FALCO『FALCO 3』(1985)
1985年10月に海外でリリースされたファルコの3rdアルバム。日本盤は『ロック・ミー・アマデウス』の邦題でアナログ盤のみ翌1986年3月に、続いてCDが同年7月に発売されています。
ファルコはオーストリア出身の、ニューウェイヴ影響下にあるポップシンガー。ドイツ語歌唱ながらも1stアルバム『EINZELHAFT』(1982年)が全米64位のヒットを記録しています。これは、同作に収録された「Der Kommissar」が1983年にイギリスのロックバンドAFTER THE FIREで英詞カバーされヒットしたことや、「Maschine Brennt」がUSクラブチャートにランクインしたことも影響したようです。
そんな下地もあってなのか、1985年に発表された本作からのシングル「Rock Me Amadeus」はジワジワとUSチャートを上昇していき、1986年にはついに全米1位を獲得。〈Amadeus, Amadeus, Oh…Amadeus〉という印象的なシンガロングと、ドイツ語で展開されるラップが斬新で、ファルコ自身が“パンクなモーツァルト”を演じたMVもMTVで大量オンエアされたこともあり、かなり浸透した1曲だったのではないでしょうか。同作からはほかにも「Vienna Calling」(全米18位)というシングルヒットも生まれ、アルバム自体も全米3位(50万枚)という好記録を残しています。
が、その後北米では大きなヒットが続かなかったこともあり、「Rock Me Amadeus」の一発屋と認識される傾向が強いかな。本国では以降も、No.1ヒット作をいくつも残しているのですが……。
アルバム自体は先にも書いたように、ニューウェイヴ以降のエレポップが中心で、「Rock Me Amadeus」タイプの楽曲はこれのみ。フォークロックを思わせる「America」や文字通りのタンゴ「Tango The Night」、時代を感じさせるエレポップ「Munich Girls」、壮大かつシリアスなバラード「Jeanny」、きらびやかなディスコロックにドイツ語ラップが乗った「Männer des Westens」、ジャジーにアレンジされたボブ・ディランのカバー「It’s All Over Now, Baby Blue」など、統一感のある内容というよりは「エレポップをベースに、いろいろやってみました」的な印象が強いかもしれません。ですが、どの曲も異様にポップでキャッチーなんですよね。
最初は耳馴染みのないドイツ語で盛大に歌われる違和感こそ残りますが、慣れるとドイツ語ラップも気持ちよく楽しめるはず。当時、ヒットチャートの上位に入る“一般的なロック/ポップスリスナーを楽しませる大衆的ラップ”というと、RUN D.M.C. & AEROSMITHの「Walk This Way」やBEASTIE BOYS「Fight For Your Right (To Party)」、そしてファルコの「Rock Me Amadeus」の3曲がメジャーだったのかなと(それはそれでヒップホップを勘違いしてしまいそうですが)。
なお、現在ストリーミングや再発CDで流通しているアルバムに収録されている「Rock Me Amadeus」と「Vienna Calling」、日本初出時のオリジナル盤とテイクが異なります。シングルヒットした「Rock Me Amadeus」は3分強のラップ中心のテイクですが、初出時のアルバムにはラップは一切入っていない、ファルコのナレーションと印象的なシンガロングのみで構成された9分近い<The Salieri Version>で収められていました。「Vienna Calling」も同様で、現在は4分程度のシングルバージョンが収められていますが、元々は<The Metternich Arrival Mix>と題した7分強のバージョン。オリジナルバージョンに慣れた耳で現在流通されているアルバムを聴くと、ちょっと違和感が残ります。
ですが、両曲のオリジナル・ロングバージョンは各曲のEPにて聴くことができるので、気になる方はそちらをチェックしてみてください。
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