに彼の主張がもっとも発揮された1曲ではないでしょうか。この曲でアルバムを締めくくるというのも、納得の一言です。

前作『THE PHOENIX』も非常にバラエティに富んだメンツが集まりましたが、今作もそれに匹敵、あるいはそれ以上と言える人選。前作に存在した歌モノは一切ありませんが、それでも十分満足できるのは、インストながらもソングライティングに相当力が入っているからではないでしょうか。プログメタルファンはもちろんのこと、上記のゲストプレイヤーたちに少しでも興味を持っているリスナーなら間違いなく楽しめる1枚だと思います。

 


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2019年8月17日 (土)

EXTREME『EXTREME』(1989)

1989年3月にリリースされたEXTREMEのデビューアルバム。日本では2ヶ月遅れの5月にポニーキャニオンから、日本独自のジャケットに差し替えられ発売されています(その後、ユニバーサルからの再発分からは海外盤と同じジャケットに戻されました)。

B!誌のディスクレビューでその存在を知り、動いている姿を目にしたのは当時TBSで日曜深夜に放送されていたHR/HM専門プログラム『PURE ROCK』でのことだったと記憶しています。確か、同年秋に控えた初来日公演に向けて、地元ボストンで撮影されたリハーサル&コメント映像と「Kid Ego」のMVがオンエアされたはずで、そのリハーサル映像では次作『EXTREME II: PORNOGRAFFITTI』(1990年)に収録されることになるタイトルトラック「Pornograffitti」がすでに演奏されています。あとで1stアルバムを購入したとき、「あれ、あのリハ映像でやってた曲、入ってないじゃん!」とがっかりして、そこから1年後に「あ、この曲!」とやっとめぐり逢えたの、今でもいい思い出です。

そんな印象深い本作との出会いですが、内容的には以降のアルバムと比べて若干劣るかな。もちろん良い曲も多いですが、いまいち“ヤマに欠ける”といいますか。

オープニングの「Little Girl」やシングルカットされた「Kid Ego」、ヌーノ・ベッテンコート(G)の非凡なギタープレイを存分に味わえる「Mutha (Don't Wanna Go To School Today)」や「Play With Me」など今でもオススメできる楽曲も少なくないですし、QUEEN的な壮大さを持つバラード「Watching, Waiting」「Rock A Bye Bye」などもあるのですが、すべてがパーフェクトかというとそうでもないんですよね。デビューアルバムってアマチュア/インディーズ時代の集大成でもあるわけですが、本作の場合は比較的似通った曲が多いのも、そういったマイナス要素の一因なのかなと。

あと、ゲイリー・シェローン(Vo)というクセ/抑揚の少ないシンガーの存在もマイナスポイントかもしれません。その動き含めヴィジュアル的には面白みのある人ですが、音源だけとなるとね。器用な人ではないけど比較的どんなタイプの楽曲でも歌いこなせてしまうソツのなさは、武器にもなるんだけど仇にもなる。次作以降ではそれがちゃんと武器に転化されるんだけど、残念ながらここではまだ原石のままなんですよね。扱いの難しい人です。

……というのが、90年代に僕が持っていたEXTREMEの1stアルバムに対する印象。

これを書く際、久しぶりにSpotifyで聴いてみたのですが、当時はあまり印象に残らなかった「Teacher's Pet」とか「Flesh 'n' Blood」あたりが今聴くと意外と良いと思えたのは新たな収穫でした。うん、記憶の中にあったイメージよりも全然悪くない。デビューアルバムとしてはかなり高クオリティな1枚だったんだね。ゴメンよ、ちゃんと気づいてあげられなくて。

本作でのメジャーデビューから30年。再結成後のオリジナルアルバム『SAUDADES DE ROCK』(2008年)からすでに11年経ちましたが、そろそろ新曲も聴いてみたいものです。

 


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2019年1月18日 (金)

VAN HALEN『VAN HALEN III』(1998)

1998年3月にリリースされた、VAN HALEN通算11枚目のオリジナルアルバム。新曲を含む作品としてはデヴィッド・リー・ロスが復帰して制作した新曲2曲を含むベストアルバム『BEST OF VOLUME I』(1996年)以来1年半ぶりとなりますが、フルアルバムとしてはサミー・ヘイガー参加ラスト作となった『BALANCE』(1995年)以来まる3年ぶりのこと。「Without You」や「Fire In The Hole」のラジオヒット(後者は映画『リーサル・ウェポン4』にて使用)こそあったものの、アルバム自体はサミー加入後の『5150』(1986年)から4作続いた全米1位記録は途絶えてしまい、最高4位止まり。セールスもマルチプラチナムには程遠い50万枚程度で幕を下ろしています。

ちょうど1996〜7年頃はサミーの脱退やデイヴの復帰などで、フロントマンが落ち着かなかった不安定な時期。そんな中、バンドがシンガーとして選んだのはデイヴでもサミーでもない、“第3の男”ゲイリー・シェローンでした。ちょうどEXTREMEからヌーノ・ベッテンコート(G)が脱退し、こちらもバンドが傾いていたタイミング。そこでゲイリーがVAN HALENに移籍したことで、EXTREMEは一度自然消滅するのでした。

さて、タイプ的にはサミーよりもデイヴ寄りの、決して多彩さを持つ表現者ではないゲイリーですので、VAN HALENのサウンド的にも初期や『BEST OF VOLUME I』での新曲に近い方向性になるのかと思いきや、半分正解といったところでしょうか。初期っぽくはならず、『BEST OF VOLUME I』での新曲の延長線上。つまり、サミー時代の方向性の延長線上にある、従来の流れにある1枚なのです。また、サミーよりも陰なイメージの強いゲイリーの声/声質に合わせた曲作りがなされており、それもあってか若干ダークな印象も受けるアルバムでもあります。

ピアノとアコギからなるインスト「Neworld」を経てスタートするオープニングナンバー「Without You」こそ、前作『BALANCE』までの流れを汲むダイナミックなハードロックですが、続く「One I Want」には若干初期VAN HALENの香りも。かと思えば、非常にダークな「From Afar」や「Dirty Water Dog」があったり、新境地的なミディアムバラード「Once」もあり、バンドとして守りに入らず前進していることもアピールする。このへんは個人的にも好意的に受け入れています。

が、どの曲もコンパクトさに欠けるのもまた事実。インストの短尺曲以外は5分を下回る楽曲が皆無で、「Without You」は6分半、「Once」は7分半ですし、泣きのバラード「Year To The Day」は8分半もある。これは曲によってイントロが長かったり、曲中にギターソロや楽器隊のインタープレイが含まれていたりといろんな理由があるのですが、おそらくそれ以前との曲作りのスタンスの違いが大きいのかなと。明らかにジャムセッションの延長線上ですものね、このアルバム。シングルヒット量産型だった80年代後半から90年代前半の楽曲はもっとブラッシュアップされていたような気もするのですが、そこはボーカリストが変わったことによる意識の変化の表れなのかもしれません。

じゃあ、これだけソロのために時間が割かれているんだから、エディ・ヴァン・ヘイレン(G)の華麗なプレイが楽しめるのか?と言われると、答えはイエスでもありノーでもあると。正直、そこまで印象に残るプレイは多くなく、70〜80年代の彼と比較したら衝撃度も低い。手癖っぽいフレーズも多いですし……そういう点においても、彼らのキャリアにおいて評価は低い部類に入る1枚と言えるでしょう。

実は本作、リリース当時に購入したあと、数回聴いたのみで放置。これを書くにあたって20年ぶりに引っ張り出したのですが、思っていたよりも良いと思えたことだけは書き残しておきます。それでも、12曲で65分は長すぎですけどね。

 


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2018年4月20日 (金)

EXTREME『WAITING FOR THE PUNCHLINE』(1995)

1995年1月にリリースされた、EXTREME通算4作目のスタジオアルバム。大ブレイクのきっかけとなった2ndアルバム『PORNOGRAFFITTI』(1990年)が全米10位(200万枚超)、続く3rdアルバム『III SIDES TO EVERY STORY』(1992年)も全米10位(50万枚超)とそれなりの成功を収めますが、時代の潮流がHR/HMからグランジ的なものへと移行したことから人気も下降気味に。そういった中で、この4thアルバムの制作途中でポール・ギアリー(Dr)が脱退するというハプニングもあり、バンドとして苦境に立たされる中なんとか完成まで漕ぎ着けた1枚といえるでしょう。

とはいえ、アルバム自体はそういったネガティブな要素を吹き飛ばすような内容……でもないか(苦笑)。ええ、過去3作にあった“陽”の要素は完全に影を潜め、ひたすらダークな空気で覆われたヘヴィでザラついた作風なのです。それこそ、彼らの代名詞的な要素であった、ファンクメタルの要素も皆無。ダンサブルなカラーは若干あるものの、ファンクのそれとは一線を画するものですし。なので、このバンドに何を求めるかによっては、本作の評価は大きく異なるかもしれません。

もちろん、1枚のロックアルバムとしては非常に聴き応えのある強力なもので、例えば過去2作がAEROSMITHQUEEN的な溌剌とした“パッション命!”なアルバムだとしたら、本作はLED ZEPPELINあたりが持ち合わせた、音楽的実験と向き合いながら己の内面をサウンドで構築していく作法が用いられているような気がします。

それもあってか、サウンドプロダクションも80年代的なふくよかなものとは異なり、90年代前半らしいドライ&デッドな質感。ヌーノ・ベッテンコート(G)のギターサウンドのざらつき加減は好き嫌いが分かれそうですが、このアルバムに関して言えば非常にマッチしたものだと思うんです。プレイ自体も彼らしいテクニカルさを随所に織り交ぜているものの、派手になりすぎない“加減のわかった”奏法ですし。

ポールの後任として加入したのは、のちにDREAM THEATERに加入することになるマイク・マンジーニ。本作ではシングルカットされた「Hip Today」や「Leave Me Alone」「No Respect」の3曲のみに参加していますが、「Hip Today」でのシンプルながらも随所に派手なフィルをフィーチャーしたドラミングはキラリと光るものがあるし、なによりも「No Respect」の派手さは圧巻。特にヌーノの流麗なアコースティックギタープレイを味わえるから「Leave Me Alone」へ、そのまま「No Respect」へと続く構成は本作のハイライトと言えるでしょう。

ゲイリー・シェローン(Vo)のボーカルもこういったダークめのサウンドに合っていると思うし、何気にEXTREMEにおける裏名盤なんじゃないでしょうか。『PORNOGRAFFITTI』と双璧をなす、陽と陰を表す2作品だと思います。



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2018年2月 1日 (木)

V.A.『KISS MY ASS: CLASSIC KISS REGROOVED』(1994)

1994年6月にリリースされた、KISSのトリビュートアルバム。ちょうどKISS結成20周年を記念して、当時のメンバーも制作に携わった1枚で、レニー・クラヴィッツガース・ブルックスANTHRAXGIN BLOSSOMSTOAD THE WET SPROCKETDINOSAUR JR.EXTREMETHE LEMONHEADSTHE MIGHTY MIGHTY BOSSTONESといったメタル/オルタナ/カントリーなどKISSに影響を受けた幅広いジャンルのアーティストに加え、ここ日本からもYOSHIKI(X JAPAN)が参加。さらに、メイナード・キーナン(TOOL)、トム・モレロ&ブラッド・ウィルク(RAGE AGAINST THE MACHINE)、ビリー・グールド(FAITH NO MORE)からなるスペシャルユニットSHANDI'S ADDICTION(JANE'S ADDICITONをKISSの楽曲「Shandi」にひっかけてもじったもの)まで参加しております。

まあKISS愛に溢れた……というよりは、各アーティストが平常運転でKISSの楽曲をカバーしたといったほうが正しいのかもしれませんね。だって、1曲目の「Deuce」からレニー・クラヴィッツ、直球勝負でカバーしつつも彼らしく味付けしてますから。ちなみにこの曲、ハーモニカでスティーヴィー・ワンダーもゲスト参加してます。

かと思えば、KISSご本家が演奏で加わったガース・ブルックス「Hard Luck Woman」は、カバーというよりもコピー。本家がいつもどおりに演奏して、ポール・スタンレーがハーモニーで加わっているんだから、そりゃあ“まんま”になっても仕方ないですよね(笑)。ANTHRAXの「She」も平常運転、というか途中まで“まんま”すぎて、後半に彼らならではのこだわりのアレンジが加わるという。この時期の彼らは、ボーカルがジョン・ブッシュ時代なので、こういったジーン・シモンズ色の強い曲はピッタリですね。

そういえば、1994年というとグランジブーム末期というタイミングで、KISSから影響を受けたと公言するグランジバンドも少なくありませんでした。そういうこともあって、GIN BLOSSOMS、TOAD THE WET SPROCKET、DINOSAUR JR.あたりのグランジ/オルタナロックバンドのKISSカバーは良い味を醸し出しています。GIN BLOSSOMS「Christine Sixteen」こそストレートなカバーですが、TOAD THE WET SPROCKET「Rock And Roll All Nite」のアコースティックスローカバー、DINOSAUR JR.「Goin' Blind」のヘヴィで泣きまくり、かつ脱力系なカバーは完璧すぎるほどの素晴らしい仕上がり。1994年という時代感を見事に反映した、本作の中でもベストテイクと言えるでしょう。

そして、本作中もっとも異色のカバーがSHANDI'S ADDICTION「Calling Dr. Love」。トム・モレロの変態ギターを存分に活かしたテイクで、参加メンバーの各バンドの個性が見事に反映されたアレンジは、最高の一言。のちのヘヴィロック/ラウドロック一大革命を先取った1曲と言えるかもしれません。

その他にも、EXTREMEらしくファンクロック的“ハネた”ミディアムナンバーへと昇華させた「Strutter」、あの有名なツインリードギターをブラスで再現した爆笑モノのTHE MIGHTY MIGHTY BOSSTONES「Detroit Rock City」、いかにもYOSHIKI、というかまんまX JAPANな「Black Diamond」のオーケストラバージョン、ボーナストラックとして追加されたドイツのバンドDIE ÄRZTEの「Unholy」ドイツ語カバー(途中でディスコな“あの曲”も飛び出したり)など、聴きどころ満載。トリビュートアルバムとしては、かなり力の入った1枚ではないでしょうか。そりゃまあ、アーティスト本人が尽力してるんだもんね。

ちなみに本作、今のようにKISSがメイク時代に戻る前の作品ながらも、全米19位まで上昇。50万枚を超えるヒット作となりました。今思えば、このへんの成功が数年後のオリメン&メイク復活の布石になったんでしょうね。

なお、本作はストリーミング配信はおろか、デジタル配信自体が行われておりません。勿体ないったらありゃしない。(※2022年5月29日追記)いつの間にかサブスクでのストリーミング配信が始まってました。ありがたい!



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2017年11月22日 (水)

EXTREME『III SIDES TO EVERY STORY』(1992)

1992年秋に発表された、EXTREME通算3作目のオリジナルアルバム。1990年夏にリリースした前作『EXTREME II: PORNOGRAFFITTI』からのシングル「More Than Words」が全米1位、続く「Hole Hearted」も全米4位とヒット曲を連発し、アルバム自体も全米10位まで上昇し、200万枚以上も売り上げる結果に。続く本作はその成功を踏まえた、前作の延長線上にある内容になるかと思われました。

しかし、いざ届けられたアルバムはアナログ盤で2枚組に相当するコンセプチュアルな内容。確かに「More Than Words」的アコースティック/バラード路線も「Get The Funk Out」の流れを組むファンクメタル路線も引き継いでいるものの、よりやりたい放題でとっ散らかった作風と言えるような代物でした。

「Yours」「Mine」「The Truth」という3つの側面=III SIDESから構成された本作は、大雑把に言うと「Yours」がハードロック/ファンクロックサイド、「Mine」がメロウ/バラードサイド、「The Truth」はプログレッシヴロックサイド……といったところでしょうか。

「Yours」はヌーノ・ベッテンコート(G)のギタープレイが前面に打ち出されたファストナンバー「Warheads」からスタート。続く先行シングル「Rest In Peace」はファンキーでサイケデリックながらも歌メロがキャッチーな、いかにもシングル向きの1曲。ギターソロ終盤に登場するジミヘンの名フレーズ含め、彼らの遊び心が感じられる仕上がりです。「Politicalamity」「Cupid's Dead」は彼らのファンクロックサイドを強調させた楽曲で、それぞれ前作の延長線上にありながらもより深みを増した印象があります。そんな中で「Color Me Blind」はちょっと異色の1曲かな。ストレートなメロディアスハードロックなのですが、すごく引っかかりのある楽曲なんです。そういう意味では、彼らの新境地と言えるかもしれません。

続く「Mine」は、ギターレスのポップバラード「Seven Sundays」からスタート。これなんて、もろにQUEENですよね。そこから「Hole Hearted」の流れをくむ「Tragic Comic」続き、次の「Our Father」からの構成はまさに初期のQUEENのアルバム。大げさでドラマチックで、ロックの域を逸脱したポップさは、確かにハードロックを彼らに求める層にはちょっと疑問が残る楽曲群かもしれません。

で、そこをさらに激化させたのが「The Truth」サイド。全3曲から構成された「Everything Under The Sun」という組曲は、トータル22分におよぶ大作で、ストリングスや管楽器まで登場する……もはやハードロックの枠で語りたくなくなる壮大な交響曲です。「ああ、ヌーノはこれがやりたかったんだな」と、ここにたどり着いて納得させられました。つまり、メタルサイドもファンクサイドもポップサイドもちゃんと残して、それを序盤に詰め込んで、最後の最後に「ここからは好きにやらせてもらいます」と20分以上の組曲を投入する。見方次第では作り手のオナニーと受け取られてしまう可能性も高いですが、でもリスナーが求めるものもしっかり提供しているわけで、そこはちゃんとバランスが取れてると思うんですよね。

そういうオナニー的な部分が災いして、というわけではないでしょうが、本作は全米10位と前作同様の記録を残すものの、セールス的には50万枚止まり。というのも、世の中的にはNIRVANAをはじめとするグランジ勢がロックシーンを席巻し、ハードロック勢は“時代遅れ”として後ろに追いやられてしまったわけです。そんな状況下でもこれだけの数字を残せたのは、ある意味ラッキーだったのかもしれませんね。

ちなみに本作、収録時間の関係でCDバージョンだと「Mine」サイドラストナンバーの「Don't Leave Me Alone」がカット。アナログやカセット版には問題なく収録されているのですが……ということもあって、国内盤初版発売時は同曲のみが収められたオマケの8cmCDが付いていたりもしました。配信が主流になった今こそ、完全版で再発してほしいんですけどね。



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2015年2月 5日 (木)

EXTREME『EXTREME II: PORNOGRAFFITTI』Deluxe Edition(1990 / 2015)

言わずと知れたEXTREMEの出世作である2ndアルバム『EXTREME II: PORNOGRAFFITTI』(1990年発売)が、リリースから25年を経てデラックスエディション化……と書けばカッコがつくかもしれませんが、要はユニバーサル系にありがちな「シングルのB面や別バージョン、未発表テイクなどを加えて水増しした2枚組」です。昨年はBON JOVIの4thアルバム『NEW JERSEY』(1988年)がこのスタイルで再発(かつ、DVDも付いたスーパーデラックスエデョンも用意)されましたが、まさかExtremeまでこの企画で再発されるとは思ってもみませんでした。

先日、たまたまCDショップのHR/HMコーナーをうろうろしてたら偶然こいつを見つけて、そのまま手にして即レジ行き。このアルバム自体はリリース当時に輸入盤で買って持っているのにも関わらず……完全にDISC 2目当てですけどね。

今回のデラックスエディション化で気になっていたのは、下記の2点。

1. オリジナルアルバム(DISC 1)はリマスタリングされているか。
2. 「More Than Words」のMV音源は収録されているか。
3. シングルのカップリング曲は網羅されているか。レアトラックは収録されているか。

「1」に関しては、まあせっかく2枚目を買うんだから、ちょっとでも音がよくなっていてほしいなと。「2」については……過去に8cmシングル(短冊形のシングル)として国内盤がリリースされた際にはこの音源が収録されておらず、別のショートバージョンだった記憶があるんです。当時このシングルを購入したんですが、確か違ってたと思うんですよね。輸入盤のシングルも購入したけど、そこにも収録されてなかったし。

こちらの音源ですね。1コーラスから2コーラスに入る直前の「Fu〜」というハーモニー、エンディングのハーモニーがオリジナルバージョンにないものなんですよね。これが個人的に気に入ってまして。ま、原曲が一番という大前提があって、この風変わりなショートバージョンが気に入ってるだけなんですが。

というわけで、実際に購入して聴いてみました。

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2004年11月11日 (木)

再結成EXTREME、来年1月に来日

 今年だったか昨年末だったか、MTVの企画によって再結成「させられた」EXTREME。その彼等が来日してライヴを行うそうですよ(→UDO音楽事務所)。

 今回のメンバーがこれまた変則的で、ギターはヌーノ・ベッテンコート(ソロ〜MORNING WIDOWSとして活動中)、ボーカルがゲイリー・シェロン(EXTREME解散後、VAN HALENに加入→アルバム1枚でクビ)、ドラムがポール・ギアリー(3rdアルバムリリース後、ミュージシャン生活から引退。マネージメント業を営み、現在ではGODSMACK辺りを手掛けてます)、ベースがカール・レスティヴォ。

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